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第四話 クラスでの婚約発表!
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「はい、構いません!吉川家に婿入りさせていただきます!」
そう宣言すると、吉川さんのお祖父さんの吉川正一郎さんがその場で立ち上がって僕を見下ろして笑いながら拍手してきた。
「いやぁここまで真剣に婿入りを認める男に私は初めて会ったよ」
と言って、正一郎さんは再び真剣な眼差しで僕を見下ろしてきた。
「成川くん、君は"婿入り"をどう考えてる?」
そう聞いてきたので、
「嫁入りが女性が男性家に嫁ぐのに対して、婿入りは男が女性家へ嫁ぐこと――」
と答えたのだけど、正一郎さんは首を横に振る。
「理屈ではなく、私が尋ねているのはね、婿入りというのは、男としてのプライドそのものを捨て去らないといけないことだ。そうでないと婿入りしても何かと問題が出てくるからね、
だからね、成川くん。
君は男としてのプライドを捨てることができるのかい?」
なんだそんなことか。
そんなプライドなんて持ったことはないし、持っていたとしても、そんなの吉川さんと比べたら月とスッポンだ。だから僕はその場に立ち上がり、正一郎さんの目を見てこう答えた。
「吉川さんを。若菜さんを幸せにするためのプライド以外の男としてのプライドなんて要りません!」
別にかっこつけてるわけじゃなくて、それくらい僕は自分のプライドよりも吉川さんの方が大切だと、今朝からの一連の出来事で心からそう思っていた。
吉川さんにとって僕が大切な存在であるならば、僕にとって吉川さんは心から大切な人だから。昨日、あんな形で言葉を間違えたけど、僕は今あの間違いが正しいと思えている。
言った後もじっと正一郎さんの目を見ていた僕の肩を叩くようにして手をおいた正一郎さんは、
「わっはっは!これは愉快だ!」
と一つ大笑いすると、
「成川くん、わしは君が気に入った!ぜひとも我が吉川家に来てくれ。君のことはどんなことをしてでもわしが守ってやる!その代わり若菜を頼んだぞ!」
と正一郎さんは僕をテーブル越しにハグしてきた。
兎にも角にも、吉川さんのお祖父さんに気に入られたようです。これは嬉しい結果だ。
吉川さんとの結婚についての障害が一つ無くなった。でも超えなきゃならなきハードルはまだまだある。とにかく、長男である僕が吉川さんに婿入りするということは、成川家にお嫁さんを迎え入れることはできないということになる。このことを理解していないわけではないけど、このことも含めて、父さんと母さんを説得して認めてもらわなきゃ!
僕は心の中でグッと拳を握った。
☆☆☆
――ホームルーム。
担任の菅原先生が正一郎さんを連れて教室に入ってきた。学園の理事でもある正一郎さんは理事一覧を見ているなら写真が載ってるから知ってるクラスメイトもいて、少しざわついた。
けど、それを菅原先生の咳払いがざわついた教室を静かにした。
「あー、知ってるやつはいるかもしれないが、こちらは学園理事の一人で、吉川正一郎氏だ。これから吉川理事からみんなに聞いてもらいたいことがあるということで来てもらった」
菅原先生が正一郎さんを紹介し、教壇を正一郎さんに譲る。一つ頷いた正一郎さんが先生の代わりに教壇前に立つ。そして――
「まず、今日、わしの孫である吉川若菜に目出度いことがあったのでそれを皆に紹介したい。」
と、正一郎さんは吉川さんと僕を前に出るように呼んだ。とたんクラス内が再びざわつく。
前に出て正一郎さんに促されて僕と吉川さんは正一郎さんを挟む形で教壇に上がった。そのとき、吉川さんから僕に微笑みかけてきたので、僕も吉川さんに笑みを返した。
「さて、このクラスだから知ってる者もおるかと思うが、今日、我が孫、吉川若菜とこの成川義人くんが正式に婚約した。皆に知っていただきたい事はこの事だ」
正一郎さんがそう僕たちを紹介すると、クラスは喧騒に満ちた。中には「成川には吉川さんはふさわしくない!」や「成川死んでくれ」という物騒な声を上げるやつもいた。その喧騒の中、菅原先生の「静かにしろ!」の一言で再び静かになる教室。菅原先生のリーダーシップが凄いのか、それとも先生が睨んでくる顔が凄いのか……。
