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二階層
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「よし、じゃあ行くぞ」
ラングルがそう言うと全員が頷いた。
ラングルを戦闘に、スルフ、ニーシム、ミント、フォレスト、僕の順に坂道を降りていく。
一階層の西の端にあるこの階段は、人がすれ違えない程に狭い螺旋状の坂道だ。でも、適当な間隔で滑り止めの為の杭やペグが打ち込まれているからか、探索者は階段と呼んでいる。
「ここからは一階層よりも強い魔物が出てくる。一応おさらいだ。ミント」
「はい。小鬼系はほとんどが魔法を使ってくるようになるので速攻で倒す必要があります。それから小鬼の上位種の中鬼は攻撃力が小鬼の二倍以上あるので、後衛は一撃ももらわないように立ち位置に気をつける事」
「ソルト」
「昆虫系は見た目と大きさは変わらないけど、速さと攻撃力が上がっているから別物として認識する事。倒したと思っても消えさるまでは緊張を解かない事」
「素直で良いことやね」
「よくできました~……あ~、また避けられた」
「私達も、ちゃんとする」
「フォレストの言う通りだ。ニーシムの回復魔法が生命線になる事も多いんだからあんまり気を抜き過ぎるないでくれよ」
「は~い。怪我したら《回復》するから言ってね」
「はい」
「お願いします」
「よしっ、じゃあ気を引き締めていくぞっ!」
「「「「「おう!」」」」」
僕とミントにとってはかなり久しぶりの二階層だ。能無しだった頃の僕には出てくる魔物が強過ぎて、すぐに一階層に戻る事になったのを思い出す。
あの時よりもレベルは倍くらい強くなってるし、装備も比較にならないくらい強化されているから、今はやれると思いたい。
ミントはまだ一九レベルだからかなりキツいだろう。
だって、ラングル達は三〇レベル前後あるのに、一階層の石人形で稼ごうとしてたくらいなんだから。
まあそれは、安全を優先したのかも知れないし、二階層で普通に魔物と戦っても稼ぎ的に旨味がないのも原因かも知れないんだけどね。
僕らはラングルとスルフを先頭にして、二列目にニーシム、ミント、フォレスト、三列目に僕、と言う隊列で進んでいった。
僕が最後尾を歩く理由は、後ろから魔物の襲撃を受ける事があるからだ。もちろん、フォレストとミントが《索敵》をしてくれてるし、フォレストには《危険感知》もあるから、奇襲を受ける確率は低いんだけど、後ろから高速で魔物が突撃してくる可能性がゼロとは言えないからね。
ちなみに、最後尾のポジションはスルフと定期的に交代することになってる。
「相変わらず魔物が少ないな」
「それでも出てきたらみんな強いからね」
「一階層と同じ頻度で出てきたら大変かも」
「でも、ソルトとミントが入ってくれたおかげで、水を背負わなくていいのは助かってるわ。おかげで動きが楽で楽で」
「確かにね~。おかげで多くの素材を持って帰れそうだし~」
「私、一人じゃない、から。《索敵》が楽」
「せやね。フォレストの負担も減ってありがたいことやね」
魔物があまり湧かない空洞で、スープを飲んで体を温めながらそんな風に話す。
今日はここで順番に寝る予定だ。ただ、ニーシム、フォレスト、ミントの三人は六時間くらいしっかり寝てもらう。魔法やスキルを常時使ってもらってるから意外に疲労度が高いんだ。
ラングル、僕、スルフの順に二時間ずつ見張りをする。睡眠が細切れになる真ん中の時間帯は、あえて手を上げて僕がやらせてもらう事にした。こういうのは新人がやるべきだと思うから。
ラングルに起こされて、僕は目を覚まして見張りを開始すると共に、火の番もする。まずは、燃え尽きるまでに約二時間かかる硬くて細い木に火を移す。これが燃え尽きたらスルフと交代だ。
ラングルのいびきが聞こえ始めた頃、空洞の真ん中あたりに魔物が現れる前兆が起こった。僕は申し訳ないと思いつつも、ラングルとスルフの体を揺すって起こした。
