21 / 118
レイドモンスター
しおりを挟む
長期探索の準備ができた僕は、今日はいつもの夜の時間に公園に向かった。
そこには見知った顔がいくつかあって、少々辟易とした気分になった。
キーン、ナディの二人組と、ミントの三人が門の前にいたのだ。
僕に気が付いた三人がやってきて、それぞれ、申し訳無さそうにしながらも勝手な事を言い出した。
お前が水魔法を使えるようになってるとは知らなかった。この間の事は俺が悪かった。また俺とパーティーを組んでくれ。もうお前は能無しなんかじゃない。
まあ、「もうお前は能無しなんかじゃない」と言う部分が本音なんだよな。
知り合いが、新人探索者にはありがたい《水魔法》持ちになったから、舌の根も乾かない内だって言うのに、こうやって僕を待ってたんだろうね。
知ってるかも知れないけど、私はギルドに騙されてたの。ソルトを裏切ったわけじゃなくて、ギルドのスパイとしてザッツバーグのパーティーに入ってただけなの。だから……
だからなんなんだろう。
赦してほしいの、かな。
それとも、またパーティーを組みましょう、かな。
なんだかみんな、面の皮が厚いよね。
謝って赦せる範囲を越えてることをやったって言う自覚がないんだろうな。
だから、僕に声を掛けてくることができる。
だから、謝れば簡単に赦されると思ってる。
そんな人達とうまくやっていける気はしない。
まあ、三人がまとめて現れてくれたことで、この場の対応には困らなそうでよかった。
「ミントさん、仲間が欲しいならこの二人に声をかければいいと思うよ。そっちの二人にしても、ミントさんに仲間になってもらえば、水の問題は解決できると思うよ。だから、僕にはもう二度と話しかけてこないでくれ」
それだけを言って、僕は一人で迷宮に入った。
ミントが何か言ってたようだけど、それを聞き取ることはできなかった。
しかし、キーンは素直でいい奴だと思ってたんだけどな。
変わってしまったのか、元々ああいう奴だったのか。
僕は人を見る目が足りないな。
あれ以来、グーメシュさんの店にも行けなくなってしまったし……彼も僕には良くない印象を持ってるだろうな、と思うと足が向かないんだ。
「はぁ」
溜め息を吐きつつ、僕は急ぎ足で迷宮を歩きながら、北西エリア、まずは西部地区を目指した。
西部地区に到着したのは、迷宮に入って大体四時間後くらいのことだった。
今は夜中の二時くらいだと思うんだけど、空洞内には起きてゴーレムの湧き待ちをしている人達が結構いる。
昼に比べたら効率は悪いかも知れないけど、まったく湧かない訳でもないから、昼に稼げなかったパーティーはこの時間になっても頑張るわけだ。
まあ、今回も目的地はここではないから、スルーして北に抜ける通路に進んだ。
そして、それから二時間後。僕は北西エリアにようやっと到着した。
今回は僕の少し前に別のパーティーが同じルートを移動してたらしくて、魔物がほとんどいなかったので、特に急いだ訳じゃないけど、結構早く着くことができた。
さてさて。入ってきた僕を見つけるなり、サナムさんがやって来て、水をくれと言う。もちろん、お金はちゃんと払ってくれる人なので、差し出された大きな水筒を満タンにしてあげた。
他のソロの二人もやって来たので、同じように水を提供した。
それから、僕が帰ってから今までの所、まだレイドモンスターは湧いてないよと、僕が聞く前に情報を教えてくれた。
そんな事もあって、この人達には五リットルで一万でもいいかな、と思うんだけど、相場をあまり崩すのは良くないことらしい。
この場にいるソロの人達はそれなりの実力者らしく、お金には困って無いそうなので、相場通りのお金を普通に払ってくれた。
ここに来ただけで、僕はこの前までの一日の稼ぎの二倍以上を稼いでしまった。
小遣い稼ぎが目的ではないはずなのに、何となく口元が緩んでしまいそうになった。
その後は特に何もないまま二日間が過ぎた。
僕は北西エリアの更に北側にある空洞に行ったり、水が欲しい人に水を売ったりして過ごしていた。
そして、北西エリアの中央部が赤黒く光りだした。
これは、サナムさん達から聞いていた現象だ。
地面に赤黒く光る線が引かれ、それは大きな魔法陣になった。
魔法陣が描き上がると、魔法陣の上、空中に赤と黒に光る小さな板がたくさん現れて、そして何かを形造っていく。
「当たりだな」
「おっし、やるぞ」
「俺らが最高ダメージ出すぞ」
「弩用意!」
あちこちで気合の声が上がる。
当たり、ってことは、こいつは迷宮巨大赤虎の方って事なんだろうな。
タイガーボルの素材の方が高く売れるらしいし、希少な報酬も貰いやすいらしいから。
僕も頑張ろう。
僕は《再生機》で手に入れた、《土魔法》の《土壁》と《火魔法》の《火壁》を元に、《水魔法》でも《水壁》を使えないかと練習してきた。
結果として、《再生機》で観てない《水壁》を覚える事はできなかったんだけど、その過程で《水魔法》自体を大量に使った事で、《水魔法》自体のレベルは上がったらしい。
一度に出せる水の量がかなり増えたし、《水弾》の大きさも、威力も上がっているし、同時に出せる数も一つから三つに増えている。
これなら……
「ぐるぅぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
腹の奥底に響くタイガーボルの咆哮が、北西エリアの大きな空洞を震わせた。
僕は、ぞくぞくと震え上がる手足に活を入れ、左右の腰から剣を抜き取った。
