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感覚
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暗闇は怖い。
何も見えない真っ暗闇は、自分の存在さえも認識できなくなってしまうから。
だから、暗闇の中では何かに触れていたい。それは別に自分の体でもいい。
でも、もしも触覚までもがなくなってしまったら。本当に自分がいるのかどうかさえも分からなくなってしまうんじゃないか。
そうしたら、誰かに語りかけるんじゃないだろうか。そして、誰かからの返事を待つんじゃないか。
でも、聴覚さえも利かなくなってしまったら。もう完全に一人ぼっちだ。意識だけがある状態はどれだけ孤独だろう。
後は嗅覚と味覚しか残っていない。そうしたら鼻をひくつかせて、自分以外の匂いを探すんだろうか。
じゃあ嗅覚すら……
迷宮の中は、所々に弱々しい発光体がある。それはキノコやコケだったり、壁面の石自体が光ってたりと様々だ。
それに、人がよく出入りする空洞や部屋には、松明やランプなどが置かれていることもある。
だから迷宮は、それらのおかげで完全な暗闇にはなっていない。
それでも何箇所かは真っ暗な場所もあって、そういった場所に行く際には、灯りの魔道具やランタンなどを持って行かなければならない。
僕は今、灯りを持たず、あえてそんな場所に来ている。
耳はまだ聴こえないままだ。
何故こんな事をするのか。
半分は自殺行為だ。
僕がどうにもならない時にやってしまう自棄糞な行動の一部だ。馬鹿なことをやっていると分かってるけどやめられない。
もう半分は訓練だ。
もしかしたら、この耳は一生使い物にならないかも知れないから、この状態でもやっていけるようにスパルタ方式で自身を強化する為の行為だ。
どうせなら、目も見えない中でやってみるか、と思ってここまでやって来た。
ここに来るまでに、六回の戦闘をしてきた。
その内の二回は背後から奇襲を受けて危うく死ぬところだった。いきなり首を噛まれる所から始まる戦闘はスリリングだった。
既に高級傷薬を一つ使ってしまっている。
残りはあと一つだ。
暗闇の中、物音さえも聞こえない中で、僕は剣を構えて、魔物が現れるのをじっと待っていた。
全神経を魔物の索敵に集中させ続ける。
辛いが、油断した隙に魔物に襲われれば死ぬことになる。
ゴブリンが短剣を首や背中に刺してきたら、反撃する間もなく死ぬ可能性がある。
だから、全力で全身で何者かの接近を待ち続けた。
そして、極限の緊張状態での訓練が、奥底に眠っていた力を目覚めさせたのだった。
なんてことはなく、ソルトは無様にも迷宮大ミミズに咬み付かれてしまった。
そこから始まった戦いは、なんとなくこの辺に居るだろうと剣を振り回したことで討伐できたものの、一つ十万円もする高級傷薬を更に消費することになってしまったのだった。
流石に無理があったか。
なんとか無事に街まで戻った後、ベッドに横たわりながら、今の状態のまま、たった一人で探索することの難しさを痛感していた。
ただ、ほんの少しではあるけど、魔物の気配的なものを感じ取れたような気がするんだよな。
明日はもうちょっと違う方法でやってみよう。
そんな風にして、迷宮で何をするかを考えていた僕は、妙にすっきりとした気分で、久しぶりにすんなりと眠りに就くことができたのだった。
そしてその翌朝、僕は、宿の朝食の準備ができた合図のバケツを叩く音で目を覚ましたのだった。
僕はまだ耳が聞こえない体で活動を続けることにした。
何故なら、毎日、誰かしらが僕を訪ねて来るからだ。
昨日までは、実際、声がまったく聴こえなかったので、視界に入ってきた彼らが何か言ってても無視してこれた。そして、彼らは(たぶん)自分が言いたい事を言いきれたら、僕に伝わってるかどうかは別にして、言えたという結果に満足して帰っていってくれてた。
でも、耳が治ったとなればそうもいかないだろう。彼らは何某かの答えを欲しがるだろう。そして、それが拒絶の言葉であっても、赦しの言葉であっても彼らは満足するんだ。
僕からの判決を待ってるだけだから。
赦されても赦されなくてもいいんだ。
もはやそんなのは謝罪でもなんでもない。
自分が罪の意識から解放されたいだけってことなんだよ、たぶん。
……あーあ、面倒くさいな。
自分が。
色々考えてたら本当に色々と嫌になってきてしまった。
僕はどこで間違えたんだろうか。
僕は間違えてないけど、世界が僕に厳しいんだろうか。
どこまで巻き戻せたら、嫌じゃない世界に戻れるんだろうか。
そんな風に翌朝、僕が目を覚ますと、おかしな事が起きていた。
目が覚めた場所は僕の部屋じゃなくて、薄暗い洞窟の中。
「おはよう」
「おはよー」
「よくもまあ、ダンジョンん中でぐっすり寝れるもんだなあ」
ミントが優しい声で、マヨが間の抜けた声で、ペッパーが軽い感じで、僕の目をパッチリと開けてくれた。
何が起こっている?
混乱して言葉が出ない僕に、「どうした?」「大丈夫?」などと声を掛けてくれるみんな。
まさか。
時間が巻き戻ってる?
僕が願ったから?
誰かが……神様が願いを叶えてくれた?
