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意外
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西部地区を見て、相変わらず人が多いことを確認してから北西エリアに移動した。
水を販売しながら、サナムさん、ソロ探索者のリングウさん、メイナードさん、キューブさんと交流を深めた。
彼らから聞けるレイド戦の話は、ワニと戦った事のない僕とミツキにはもの凄くありがたかった。
これらの情報は彼らが命懸けで手に入れた情報でもあるから、普通なら教えてもらう事はできない。ただ、彼らはこの間の僕のやった事を非常に評価してくれてて、更にサナムさんが「今度はワニの首を落とすつもりで来てるらしい」と話しておいてくれたおかげで、彼らにとってもハイレアドロップという旨味がある話なので、僕らに協力的に接してくれていた。
ただ、やたらと「尻尾落とし」と呼ばれるのは変な感じだ。「ソルトって名前で呼んでくださいよ」とは言ってみたものの、それが改善されることはなさそうだったので、もう諦めることにした。気にしたら負け、と言うやつだ。
それから、他にもラングルのパーティーと、アネッサのパーティーとも話をしている。
ラングルは相変わらずいい人で、話しをすると気持ちが落ち着く。《十人隊長》の効果もあるのかも知れないけど、そもそもの人柄がいいんだと思う。気が付けば、彼らのパーティーとはお互いを名前だけで呼び合う仲になっていた。
アネッサは盾士二人と、弓術士四人という面白い構成のパーティーのリーダーだ。このパーティーはタンクの一人が男性で、あとの五人は女性というのもなかなか珍しいし、男がいるのに女のアネッサがリーダーと言うのもなかなか珍しいんじゃないだろうか。
とまあ、今、ワニやトラの湧き待ちをしてるのは、僕らを含めてこの十六人だ。
前回のトラが湧いてからまだ二週間くらいしか経ってないのに、前回と同じくらい待機してるのは少し不思議な気がしたけど、話をしてみて少し納得した。
ソロ探索者に関しては僕と同じような考え方だ。
一人で迷宮内をうろちょろするよりも、強いとは言え、特性を把握してるレイドモンスターと、複数人で戦う方が安全で、実入りも良い、という理由だ。
毒や麻痺、多勢に無勢などの状況を恐れるよりも、この北西エリアは安全だ。だったらパーティーを組めよという話に繋がるかもしれないけど、僕を含め、人には色々な事情があるものだ。
アネッサのパーティーも、戦術が壁で敵を押さえて弓や魔法で遠距離攻撃と、ちょっと特殊だから、レイド戦が向いてるんだと思う。
ラングルの所は謎。前回、ゴーレム狩りをしててトラとの戦いに参加できなかったから、今回は確実に参戦する為に待機してるのかも知れない。
ただ、彼らがいてくれるのはなんとなくありがたい。
今やラングル、ニーシム、スルフ、フォレストとは敬称無しで話せる仲になってるし。
まあ、ニーシムがやたらと僕をパーティーに誘うので、ミツキが怒るというか、その、たぶんヤキモチなんだろうけど、ちょっと拗ねて機嫌が悪くなるのが困るんだけどね。
「どうせ私はあんな風に華奢で可愛くないし」とか。
「ソルトも本当はああいう子がいいんでしょ」とか。
くっついてきて、小さな声でそんな事を言い出すんだよね。拗ねると一人称も変わっちゃうし、これはこれで嫌じゃないんだけど。
ただ、その度に、サナムさんやアネッサにニヤニヤされたり、冷やかされたりするのがちょっと……
まあ、傍から見たらバカップルなのか……生ぬるい目で見られても仕方ない?
いや、別に僕は冷めてる訳じゃないよ。たぶん、僕もヘラヘラしてるから、みんなにニヤニヤされてるんだろうし。
自分のことながら、ミツキとこんな風になるとは思いもしなかったし、意外に思ってる部分も多々ある。
意外と言えば、更に意外な事態が発生した。
ここに来てから三日目、前回の討伐からまだ三週間前後だというのに、地面に赤黒い巨大な魔法陣が描かれ始めたのだ。
宙空には青と黒の光の粒が舞い踊り、それが大きな怪獣の形になっていった。
「今回は「尻尾落とし」が首を落とすぞ!」
サナムさんがレイド戦を待っていた全員に改めて声を掛けた。
「口の手は落とさない、だったよな?」
「そうだ!」
「腹を叩いて頭を下げさせる!」
「そうだ!」
「やるぞ!」
「「「「おう!」」」」
ソロの三人がサナムさんと気合を入れた。
「あたしらは今回はソルトの援護に徹するよ。ボーク、サリッシュ、タンク役をしっかり果たしてきな!」
「おう!」
「はい!」
アネッサが仲間に指示をしていく。
「俺はうちのパーティーの他に、サナムさん、リングウさん、メイナード、アネッサ、ボーク、サリッシュ、ソルトを支援するぞ!」
「私達は虫の相手をするね」
「よっしゃ、やりまひょ!」
ラングルが声を上げると、力が湧き上がってくるのを感じる。これが《十人隊長》の効果なのか。自分で自分に掛けることができないから、これが初めての支援なんだけど、なかなかいい高揚感が来るもんだね。次からはミツキに使ってみようかな。
「凄いな……」
ミツキが少しボーッとした感じで呟いたのが聞こえた。
「ん? 大丈夫? でかいけどみんながいるから大丈夫だよ。まあ、僕もツインフレイムとは初めて戦うんだけどさ」
「違う。ソルト、お主への信頼感が凄いと言ったのじゃ。そして、わしはそれが誇らしい」
「あー……うん」
「わしもできる限りの援護をする。周りに湧くという虫は気にせず首を狙うのじゃぞ」