「そこで、だ。皆にはこの二人をどうか祝福してもらいたい。祝福してくれた者には、わしの一存で学食のメニューすべてを一年間無料にしようと考えている。どうだろうか?」
高校生である身として、学食が無料になるというのは、とても嬉しいことではある。しかし、そんなことで祝福してくれる連中は……
「おー!俺は二人を祝福するぜ!」と委員長に凄んていた矢野君。
「おう、俺もだ!」と吉川さんが一番好きだと公言し告白してくる女子をずっと断ってきたサッカー部副主将の戸川君。
二人が声を上げたら次から次へと男子が俺も俺もと祝福すると声を上げてきた。
さらに委員長が
「男子は現金なのよ!私はすでに祝福してるわ。二人のキスシーンなんてもう!本当に二人が愛し合ってるのがよくわかったもの。『事実は小説より奇なり』よ!」
と声を上げると女子も次々に声を上げてきて、結局クラス全員が僕たちを祝福してくれた。
というか、お前ら現金すぎるわ――
現金な奴らで構成されていることが判明したホームルーム語の二年A組、男子は早々に部活に行ったり、帰宅したりとさっさといなくなったけど、今は半数以上の女子に囲まれていた。中には「祝福はするけど吉川は嫌い」という女子もいたようで、彼女たちはホームルーム後すぐに帰宅したようだ。
その他でここにいない女子は部活動ででなければならなかったようで、吉川さんに「おめでとう」と声をかけて教室を出ていっていた。
それに対して、男子は薄情だなぁ――
というかまあ当然っちゃ当然か。彼女にしたい女子第一位の吉川さんがこんな冴えない僕と婚約したというんだから、そりや「おめでとう」なんて言えるはずもないよね。
もし吉川さんが別の男子と婚約なんてしたら、やっぱり相手の男子に「おめでとう」なんて声はかけられないと思う。
「ねえ、吉川さんは成川くんとは前から付き合ってたの?」
クラスで一番背が小さくボブショートにしてる少し栗色な髪で、クラス唯一のキラキラネームな本田きららさんが吉川さんに聞いてきた。
実は付き合ったことないんだよね。僕が言葉間違って結婚してくださいとと言っちゃって今に至ってるんだから。
しかし――
「はい。実は入学してからずっとお付き合いしていたんです」
吉川さんの返答は斜め上を行ってた。
吉川さんの返答に女子たちは黄色い声を上げてキャッキャとやっている。
けど、吉川さんの返答は嘘なわけで――。
僕は吉川さんに「嘘はだめだよ」と言ったのだけど、吉川さんは告られる度に「付き合ってる人がいるから」と断っていたらしい。
なんともはや――
ちなみに誰と付き合ってるといったのか聞いたところ、吉川さんは僕を指さしてきた。
へ?僕?
あ、そういえば、何度か上級生から喧嘩売られたことあったっけ?でもいつの間にか喧嘩売られなくなったんだよね――なんでなんだろ?
それからも女子の質問は無くなることはなく、初デートは何処だったのかとか、講堂裏でしたキスは何度目なのかとか、でもそういうことについて吉川さんは満面な微笑みで
「ご想像におまかせします」
と、思い切り逃げた。
そりゃ付き合ったというか付き合う前に婚約者になってしまったというか……なのでどこかへ遊びに行ったこともなければ、あのときのキスがはじめてのキスだったし……あ、でも吉川さんにとって初めてとは限らないよね。吉川さんもあのキスが初めてだったら嬉しいんだけど、そんなの望んだところで、事実は何も変わらないし、そんなことより僕の隣で僕と腕を組んで、満面の笑みで女子たちと会話するこの女の子が吉川若菜という僕の一番大好きな女の子だということが一番重要なことで、それ以外のことはぶっちゃけどうでもいい。
まあ、仮にはじめてじゃなかったとしたら、それはそれで悔しい気持ちにはなるけど、だからって吉川さんを嫌いになる理由なんてどこにもないし。
放課後もだいぶ遅くなってそろそろ夕方五時になろうかという時間。今日はお開きということで、みんなそれぞれに下校していった。
僕たちもそろそろ帰ろうとしたとき、組まれた腕を引っ張られた。なんだろうと吉川さんを見ると、プクッとほっぺたを膨らませている吉川さんがいた。
なんか可愛い――
「義人さん、なにか忘れていませんか?」
突然吉川さんがそう言ってきた。
忘れ物?なにか忘れてたっけ?
