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あとは寝るだけ
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五千円と値段はちょっと高いけど、やっぱり銭湯はいいものだ。綺麗なお湯にゆっくり入ると、全身をちょうど良い気怠さが包んでくれる。夕飯を食べたらあとは寝るだけだ。
僕は風呂で失った水分を補給するため、銭湯の向かいの軽食屋に入り、炭酸水を飲みながらミツキが出てくるのを待っていた。
この店はマヨとペッパーと僕の三人で何度か入った事がある。
パーティーのみんなとは、迷宮探索以外ではほとんど付き合いがなかったけど、探索でたくさん稼げた時は、みんなで銭湯に来て、それから酒場で乾杯をしていた。
いつも、僕ら男連中が先に出てきて、ミントが出てくるのを待ってたんだよね。
ペッパーが死んでしまって、パーティーが解散してから、まだ半年も経ってないのに、なんだかもうずっと前の事のような気がする。
そんな事を考えていたら、銭湯からミツキじゃなくて、ミントが出てくるのが見えた。あの髪の色はミントに間違いない。
ミントは一瞬こっちを見て、そして僕と目が合った。
少し驚いた顔をして、それから寂しそうに笑って、軽く頭を下げて去っていった。
もう話しかけないでほしいと言ったのは僕なのに、何故か僕まで少し寂しい気持ちになってしまった。
彼女がペッパーの無念を晴らす為に、マヨや僕の為に、一人で危険なスパイ活動をしたと言う話を聞いた時、なんでそんなつまらない嘘に騙されるんだと思った。騙す方も悪いけど、騙される方も悪いんだって、そう思った。
でも、僕も、彼女の真意に気付かないまま、彼女の言う事をそのまま受け入れて解散してしまったんだよね。
あの時に、なんでなんだ、どうしてなんだと考えて、ミントともっと話す事ができていれば、もしかしたら彼女はギルドやザッツバーグに騙される事はなかったのかも知れない。
まだ、僕とパーティーを組んでいたかも……いや、「かも知れない」を言い出したら切りが無いよね。
現実として、僕らは既にパーティーを解散しているし、僕は彼女に酷い事を言ってしまった訳だし、そして何より……
何より……なんだ?
僕は何を言おうとしたんだ?
ちょうどその時、綺麗な長い黒髪を揺らしながら、スラッとした長身の人影が銭湯から出てくるのが目に入ってきた。
キョロキョロと誰かを探すように辺りを見回し、店の中から小さく手を振る僕に気が付いて、ホッとしたように笑った。
凛とした整ったその顔立ちは、口を固く結んでいるとその長身の為か眉目秀麗な美男子に見える。
でも、緊張も解けたのか、ここ何日かは口許が緩む事が多くなってきていて、そうなると、やはり年相応の美人な女性にしか見えない。
それに時折、今みたいな不安そうな、年よりも幼く見える表情も見せるのだ。
「お風呂はどうだった?」僕は店を出て、小走りに駆け寄ってきたミツキに声を掛けた。
「イースタールの温泉と同じくらい良かったのじゃ」
「そっか。なら良かったよ……何かあった?」
「な、何もない、のじゃ。な、何か変かの?」
何かあったんだろうな。
でも、風呂で何があると言うのか。
まあ、話してくれないのなら、無理に聞き出す事はしたくない。
「いや、全然変なんかじゃないよ。それじゃ、なんか食べてから帰ろうか。何か食べたい物とかある?」
「うむ。そう言えばサウススフィアには魚を出す店はないのかの。ここに来てからとんと見かけておらぬのだが」
「少ないけどあるよ。迷宮の二階層には地底湖があるらしくてね。そこで魚が手に入るんだってさ」
「ほお。どんな魚が食べられるのかの」
僕らは魚料理が食べられるレストランに行き、食事を楽しんだ。メニューを見たミツキは、刺身や寿司がないのが不満なようだったけど、注文した魚料理が目の前に届くと、それはそれで美味しかったらしく、満足してくれたようだった。
魚は二階層でしか捕れないので、少々値が張ったけど、彼女が美味しそうに食べるのを見れたからよかった。
「すまぬ……」
会計を済ませた僕に、しゅんと肩を落として謝るミツキを見て、僕は笑ってしまった。
「ミツキがお金持ってないの知ってて来てるんだから気にしなくていいよ」
「しかし、銭湯の代金も全部ソルトに頼ってしまっておるのは……更に寝床まで」
「ワニ退治したら返してもらうから大丈夫だよ」
「む? そ、そうか。確かに。うむ。必ず役に立ってみせようぞ」
「うん、よろしくね」
コロコロと変わる表情は見ていて楽しい。
凛々しい侍の顔と、そうじゃない女の子の顔は、どちらもミツキの顔なんだな、きっと。
どっちかが本当のミツキとかじゃなくて、どっちもなんだ。
「な、なんじゃ。人の顔を見てニヤニヤするものでないぞ」
