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特攻
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「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!」
連続突きで魚人の体に五つの穴が空き、そこから紫色の血がピューッと飛び出す。
「《石礫》!」
四個のこぶし大の石が宙を飛び、別の魚人二体にぶつかる。一つは頭部に当たり、その魚人はグラッとよろけて地面に倒れた。
「いい感じだな」
「ちゃんととどめを刺さないと」
「なんだよ。こんな奴、もう一回起きてきたって余裕だろ」
「私がとどめを刺そうと思ったら魔法を使わないと駄目なの。魔力は温存しておきたいからあなたがちゃんとやってくれないと」
「相変わらず真面目ちゃんだな。はいはいはい、っと」
雑に刺突剣を魚人の頭に突き刺しては抜いていく。それは本当の意味ではとどめを刺せてはいないのだが、頭部を貫くことで魔物は正常には動かなくなる。
「ねぇ、やっぱり私、次街に戻ったらあなたとのパーティーを抜けさせてもらうことにする」
「力を手に入れた途端独り立ちする、って感じ?」
「違うよ。このペースで探索してたら死んじゃいそうだからだよ。二階層に来るなら最低でも四人パーティーか、レベル三〇以上になってからって話てたでしょ」
「じゃあ付いて来なければよかっただろ。ここまで来といて何言ってんだよ。お前だって魔道具で手に入れた力が通用するか確認したかったんだろ?」
「あなたを置いて一人で街に戻って、それであなたが死んでしまったら私は「裏切り者」とか、「仲間を見捨てた奴」になっちゃうでしょ。魔道具はあなたに返すから」
女はそう言って指輪を引き抜くと、ぽいっと男に投げて渡した。
その指輪の名は「流星の指輪」と言う。大層な名前だが、その名に負けない能力を持っている。
この指輪を装着した者は、誰であれ《土魔法》の《石礫》を使えるようになる。もちろん魔力は消費するのだが、魔法を習得していない者でも使えるのだからその能力は破格と言えるだろう。
更に、元々土魔法を使える者が装着した場合には、土魔法の威力が増す。
彼女、ナディの場合は、最近になってようやっと覚えた《石礫》が、指輪無しなら拳より小さめの石が一個。指輪有りなら拳くらいの石が四個。的に飛んでいく速さも違う。
「いいのかよ?」
「いいの。それはあなた経由で借りた物だし、それに頼ってたらこれ以上強くなれなくなりそうだし」
「手に入った物を使うのは普通のことだろ?」
「そうだね」
「お前はこのチャンスを捨てるのか?」
「そうだね。物を誰かから貰うのも、自分の力で手に入れるのも同じかもね。でも、私はなんか違う、って思っただけ。あなたみたいに簡単に受け入れられないし、誰かの命令で迷宮探索をするのも嫌なだけ」
「誰かの命令? 違うね。俺は俺の意思で奥を目指してるんだよ。まあいいよ、解散で。俺と一緒にいれば風の剣に入れたかも知れないのに、って後になって悔しがればいい」
「(自分の意志、ね。そうは思えないけど)そうかもね。それじゃ、次が約束の十戦目だよ」
「分かってる」
今回の探索では、二人の間には、二階層での戦闘を十回したら街に戻る、という約束があった。
男の方、キーンもそれについては約束を守る気があるようだ。二人は一階層へ続く螺旋階段を目指して歩き出した。
暫くすると剣戟の音が聞こえてくる。かなりテンポの早い連続音から測るに、かなりの手練パーティーが戦っているようだ。
キーンとナディは顔を見合わせて頷き合い、歩くスピードを上げて戦闘が行われているであろう空洞を目指した。
通路から中を覗き込むと、そこには一人の探索者と四体の魔物が戦う姿があった。
「ちっ」
「ソルトさん、だね」
そこで戦っていたのは、キーンのかつての相棒、そして、ナディがつい「能無し」と呼んでしまった男だった。
彼は四方からの攻撃を両手に持った剣で敵の攻撃を弾き返し、いなし、そして、隙を見つけては攻撃を入れていた。くるくると回りながら四体の魔物と戦う姿はまるで旋風のようだ。
三体の魚人の槍を喰らわずに、一体の迷宮大沼蛇に攻撃を入れていく。どうやらまずはヘビを倒すようだ。
「俺ならもう一匹倒してる」
そう言って抜き身の刺突剣の刀身を軽く振って、左手で受けてパンパンと小さな音を鳴らす。
その剣も魔道具だ。軽くて鋭い質のいい剣で、貫通力が上がる効果と、三連続突きができる効果が付与されている。しかも狙った所に突き進むというサポート付きだ。
つまり、剣の初心者であっても片手で持ち上げられるくらい軽くて、魔力を込めれば高速で三連突きができるというかなり強力な代物なわけだ。
「そうだね」
ナディは「確かに、その武器を使えばそうかもね」と、口には出さずに思うのだった。
何故なら、何故かは分からないが、ソルトは普通の武器を使っているようだからだ。ヘビに剣が当たってもそれほどダメージを与えられていないようだ。
「まさか、二階層の魔物で訓練してる、とか?」
「そんな馬鹿なことがあるか」