ウーン……と考えるけど何を忘れてたのか思い出せない。
そんな僕にしびれが切れたのか僕のほっぺたを数回続いてくる吉川さん。
はて……?
「もう!忘れるなんてひどいです!」
と吉川さん。
けど何を忘れているのか皆目検討もつかない僕。
「生活指導室で菅原先生をじーっと見てたじゃないですか!」
はて……?
ああ、確かにそう言われれば……
「そのとき、お約束したじゃないですか!あとでキスしてくれたら許しますって……」
「あ――」
「ほら、忘れてる!ひどいですぅ!」
と泣き出す吉川さん。
ヤバイ!泣かしてしまった!
こういうときどうすりゃいいのか……と、とりあえずドラマではどうしていたかを思い出してみる。
――けど、そんなドラマなんてここ最近見てないから思い出せない!
あー!とりあえず抱きしめてみよう!
とりあえず、吉川さんを抱きしめてみた。吉川さんの顔がちょうど方あたりに来る感じになる。
抱きしめてみてわかったこと、それはお姫様抱っこしたときよりも華奢だなということ。
そして、吉川さんの頭をなでてみる。
こういうときに不謹慎かもしれないけど、吉川さんの髪はとてもふわふわでサラサラで触っててすごく気持ち良い。
吉川さんを抱きしめて頭をなでていると、吉川さんの肩が急にプルプルと震えてきた。
さむいのかなと思ったけど、今は七月に入ったところだから寒いなら風を引いてるはずだけど吉川さんの体から吉川さんの柔らかさと温かさは感じるけど病気ってほどの熱は感じない。
――なんだろう?――
そう思って体を離してみると、そこには泣いてるはずの吉川さんが耳まで真っ赤にして笑うのを必死に堪えていた。
僕と目のあった吉川さんはペロッと舌を出して肩をすくめる。
「もう、勘弁してよ。本気で泣かせちゃったと思ったじゃん」
安堵から少し憎まれ口をたたく僕。
そんな僕をみてはしゃぐ吉川さん。今までこんな吉川さん、見たことないからものすごく新鮮。でもものすごく可愛くて、吉川さんを抱きしめたくなって吉川さんを捕まえて僕の方に引っ張る。
「キャッ!」
吉川さんが驚きの声なのか悲鳴なのかを上げると同時くらいに吉川さんが僕の胸の中にすっぽりと納まる。しばらくして、少し体を話した僕は吉川さんにちょっと強引にキスをした。
キスした瞬間、吉川さんが少し体をひねろうとしたけど、吉川さんを抱きしめる力を少しだけ強くしてキスを続けた。
はじめはただ唇を重ねるだけのキスから、吉川さんの唇を少しついばむようにしてのキス。そして吉川さんの唇を吸うようにしてのキス。
少しずつ僕の頭に浮かんだキスを吉川さんにしていった。
そして最後に吉川さんの唇を舌でこじ開けて、吉川さんの口の中に舌を入れてみた。確かそんなキスの仕方があったはずだと思ったから。
舌を入れた瞬間、吉川さんの体がビクッとなったけど、すぐに力が抜けたようになって、逃げていく吉川さんの舌を追いかけて捕まえる。
けど、そこで生きが苦しくなって唇を離した。
僕は肩で息をしながら吉川さんを見ると、吉川さんも肩で呼吸をしながら、でも目はトロンとなって顔も赤く高潮していた。少しでも吉川さんを抱きしめている力を抜くと吉川さんがそのまま崩れそうなそんな感じ。
「大丈夫?」
ある程度呼吸が落ち着いてから吉川さんに聞いてみると、
「大丈夫じゃないです。足に力入らないです」
とまだ肩で呼吸をしながら答えてくる吉川さん。
吉川さんが休めるように、片手で吉川さんを支えながら、近くの椅子を引き寄せてそこに吉川さんを座らせる。
しばらくして呼吸が落ち着いた吉川さんは、まだトロンとした目で僕を見上げて、
「キスってこんなにすごいんですね――」
と食べてしまいたくなるほどの可愛い表情でそう言ってきた。
僕は自分用にもう一つ椅子を引き寄せて、吉川さんの目の前に座って、
「僕も今日がはじめてのキスだったんだけど、キスってこんなに興奮するものなんだなって思った」
吉川さんの髪に隠れる頬を撫でるようにしてそう答えた。やってることってキザっぽいなと思いながらも吉川さんの頬を撫でたくて。
吉川さんは頬を撫でる僕の手に頭を乗せてきた。
「実は私もキス、今日が初めてだったんです――」
「同じだね」
「はい。義人さんにファーストキス捧げられてとても嬉しいです」
と、吉川さんはそのまま目を閉じて僕に体を預けてきた。
しばらくなでていると指先が耳にあたった感触があって、その瞬間、吉川さんの体がビクッとなった。
もしかして、この反応ってよくエロ本に書いてある『性感帯』ってやつかのかな?
