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天秤
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「いえ、なんのことでしょうか」
「えっ?」
「すみません、次の方も並んでいらっしゃるので、具体的にこちらで処理できるお話でないのなら、すみませんがお引取りください」
「えっ? ちょっと、何言ってるのよ」
ギルドに入り、いくつかある受付カウンターの内、私にスパイ調査を依頼してきた職員のいるカウンターに行ったのだけど、そんな話など知らないと切り捨てられてしまった。
ザッツバーグのパーティーからの脱退についても「そんな理由では」と受け付けてもらえない。
こんな馬鹿な話があるものかと思い、別のカウンターに行って説明してみたところ、理由云々には触れられないまま、脱退申請が受理された。
なんとなくだけど、馬鹿な私にもこの話の裏が見えてきた。
あの職員とザッツバーグは裏で繋がってるんじゃないか、ということだ。
スパイでパーティーに入るという提案自体が、彼らの作戦だったんじゃないか。
もしかすると、あいつらが私達のいる場所に魔物を引き連れてきた所から……
馬鹿な私だって、こんな変な提案にすぐさま乗っかったわけじゃない。
ギルドのサブマスターも同席しての話だったから信じてしまったんだ。
仲間が死んでしまって、仲間が探索者を辞めると言ってきて、混乱と心が弱ってる時に、仲間の復讐が出来るかもしれないと話をされて、私は簡単に騙されてしまったんだ。
だって、ソルトにこんな汚いことの手伝いなんてさせたら駄目だと思ったから。一人でやり遂げないとって、変な使命感に燃えて……私ってやっぱり馬鹿だな。
……ギルド全体が敵ではないのだと思いたい。
人によっては普通に申請を受け付けてくれたんだから、全員がザッツバーグと繋がってるわけじゃないはず。
でも、サブマスターはザッツバーグ側にいる、と言うことだ。
他のサブマスターはどうなんだろう。
ギルドマスターはどうなんだろう。
誰に相談すればいいのか分からない。
分からないから、とりあえずできる事をやっておこう。
それでザッツバーグやギルドから命を狙われても構わない。
「今さっき、ザッツバーグのパーティーからの脱退申請をしたら五番のカウンターの人には却下されました!」
ギルドにいる探索者と職員の視線が私に集まったのが分かった。
でも、恥ずかしいとか言ってられない。
止められる前に言い切ってしまわないと。
「私はザッツバーグ達のパーティーが仲間殺しをしている可能性について調査の為にスパイ活動をしてほしいと、五番のカウンターの人とサブマスターから頼まれて三ヶ月間やってきました」
流石に長過ぎて一息では言えなかった。
「でももう、スパイ活動も限界です。もし私が死んだらザッツバーグかギルドに殺されたと思ってくださ、きゃあ!」
私はギルドの職員に頭と背中を押され、床に押さえ付けられてしまった。
「おいっ、暴れてるわけじゃないんだから、そりゃやり過ぎだろ」
ただ、この場にいた探索者が何人か動いてくれたらしくて、なんとか助けてもらうことができた。
「それに、今の話はしっかり聞いておきてーな」
「だな」
「おい、ギルマス呼んで来いよ」
「あ、おい、五番のカウンターの奴が逃げるぞ!」
「おまえら逃がすなよ!」
そして、私の話に興味を持ってくれた探索者達が、更に動いてくれた。
馬鹿な私の、とっさの思いつきに動いてくれる人がいるとは思わなかったから少し驚いた。
せめて、無駄死ににならないようにと思って叫んだだけだったのに。
後は祈るだけだ。
このザッツバーグの件に、一部のギルド職員だけしか関わっていないことを。
この話は人伝にあっという間に広まり、とても大きな話題になってしまった。
たった一八レベルの探索者が中心にいていいのかと不安になるレベルの騒ぎだ。
サウススフィアにある商工会会長、神殿の司祭や神官長、そしてサウススフィアの街長までがギルドにやってきて、ギルド全職員を揃えた上で、一人一人に《天秤》による審議の確認が行われたのだ。
《天秤》とは、簡単に言えば嘘発見器のようなスキル。この《天秤》を持つ者二人が、みんなの前で同時にギルド職員に確認をしていってくれたのだ。
ギルドは常に中立であるべし。
この街にいる人間は、全員が探索者になる資格と権利を持っている。だから、街にいる誰もがギルドに関わる可能性があり、それ故に、探索者を支援するギルドの役割は重要性が高い。
