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スルフ
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何度も《再生》していて、僕はスルフの苛立ちの原因を知ってしまった。
簡潔に一言で言うのなら、それは嫉妬だ。
僕に対して、の。
彼は今、いくつもの不満要素を原因にして、僕に対して負の感情を持っているようだった。
ラングルの僕に対する信頼感について。
ニーシムの僕に対する好意について。
ミントの僕に対する好意について。
僕が強いことについて。
僕の装備が良い物であることについて。
戦闘で自分が苦戦する相手を、僕がさっと倒すのが気に入らない。
戦闘が終わって、自分は怪我をしたのに、僕がダメージを受けずにいることで苛々してしまう。
こういった負の感情を向けられている事については、今回の遠征二日間の中で度々感じてはいた。
けど、実際に彼の視点で観ることで、彼の意識ともリンクして、自分に向ける様々な感情を知る事で、これからどうしたらいいのか、僕は悩むことになった。
タンカーが必要なことくらい言われんでも分かってるっちゅーんや。
あとから来て好き勝手言いよって。
あーーーーー、くっそ痛ったいなぁ!
これは、さっきスルフが迷宮角付きトドからダメージを受けた時の思いだ。
その怒りは、ダメージを与えてきたトドにではなく、僕に向けてのものだった。
拳闘士とは武闘家や格闘家の上位の職業スキルで、つまり、手足などの己の体を武器にした戦闘を行うスキルだ。
そういった関係上、動きを阻害する重たい防具が使えず、また、攻撃力の高い武器などは出回っていない。
スルフは細身で、そもそも敵の攻撃を受ける前提で戦うのには無理がありそうな人だ。
一番最初にパーティーに同行させてもらった時は、火魔法しか使ってなかったから、僕はスルフは魔法使いなんだろうな、と思ってたくらいだし。
だから、彼が前に出て戦うと言うなら、その敏捷性と《拳闘士》のスキルで「避け系のタンク」を目指すのがいいんじゃないかと思うんだよね。
魔法を使って敵の視線や敵意を集めて、敵の攻撃を受け流したり、躱したりする。攻撃は余裕がある時だけにして、防御に徹したら……
でも、スルフに気に入られていない僕がそんなことを言っても、彼の苛立ちを逆撫でするだけだろう。結局の所、新参者の僕がパーティーの構成に口を出すのは難しいと言うことだ。
でも、こんな状態で一緒にやっていけるのかな。
スルフの様子を見ていると、僕を気に入らないと思うのは嫉妬心から来てる、って言う事が自分で分かってるっぽいんだよね。だから、落ち着けば普通に接してくれるし、自分自身を情けなく思ってか自分に対して苛立ったりしてるんだと思う。
だけど、それでも尚、八つ当たりと分かっていても、僕を腹立たしく思う気持ちが湧いてきてしまうんだとしたら、いつかそれは大きな事故に繋がるんじゃないかな。僕はそれが怖い。
「三階層の見学もできないみたいだし、ここで待っててもレイドモンスターは湧かない。でも、強い敵との戦闘訓練には戦闘頻度のバランスがいい感じだな。ミントはレベル上がったんだろ?」
「はい。みなさんのおかげで一九レベルになりました」
「水棲系の魔物が多いからやりにくい部分はあるけど、パーティーの底上げに繋がるから、ここを拠点にしてもう少しここでレベル上げをしてもいいかなと思うんだが、みんなはどうだ?」
「俺は構わんよ。ミントちゃんが強なるなら協力するわ」
「私も~。ソルトのレベルも上がるように協力する~、けど、ソルトってダメージ受けないから手助けしてる感があんまりないよねぇ」
「いいよ。私、も」
「じゃあ、その方向で決まりだな」
みんなの賛成を得て、ラングルが決定の言葉を告げた。やっぱり、ミントや僕には意見を言う権利はまだ無いようだ。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
ミントがお礼を言ったので、僕も言っておいた。
「ところでソルトはレベル上がったのか?」
「いや、僕はまだみたいだね」
一応、過去の僕との辻褄合わせで、僕は二二レベルって事にしている。
いつかミツキのように《人物鑑定》を持ってる人に出会ったら、その時は不味いことになるのかも知れないけど、今の時点で、三四レベルです、と告白するのも不味い。問題を先送りするようで嫌なんだけど、今は仮のレベルを教えたままにしておこうと思う。
そんな風に話をしていると、こちらに近づいて来る者がいた。
「ラングル、悪いんだがソルト君を借りてもいいか」
それは褐色の屈強なハゲ頭の人だった。
いや、知ってるなこの人……あ。
「サブマスじゃないですか。いきなりどうしたんですか」
そうだそうだ。ラングルが言うように、この人は探索者ギルドのサブマス、ゴードンさんだ。サブマスがこんな所に来るなんてどうしたんだろう。
そして、僕になんの用があるっていうんだろう。
簡潔に一言で言うのなら、それは嫉妬だ。
僕に対して、の。
彼は今、いくつもの不満要素を原因にして、僕に対して負の感情を持っているようだった。
ラングルの僕に対する信頼感について。
ニーシムの僕に対する好意について。
ミントの僕に対する好意について。
僕が強いことについて。
僕の装備が良い物であることについて。
戦闘で自分が苦戦する相手を、僕がさっと倒すのが気に入らない。
戦闘が終わって、自分は怪我をしたのに、僕がダメージを受けずにいることで苛々してしまう。
こういった負の感情を向けられている事については、今回の遠征二日間の中で度々感じてはいた。
けど、実際に彼の視点で観ることで、彼の意識ともリンクして、自分に向ける様々な感情を知る事で、これからどうしたらいいのか、僕は悩むことになった。
タンカーが必要なことくらい言われんでも分かってるっちゅーんや。
あとから来て好き勝手言いよって。
あーーーーー、くっそ痛ったいなぁ!