「寝てるとこ悪いんだけど魔物だよ」
「ん、ああ」
「んあ、お~、ソルトはん、ソルトが見張りってことは二時間は静かに寝れたってことやな」
二人はすぐに目を覚ましてくれて、ほぼ姿を現わした魔物を見る。
中鬼だ。
「ホブゴブ二匹だね」
「俺とソルトが一匹ずつで、スルフは魔法でバックアタック。それでいいか?」
「ええよ」
「りょーかい」
中鬼とは探索中に何度か戦っていて、僕らは一人一匹ずつなら問題なく戦える事が分かっている。だから後衛陣は寝かせたままにしておくと言う判断のようだ。
じゃあ行きますか、そう思ったら不意に力が湧いてきた。ラングルの《十人隊長》の支援効果は相変わらず凄い。支援を受けている時、僕らはレベルが二つか三つくらい上がってるんじゃないだろうか。無敵、とまではいかないけど、力が漲る感覚があって、魔物に対する恐怖感が薄れていく。心は熱く、でも頭は冷静に戦えるのは凄いメリットだと思う。
僕は左の中鬼に突っ込んでいって、攻撃の少し前に「換装」と口にする。一瞬で濃紺に鈍く光るボディースーツに装備を身に纏い、手にした質のいい長剣で中鬼を一刀両断する。
剣を振り切った瞬間に、またもや「換装」と口にして元の装備に戻る。
つまり、鰐人間か竜人のようなスタイルに変身していた時間はたったの一秒弱だ。
その後、すぐに中鬼の左側にジャンプして回り込む。そして中鬼の動きを注視する。油断はしない。
今、僕が手に持つのは普通の鉄の剣だ。換装は、防具だけじゃなくて武器も一緒に変更できるので便利だ。
ラングルが戦ってる中鬼にはスルフが撃った《火弾》が当たり、中鬼が怯んだ所にラングルの剣が喉に刺さり、ほぼ勝負がついた。
僕の足元に倒れた中鬼が消えていく中、ラングルは更に三撃を追加してとどめを刺す。
「っふう。二人共お疲れさん」
「お疲れさん」
「お疲れ様です。寝てるとこすみませんでした」
「ええって。ふわ~ああ。ほな、も少し寝させてもらうわ」
「俺も。ソルト、悪いけどドロップ品の回収は頼むな」
「はい」
こんな感じで、夜の野営……穴営(?)の時間は過ぎていった。
ラングルがそう言うと全員が頷いた。
ラングルを戦闘に、スルフ、ニーシム、ミント、フォレスト、僕の順に坂道を降りていく。
一階層の西の端にあるこの階段は、人がすれ違えない程に狭い螺旋状の坂道だ。でも、適当な間隔で滑り止めの為の杭やペグが打ち込まれているからか、探索者は階段と呼んでいる。
「ここからは一階層よりも強い魔物が出てくる。一応おさらいだ。ミント」
「はい。小鬼系はほとんどが魔法を使ってくるようになるので速攻で倒す必要があります。それから小鬼の上位種の中鬼は攻撃力が小鬼の二倍以上あるので、後衛は一撃ももらわないように立ち位置に気をつける事」
「ソルト」
「昆虫系は見た目と大きさは変わらないけど、速さと攻撃力が上がっているから別物として認識する事。倒したと思っても消えさるまでは緊張を解かない事」
「素直で良いことやね」
「よくできました~……あ~、また避けられた」
「私達も、ちゃんとする」
「フォレストの言う通りだ。ニーシムの回復魔法が生命線になる事も多いんだからあんまり気を抜き過ぎるないでくれよ」
「は~い。怪我したら《回復》するから言ってね」
「はい」
「お願いします」
「よしっ、じゃあ気を引き締めていくぞっ!」
「「「「「おう!」」」」」
僕とミントにとってはかなり久しぶりの二階層だ。能無しだった頃の僕には出てくる魔物が強過ぎて、すぐに一階層に戻る事になったのを思い出す。
あの時よりもレベルは倍くらい強くなってるし、装備も比較にならないくらい強化されているから、今はやれると思いたい。
ミントはまだ一九レベルだからかなりキツいだろう。
だって、ラングル達は三〇レベル前後あるのに、一階層の石人形で稼ごうとしてたくらいなんだから。
まあそれは、安全を優先したのかも知れないし、二階層で普通に魔物と戦っても稼ぎ的に旨味がないのも原因かも知れないんだけどね。
