プレーヤープレイヤー

もずく

文字の大きさ
12 / 118

聴こえない

しおりを挟む
 ザッツバーグ、いや、グルーシスの一味と、それに加担したギルド職員が処刑されてから数日後。
 あの大騒ぎも落ち着き、街はいつもの状態に戻っていた。
 ギルドも、五人減ったくらいでは、業務にさしたる影響もでなかったようだ。

 そして、ギルドが管理している訓練場も、まるで何事も無かったかのように、若手の探索者達数名が利用している。
 訓練場の左側では三人組が戦闘フォーメーションを確認している。
 中央では火魔法を発動させている者がいる。
 そして、一番奥では、長剣と短剣を持った青年が、黙々と剣を振っていた。

「まだ一人でいるの?」

 そんな彼に、つい最近、かなり有名になった女の子が声を掛けた。
 だが、青年はまるで声が聴こえていないかのように返事をせず、黙々と剣を振り続けている。
 女の子は、元パーティーを組んでいた友人マヨから、彼が音を失ってしまった事を聞いて知っていた。
 それでも、彼の背後から声を掛け続けた。

 あの時、ギルドからのスパイの話なんか信じなければよかった。
 パーティーを解散なんかしなければよかった。
 ソルトとまたパーティーを組みたい。

 青年……ソルトが剣を振っている間中、彼女は彼に話し続けた。
 ソルトが鍛錬を終え、ミントの存在に気がつくと、彼女は更に色々と話しかけたのだが、ソルトは何も言わずに更衣室に向かって去っていった。

 着替え終わって訓練場を出てきたソルトに、外で待っていたミントが昔のように話しかけたのだが、ソルトは興味なさそうに、足を止めることなく歩き続けた。
 ギルドに入り、筆談で今日の訓練場の利用が終わった事を報告する。
 そして、黒うさぎ亭に帰っていった。
 ミントは黒うさぎ亭まで付いていったのだが、宿の中までは入らず、マヨの店に行くことにしたのだった。

 マヨは探索者を辞めたあと、それまでに貯めたお金で小さな食堂を開いていた。
 ミントはこの店の一番の常連である。

「あ、あまり、しう、しつこくしない方がいいと思うよ」
「でもそれじゃ、いつまで経っても前みたいに一緒に探索できないやれないじゃない」
「い、いや、ぼ、僕にそんなこと言われても……」

 マヨは少し気が弱い。
 体格はタンクとして申し分ないのだが、性格的には元々、探索者は向いてなかったのかもしれない。

「はい。ビ、ビーフシチューとと、ハンバーグ定食、ね」

 迷宮産の牛肉はなかなか美味しい。
 迷宮牛がドロップする肉には、外にいる普通の牛と同じようにランクがあるのだが、迷宮牛の最低ランクの肉は、外の牛で言えば上から数えた方が早いくらいのランクが就けられる。
 つまり、どれもこれもが美味いのだ。

「相変わらず美味しい……でもさ、店なんか趣味にして、また迷宮に一緒に行こうよ」
「むむ、無茶言わないでよ」

 たはは、と弱く笑いながら、マヨが返事をする。
 ただ、元のパーティーが解散してしまった事については、その原因の何割かが自分の脱退なんだよな、と思うと、ミントとソルトをなんとか助けてやりたいとは思う。
 でも……少しでも助けになれば、と思ってグーメシュさんに紹介したら、キーン君ともうまく行かなくて、更に新人の子の心無い一言で耳が聞こえなくなったって話だった。
 自分が変に気を使ったことで、ソルトを不幸にしてしまったんじゃないかと思って、最近、ぐっすりと眠れていない。
 自分は念願だった店を開けたのは嬉しいんだけど、自分だけがうまく行っているのが心苦しい。

 ミントが一心不乱に食事を摂り始めると、店内は静かになってしまった。
 気まずい空気が流れ出したな、というタイミングで、店のドアが開き、お客さんが入ってきてくれた。
 そのお客さんの応対や調理をしている間に、ミントは定食を完食したらしく、テーブルにお金を置いていなくなっていた。



 ミントは自分の部屋に戻ると、全裸になって濡れタオルで体を拭き上げた。
 そして洗ってある下着を身に着けて、それほど柔らかくもないベッドにバタンと倒れ込んだ。
 ぐるっと体を半回転して、仰向けになると天井を見つめる。

「あーー、どうすればいーんだろ」

 いつまでも迷宮に入らずにいることはできない。貯金は今もなお減り続けているのだから。
 かと言って、もう、ソルト以外の人とパーティーを組む気はない。
 この街に来てすぐに彼らと出会って、なんとなくずっとこの四人でやっていくんだと思ってたけど、三ヶ月前にパーティーはバラバラになってしまった。
 それは悪い奴らが原因だったことが分かったけど、私自身にも悪いところがあった。
 それが分かったから、謝るしかないと思ったし、謝ればまた元に戻れると思ってたんだけど、それはかなり見積もりが甘かったみたいだ。

「せめてマヨが探索者に戻ってくれたらな~」

 でも、もう迷宮に入りたくないと言ってる人を無理やり連れて行くこともできない。

「そうなると、後はソロしかないのかな」

 一人で迷宮に入り、多少なりともお金を稼ぐしかないのかな。そうして、いつかソルトが赦してくれるのを待つ……?
 でも、ソルトが一人で迷宮に入ってるのを知った時、もの凄く心配したっけなー。ソロはやめて欲しくて、キツい言い方で誰かと組めって言ったこともあったっけ。
 その私がソロで迷宮にはいるのはちょっと……いや、もしかして、そのことがソルトの耳に入ったら、私の事をちょっとは心配してくれるかな?
 こんな打算的なのちょっとやだけど、もしかして、これってアリなんじゃない?

 いやいやいや、今の言い方ってソルトに失礼だわ。聴こえないのに耳に入るとか……あーー違う違う、この考え方自体が失礼かも。

 一人であーでもない、こーでもないと繰り返すミントの思いは、天井だけが我慢強く聞き続けてくれたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした

セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。 牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。 裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...