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魔道具
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部屋まで案内してもらった僕は、すぐさま部屋の奥にある風呂に入った。
全部の部屋にあるわけじゃないらしいけど、風呂付きのが空いていると聞いてそこをお願いしたんだ。
そんなに大きな浴槽ではないけど、常にお湯が湧き出ているのに、床はお湯でいっぱいにならない。後で食事の時に話を聞いたら、これは温泉じゃなくて魔道具がだしてるお湯なんだそうだ。お風呂場には他にもシャワーと言う水やお湯を小さな粒で降らせる魔道具があって、脱衣場には髪の毛を乾かす事ができる風を吹き出すドライアと言う魔道具もあった。
「部屋にある魔道具を作ってる人に会うことってできないですか?」
「なかなか多忙な方と聞いていますので……」
「そうですか。残念です」
まあ、そう簡単には行かないよね。
僕としては魔道具を作りたい訳じゃなくて、魔道具や魔具を鑑定したいだけだから、そんなに残念でもないんだけど。
「ですが、当ホテルには宿泊されたお客様向けの武具のお手入れや、武具や魔道具の売り場もございますのでもしよろしければそちらもご覧いただければと思います」
「え、そうなんですか」
「はい」
「凄い……でも今日はもう遅いですしやってないですよね」
「いえ、お客様のお時間さえよろしければ食後にいかがでしょうか」
「いいんですか? それじゃあ……あ、あと買い取りや鑑定ができる人とかはいますか?」
「そうですね……少々お待ち下さい」
そう言って彼は一旦下がっていった。彼は入り口で僕の受付をやってくれた人だ。よく分からないけど僕のテーブルの食事の給仕もやってくれている。
「お待たせしました。鑑定ができるものを手配しています。申し訳ないのですが一時間後でも大丈夫でしょうか」
「ありがとうございます。じゃあ一時間後にお願いします」
「はい。かしこまりました」
ステーキ美味かったなぁ。付け合せの野菜も新鮮で美味しかった。部屋に戻った僕は食後の幸福感に包まれていた。
サウススフィアでも美味いものは食べられるけど、この宿の食事は二段くらい上の味だった気がする。
一泊二食で二十万円なんて贅沢過ぎだけど、僕には既にかなりの蓄えがある。探索用品以外でお金を使うのなんて食べることと宿代くらいだ。だからこういうお金の使い方もたまにはいいかな、とか思う。
とか、自分に言い訳をしつつ、自由に飲んでいいと言われた冷たいレモンジュースをコップに注ぐ。このジュースもとても美味しい。コップに注ぐとシュワシュワと音を立て、口に入れるとプチプチと弾ける。サウススフィアでは飲んだことのない飲み物だ。これ、大量に買えないかなぁ。あとであの人に相談してみよう。
それとこの冷たい箱も凄い。中に入れてある飲み物が冷たくて美味しいのは、この箱のおかげみたいなんだよね。
それに、まだ他にも何種類もジュースやお酒が入ってて……これは今後、探索から帰ってくる度にこの宿を利用したくなるなぁ。
そうか。こういう事なんだね。
ある程度できるようになった探索者達が、朝から迷宮に入って、夜には帰ってきて、ダルダロイの街に繰り出すのはそういう事だったんだ。
ここには高級な宿や食事、きれいな装飾品や 演劇場、更には賭博場や遊女街もある。サウススフィアには無いものがあるから、金が手に入ると来たくなるんだろう。
目的が逆にならないように気をつけないとなぁ。
僕は迷宮の深層を探索して何かを見つけたいんだ。それが一番の目的なんだ。
ここに来る為に探索をするわけじゃない。
オーケー?
うん、オーケーだ。
なんて一人芝居をしていたらドアがノックされた。
誰だろうか。
「はい」
「お客様、大変お待たせしました。鑑定ができる者の準備が整いました」
「ありがとうございます」
まだ一時間も経ってないけど、準備が出来たんなら行かないとね。そう思ってドアを開けると、そこには六人もの人がいて、頭を下げながら部屋の中に入ってきた。
えっ、と思ってると、テキパキと室内のテーブルに赤い布を敷いて、そこに剣や盾、鏡、指輪などを並べていった。
「どうぞお座りください」
「あ、どうも」
僕は勧められるままにソファーに座ることになった。なんだか圧倒されてしまう。
僕の左手には人物鑑定の人が立ってて、目の前には白髪だけど精悍な感じの紳士が座っている。他の人は準備が終わると一礼をしてから部屋から出ていってしまった。
「はじめまして。道具屋のセイムスと申します」
「あ、はい。ソルトと言います。よろしくお願いします」
「先に鑑定をさせていただいた方がよいでしょうか」
「そうですね。これを見てもらいたいんですが……」
僕の目的の半分はこれを鑑定できる力を手に入れることだから、まずは見てもらうことにした。
ポーション入れから「白竜の爪」を取り出してテーブルに置いた。宿の中にあるお店的な所に移動すると思ってたから、ちゃんと着替えておいてよかったよ。
「これは……白竜の爪、という物のようです。光属性の魔法を組み込む事で、その効果を微量ながらも常に発揮し続けさせられるようです。これは凄い。これはどちらで手に入れられたのですか」
よし、名前は合ってる。
「そんな効果が……あ、これの入手元は迷宮なんです」
