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聴こえない
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ザッツバーグ、いや、グルーシスの一味と、それに加担したギルド職員が処刑されてから数日後。
あの大騒ぎも落ち着き、街はいつもの状態に戻っていた。
ギルドも、五人減ったくらいでは、業務にさしたる影響もでなかったようだ。
そして、ギルドが管理している訓練場も、まるで何事も無かったかのように、若手の探索者達数名が利用している。
訓練場の左側では三人組が戦闘フォーメーションを確認している。
中央では火魔法を発動させている者がいる。
そして、一番奥では、長剣と短剣を持った青年が、黙々と剣を振っていた。
「まだ一人でいるの?」
そんな彼に、つい最近、かなり有名になった女の子が声を掛けた。
だが、青年はまるで声が聴こえていないかのように返事をせず、黙々と剣を振り続けている。
女の子は、元パーティーを組んでいた友人から、彼が音を失ってしまった事を聞いて知っていた。
それでも、彼の背後から声を掛け続けた。
あの時、ギルドからのスパイの話なんか信じなければよかった。
パーティーを解散なんかしなければよかった。
ソルトとまたパーティーを組みたい。
青年……ソルトが剣を振っている間中、彼女は彼に話し続けた。
ソルトが鍛錬を終え、ミントの存在に気がつくと、彼女は更に色々と話しかけたのだが、ソルトは何も言わずに更衣室に向かって去っていった。
着替え終わって訓練場を出てきたソルトに、外で待っていたミントが昔のように話しかけたのだが、ソルトは興味なさそうに、足を止めることなく歩き続けた。
ギルドに入り、筆談で今日の訓練場の利用が終わった事を報告する。
そして、黒うさぎ亭に帰っていった。
ミントは黒うさぎ亭まで付いていったのだが、宿の中までは入らず、マヨの店に行くことにしたのだった。
マヨは探索者を辞めたあと、それまでに貯めたお金で小さな食堂を開いていた。
ミントはこの店の一番の常連である。
「あ、あまり、しう、しつこくしない方がいいと思うよ」
「でもそれじゃ、いつまで経っても前みたいに一緒に探索できないじゃない」
「い、いや、ぼ、僕にそんなこと言われても……」
マヨは少し気が弱い。
体格はタンクとして申し分ないのだが、性格的には元々、探索者は向いてなかったのかもしれない。
「はい。ビ、ビーフシチューとと、ハンバーグ定食、ね」
迷宮産の牛肉はなかなか美味しい。
迷宮牛がドロップする肉には、外にいる普通の牛と同じようにランクがあるのだが、迷宮牛の最低ランクの肉は、外の牛で言えば上から数えた方が早いくらいのランクが就けられる。
つまり、どれもこれもが美味いのだ。
「相変わらず美味しい……でもさ、店なんか趣味にして、また迷宮に一緒に行こうよ」
「むむ、無茶言わないでよ」
たはは、と弱く笑いながら、マヨが返事をする。
ただ、元のパーティーが解散してしまった事については、その原因の何割かが自分の脱退なんだよな、と思うと、ミントとソルトをなんとか助けてやりたいとは思う。
でも……少しでも助けになれば、と思ってグーメシュさんに紹介したら、キーン君ともうまく行かなくて、更に新人の子の心無い一言で耳が聞こえなくなったって話だった。
自分が変に気を使ったことで、ソルトを不幸にしてしまったんじゃないかと思って、最近、ぐっすりと眠れていない。
自分は念願だった店を開けたのは嬉しいんだけど、自分だけがうまく行っているのが心苦しい。
ミントが一心不乱に食事を摂り始めると、店内は静かになってしまった。
気まずい空気が流れ出したな、というタイミングで、店のドアが開き、お客さんが入ってきてくれた。
そのお客さんの応対や調理をしている間に、ミントは定食を完食したらしく、テーブルにお金を置いていなくなっていた。
ミントは自分の部屋に戻ると、全裸になって濡れタオルで体を拭き上げた。
そして洗ってある下着を身に着けて、それほど柔らかくもないベッドにバタンと倒れ込んだ。
ぐるっと体を半回転して、仰向けになると天井を見つめる。
「あーー、どうすればいーんだろ」
いつまでも迷宮に入らずにいることはできない。貯金は今もなお減り続けているのだから。
かと言って、もう、ソルト以外の人とパーティーを組む気はない。
この街に来てすぐに彼らと出会って、なんとなくずっとこの四人でやっていくんだと思ってたけど、三ヶ月前にパーティーはバラバラになってしまった。
それは悪い奴らが原因だったことが分かったけど、私自身にも悪いところがあった。
それが分かったから、謝るしかないと思ったし、謝ればまた元に戻れると思ってたんだけど、それはかなり見積もりが甘かったみたいだ。
「せめてマヨが探索者に戻ってくれたらな~」
でも、もう迷宮に入りたくないと言ってる人を無理やり連れて行くこともできない。
「そうなると、後はソロしかないのかな」
一人で迷宮に入り、多少なりともお金を稼ぐしかないのかな。そうして、いつかソルトが赦してくれるのを待つ……?
でも、ソルトが一人で迷宮に入ってるのを知った時、もの凄く心配したっけなー。ソロはやめて欲しくて、キツい言い方で誰かと組めって言ったこともあったっけ。
その私がソロで迷宮にはいるのはちょっと……いや、もしかして、そのことがソルトの耳に入ったら、私の事をちょっとは心配してくれるかな?
こんな打算的なのちょっとやだけど、もしかして、これってアリなんじゃない?