僕はちょっとした興味と悪戯心から、吉川さんの耳を触ってみる。
すると、耳に触れた瞬間だけ吉川さんの体がビクッと震えて小さく声を上げ始めてきた。
更に続けていると、
「あんッ」
と艶っぽい声が吉川さんから出るようになったので、調子に乗って更に続けると、吉川さんのビクッとなる頻度が高く大きくなってきて、吉川さんが僕に抱きついてきた。
ちょっと驚いて抱きついてきた吉川さんが崩れ落ちそうになっているので抱き上げて僕の膝の上に横になるように座らせて背中を支える格好をとった。その方が吉川さんも僕に抱きつきやすいかなと思ったから。
しばらくして吉川さんが落ち着いてきたので顔を見てみると、更に目がトロンとしていて呼吸がすごくエッチっぽくなってて、吉川さんのこの呼吸ですごく興奮してくる自分がいる。
――でもこれって……やっぱりやりすぎたってことだよね?――
そう宣言すると、吉川さんのお祖父さんの吉川正一郎さんがその場で立ち上がって僕を見下ろして笑いながら拍手してきた。
「いやぁここまで真剣に婿入りを認める男に私は初めて会ったよ」
と言って、正一郎さんは再び真剣な眼差しで僕を見下ろしてきた。
「成川くん、君は"婿入り"をどう考えてる?」
そう聞いてきたので、
「嫁入りが女性が男性家に嫁ぐのに対して、婿入りは男が女性家へ嫁ぐこと――」
と答えたのだけど、正一郎さんは首を横に振る。
「理屈ではなく、私が尋ねているのはね、婿入りというのは、男としてのプライドそのものを捨て去らないといけないことだ。そうでないと婿入りしても何かと問題が出てくるからね、
だからね、成川くん。
君は男としてのプライドを捨てることができるのかい?」
なんだそんなことか。
そんなプライドなんて持ったことはないし、持っていたとしても、そんなの吉川さんと比べたら月とスッポンだ。だから僕はその場に立ち上がり、正一郎さんの目を見てこう答えた。
「吉川さんを。若菜さんを幸せにするためのプライド以外の男としてのプライドなんて要りません!」
別にかっこつけてるわけじゃなくて、それくらい僕は自分のプライドよりも吉川さんの方が大切だと、今朝からの一連の出来事で心からそう思っていた。
吉川さんにとって僕が大切な存在であるならば、僕にとって吉川さんは心から大切な人だから。昨日、あんな形で言葉を間違えたけど、僕は今あの間違いが正しいと思えている。
言った後もじっと正一郎さんの目を見ていた僕の肩を叩くようにして手をおいた正一郎さんは、
「わっはっは!これは愉快だ!」
と一つ大笑いすると、
「成川くん、わしは君が気に入った!ぜひとも我が吉川家に来てくれ。君のことはどんなことをしてでもわしが守ってやる!その代わり若菜を頼んだぞ!」
と正一郎さんは僕をテーブル越しにハグしてきた。
兎にも角にも、吉川さんのお祖父さんに気に入られたようです。これは嬉しい結果だ。
吉川さんとの結婚についての障害が一つ無くなった。でも超えなきゃならなきハードルはまだまだある。とにかく、長男である僕が吉川さんに婿入りするということは、成川家にお嫁さんを迎え入れることはできないということになる。このことを理解していないわけではないけど、このことも含めて、父さんと母さんを説得して認めてもらわなきゃ!