これは、さっきスルフが迷宮角付きトドからダメージを受けた時の思いだ。
その怒りは、ダメージを与えてきたトドにではなく、僕に向けてのものだった。
拳闘士とは武闘家や格闘家の上位の職業スキルで、つまり、手足などの己の体を武器にした戦闘を行うスキルだ。
そういった関係上、動きを阻害する重たい防具が使えず、また、攻撃力の高い武器などは出回っていない。
スルフは細身で、そもそも敵の攻撃を受ける前提で戦うのには無理がありそうな人だ。
一番最初にパーティーに同行させてもらった時は、火魔法しか使ってなかったから、僕はスルフは魔法使いなんだろうな、と思ってたくらいだし。
だから、彼が前に出て戦うと言うなら、その敏捷性と《拳闘士》のスキルで「避け系のタンク」を目指すのがいいんじゃないかと思うんだよね。
魔法を使って敵の視線や敵意を集めて、敵の攻撃を受け流したり、躱したりする。攻撃は余裕がある時だけにして、防御に徹したら……
でも、スルフに気に入られていない僕がそんなことを言っても、彼の苛立ちを逆撫でするだけだろう。結局の所、新参者の僕がパーティーの構成に口を出すのは難しいと言うことだ。
でも、こんな状態で一緒にやっていけるのかな。
スルフの様子を見ていると、僕を気に入らないと思うのは嫉妬心から来てる、って言う事が自分で分かってるっぽいんだよね。だから、落ち着けば普通に接してくれるし、自分自身を情けなく思ってか自分に対して苛立ったりしてるんだと思う。
だけど、それでも尚、八つ当たりと分かっていても、僕を腹立たしく思う気持ちが湧いてきてしまうんだとしたら、いつかそれは大きな事故に繋がるんじゃないかな。僕はそれが怖い。
「三階層の見学もできないみたいだし、ここで待っててもレイドモンスターは湧かない。でも、強い敵との戦闘訓練には戦闘頻度のバランスがいい感じだな。ミントはレベル上がったんだろ?」
「はい。みなさんのおかげで一九レベルになりました」
「水棲系の魔物が多いからやりにくい部分はあるけど、パーティーの底上げに繋がるから、ここを拠点にしてもう少しここでレベル上げをしてもいいかなと思うんだが、みんなはどうだ?」
「俺は構わんよ。ミントちゃんが強なるなら協力するわ」
「私も~。ソルトのレベルも上がるように協力する~、けど、ソルトってダメージ受けないから手助けしてる感があんまりないよねぇ」
「いいよ。私、も」
「じゃあ、その方向で決まりだな」
みんなの賛成を得て、ラングルが決定の言葉を告げた。やっぱり、ミントや僕には意見を言う権利はまだ無いようだ。
「ありがとうございます」
「ありがとう」
ミントがお礼を言ったので、僕も言っておいた。
「ところでソルトはレベル上がったのか?」
「いや、僕はまだみたいだね」
一応、過去の僕との辻褄合わせで、僕は二二レベルって事にしている。
いつかミツキのように《人物鑑定》を持ってる人に出会ったら、その時は不味いことになるのかも知れないけど、今の時点で、三四レベルです、と告白するのも不味い。問題を先送りするようで嫌なんだけど、今は仮のレベルを教えたままにしておこうと思う。
そんな風に話をしていると、こちらに近づいて来る者がいた。
「ラングル、悪いんだがソルト君を借りてもいいか」
それは褐色の屈強なハゲ頭の人だった。
いや、知ってるなこの人……あ。
「サブマスじゃないですか。いきなりどうしたんですか」
そうだそうだ。ラングルが言うように、この人は探索者ギルドのサブマス、ゴードンさんだ。サブマスがこんな所に来るなんてどうしたんだろう。
そして、僕になんの用があるっていうんだろう。
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