魔物が溢れ出ないように、魔物の素材で街をより豊かにする為に、命の危険のある迷宮を探索している。探索者とはそんな存在なのだ。
探索者達の志や目的は別として、結果的に街の為になっている探索者達は、街にとっては財産なのだ。
だから、ギルドの運営に何か問題があれば、それは街全体の問題という認識なのだった。
そして、残念なことに、今回、ギルドの職員の内五名が、ザッツバーグという探索者が率いるパーティーと結託し、不正を働いていた事が明らかになった。
その流れで、彼らが仲間殺しに関わっていたことについても、洗いざらい調べ上げる事ができてしまった。
迷宮には今、ザッツバーグを捕らえる為に、数十人の探索者が向かっている。彼らが捕まるのは時間の問題だろう。
そして、ザッツバーグ達は捕獲され、迷宮の門の前にある公園広場にて、事の真偽を確かめる事になった。
《天秤》のスキルを持つ者が、更に一人増えて三人。
お互いの顔が見れないように、三人の間には衝立てがされている。
彼らの正面にはザッツバーグとその仲間二名がいる。その後ろには、彼らと関係していた五人のギルド職員がいる。
「お前たちは、迷宮内で、探索者ガースとイーウェルを何らかの手段で殺害したか」
「「「いいえ」」」
問に対し、彼らが「いいえ」と答えた瞬間、《天秤》スキルを持つ三人の右手が一斉に上げられた。
このやり取りを見守る大勢の人間からどよめきが起きた。
「お前たちは空を飛ぶことができる」
「「「いいえ」」」
三人の右手は動かない。
「お前たちは、迷宮内で、ミント達のパーティーに対しモンスタートレインを意図的に行ったか」
「「「いいえ」」」
三人の右手が一斉に上がる。
「ザッツバーグ、お前の真の名前はグルーシスである」
「いいえ」
三人の右手が一斉に上がる。
「オルゴン、お前の真の名前はオルゴーンである」
「いいえ」
三人の手は動かない。
このように、本当と嘘の質問を何十と繰り返していき、《天秤》のスキルを持つ三人が一度たりとも違う動きをしないことで、彼らの罪を暴いていったのであった。
そして、ザッツバーグことグルーシス達は、仲間殺しの大罪を犯したことが確定した。
更に、ギルド職員と共に探索者の私財を奪っていた事、存在価値の高いスキルを持つ者を、残虐かつ狡猾な手段で仲間に引き込んだ事などの罪も含め、その命を持ってそれらを償う事になったのであった。
「えっ?」
「すみません、次の方も並んでいらっしゃるので、具体的にこちらで処理できるお話でないのなら、すみませんがお引取りください」
「えっ? ちょっと、何言ってるのよ」
ギルドに入り、いくつかある受付カウンターの内、私にスパイ調査を依頼してきた職員のいるカウンターに行ったのだけど、そんな話など知らないと切り捨てられてしまった。
ザッツバーグのパーティーからの脱退についても「そんな理由では」と受け付けてもらえない。
こんな馬鹿な話があるものかと思い、別のカウンターに行って説明してみたところ、理由云々には触れられないまま、脱退申請が受理された。
なんとなくだけど、馬鹿な私にもこの話の裏が見えてきた。
あの職員とザッツバーグは裏で繋がってるんじゃないか、ということだ。
スパイでパーティーに入るという提案自体が、彼らの作戦だったんじゃないか。
もしかすると、あいつらが私達のいる場所に魔物を引き連れてきた所から……
馬鹿な私だって、こんな変な提案にすぐさま乗っかったわけじゃない。
ギルドのサブマスターも同席しての話だったから信じてしまったんだ。
仲間が死んでしまって、仲間が探索者を辞めると言ってきて、混乱と心が弱ってる時に、仲間の復讐が出来るかもしれないと話をされて、私は簡単に騙されてしまったんだ。
だって、ソルトにこんな汚いことの手伝いなんてさせたら駄目だと思ったから。一人でやり遂げないとって、変な使命感に燃えて……私ってやっぱり馬鹿だな。
……ギルド全体が敵ではないのだと思いたい。
人によっては普通に申請を受け付けてくれたんだから、全員がザッツバーグと繋がってるわけじゃないはず。
でも、サブマスターはザッツバーグ側にいる、と言うことだ。
他のサブマスターはどうなんだろう。
ギルドマスターはどうなんだろう。
誰に相談すればいいのか分からない。
分からないから、とりあえずできる事をやっておこう。
それでザッツバーグやギルドから命を狙われても構わない。
「今さっき、ザッツバーグのパーティーからの脱退申請をしたら五番のカウンターの人には却下されました!」
ギルドにいる探索者と職員の視線が私に集まったのが分かった。