いやいやいや、今の言い方ってソルトに失礼だわ。聴こえないのに耳に入るとか……あーー違う違う、この考え方自体が失礼かも。
一人であーでもない、こーでもないと繰り返すミントの思いは、天井だけが我慢強く聞き続けてくれたのだった。
あの大騒ぎも落ち着き、街はいつもの状態に戻っていた。
ギルドも、五人減ったくらいでは、業務にさしたる影響もでなかったようだ。
そして、ギルドが管理している訓練場も、まるで何事も無かったかのように、若手の探索者達数名が利用している。
訓練場の左側では三人組が戦闘フォーメーションを確認している。
中央では火魔法を発動させている者がいる。
そして、一番奥では、長剣と短剣を持った青年が、黙々と剣を振っていた。
「まだ一人でいるの?」
そんな彼に、つい最近、かなり有名になった女の子が声を掛けた。
だが、青年はまるで声が聴こえていないかのように返事をせず、黙々と剣を振り続けている。
女の子は、元パーティーを組んでいた友人から、彼が音を失ってしまった事を聞いて知っていた。
それでも、彼の背後から声を掛け続けた。
あの時、ギルドからのスパイの話なんか信じなければよかった。
パーティーを解散なんかしなければよかった。
ソルトとまたパーティーを組みたい。
青年……ソルトが剣を振っている間中、彼女は彼に話し続けた。
ソルトが鍛錬を終え、ミントの存在に気がつくと、彼女は更に色々と話しかけたのだが、ソルトは何も言わずに更衣室に向かって去っていった。
着替え終わって訓練場を出てきたソルトに、外で待っていたミントが昔のように話しかけたのだが、ソルトは興味なさそうに、足を止めることなく歩き続けた。
ギルドに入り、筆談で今日の訓練場の利用が終わった事を報告する。
そして、黒うさぎ亭に帰っていった。
ミントは黒うさぎ亭まで付いていったのだが、宿の中までは入らず、マヨの店に行くことにしたのだった。
マヨは探索者を辞めたあと、それまでに貯めたお金で小さな食堂を開いていた。
ミントはこの店の一番の常連である。
「あ、あまり、しう、しつこくしない方がいいと思うよ」
「でもそれじゃ、いつまで経っても前みたいに一緒に探索できないじゃない」
「い、いや、ぼ、僕にそんなこと言われても……」
マヨは少し気が弱い。
体格はタンクとして申し分ないのだが、性格的には元々、探索者は向いてなかったのかもしれない。
「はい。ビ、ビーフシチューとと、ハンバーグ定食、ね」
迷宮産の牛肉はなかなか美味しい。
迷宮牛がドロップする肉には、外にいる普通の牛と同じようにランクがあるのだが、迷宮牛の最低ランクの肉は、外の牛で言えば上から数えた方が早いくらいのランクが就けられる。
つまり、どれもこれもが美味いのだ。
「相変わらず美味しい……でもさ、店なんか趣味にして、また迷宮に一緒に行こうよ」
「むむ、無茶言わないでよ」
たはは、と弱く笑いながら、マヨが返事をする。
ただ、元のパーティーが解散してしまった事については、その原因の何割かが自分の脱退なんだよな、と思うと、ミントとソルトをなんとか助けてやりたいとは思う。
でも……少しでも助けになれば、と思ってグーメシュさんに紹介したら、キーン君ともうまく行かなくて、更に新人の子の心無い一言で耳が聞こえなくなったって話だった。
自分が変に気を使ったことで、ソルトを不幸にしてしまったんじゃないかと思って、最近、ぐっすりと眠れていない。
自分は念願だった店を開けたのは嬉しいんだけど、自分だけがうまく行っているのが心苦しい。
ミントが一心不乱に食事を摂り始めると、店内は静かになってしまった。
気まずい空気が流れ出したな、というタイミングで、店のドアが開き、お客さんが入ってきてくれた。
そのお客さんの応対や調理をしている間に、ミントは定食を完食したらしく、テーブルにお金を置いていなくなっていた。
ミントは自分の部屋に戻ると、全裸になって濡れタオルで体を拭き上げた。
そして洗ってある下着を身に着けて、それほど柔らかくもないベッドにバタンと倒れ込んだ。
ぐるっと体を半回転して、仰向けになると天井を見つめる。
「あーー、どうすればいーんだろ」
いつまでも迷宮に入らずにいることはできない。貯金は今もなお減り続けているのだから。
かと言って、もう、ソルト以外の人とパーティーを組む気はない。
この街に来てすぐに彼らと出会って、なんとなくずっとこの四人でやっていくんだと思ってたけど、三ヶ月前にパーティーはバラバラになってしまった。
それは悪い奴らが原因だったことが分かったけど、私自身にも悪いところがあった。
それが分かったから、謝るしかないと思ったし、謝ればまた元に戻れると思ってたんだけど、それはかなり見積もりが甘かったみたいだ。
「せめてマヨが探索者に戻ってくれたらな~」
でも、もう迷宮に入りたくないと言ってる人を無理やり連れて行くこともできない。
「そうなると、後はソロしかないのかな」
一人で迷宮に入り、多少なりともお金を稼ぐしかないのかな。そうして、いつかソルトが赦してくれるのを待つ……?
でも、ソルトが一人で迷宮に入ってるのを知った時、もの凄く心配したっけなー。ソロはやめて欲しくて、キツい言い方で誰かと組めって言ったこともあったっけ。
その私がソロで迷宮にはいるのはちょっと……いや、もしかして、そのことがソルトの耳に入ったら、私の事をちょっとは心配してくれるかな?
こんな打算的なのちょっとやだけど、もしかして、これってアリなんじゃない?
いやいやいや、今の言い方ってソルトに失礼だわ。聴こえないのに耳に入るとか……あーー違う違う、この考え方自体が失礼かも。
一人であーでもない、こーでもないと繰り返すミントの思いは、天井だけが我慢強く聞き続けてくれたのだった。
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