プレーヤープレイヤー

もずく

文字の大きさ
72 / 118

実力

しおりを挟む
 迷宮ワニの攻撃は、噛みつきの他に尻尾にも気を付けなければならない。
 魚人マーマンは手に持った三叉槍トライデントでの攻撃の他に、《水弾》を口から吐いてきたりするので注意が必要だ。

 剣と三叉槍がぶつかり合い、ガキンと大きな金属音が鳴り響く。
 そして魚人を巻き込むのもお構いなしに振られた迷宮ワニの尻尾が僕の足に当たり、僕は体制を崩した。
 そこに《水弾》とワニの大きな口が襲いかかってくる。それを地面を転がってなんとか避けた。

 攻撃力の低い長剣と短剣では、この二種類の魔物にダメージを与える事がほとんどできないようだ。何撃かはいいのが入ったはずなんだけど、魚人もワニも少し傷を負った程度でピンピンしてる。
 元々使っていた武器で、スキルを使わないで戦うと、僕は二階層の魔物にはなかなか勝ちきれない。自分もかなりのダメージを受けているし、一歩間違えたら死ぬことになりそうだ。
「換装」
 わずか〇.〇五秒ほどで、装備が青黒い銀色の凸凹が薄暗く迷宮内を照らす光に揺らめく青銀のボディスーツに変わる。そして手には指輪から取り出した白竜の長剣と短剣を持つ。
 魔物達は僕の姿が変わった事に特に驚いた様子もなく攻撃を仕掛けてくる。いや、魚人とワニの表情を僕が読み取れてないだけかもしれないんだけどね。
 三叉槍を避けて短剣で牽制しつつ長剣を軽く突き出すと、さっきまでとはまったく違って簡単に突き刺さる。そのまま剣を上に振り上げると、魚人の左肩に刺さった剣はほとんど抵抗なく上に移動して、その肩を切り裂いた。
 その体勢から剣を右下に振り下ろすと、口を開けて飛びかかってきたワニの頭をスパンと真っ二つに斬ってしまった。上下に開いていた顎が割れて四枚の花びらのように開く。
 片腕を失って多少勢いを失った三叉槍の横薙ぎの攻撃を、体を低くして躱し、左右に持った剣をハサミを閉じるようにして振ると、魚人の両足が綺麗に斬れた。
 ワニの尻尾攻撃が僕の足を叩いたけど、ボディスーツがダメージを通さない。
「換装」
 剣以外は元の装備に戻してから、ワニの尻尾と魚人の《水弾》を躱しつつ、僕はこの二匹にとどめを指していった。

 結局、僕が魔物と余裕で戦えているのは、スキルと武具のおかげなんだと言うことがよく分かる。
《頑丈》《俊敏》《力持ち》《暗視》などの常時発動系スキルや、《剣士》《戦士》《重戦士》《探索士》《暗殺者》《拳闘士》のような職業スキルの効果で、僕の基本能力はかなり上がっている。
 それに加えて、僕自身のレベルも四五まで上ってるから本当なら楽に勝てて当たり前のはずなんだ。
 でも、武器を最初の頃の武器にして、動的に発動するスキルを使わなければ余裕とは言い切れない。いつかは勝てるんだろうけど時間がかかりすぎる。

 無茶と言うか、贅沢でわがままな事を言ってるのは分かってるんだけどね。
 でも、素の僕は《再生機》しか持ってないんだ。その《再生機》で手に入れたものスキルも僕の力かも知れないけど、なんか、ねぇ。
 誰だってレベルが上がればそれなりにお金を稼いでるだろうし、次の階層に行く時にはそのお金で買った新しい強い武器を持ってくとは思う。だから、僕が強い武器を使う事も、手に入れたスキルを使う事も当たり前なんだ。
 そう思うんだけど、《再生機》はずるをしてるような気持ちになるし、持ってる武器は分不相応に強すぎる気がしてしまうんだ。

 でも、これだけ強いスキルと武具を手に入れたからこそ、一人で二階層を探索することができるし、三階層にも挑戦ができるわけでさ。
 支離滅裂で自分でもよく分からないんだけど、なんて言うんだろ、自分自身も強くなりたい、って言うか。
 だって、ミツキは《料理人》と《人物鑑定》しか持ってなかったのに、刀をあそこまで使いこなしてたんだから、僕もそういう力を身に付けたいと思うわけだ。
 レベルはイコール強さだ。
 だからレベルアップすること自体は間違ってない。
 でも、それだけじゃなくて、両手剣をもっと自在に使いこなして、それなりの武器でももっと戦えるようになりたい。
 同じレベル帯の敵とやり合っても相手を圧倒できるくらいの力が欲しい。

 そうか。
 僕は力が欲しいのか。
 その理由は簡単だ。
 僕が弱いから。
 誰かと比べて、自分の方が弱いと思ってるから。
 強さの底が見えないギルマス。
 そして、カザミネという転生者とその仲間達。
 手に入れた《危険感知》が役に立たないスキルを使ってくる彼らが怖いんだ。
 その為に自信が欲しい。
 何があっても、誰が敵でも負けないと思えるような自信が欲しいんだ。

 少し強くなれたかと思ってたけど、そのことで逆に、自分より強い人達がいることがより明確に分かってしまった。
 でもそれは、相手の力量が分かるようになったってことだろう。

 少し強くなれたことで、より大きな力を持ってる可能性のある人達と、多少なりとも関わりを持ってしまった。
 そして彼らとは、まず間違いなく敵対することになるだろうなと言う予感がある。

 だから、僕はもっと強くならないといけない。
 誰の為でもなく、自分の為に。
 そしてその強さはきっと、守りたいものを守る力になるはずだ。
 だから強くなる。
 もっと。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...