39 / 118
料理と再生
しおりを挟む
先の事はまだ分からないけど、イースタールに魔晶石を届けたら、ここに戻ってきたいと言ってくれた。
つまり、一度は迷宮を離れてしまうという事だ。
でも、生まれた国の戦争よりも、僕といる方を取りたいと言ってくれてるのに、僕がこれ以上のわがままを言うことはできない。
戻ってこれるかどうかは分からないけど、その気持ちを確認できただけで、今は充分だと思わないと。
まあ、それもワニ退治が先にあっての話だ。
真面目なミツキには、わざとワニ退治を先延ばしにするという選択肢はない。
だから、僕らは昼までに長期探索の準備を終えて、昼過ぎには迷宮に足を踏み入れた。
一時間ほど進んだ所で、ミツキがここら辺で昼飯にしようと言ってきた。
昼過ぎの出発だったのに、昼飯を食べずに迷宮に入ったんだ。
これもミツキの提案だったから、何か考えがあるんだろうな、とは思っていた。
「これがわしの能力じゃ」
どこからか取り出したフライパンを、これまたどこかから用意した小さなコンロに乗せると、さっと油を敷いて卵を割り入れ、刻んだネギと小さく切られた肉と米を入れて、フライパンを振って見事に混ぜていく。親指と中指を擦り合わせると、そこから白や茶色の細かい粉がサラサラとこぼれ落ちていった。
そして、パッと現れた皿にそれを盛り付けると、スプーンと一緒に「はい」と渡してきた。
「これは……?」
「だからこれがわしの能力なのじゃ。《料理人》という」
《料理人》とは、料理に必要な道具や食材を、僕がギルマスから貰った指輪のように、別空間に入れて持ち運べるのだそうだ。
更に料理自体の腕前も良くなっているらしい。
「冷めぬうちに食べてみてくれ」と言われ、食べてみるとギルドの食堂よりも数段美味かった。
「美味い……美味いよ。これはなんて言う料理なの?」
「チャーハンと言うものでの。ここに来る前に出会った、北から来た商隊にいた者から教えてもらったのじゃ」
「チャーハン……凄い美味しかったよ。ありがとう。それに《料理人》って凄いスキルだね」
「いや、これがなかなか大変なんじゃよ。ソルトのしている指輪や《水魔法》と同じでの。便利な道具扱いされる事が多くての……」
確かに。物を大量に持ち運べるのって、かなり便利な力だよね。それが食料や水だったら尚更だ。軍の遠征や迷宮の探索には欠かせない存在になるだろう……。
「それとな、わしにはもう一つ能力がある」
「え」
「ソルトはこの間二〇レベルと言っとったが、本当は二四レベルじゃろ」
「……《人物鑑定》だね」
「うむ。やはり気付いておったか」
初めて会った時、僕が名乗ってないのに、ミツキは僕の名前を知っていた。その場面を《再生機》で観たらミツキが《人物鑑定》を使ってる事が分かったんだよね。
「うん……嘘ついててごめん」
「何故嘘をついていたのじゃ?」
「……僕はついこの前まで一八レベルだったんだ。レイドモンスターに勝ったとは言っても、一気に二四レベルになるのはおかしいでしょ?」
「だから二〇レベルと言っておったと? しかし何故に一気にそんなにレベルが上がったのじゃ?」
ミツキは《料理人》と《人物鑑定》を持っていることを教えてくれた。この二つは面倒事を呼び寄せる可能性のあるレアなスキルだろう。それを教えてくれたというのは、本当の意味で僕のことを信じてくれた、ってことなんだろう。
だとしたら、僕の特殊なスキルについても話しておくべきだろう。
それに、ミツキには僕のことをちゃんと知っておいて欲しい。
「ミツキ、スキルのこと、教えてくれてありがとう」
「う、うむ。その、お主にはわしの全部を知っておいて欲しいと思ってな。その、昨夜の事も含めて、ぜ、全部、な」
ミツキが顔を真っ赤にしながら、そんなことを言う。そういう言い方をされると、こっちまで恥ずかしくなるからやめて欲しい。いや、こういうミツキもいいんだけどさ。
「う、うん。て、そうじゃなくてね。その、僕は今聞いたミツキのスキルのことは誰にも言わない。だから、今から僕が話すことは誰にも言わないで欲しいんだ」
「もちろんじゃ。信じておるから話したのじゃ。わしのことも信じてほしい」
「うん……それじゃ、今からやる事をちょっと見ててくれるかな」
僕は近くに誰もいない事を《索敵》で確認してから、《火弾》、《石礫》を使ってみせ、それから剣を振って《斬撃波》を出してみせた。
「《水魔法》だけでなく、《火魔法》と《土魔法》まで使えるじゃと……? それに、最後のは《風魔法》ではなく《斬撃波》ではないのか」
「凄いね、全部当たってるよ」
「攻撃隊の仲間がそれらの能力を授かっておっての。戦いに向かぬ能力を授かったのはわしだけだったのじゃ。ソルトは凄いの」
「いや、今見せたスキルは僕が本当の意味で手に入れた力じゃないんだよ」
僕は少しだけ《再生機》のことを説明してみて、でもやって見せないと分からないよな、と思って、実際にやって見せることにした。
そして、僕から見て世界の時間が二分ちょっと前に巻き戻る。
ミツキに出してもらったフライパンや皿を、僕が別空間に閉まって、そして出して見せた。
「なんと……」
絶句するミツキを見て、これで嫌われてしまったら元も子もないなと、ちょっと不安になった。
つまり、一度は迷宮を離れてしまうという事だ。