そんな馬鹿な。
こんな嬉しい話はない。
ありえない。
あり得るわけがない。
こういう時はどうすればいいんだっけ。
あ、そうだ。
ほっぺをつねって、痛くなければ夢なんだっけ。
僕は思いっきりほっぺをつねってみようとした。
何も見えない真っ暗闇は、自分の存在さえも認識できなくなってしまうから。
だから、暗闇の中では何かに触れていたい。それは別に自分の体でもいい。
でも、もしも触覚までもがなくなってしまったら。本当に自分がいるのかどうかさえも分からなくなってしまうんじゃないか。
そうしたら、誰かに語りかけるんじゃないだろうか。そして、誰かからの返事を待つんじゃないか。
でも、聴覚さえも利かなくなってしまったら。もう完全に一人ぼっちだ。意識だけがある状態はどれだけ孤独だろう。
後は嗅覚と味覚しか残っていない。そうしたら鼻をひくつかせて、自分以外の匂いを探すんだろうか。
じゃあ嗅覚すら……
迷宮の中は、所々に弱々しい発光体がある。それはキノコやコケだったり、壁面の石自体が光ってたりと様々だ。
それに、人がよく出入りする空洞や部屋には、松明やランプなどが置かれていることもある。
だから迷宮は、それらのおかげで完全な暗闇にはなっていない。
それでも何箇所かは真っ暗な場所もあって、そういった場所に行く際には、灯りの魔道具やランタンなどを持って行かなければならない。
僕は今、灯りを持たず、あえてそんな場所に来ている。
耳はまだ聴こえないままだ。
何故こんな事をするのか。
半分は自殺行為だ。
僕がどうにもならない時にやってしまう自棄糞な行動の一部だ。馬鹿なことをやっていると分かってるけどやめられない。
もう半分は訓練だ。
もしかしたら、この耳は一生使い物にならないかも知れないから、この状態でもやっていけるようにスパルタ方式で自身を強化する為の行為だ。
どうせなら、目も見えない中でやってみるか、と思ってここまでやって来た。
ここに来るまでに、六回の戦闘をしてきた。
その内の二回は背後から奇襲を受けて危うく死ぬところだった。いきなり首を噛まれる所から始まる戦闘はスリリングだった。
既に高級傷薬を一つ使ってしまっている。
残りはあと一つだ。
暗闇の中、物音さえも聞こえない中で、僕は剣を構えて、魔物が現れるのをじっと待っていた。
全神経を魔物の索敵に集中させ続ける。
辛いが、油断した隙に魔物に襲われれば死ぬことになる。
ゴブリンが短剣を首や背中に刺してきたら、反撃する間もなく死ぬ可能性がある。
だから、全力で全身で何者かの接近を待ち続けた。
そして、極限の緊張状態での訓練が、奥底に眠っていた力を目覚めさせたのだった。
なんてことはなく、ソルトは無様にも迷宮大ミミズに咬み付かれてしまった。
そこから始まった戦いは、なんとなくこの辺に居るだろうと剣を振り回したことで討伐できたものの、一つ十万円もする高級傷薬を更に消費することになってしまったのだった。
流石に無理があったか。
なんとか無事に街まで戻った後、ベッドに横たわりながら、今の状態のまま、たった一人で探索することの難しさを痛感していた。
ただ、ほんの少しではあるけど、魔物の気配的なものを感じ取れたような気がするんだよな。
明日はもうちょっと違う方法でやってみよう。
そんな風にして、迷宮で何をするかを考えていた僕は、妙にすっきりとした気分で、久しぶりにすんなりと眠りに就くことができたのだった。
そしてその翌朝、僕は、宿の朝食の準備ができた合図のバケツを叩く音で目を覚ましたのだった。
僕はまだ耳が聞こえない体で活動を続けることにした。
何故なら、毎日、誰かしらが僕を訪ねて来るからだ。
昨日までは、実際、声がまったく聴こえなかったので、視界に入ってきた彼らが何か言ってても無視してこれた。そして、彼らは(たぶん)自分が言いたい事を言いきれたら、僕に伝わってるかどうかは別にして、言えたという結果に満足して帰っていってくれてた。
でも、耳が治ったとなればそうもいかないだろう。彼らは何某かの答えを欲しがるだろう。そして、それが拒絶の言葉であっても、赦しの言葉であっても彼らは満足するんだ。
僕からの判決を待ってるだけだから。
赦されても赦されなくてもいいんだ。
もはやそんなのは謝罪でもなんでもない。
自分が罪の意識から解放されたいだけってことなんだよ、たぶん。
……あーあ、面倒くさいな。
自分が。
色々考えてたら本当に色々と嫌になってきてしまった。
僕はどこで間違えたんだろうか。
僕は間違えてないけど、世界が僕に厳しいんだろうか。
どこまで巻き戻せたら、嫌じゃない世界に戻れるんだろうか。
そんな風に翌朝、僕が目を覚ますと、おかしな事が起きていた。
目が覚めた場所は僕の部屋じゃなくて、薄暗い洞窟の中。
「おはよう」
「おはよー」
「よくもまあ、ダンジョンん中でぐっすり寝れるもんだなあ」
ミントが優しい声で、マヨが間の抜けた声で、ペッパーが軽い感じで、僕の目をパッチリと開けてくれた。
何が起こっている?
混乱して言葉が出ない僕に、「どうした?」「大丈夫?」などと声を掛けてくれるみんな。
まさか。
時間が巻き戻ってる?
僕が願ったから?
誰かが……神様が願いを叶えてくれた?
そんな馬鹿な。
こんな嬉しい話はない。
ありえない。
あり得るわけがない。
こういう時はどうすればいいんだっけ。
あ、そうだ。
ほっぺをつねって、痛くなければ夢なんだっけ。
僕は思いっきりほっぺをつねってみようとした。
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