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もずく

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ソルト

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 僕の名はソルト。
 世界三大迷宮の一つ、メールスフィアの迷宮にあると言われている秘宝を求め、迷宮探索の日々を過ごしている。
 とは言え、僕のレベルはまだ一六。二階層にすら進めてない底辺探索者なんだけどさ。

 キミは?
 ナディ?
 いい名前だね。よろしく。

 えーと、じゃあ始めようか。
 ここはメールスフィア迷宮表層部の南側にあるサウススフィアって街だ……って、そんなの知ってるか。まあ、でも説明させてくれよ。
 この街は、迷宮の一部が完全攻略されて、魔物が出なくなったエリアを、人が住む街にしちゃった、世界で最初の場所なんだ。
 少ーしずつ人の支配地を拡張していっててね、今やこの街には一万人近い人が暮らしている。僕もその内の一人だ。

 迷宮の最深部には秘宝が眠っている。

 誰が言い出したのか知らないけど、この話は真実であるとされているんだよね。そして、これは世界中の人間が知っている一般常識だったりする。キミも知ってるよね。
 うん、だから、誰も彼もが「迷宮に入ってその秘宝を手にしたい」、って思うと思うんだけど、実は選ばれた人間しか迷宮に入ることができないんだ。
 迷宮には、生まれつき、体の何処かに何かの動物に見える痣がある者しか入れなくってさ。
 例えば、僕の場合は太ももに、猫が走ってるような五センチくらいの赤い痣がある。
 こんな風な痣がない人は迷宮に入ることができない。目に見えない壁のような物があって、それを通過する事ができないからだ。

 だけど、それほど特別な条件という事でもないんだよね。
 事実、このサウススフィアの街だけでも一万人もの人間がいるんだから。
 あー、いや、こんな言い方、痣を持ってない人に聞かれたら怒られるな。
 ん~~、迷宮に足を踏み入れられる、という点において少しだけ特典を持ってるけど、その特典は多くの人が持っていて、それほど……その、認められし勇者とか、そういうのほど特別なものじゃない、って感じだ。
 ……まぁ、入りたくても入れない人からしたら、どんな言い方をしても嫌味に取られちゃうんだろうな。

 ん~~、そうだ、話を変えよう。
 あのさ、この街には一万人もの人間が暮らしてるんだけど、探索者として魔物と戦って素材を手に入れたり、地図の拡張や宝箱探しをしているのは二千人くらいらしいんだよね。
 他の人は、ここで暮らす人相手の商売とか、外に持ち出しての商売したり、治療院、鍛冶場で働いたり……そうそう、学校とかもちゃんとあるんだよ。

 どうする?
 ここまで聞いてみてさ、街で働くか、迷宮を探索するか、どっちをやってみたいって思った?

 あー、うん。
 そうだね。迷宮には魔物が出るからね。安全とは言えないかな。
 でも、探索は面白いよ。あ、僕にとっては、だけど。

 うん、もちろんだよ。僕でも生き残れてるんだから、ナディ、キミにだってできるさ。
 どうする、やるかい?
 って、すぐに答えを出す必要はないんだけど。
 もしも探索者をやりたいって思ったら、僕に声を掛けてよ。
 夜はだいたい黒うさぎ亭っていう宿屋にいるからさ。
 いない時は迷宮の中にいると思う。たまに迷宮の中でキャンプすることがあるんだ。だから、僕がいない時に来ちゃったら、宿の女将さんに伝言を残してくれたら助かるかな。

 うん。
 待ってるよ。
 じゃあまた。



 ナディがテーブルを離れると、ソルトの視線は彼女のあとを追いかけた。
 そして、他のテーブルにいる探索者に声を掛けて、その探索者の向かいの席に座ったのを見て「ふぅ」と溜息をついた。
 あの探索者は自分よりもレベルが高い。それに、確か、既に四人パーティーだったはずだ。
 僕はソロ探索者。
 初心者が入るなら、彼らのように強くて仲間がいるパーティーの方がいいに決まってる。
「はぁ」
 ソルトはまた、溜息をつくのだった。

 ソルトが最初に入ったパーティーは、途中でメンバーが一人死んでしまったことが原因で、解散してしまっていた。
 同じ時期に、このサウススフィアにやって来た四人でパーティーを組んでいたのだが、迷宮内で、他のパーティーが連れてきてしまった大型昆虫との戦闘に巻き込まれたのが原因だった。
 四人の内、一人は死に、一人は探索者を辞め、一人はあろうことか、死者が出る原因になったパーティーに移籍してしまった。
 それが二ヶ月前のことだ。
 それ以来、ソルトは一人で迷宮を探索しているのだった。

 一人ソロでも、敵を選べばやっていけない事もない。
 底辺探索者と自嘲したものの、レベル一六であれば、三人以上のパーティーなら二階層でも戦えるレベルだ。
 三匹以上の魔物に囲まれれば、一階層であってもやられてしまう可能性がある。だから、なるべく一匹だけでいる魔物を探して戦わなければならない。
 それに、魔物が何か残したドロップしたとしても、一人では持ち運べる量に限りがある。
 そんな状況だから、やれない事はないけど、ソロ探索は危険で効率が悪いから、なるべく早く誰かとパーティーを組みたいのだった。

 しかし、レベル一六になっても、未だに特殊スキルが手に入らないソルトは、ただの剣士でしかない為に、なかなかどこのパーティーも拾ってくれず、仲間を増やすこともできないでいたのだ。
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