ナディの呟きに、キーンが反射的に突き返すかのように言った。
そして、ナディの静止の声を聞かず、キーンはソルトと魔物の戦いに突撃していった。
連続突きで魚人の体に五つの穴が空き、そこから紫色の血がピューッと飛び出す。
「《石礫》!」
四個のこぶし大の石が宙を飛び、別の魚人二体にぶつかる。一つは頭部に当たり、その魚人はグラッとよろけて地面に倒れた。
「いい感じだな」
「ちゃんととどめを刺さないと」
「なんだよ。こんな奴、もう一回起きてきたって余裕だろ」
「私がとどめを刺そうと思ったら魔法を使わないと駄目なの。魔力は温存しておきたいからあなたがちゃんとやってくれないと」
「相変わらず真面目ちゃんだな。はいはいはい、っと」
雑に刺突剣を魚人の頭に突き刺しては抜いていく。それは本当の意味ではとどめを刺せてはいないのだが、頭部を貫くことで魔物は正常には動かなくなる。
「ねぇ、やっぱり私、次街に戻ったらあなたとのパーティーを抜けさせてもらうことにする」
「力を手に入れた途端独り立ちする、って感じ?」
「違うよ。このペースで探索してたら死んじゃいそうだからだよ。二階層に来るなら最低でも四人パーティーか、レベル三〇以上になってからって話てたでしょ」
「じゃあ付いて来なければよかっただろ。ここまで来といて何言ってんだよ。お前だって魔道具で手に入れた力が通用するか確認したかったんだろ?」
「あなたを置いて一人で街に戻って、それであなたが死んでしまったら私は「裏切り者」とか、「仲間を見捨てた奴」になっちゃうでしょ。魔道具はあなたに返すから」
女はそう言って指輪を引き抜くと、ぽいっと男に投げて渡した。
その指輪の名は「流星の指輪」と言う。大層な名前だが、その名に負けない能力を持っている。
この指輪を装着した者は、誰であれ《土魔法》の《石礫》を使えるようになる。もちろん魔力は消費するのだが、魔法を習得していない者でも使えるのだからその能力は破格と言えるだろう。
更に、元々土魔法を使える者が装着した場合には、土魔法の威力が増す。
彼女、ナディの場合は、最近になってようやっと覚えた《石礫》が、指輪無しなら拳より小さめの石が一個。指輪有りなら拳くらいの石が四個。的に飛んでいく速さも違う。
「いいのかよ?」
「いいの。それはあなた経由で借りた物だし、それに頼ってたらこれ以上強くなれなくなりそうだし」
「手に入った物を使うのは普通のことだろ?」
「そうだね」
「お前はこのチャンスを捨てるのか?」
「そうだね。物を誰かから貰うのも、自分の力で手に入れるのも同じかもね。でも、私はなんか違う、って思っただけ。あなたみたいに簡単に受け入れられないし、誰かの命令で迷宮探索をするのも嫌なだけ」
「誰かの命令? 違うね。俺は俺の意思で奥を目指してるんだよ。まあいいよ、解散で。俺と一緒にいれば風の剣に入れたかも知れないのに、って後になって悔しがればいい」
「(自分の意志、ね。そうは思えないけど)そうかもね。それじゃ、次が約束の十戦目だよ」
「分かってる」
今回の探索では、二人の間には、二階層での戦闘を十回したら街に戻る、という約束があった。
男の方、キーンもそれについては約束を守る気があるようだ。二人は一階層へ続く螺旋階段を目指して歩き出した。
暫くすると剣戟の音が聞こえてくる。かなりテンポの早い連続音から測るに、かなりの手練パーティーが戦っているようだ。
キーンとナディは顔を見合わせて頷き合い、歩くスピードを上げて戦闘が行われているであろう空洞を目指した。
通路から中を覗き込むと、そこには一人の探索者と四体の魔物が戦う姿があった。
「ちっ」
「ソルトさん、だね」
そこで戦っていたのは、キーンのかつての相棒、そして、ナディがつい「能無し」と呼んでしまった男だった。
彼は四方からの攻撃を両手に持った剣で敵の攻撃を弾き返し、いなし、そして、隙を見つけては攻撃を入れていた。くるくると回りながら四体の魔物と戦う姿はまるで旋風のようだ。
三体の魚人の槍を喰らわずに、一体の迷宮大沼蛇に攻撃を入れていく。どうやらまずはヘビを倒すようだ。
「俺ならもう一匹倒してる」
そう言って抜き身の刺突剣の刀身を軽く振って、左手で受けてパンパンと小さな音を鳴らす。
その剣も魔道具だ。軽くて鋭い質のいい剣で、貫通力が上がる効果と、三連続突きができる効果が付与されている。しかも狙った所に突き進むというサポート付きだ。
つまり、剣の初心者であっても片手で持ち上げられるくらい軽くて、魔力を込めれば高速で三連突きができるというかなり強力な代物なわけだ。
「そうだね」
ナディは「確かに、その武器を使えばそうかもね」と、口には出さずに思うのだった。
何故なら、何故かは分からないが、ソルトは普通の武器を使っているようだからだ。ヘビに剣が当たってもそれほどダメージを与えられていないようだ。
「まさか、二階層の魔物で訓練してる、とか?」
「そんな馬鹿なことがあるか」
ナディの呟きに、キーンが反射的に突き返すかのように言った。
そして、ナディの静止の声を聞かず、キーンはソルトと魔物の戦いに突撃していった。
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