僕は心の中でグッと拳を握った。
☆☆☆
――ホームルーム。
担任の菅原先生が正一郎さんを連れて教室に入ってきた。学園の理事でもある正一郎さんは理事一覧を見ているなら写真が載ってるから知ってるクラスメイトもいて、少しざわついた。
けど、それを菅原先生の咳払いがざわついた教室を静かにした。
「あー、知ってるやつはいるかもしれないが、こちらは学園理事の一人で、吉川正一郎氏だ。これから吉川理事からみんなに聞いてもらいたいことがあるということで来てもらった」
菅原先生が正一郎さんを紹介し、教壇を正一郎さんに譲る。一つ頷いた正一郎さんが先生の代わりに教壇前に立つ。そして――
「まず、今日、わしの孫である吉川若菜に目出度いことがあったのでそれを皆に紹介したい。」
と、正一郎さんは吉川さんと僕を前に出るように呼んだ。とたんクラス内が再びざわつく。
前に出て正一郎さんに促されて僕と吉川さんは正一郎さんを挟む形で教壇に上がった。そのとき、吉川さんから僕に微笑みかけてきたので、僕も吉川さんに笑みを返した。
「さて、このクラスだから知ってる者もおるかと思うが、今日、我が孫、吉川若菜とこの成川義人くんが正式に婚約した。皆に知っていただきたい事はこの事だ」
正一郎さんがそう僕たちを紹介すると、クラスは喧騒に満ちた。中には「成川には吉川さんはふさわしくない!」や「成川死んでくれ」という物騒な声を上げるやつもいた。その喧騒の中、菅原先生の「静かにしろ!」の一言で再び静かになる教室。菅原先生のリーダーシップが凄いのか、それとも先生が睨んでくる顔が凄いのか……。
「そこで、だ。皆にはこの二人をどうか祝福してもらいたい。祝福してくれた者には、わしの一存で学食のメニューすべてを一年間無料にしようと考えている。どうだろうか?」
高校生である身として、学食が無料になるというのは、とても嬉しいことではある。しかし、そんなことで祝福してくれる連中は……
「おー!俺は二人を祝福するぜ!」と委員長に凄んていた矢野君。
「おう、俺もだ!」と吉川さんが一番好きだと公言し告白してくる女子をずっと断ってきたサッカー部副主将の戸川君。
二人が声を上げたら次から次へと男子が俺も俺もと祝福すると声を上げてきた。
さらに委員長が
「男子は現金なのよ!私はすでに祝福してるわ。二人のキスシーンなんてもう!本当に二人が愛し合ってるのがよくわかったもの。『事実は小説より奇なり』よ!」
と声を上げると女子も次々に声を上げてきて、結局クラス全員が僕たちを祝福してくれた。
というか、お前ら現金すぎるわ――
現金な奴らで構成されていることが判明したホームルーム語の二年A組、男子は早々に部活に行ったり、帰宅したりとさっさといなくなったけど、今は半数以上の女子に囲まれていた。中には「祝福はするけど吉川は嫌い」という女子もいたようで、彼女たちはホームルーム後すぐに帰宅したようだ。
その他でここにいない女子は部活動ででなければならなかったようで、吉川さんに「おめでとう」と声をかけて教室を出ていっていた。
それに対して、男子は薄情だなぁ――
というかまあ当然っちゃ当然か。彼女にしたい女子第一位の吉川さんがこんな冴えない僕と婚約したというんだから、そりや「おめでとう」なんて言えるはずもないよね。
もし吉川さんが別の男子と婚約なんてしたら、やっぱり相手の男子に「おめでとう」なんて声はかけられないと思う。
「ねえ、吉川さんは成川くんとは前から付き合ってたの?」
クラスで一番背が小さくボブショートにしてる少し栗色な髪で、クラス唯一のキラキラネームな本田きららさんが吉川さんに聞いてきた。
実は付き合ったことないんだよね。僕が言葉間違って結婚してくださいとと言っちゃって今に至ってるんだから。
しかし――
「はい。実は入学してからずっとお付き合いしていたんです」
吉川さんの返答は斜め上を行ってた。
吉川さんの返答に女子たちは黄色い声を上げてキャッキャとやっている。
けど、吉川さんの返答は嘘なわけで――。
僕は吉川さんに「嘘はだめだよ」と言ったのだけど、吉川さんは告られる度に「付き合ってる人がいるから」と断っていたらしい。
なんともはや――
ちなみに誰と付き合ってるといったのか聞いたところ、吉川さんは僕を指さしてきた。
へ?僕?