少し照れた顔で、無理して怒ったような表情を作ってそんな事を言うミツキをみて、僕は、かわいいなぁと、そう思ってしまったのだった。
僕は風呂で失った水分を補給するため、銭湯の向かいの軽食屋に入り、炭酸水を飲みながらミツキが出てくるのを待っていた。
この店はマヨとペッパーと僕の三人で何度か入った事がある。
パーティーのみんなとは、迷宮探索以外ではほとんど付き合いがなかったけど、探索でたくさん稼げた時は、みんなで銭湯に来て、それから酒場で乾杯をしていた。
いつも、僕ら男連中が先に出てきて、ミントが出てくるのを待ってたんだよね。
ペッパーが死んでしまって、パーティーが解散してから、まだ半年も経ってないのに、なんだかもうずっと前の事のような気がする。
そんな事を考えていたら、銭湯からミツキじゃなくて、ミントが出てくるのが見えた。あの髪の色はミントに間違いない。
ミントは一瞬こっちを見て、そして僕と目が合った。
少し驚いた顔をして、それから寂しそうに笑って、軽く頭を下げて去っていった。
もう話しかけないでほしいと言ったのは僕なのに、何故か僕まで少し寂しい気持ちになってしまった。
彼女がペッパーの無念を晴らす為に、マヨや僕の為に、一人で危険なスパイ活動をしたと言う話を聞いた時、なんでそんなつまらない嘘に騙されるんだと思った。騙す方も悪いけど、騙される方も悪いんだって、そう思った。
でも、僕も、彼女の真意に気付かないまま、彼女の言う事をそのまま受け入れて解散してしまったんだよね。
あの時に、なんでなんだ、どうしてなんだと考えて、ミントともっと話す事ができていれば、もしかしたら彼女はギルドやザッツバーグに騙される事はなかったのかも知れない。
まだ、僕とパーティーを組んでいたかも……いや、「かも知れない」を言い出したら切りが無いよね。
現実として、僕らは既にパーティーを解散しているし、僕は彼女に酷い事を言ってしまった訳だし、そして何より……
何より……なんだ?
僕は何を言おうとしたんだ?
ちょうどその時、綺麗な長い黒髪を揺らしながら、スラッとした長身の人影が銭湯から出てくるのが目に入ってきた。
キョロキョロと誰かを探すように辺りを見回し、店の中から小さく手を振る僕に気が付いて、ホッとしたように笑った。
凛とした整ったその顔立ちは、口を固く結んでいるとその長身の為か眉目秀麗な美男子に見える。
でも、緊張も解けたのか、ここ何日かは口許が緩む事が多くなってきていて、そうなると、やはり年相応の美人な女性にしか見えない。
それに時折、今みたいな不安そうな、年よりも幼く見える表情も見せるのだ。
「お風呂はどうだった?」僕は店を出て、小走りに駆け寄ってきたミツキに声を掛けた。
「イースタールの温泉と同じくらい良かったのじゃ」
「そっか。なら良かったよ……何かあった?」
「な、何もない、のじゃ。な、何か変かの?」
何かあったんだろうな。
でも、風呂で何があると言うのか。
まあ、話してくれないのなら、無理に聞き出す事はしたくない。
「いや、全然変なんかじゃないよ。それじゃ、なんか食べてから帰ろうか。何か食べたい物とかある?」
「うむ。そう言えばサウススフィアには魚を出す店はないのかの。ここに来てからとんと見かけておらぬのだが」
「少ないけどあるよ。迷宮の二階層には地底湖があるらしくてね。そこで魚が手に入るんだってさ」
「ほお。どんな魚が食べられるのかの」
僕らは魚料理が食べられるレストランに行き、食事を楽しんだ。メニューを見たミツキは、刺身や寿司がないのが不満なようだったけど、注文した魚料理が目の前に届くと、それはそれで美味しかったらしく、満足してくれたようだった。
魚は二階層でしか捕れないので、少々値が張ったけど、彼女が美味しそうに食べるのを見れたからよかった。
「すまぬ……」
会計を済ませた僕に、しゅんと肩を落として謝るミツキを見て、僕は笑ってしまった。
「ミツキがお金持ってないの知ってて来てるんだから気にしなくていいよ」
「しかし、銭湯の代金も全部ソルトに頼ってしまっておるのは……更に寝床まで」
「ワニ退治したら返してもらうから大丈夫だよ」
「む? そ、そうか。確かに。うむ。必ず役に立ってみせようぞ」
「うん、よろしくね」
コロコロと変わる表情は見ていて楽しい。
凛々しい侍の顔と、そうじゃない女の子の顔は、どちらもミツキの顔なんだな、きっと。
どっちかが本当のミツキとかじゃなくて、どっちもなんだ。
「な、なんじゃ。人の顔を見てニヤニヤするものでないぞ」
少し照れた顔で、無理して怒ったような表情を作ってそんな事を言うミツキをみて、僕は、かわいいなぁと、そう思ってしまったのだった。
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