僕らはラングルとスルフを先頭にして、二列目にニーシム、ミント、フォレスト、三列目に僕、と言う隊列で進んでいった。
僕が最後尾を歩く理由は、後ろから魔物の襲撃を受ける事があるからだ。もちろん、フォレストとミントが《索敵》をしてくれてるし、フォレストには《危険感知》もあるから、奇襲を受ける確率は低いんだけど、後ろから高速で魔物が突撃してくる可能性がゼロとは言えないからね。
ちなみに、最後尾のポジションはスルフと定期的に交代することになってる。
「相変わらず魔物が少ないな」
「それでも出てきたらみんな強いからね」
「一階層と同じ頻度で出てきたら大変かも」
「でも、ソルトとミントが入ってくれたおかげで、水を背負わなくていいのは助かってるわ。おかげで動きが楽で楽で」
「確かにね~。おかげで多くの素材を持って帰れそうだし~」
「私、一人じゃない、から。《索敵》が楽」
「せやね。フォレストの負担も減ってありがたいことやね」
魔物があまり湧かない空洞で、スープを飲んで体を温めながらそんな風に話す。
今日はここで順番に寝る予定だ。ただ、ニーシム、フォレスト、ミントの三人は六時間くらいしっかり寝てもらう。魔法やスキルを常時使ってもらってるから意外に疲労度が高いんだ。
ラングル、僕、スルフの順に二時間ずつ見張りをする。睡眠が細切れになる真ん中の時間帯は、あえて手を上げて僕がやらせてもらう事にした。こういうのは新人がやるべきだと思うから。
ラングルに起こされて、僕は目を覚まして見張りを開始すると共に、火の番もする。まずは、燃え尽きるまでに約二時間かかる硬くて細い木に火を移す。これが燃え尽きたらスルフと交代だ。
ラングルのいびきが聞こえ始めた頃、空洞の真ん中あたりに魔物が現れる前兆が起こった。僕は申し訳ないと思いつつも、ラングルとスルフの体を揺すって起こした。
「寝てるとこ悪いんだけど魔物だよ」
「ん、ああ」
「んあ、お~、ソルトはん、ソルトが見張りってことは二時間は静かに寝れたってことやな」
二人はすぐに目を覚ましてくれて、ほぼ姿を現わした魔物を見る。
中鬼だ。
「ホブゴブ二匹だね」
「俺とソルトが一匹ずつで、スルフは魔法でバックアタック。それでいいか?」
「ええよ」
「りょーかい」
中鬼とは探索中に何度か戦っていて、僕らは一人一匹ずつなら問題なく戦える事が分かっている。だから後衛陣は寝かせたままにしておくと言う判断のようだ。
じゃあ行きますか、そう思ったら不意に力が湧いてきた。ラングルの《十人隊長》の支援効果は相変わらず凄い。支援を受けている時、僕らはレベルが二つか三つくらい上がってるんじゃないだろうか。無敵、とまではいかないけど、力が漲る感覚があって、魔物に対する恐怖感が薄れていく。心は熱く、でも頭は冷静に戦えるのは凄いメリットだと思う。
僕は左の中鬼に突っ込んでいって、攻撃の少し前に「換装」と口にする。一瞬で濃紺に鈍く光るボディースーツに装備を身に纏い、手にした質のいい長剣で中鬼を一刀両断する。
剣を振り切った瞬間に、またもや「換装」と口にして元の装備に戻る。
つまり、鰐人間か竜人のようなスタイルに変身していた時間はたったの一秒弱だ。
その後、すぐに中鬼の左側にジャンプして回り込む。そして中鬼の動きを注視する。油断はしない。
今、僕が手に持つのは普通の鉄の剣だ。換装は、防具だけじゃなくて武器も一緒に変更できるので便利だ。
ラングルが戦ってる中鬼にはスルフが撃った《火弾》が当たり、中鬼が怯んだ所にラングルの剣が喉に刺さり、ほぼ勝負がついた。
僕の足元に倒れた中鬼が消えていく中、ラングルは更に三撃を追加してとどめを刺す。
「っふう。二人共お疲れさん」
「お疲れさん」
「お疲れ様です。寝てるとこすみませんでした」
「ええって。ふわ~ああ。ほな、も少し寝させてもらうわ」
「俺も。ソルト、悪いけどドロップ品の回収は頼むな」
「はい」
こんな感じで、夜の野営……穴営(?)の時間は過ぎていった。
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