あ、そういえば、何度か上級生から喧嘩売られたことあったっけ?でもいつの間にか喧嘩売られなくなったんだよね――なんでなんだろ?
それからも女子の質問は無くなることはなく、初デートは何処だったのかとか、講堂裏でしたキスは何度目なのかとか、でもそういうことについて吉川さんは満面な微笑みで
「ご想像におまかせします」
と、思い切り逃げた。
そりゃ付き合ったというか付き合う前に婚約者になってしまったというか……なのでどこかへ遊びに行ったこともなければ、あのときのキスがはじめてのキスだったし……あ、でも吉川さんにとって初めてとは限らないよね。吉川さんもあのキスが初めてだったら嬉しいんだけど、そんなの望んだところで、事実は何も変わらないし、そんなことより僕の隣で僕と腕を組んで、満面の笑みで女子たちと会話するこの女の子が吉川若菜という僕の一番大好きな女の子だということが一番重要なことで、それ以外のことはぶっちゃけどうでもいい。
まあ、仮にはじめてじゃなかったとしたら、それはそれで悔しい気持ちにはなるけど、だからって吉川さんを嫌いになる理由なんてどこにもないし。
放課後もだいぶ遅くなってそろそろ夕方五時になろうかという時間。今日はお開きということで、みんなそれぞれに下校していった。
僕たちもそろそろ帰ろうとしたとき、組まれた腕を引っ張られた。なんだろうと吉川さんを見ると、プクッとほっぺたを膨らませている吉川さんがいた。
なんか可愛い――
「義人さん、なにか忘れていませんか?」
突然吉川さんがそう言ってきた。
忘れ物?なにか忘れてたっけ?
ウーン……と考えるけど何を忘れてたのか思い出せない。
そんな僕にしびれが切れたのか僕のほっぺたを数回続いてくる吉川さん。
はて……?
「もう!忘れるなんてひどいです!」
と吉川さん。
けど何を忘れているのか皆目検討もつかない僕。
「生活指導室で菅原先生をじーっと見てたじゃないですか!」
はて……?
ああ、確かにそう言われれば……
「そのとき、お約束したじゃないですか!あとでキスしてくれたら許しますって……」
「あ――」
「ほら、忘れてる!ひどいですぅ!」
と泣き出す吉川さん。
ヤバイ!泣かしてしまった!
こういうときどうすりゃいいのか……と、とりあえずドラマではどうしていたかを思い出してみる。
――けど、そんなドラマなんてここ最近見てないから思い出せない!
あー!とりあえず抱きしめてみよう!