「うん、りょーかい」
僕達十六人による、対迷宮火吹きワニとの戦いが、今、始まった。
水を販売しながら、サナムさん、ソロ探索者のリングウさん、メイナードさん、キューブさんと交流を深めた。
彼らから聞けるレイド戦の話は、ワニと戦った事のない僕とミツキにはもの凄くありがたかった。
これらの情報は彼らが命懸けで手に入れた情報でもあるから、普通なら教えてもらう事はできない。ただ、彼らはこの間の僕のやった事を非常に評価してくれてて、更にサナムさんが「今度はワニの首を落とすつもりで来てるらしい」と話しておいてくれたおかげで、彼らにとってもハイレアドロップという旨味がある話なので、僕らに協力的に接してくれていた。
ただ、やたらと「尻尾落とし」と呼ばれるのは変な感じだ。「ソルトって名前で呼んでくださいよ」とは言ってみたものの、それが改善されることはなさそうだったので、もう諦めることにした。気にしたら負け、と言うやつだ。
それから、他にもラングルのパーティーと、アネッサのパーティーとも話をしている。
ラングルは相変わらずいい人で、話しをすると気持ちが落ち着く。《十人隊長》の効果もあるのかも知れないけど、そもそもの人柄がいいんだと思う。気が付けば、彼らのパーティーとはお互いを名前だけで呼び合う仲になっていた。
アネッサは盾士二人と、弓術士四人という面白い構成のパーティーのリーダーだ。このパーティーはタンクの一人が男性で、あとの五人は女性というのもなかなか珍しいし、男がいるのに女のアネッサがリーダーと言うのもなかなか珍しいんじゃないだろうか。
とまあ、今、ワニやトラの湧き待ちをしてるのは、僕らを含めてこの十六人だ。
前回のトラが湧いてからまだ二週間くらいしか経ってないのに、前回と同じくらい待機してるのは少し不思議な気がしたけど、話をしてみて少し納得した。
ソロ探索者に関しては僕と同じような考え方だ。
一人で迷宮内をうろちょろするよりも、強いとは言え、特性を把握してるレイドモンスターと、複数人で戦う方が安全で、実入りも良い、という理由だ。
毒や麻痺、多勢に無勢などの状況を恐れるよりも、この北西エリアは安全だ。だったらパーティーを組めよという話に繋がるかもしれないけど、僕を含め、人には色々な事情があるものだ。
アネッサのパーティーも、戦術が壁で敵を押さえて弓や魔法で遠距離攻撃と、ちょっと特殊だから、レイド戦が向いてるんだと思う。
ラングルの所は謎。前回、ゴーレム狩りをしててトラとの戦いに参加できなかったから、今回は確実に参戦する為に待機してるのかも知れない。
ただ、彼らがいてくれるのはなんとなくありがたい。
今やラングル、ニーシム、スルフ、フォレストとは敬称無しで話せる仲になってるし。
まあ、ニーシムがやたらと僕をパーティーに誘うので、ミツキが怒るというか、その、たぶんヤキモチなんだろうけど、ちょっと拗ねて機嫌が悪くなるのが困るんだけどね。
「どうせ私はあんな風に華奢で可愛くないし」とか。
「ソルトも本当はああいう子がいいんでしょ」とか。
くっついてきて、小さな声でそんな事を言い出すんだよね。拗ねると一人称も変わっちゃうし、これはこれで嫌じゃないんだけど。
ただ、その度に、サナムさんやアネッサにニヤニヤされたり、冷やかされたりするのがちょっと……
まあ、傍から見たらバカップルなのか……生ぬるい目で見られても仕方ない?
いや、別に僕は冷めてる訳じゃないよ。たぶん、僕もヘラヘラしてるから、みんなにニヤニヤされてるんだろうし。
自分のことながら、ミツキとこんな風になるとは思いもしなかったし、意外に思ってる部分も多々ある。
意外と言えば、更に意外な事態が発生した。
ここに来てから三日目、前回の討伐からまだ三週間前後だというのに、地面に赤黒い巨大な魔法陣が描かれ始めたのだ。
宙空には青と黒の光の粒が舞い踊り、それが大きな怪獣の形になっていった。
「今回は「尻尾落とし」が首を落とすぞ!」
サナムさんがレイド戦を待っていた全員に改めて声を掛けた。
「口の手は落とさない、だったよな?」
「そうだ!」
「腹を叩いて頭を下げさせる!」
「そうだ!」
「やるぞ!」
「「「「おう!」」」」
ソロの三人がサナムさんと気合を入れた。
「あたしらは今回はソルトの援護に徹するよ。ボーク、サリッシュ、タンク役をしっかり果たしてきな!」
「おう!」
「はい!」
アネッサが仲間に指示をしていく。
「俺はうちのパーティーの他に、サナムさん、リングウさん、メイナード、アネッサ、ボーク、サリッシュ、ソルトを支援するぞ!」
「私達は虫の相手をするね」
「よっしゃ、やりまひょ!」
ラングルが声を上げると、力が湧き上がってくるのを感じる。これが《十人隊長》の効果なのか。自分で自分に掛けることができないから、これが初めての支援なんだけど、なかなかいい高揚感が来るもんだね。次からはミツキに使ってみようかな。
「凄いな……」
ミツキが少しボーッとした感じで呟いたのが聞こえた。
「ん? 大丈夫? でかいけどみんながいるから大丈夫だよ。まあ、僕もツインフレイムとは初めて戦うんだけどさ」
「違う。ソルト、お主への信頼感が凄いと言ったのじゃ。そして、わしはそれが誇らしい」
「あー……うん」
「わしもできる限りの援護をする。周りに湧くという虫は気にせず首を狙うのじゃぞ」
「うん、りょーかい」
僕達十六人による、対迷宮火吹きワニとの戦いが、今、始まった。
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