でも、恥ずかしいとか言ってられない。
止められる前に言い切ってしまわないと。
「私はザッツバーグ達のパーティーが仲間殺しをしている可能性について調査の為にスパイ活動をしてほしいと、五番のカウンターの人とサブマスターから頼まれて三ヶ月間やってきました」
流石に長過ぎて一息では言えなかった。
「でももう、スパイ活動も限界です。もし私が死んだらザッツバーグかギルドに殺されたと思ってくださ、きゃあ!」
私はギルドの職員に頭と背中を押され、床に押さえ付けられてしまった。
「おいっ、暴れてるわけじゃないんだから、そりゃやり過ぎだろ」
ただ、この場にいた探索者が何人か動いてくれたらしくて、なんとか助けてもらうことができた。
「それに、今の話はしっかり聞いておきてーな」
「だな」
「おい、ギルマス呼んで来いよ」
「あ、おい、五番のカウンターの奴が逃げるぞ!」
「おまえら逃がすなよ!」
そして、私の話に興味を持ってくれた探索者達が、更に動いてくれた。
馬鹿な私の、とっさの思いつきに動いてくれる人がいるとは思わなかったから少し驚いた。
せめて、無駄死ににならないようにと思って叫んだだけだったのに。
後は祈るだけだ。
このザッツバーグの件に、一部のギルド職員だけしか関わっていないことを。
この話は人伝にあっという間に広まり、とても大きな話題になってしまった。
たった一八レベルの探索者が中心にいていいのかと不安になるレベルの騒ぎだ。
サウススフィアにある商工会会長、神殿の司祭や神官長、そしてサウススフィアの街長までがギルドにやってきて、ギルド全職員を揃えた上で、一人一人に《天秤》による審議の確認が行われたのだ。
《天秤》とは、簡単に言えば嘘発見器のようなスキル。この《天秤》を持つ者二人が、みんなの前で同時にギルド職員に確認をしていってくれたのだ。
ギルドは常に中立であるべし。
この街にいる人間は、全員が探索者になる資格と権利を持っている。だから、街にいる誰もがギルドに関わる可能性があり、それ故に、探索者を支援するギルドの役割は重要性が高い。
魔物が溢れ出ないように、魔物の素材で街をより豊かにする為に、命の危険のある迷宮を探索している。探索者とはそんな存在なのだ。
探索者達の志や目的は別として、結果的に街の為になっている探索者達は、街にとっては財産なのだ。
だから、ギルドの運営に何か問題があれば、それは街全体の問題という認識なのだった。
そして、残念なことに、今回、ギルドの職員の内五名が、ザッツバーグという探索者が率いるパーティーと結託し、不正を働いていた事が明らかになった。
その流れで、彼らが仲間殺しに関わっていたことについても、洗いざらい調べ上げる事ができてしまった。
迷宮には今、ザッツバーグを捕らえる為に、数十人の探索者が向かっている。彼らが捕まるのは時間の問題だろう。
そして、ザッツバーグ達は捕獲され、迷宮の門の前にある公園広場にて、事の真偽を確かめる事になった。
《天秤》のスキルを持つ者が、更に一人増えて三人。
お互いの顔が見れないように、三人の間には衝立てがされている。
彼らの正面にはザッツバーグとその仲間二名がいる。その後ろには、彼らと関係していた五人のギルド職員がいる。
「お前たちは、迷宮内で、探索者ガースとイーウェルを何らかの手段で殺害したか」
「「「いいえ」」」
問に対し、彼らが「いいえ」と答えた瞬間、《天秤》スキルを持つ三人の右手が一斉に上げられた。
このやり取りを見守る大勢の人間からどよめきが起きた。
「お前たちは空を飛ぶことができる」
「「「いいえ」」」
三人の右手は動かない。
「お前たちは、迷宮内で、ミント達のパーティーに対しモンスタートレインを意図的に行ったか」
「「「いいえ」」」
三人の右手が一斉に上がる。
「ザッツバーグ、お前の真の名前はグルーシスである」
「いいえ」
三人の右手が一斉に上がる。
「オルゴン、お前の真の名前はオルゴーンである」
「いいえ」
三人の手は動かない。
このように、本当と嘘の質問を何十と繰り返していき、《天秤》のスキルを持つ三人が一度たりとも違う動きをしないことで、彼らの罪を暴いていったのであった。
そして、ザッツバーグことグルーシス達は、仲間殺しの大罪を犯したことが確定した。
更に、ギルド職員と共に探索者の私財を奪っていた事、存在価値の高いスキルを持つ者を、残虐かつ狡猾な手段で仲間に引き込んだ事などの罪も含め、その命を持ってそれらを償う事になったのであった。
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