とりあえず、吉川さんを抱きしめてみた。吉川さんの顔がちょうど方あたりに来る感じになる。
抱きしめてみてわかったこと、それはお姫様抱っこしたときよりも華奢だなということ。
そして、吉川さんの頭をなでてみる。
こういうときに不謹慎かもしれないけど、吉川さんの髪はとてもふわふわでサラサラで触っててすごく気持ち良い。
吉川さんを抱きしめて頭をなでていると、吉川さんの肩が急にプルプルと震えてきた。
さむいのかなと思ったけど、今は七月に入ったところだから寒いなら風を引いてるはずだけど吉川さんの体から吉川さんの柔らかさと温かさは感じるけど病気ってほどの熱は感じない。
――なんだろう?――
そう思って体を離してみると、そこには泣いてるはずの吉川さんが耳まで真っ赤にして笑うのを必死に堪えていた。
僕と目のあった吉川さんはペロッと舌を出して肩をすくめる。
「もう、勘弁してよ。本気で泣かせちゃったと思ったじゃん」
安堵から少し憎まれ口をたたく僕。
そんな僕をみてはしゃぐ吉川さん。今までこんな吉川さん、見たことないからものすごく新鮮。でもものすごく可愛くて、吉川さんを抱きしめたくなって吉川さんを捕まえて僕の方に引っ張る。
「キャッ!」
吉川さんが驚きの声なのか悲鳴なのかを上げると同時くらいに吉川さんが僕の胸の中にすっぽりと納まる。しばらくして、少し体を話した僕は吉川さんにちょっと強引にキスをした。
キスした瞬間、吉川さんが少し体をひねろうとしたけど、吉川さんを抱きしめる力を少しだけ強くしてキスを続けた。
はじめはただ唇を重ねるだけのキスから、吉川さんの唇を少しついばむようにしてのキス。そして吉川さんの唇を吸うようにしてのキス。
少しずつ僕の頭に浮かんだキスを吉川さんにしていった。
そして最後に吉川さんの唇を舌でこじ開けて、吉川さんの口の中に舌を入れてみた。確かそんなキスの仕方があったはずだと思ったから。
舌を入れた瞬間、吉川さんの体がビクッとなったけど、すぐに力が抜けたようになって、逃げていく吉川さんの舌を追いかけて捕まえる。
けど、そこで生きが苦しくなって唇を離した。
僕は肩で息をしながら吉川さんを見ると、吉川さんも肩で呼吸をしながら、でも目はトロンとなって顔も赤く高潮していた。少しでも吉川さんを抱きしめている力を抜くと吉川さんがそのまま崩れそうなそんな感じ。
「大丈夫?」
ある程度呼吸が落ち着いてから吉川さんに聞いてみると、
「大丈夫じゃないです。足に力入らないです」
とまだ肩で呼吸をしながら答えてくる吉川さん。
吉川さんが休めるように、片手で吉川さんを支えながら、近くの椅子を引き寄せてそこに吉川さんを座らせる。
しばらくして呼吸が落ち着いた吉川さんは、まだトロンとした目で僕を見上げて、
「キスってこんなにすごいんですね――」
と食べてしまいたくなるほどの可愛い表情でそう言ってきた。
僕は自分用にもう一つ椅子を引き寄せて、吉川さんの目の前に座って、
「僕も今日がはじめてのキスだったんだけど、キスってこんなに興奮するものなんだなって思った」
吉川さんの髪に隠れる頬を撫でるようにしてそう答えた。やってることってキザっぽいなと思いながらも吉川さんの頬を撫でたくて。
吉川さんは頬を撫でる僕の手に頭を乗せてきた。
「実は私もキス、今日が初めてだったんです――」
「同じだね」
「はい。義人さんにファーストキス捧げられてとても嬉しいです」
と、吉川さんはそのまま目を閉じて僕に体を預けてきた。
しばらくなでていると指先が耳にあたった感触があって、その瞬間、吉川さんの体がビクッとなった。
もしかして、この反応ってよくエロ本に書いてある『性感帯』ってやつかのかな?
僕はちょっとした興味と悪戯心から、吉川さんの耳を触ってみる。
すると、耳に触れた瞬間だけ吉川さんの体がビクッと震えて小さく声を上げ始めてきた。
更に続けていると、
「あんッ」
と艶っぽい声が吉川さんから出るようになったので、調子に乗って更に続けると、吉川さんのビクッとなる頻度が高く大きくなってきて、吉川さんが僕に抱きついてきた。
ちょっと驚いて抱きついてきた吉川さんが崩れ落ちそうになっているので抱き上げて僕の膝の上に横になるように座らせて背中を支える格好をとった。その方が吉川さんも僕に抱きつきやすいかなと思ったから。
しばらくして吉川さんが落ち着いてきたので顔を見てみると、更に目がトロンとしていて呼吸がすごくエッチっぽくなってて、吉川さんのこの呼吸ですごく興奮してくる自分がいる。
――でもこれって……やっぱりやりすぎたってことだよね?――
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誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
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