でも、生まれた国の戦争よりも、僕といる方を取りたいと言ってくれてるのに、僕がこれ以上のわがままを言うことはできない。
戻ってこれるかどうかは分からないけど、その気持ちを確認できただけで、今は充分だと思わないと。
まあ、それもワニ退治が先にあっての話だ。
真面目なミツキには、わざとワニ退治を先延ばしにするという選択肢はない。
だから、僕らは昼までに長期探索の準備を終えて、昼過ぎには迷宮に足を踏み入れた。
一時間ほど進んだ所で、ミツキがここら辺で昼飯にしようと言ってきた。
昼過ぎの出発だったのに、昼飯を食べずに迷宮に入ったんだ。
これもミツキの提案だったから、何か考えがあるんだろうな、とは思っていた。
「これがわしの能力じゃ」
どこからか取り出したフライパンを、これまたどこかから用意した小さなコンロに乗せると、さっと油を敷いて卵を割り入れ、刻んだネギと小さく切られた肉と米を入れて、フライパンを振って見事に混ぜていく。親指と中指を擦り合わせると、そこから白や茶色の細かい粉がサラサラとこぼれ落ちていった。
そして、パッと現れた皿にそれを盛り付けると、スプーンと一緒に「はい」と渡してきた。
「これは……?」
「だからこれがわしの能力なのじゃ。《料理人》という」
《料理人》とは、料理に必要な道具や食材を、僕がギルマスから貰った指輪のように、別空間に入れて持ち運べるのだそうだ。
更に料理自体の腕前も良くなっているらしい。
「冷めぬうちに食べてみてくれ」と言われ、食べてみるとギルドの食堂よりも数段美味かった。
「美味い……美味いよ。これはなんて言う料理なの?」
「チャーハンと言うものでの。ここに来る前に出会った、北から来た商隊にいた者から教えてもらったのじゃ」
「チャーハン……凄い美味しかったよ。ありがとう。それに《料理人》って凄いスキルだね」
「いや、これがなかなか大変なんじゃよ。ソルトのしている指輪や《水魔法》と同じでの。便利な道具扱いされる事が多くての……」
確かに。物を大量に持ち運べるのって、かなり便利な力だよね。それが食料や水だったら尚更だ。軍の遠征や迷宮の探索には欠かせない存在になるだろう……。
「それとな、わしにはもう一つ能力がある」
「え」
「ソルトはこの間二〇レベルと言っとったが、本当は二四レベルじゃろ」
「……《人物鑑定》だね」
「うむ。やはり気付いておったか」
初めて会った時、僕が名乗ってないのに、ミツキは僕の名前を知っていた。その場面を《再生機》で観たらミツキが《人物鑑定》を使ってる事が分かったんだよね。
「うん……嘘ついててごめん」
「何故嘘をついていたのじゃ?」
「……僕はついこの前まで一八レベルだったんだ。レイドモンスターに勝ったとは言っても、一気に二四レベルになるのはおかしいでしょ?」
「だから二〇レベルと言っておったと? しかし何故に一気にそんなにレベルが上がったのじゃ?」
ミツキは《料理人》と《人物鑑定》を持っていることを教えてくれた。この二つは面倒事を呼び寄せる可能性のあるレアなスキルだろう。それを教えてくれたというのは、本当の意味で僕のことを信じてくれた、ってことなんだろう。
だとしたら、僕の特殊なスキルについても話しておくべきだろう。
それに、ミツキには僕のことをちゃんと知っておいて欲しい。
「ミツキ、スキルのこと、教えてくれてありがとう」
「う、うむ。その、お主にはわしの全部を知っておいて欲しいと思ってな。その、昨夜の事も含めて、ぜ、全部、な」
ミツキが顔を真っ赤にしながら、そんなことを言う。そういう言い方をされると、こっちまで恥ずかしくなるからやめて欲しい。いや、こういうミツキもいいんだけどさ。
「う、うん。て、そうじゃなくてね。その、僕は今聞いたミツキのスキルのことは誰にも言わない。だから、今から僕が話すことは誰にも言わないで欲しいんだ」
「もちろんじゃ。信じておるから話したのじゃ。わしのことも信じてほしい」
「うん……それじゃ、今からやる事をちょっと見ててくれるかな」
僕は近くに誰もいない事を《索敵》で確認してから、《火弾》、《石礫》を使ってみせ、それから剣を振って《斬撃波》を出してみせた。
「《水魔法》だけでなく、《火魔法》と《土魔法》まで使えるじゃと……? それに、最後のは《風魔法》ではなく《斬撃波》ではないのか」
「凄いね、全部当たってるよ」
「攻撃隊の仲間がそれらの能力を授かっておっての。戦いに向かぬ能力を授かったのはわしだけだったのじゃ。ソルトは凄いの」
「いや、今見せたスキルは僕が本当の意味で手に入れた力じゃないんだよ」
僕は少しだけ《再生機》のことを説明してみて、でもやって見せないと分からないよな、と思って、実際にやって見せることにした。
そして、僕から見て世界の時間が二分ちょっと前に巻き戻る。
ミツキに出してもらったフライパンや皿を、僕が別空間に閉まって、そして出して見せた。
「なんと……」
絶句するミツキを見て、これで嫌われてしまったら元も子もないなと、ちょっと不安になった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
- - - - - - - - - - - - -
ただいま後日談の加筆を計画中です。
2025/06/22
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる