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もずく

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レイドモンスター

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 僕にしては珍しく、朝早くから迷宮の門をくぐった。
 今日の僕の目的が、北西エリアでの魔物狩りと、水切れを起こしたパーティーがいたら、《水魔法》を売り込むことだからだ。

 西部地区から二時間ほど北に行った所に、北西エリアと呼ばれる場所がある。そこは西部地区程ではないものの、巨大な空洞がある。
 その北西エリアには、極稀たまにではあるものの、一階層では最強の魔物である迷宮巨大赤虎タイガーボルや、迷宮火吹きワニツインフレイムが現れる事がある。
 この特殊な名前が付けられた二体の魔物は、八人以下の小さなパーティー単体で勝つのは難しいことが分かっている為、現れたポップした場合には、その場にいる探索者全員で戦う事が認められている。
 その為、この二体の魔物はレイドモンスターと呼ばれている。ちなみに、レイドと言うのは、複数のパーティーが協力して戦うという意味だ。
 なので、僕のように一人ソロで来て待機してる人もいるし、西部地区の石人形ストーンゴーレム狩り場が混みすぎている時や、休憩がてらにやってくるパーティーもいる。
 レイドモンスターは、現れる率が低いので、通常は安全地帯として利用されてもいるわけだ。
 それに、もしもタイミングよく湧いてくれれば、他のパーティーと合同で戦う事ができて、勝てば戦功に応じて素材の分配もある。
 もちろん、いい事ばかりじゃない。大怪我をする可能性もあるし、過去には多数の死者が出ているから、初心者が来るような所ではない。

 僕は北西エリアに到着すると、壁際の空いてる所に座った。
 この空洞はかなり広いので、休む所を探すのは簡単だった。
 僕は、ここに来るまでに、大体八時間くらいかかってしまった。
 ここに来るまでにかかる時間は五時間くらいだと計算していた。西部地区まで三時間。そこから北西エリアまで二時間。
 でも、それはパーティーで進む場合の時間だったわけだ。

 途中で出会う魔物との戦いにかかる時間を考えたら、一人だとこのくらいはかかると予想できたはずなのに、僕は結構自意識過剰だったようだ。
《再生機》を手に入れた事で、自分がかなり強くなったと勘違いしていたらしい。
 自分の力を過大評価しすぎれば、その先に待っているのは死だ。
 僕は疲れた体を休めながら、自分がまだ一八レベルでしかない事を再認識していた。
 いくつかのスキルの真似事をできるようにはなったけど、それらのスキルにしたって、まだまだ初級レベルの技ばかりだ。
 より上級のスキルを手に入れて、それらを使いこなせるようにならないと。

 その為にも、ここでトラかワニが湧くのを待たないと。
 最初は水売りをしながら、どこかの中級クラスのパーティーに入れないかと考えてたんだけど、来る途中の検証でその考えが変わっていた。
 どうやら、僕の《再生機》は、「一緒に戦った人のスキルしか再生できない」らしい事が分かったんだ。
 探索者が西部地区に向かう道のりで、何組かのパーティーが魔物と戦っている場面に出会ったんだけど、その時の戦闘シーンを《再生機》で観ても、彼らに視点を合わせる事同化する事ができなきなくて、その結果、彼らのスキルを手に入れることもできなかったんだよね。
 そこで僕は、スキルを手に入れる為には、その対象と一緒に戦う、つまり、共闘しなければ駄目なんじゃないか、という風に考えてみた。
 ただ、通常、迷宮内では、他のパーティーの戦闘に勝手に手を出すのはご法度だ。それが相手を助ける為だったとしても、先に戦い始めた者達からの要請や許可なしに戦闘に手を出してはいけない。
 特に、僕みたいに「能無し」として知られてるようなヤツが手を出したら、それが本当に助ける為にやった事だとしても、「経験値を奪ったどろぼう」として叩かれる事だろう。たぶん、口撃だけでなく、物理的に。
 そこで考えたのがレイドモンスターだ。
 ここなら、戦闘に参加しても何か言われる事はないし、それ目的で一人で来ている探索者も僕だけじゃないからね。悪目立ちする事もないはずだ。
 それに、レイドなら大勢の探索者と「共闘」する事になるわけで、その中には中級以上の探索者が必ずいるはずだ。

 という事で、トラかワニが湧くまで、ここを拠点にして、近くの空洞や通路で魔物を狩りながら待つことにしよう。
 持ってきた携帯食は、節約すれば五日は保たせられるはずだ。
 今回が駄目なら、次はもっと食料を持ってきてキャンプだな。

 そんな風に計画を立てながら、とりあえずは体力を回復させる事にした。
 のだが。

「あれ? ソルトじゃないか……俺には西側に行くなって言っといて、自分は来てるんだな」

 キーンの声が、僕を精神を休ませてくれないようだった。
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