嘘はついてないよ。僕の左に立ってる人には、たぶんヒュドラから手に入れたんだとバレてそうだけどね。それを言うと自慢するような感じになりそうだからやめておく。
全部の部屋にあるわけじゃないらしいけど、風呂付きのが空いていると聞いてそこをお願いしたんだ。
そんなに大きな浴槽ではないけど、常にお湯が湧き出ているのに、床はお湯でいっぱいにならない。後で食事の時に話を聞いたら、これは温泉じゃなくて魔道具がだしてるお湯なんだそうだ。お風呂場には他にもシャワーと言う水やお湯を小さな粒で降らせる魔道具があって、脱衣場には髪の毛を乾かす事ができる風を吹き出すドライアと言う魔道具もあった。
「部屋にある魔道具を作ってる人に会うことってできないですか?」
「なかなか多忙な方と聞いていますので……」
「そうですか。残念です」
まあ、そう簡単には行かないよね。
僕としては魔道具を作りたい訳じゃなくて、魔道具や魔具を鑑定したいだけだから、そんなに残念でもないんだけど。
「ですが、当ホテルには宿泊されたお客様向けの武具のお手入れや、武具や魔道具の売り場もございますのでもしよろしければそちらもご覧いただければと思います」
「え、そうなんですか」
「はい」
「凄い……でも今日はもう遅いですしやってないですよね」
「いえ、お客様のお時間さえよろしければ食後にいかがでしょうか」
「いいんですか? それじゃあ……あ、あと買い取りや鑑定ができる人とかはいますか?」
「そうですね……少々お待ち下さい」
そう言って彼は一旦下がっていった。彼は入り口で僕の受付をやってくれた人だ。よく分からないけど僕のテーブルの食事の給仕もやってくれている。
「お待たせしました。鑑定ができるものを手配しています。申し訳ないのですが一時間後でも大丈夫でしょうか」
「ありがとうございます。じゃあ一時間後にお願いします」
「はい。かしこまりました」
ステーキ美味かったなぁ。付け合せの野菜も新鮮で美味しかった。部屋に戻った僕は食後の幸福感に包まれていた。
サウススフィアでも美味いものは食べられるけど、この宿の食事は二段くらい上の味だった気がする。
一泊二食で二十万円なんて贅沢過ぎだけど、僕には既にかなりの蓄えがある。探索用品以外でお金を使うのなんて食べることと宿代くらいだ。だからこういうお金の使い方もたまにはいいかな、とか思う。
とか、自分に言い訳をしつつ、自由に飲んでいいと言われた冷たいレモンジュースをコップに注ぐ。このジュースもとても美味しい。コップに注ぐとシュワシュワと音を立て、口に入れるとプチプチと弾ける。サウススフィアでは飲んだことのない飲み物だ。これ、大量に買えないかなぁ。あとであの人に相談してみよう。
それとこの冷たい箱も凄い。中に入れてある飲み物が冷たくて美味しいのは、この箱のおかげみたいなんだよね。
それに、まだ他にも何種類もジュースやお酒が入ってて……これは今後、探索から帰ってくる度にこの宿を利用したくなるなぁ。
そうか。こういう事なんだね。
ある程度できるようになった探索者達が、朝から迷宮に入って、夜には帰ってきて、ダルダロイの街に繰り出すのはそういう事だったんだ。
ここには高級な宿や食事、きれいな装飾品や 演劇場、更には賭博場や遊女街もある。サウススフィアには無いものがあるから、金が手に入ると来たくなるんだろう。
目的が逆にならないように気をつけないとなぁ。
僕は迷宮の深層を探索して何かを見つけたいんだ。それが一番の目的なんだ。
ここに来る為に探索をするわけじゃない。
オーケー?
うん、オーケーだ。
なんて一人芝居をしていたらドアがノックされた。
誰だろうか。
「はい」
「お客様、大変お待たせしました。鑑定ができる者の準備が整いました」
「ありがとうございます」
まだ一時間も経ってないけど、準備が出来たんなら行かないとね。そう思ってドアを開けると、そこには六人もの人がいて、頭を下げながら部屋の中に入ってきた。
えっ、と思ってると、テキパキと室内のテーブルに赤い布を敷いて、そこに剣や盾、鏡、指輪などを並べていった。
「どうぞお座りください」
「あ、どうも」
僕は勧められるままにソファーに座ることになった。なんだか圧倒されてしまう。
僕の左手には人物鑑定の人が立ってて、目の前には白髪だけど精悍な感じの紳士が座っている。他の人は準備が終わると一礼をしてから部屋から出ていってしまった。
「はじめまして。道具屋のセイムスと申します」
「あ、はい。ソルトと言います。よろしくお願いします」
「先に鑑定をさせていただいた方がよいでしょうか」
「そうですね。これを見てもらいたいんですが……」
僕の目的の半分はこれを鑑定できる力を手に入れることだから、まずは見てもらうことにした。
ポーション入れから「白竜の爪」を取り出してテーブルに置いた。宿の中にあるお店的な所に移動すると思ってたから、ちゃんと着替えておいてよかったよ。
「これは……白竜の爪、という物のようです。光属性の魔法を組み込む事で、その効果を微量ながらも常に発揮し続けさせられるようです。これは凄い。これはどちらで手に入れられたのですか」
よし、名前は合ってる。
「そんな効果が……あ、これの入手元は迷宮なんです」
嘘はついてないよ。僕の左に立ってる人には、たぶんヒュドラから手に入れたんだとバレてそうだけどね。それを言うと自慢するような感じになりそうだからやめておく。
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