そこには見知った顔がいくつかあって、少々辟易とした気分になった。
キーン、ナディの二人組と、ミントの三人が門の前にいたのだ。
僕に気が付いた三人がやってきて、それぞれ、申し訳無さそうにしながらも勝手な事を言い出した。
お前が水魔法を使えるようになってるとは知らなかった。この間の事は俺が悪かった。また俺とパーティーを組んでくれ。もうお前は能無しなんかじゃない。
まあ、「もうお前は能無しなんかじゃない」と言う部分が本音なんだよな。
知り合いが、新人探索者にはありがたい《水魔法》持ちになったから、舌の根も乾かない内だって言うのに、こうやって僕を待ってたんだろうね。
知ってるかも知れないけど、私はギルドに騙されてたの。ソルトを裏切ったわけじゃなくて、ギルドのスパイとしてザッツバーグのパーティーに入ってただけなの。だから……
だからなんなんだろう。
赦してほしいの、かな。
それとも、またパーティーを組みましょう、かな。
なんだかみんな、面の皮が厚いよね。
謝って赦せる範囲を越えてることをやったって言う自覚がないんだろうな。
だから、僕に声を掛けてくることができる。
だから、謝れば簡単に赦されると思ってる。
そんな人達とうまくやっていける気はしない。
まあ、三人がまとめて現れてくれたことで、この場の対応には困らなそうでよかった。
「ミントさん、仲間が欲しいならこの二人に声をかければいいと思うよ。そっちの二人にしても、ミントさんに仲間になってもらえば、水の問題は解決できると思うよ。だから、僕にはもう二度と話しかけてこないでくれ」
それだけを言って、僕は一人で迷宮に入った。
ミントが何か言ってたようだけど、それを聞き取ることはできなかった。
しかし、キーンは素直でいい奴だと思ってたんだけどな。
変わってしまったのか、元々ああいう奴だったのか。
僕は人を見る目が足りないな。
あれ以来、グーメシュさんの店にも行けなくなってしまったし……彼も僕には良くない印象を持ってるだろうな、と思うと足が向かないんだ。
「はぁ」
溜め息を吐きつつ、僕は急ぎ足で迷宮を歩きながら、北西エリア、まずは西部地区を目指した。
西部地区に到着したのは、迷宮に入って大体四時間後くらいのことだった。
今は夜中の二時くらいだと思うんだけど、空洞内には起きてゴーレムの湧き待ちをしている人達が結構いる。
昼に比べたら効率は悪いかも知れないけど、まったく湧かない訳でもないから、昼に稼げなかったパーティーはこの時間になっても頑張るわけだ。
まあ、今回も目的地はここではないから、スルーして北に抜ける通路に進んだ。
そして、それから二時間後。僕は北西エリアにようやっと到着した。
今回は僕の少し前に別のパーティーが同じルートを移動してたらしくて、魔物がほとんどいなかったので、特に急いだ訳じゃないけど、結構早く着くことができた。
さてさて。入ってきた僕を見つけるなり、サナムさんがやって来て、水をくれと言う。もちろん、お金はちゃんと払ってくれる人なので、差し出された大きな水筒を満タンにしてあげた。
他のソロの二人もやって来たので、同じように水を提供した。
それから、僕が帰ってから今までの所、まだレイドモンスターは湧いてないよと、僕が聞く前に情報を教えてくれた。
そんな事もあって、この人達には五リットルで一万でもいいかな、と思うんだけど、相場をあまり崩すのは良くないことらしい。
この場にいるソロの人達はそれなりの実力者らしく、お金には困って無いそうなので、相場通りのお金を普通に払ってくれた。
ここに来ただけで、僕はこの前までの一日の稼ぎの二倍以上を稼いでしまった。
小遣い稼ぎが目的ではないはずなのに、何となく口元が緩んでしまいそうになった。
その後は特に何もないまま二日間が過ぎた。
僕は北西エリアの更に北側にある空洞に行ったり、水が欲しい人に水を売ったりして過ごしていた。
そして、北西エリアの中央部が赤黒く光りだした。
これは、サナムさん達から聞いていた現象だ。
地面に赤黒く光る線が引かれ、それは大きな魔法陣になった。
魔法陣が描き上がると、魔法陣の上、空中に赤と黒に光る小さな板がたくさん現れて、そして何かを形造っていく。
「当たりだな」
「おっし、やるぞ」
「俺らが最高ダメージ出すぞ」
「弩用意!」
あちこちで気合の声が上がる。
当たり、ってことは、こいつは迷宮巨大赤虎の方って事なんだろうな。
タイガーボルの素材の方が高く売れるらしいし、希少な報酬も貰いやすいらしいから。
僕も頑張ろう。
僕は《再生機》で手に入れた、《土魔法》の《土壁》と《火魔法》の《火壁》を元に、《水魔法》でも《水壁》を使えないかと練習してきた。
結果として、《再生機》で観てない《水壁》を覚える事はできなかったんだけど、その過程で《水魔法》自体を大量に使った事で、《水魔法》自体のレベルは上がったらしい。
一度に出せる水の量がかなり増えたし、《水弾》の大きさも、威力も上がっているし、同時に出せる数も一つから三つに増えている。
これなら……
「ぐるぅぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」
腹の奥底に響くタイガーボルの咆哮が、北西エリアの大きな空洞を震わせた。
僕は、ぞくぞくと震え上がる手足に活を入れ、左右の腰から剣を抜き取った。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる