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もずく

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異世界人マサキ

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 目を覚ますと、そこは見覚えのない部屋だった。
 ここはどこだろう。
 起きる前に何か夢を見ていた気がする。
 確か、僕が心臓発作で死んでしまって、神様にあって新しい人生を提案されるって言う凄くいい話・・・だった。

 元気な体に生まれ変われたらどんなに素晴らしいだろう。
 少し歩くだけで息切れして、少し無理をすれば心臓が苦しくなって動けなくなってしまう。
 こんな体じゃ何もできない。

 学校にもほとんど行けなかったから友達もいない。
 僕のせいで両親は離婚してしまったし、僕を引き取ってくれた父さんとは、仕事が忙しいせいかほとんど顔を合わすことがない。まあ、引き取りたくて引き取った訳じゃなくて、ある日母さんが逃げちゃったから仕方なく、なんだろうけどね。
 でもまあ、こんなハズレの息子に、飯を食わせてくれて医者に診せてくれてるだけでも偉い父親だとは思う。

「はあ」

 それで、ここはいったいどこなんだろう。
 とうとう父さんにも見捨てられて、どこかの病院かなんかに放り出されたんだろうか。
 ベッドから体を起こし、部屋の中を見回してみると、映画スマホで見たことがあるような、少し古臭いデザインの調度品が置かれた、ちょっと高級な洋館の一室のような部屋にいることが分かった。

「おお、勇者殿、お目覚めになられましたか」

 意匠の凝った扉ががちゃりと開くと、そこから入ってきた人達が順番に僕に話し掛けてきた。
 その人たちの格好も映画染みていて、そしてほとんどの人がアニメのように鮮やかな髪の色をしていて……つまり、金髪や銀髪、赤や緑や青い髪の毛だ。
 これはなんの冗談なんだろう。
 それにさっき、僕のことを「勇者」と呼ばなかったか。
 それは夢の中で神様と名乗る人と話したときに聞いた、僕の新しい人生での役割だ。



 僕には沢山のスキルがある。

 《聖戦士》《長剣》《剛剣》《聖光飛翔剣(未取得)》《聖光結界(未取得)》《大盾》《重装備》
 《光魔法》《回復》《中位回復(未取得)》《解毒》《麻痺解除》《解呪(未取得)》
 《英雄体質》

 神様の話によれば、未取得と書かれているスキルも、レベルが上がれば手に入る物だと言っていた。
「新たな世界で、健康な体で、勇者として人々を助けながら生きなさい」
 神様の言う「勇者」とは、生き方の話なんだよね。スキルには《勇者》なんてないし、身につく予定もなさそうだし。
 そして、神様が言ってたように、僕の体は健康になっていた。
 立って走っても心臓が苦しくならないし、それどころか簡単には息切れをしない。重い剣を振っても骨が折れる事もない。筋骨隆々の騎士と全力で戦っても筋肉痛にならないし、少し訓練したら勝てるようになってしまった。
 武器による戦いは騎士団に、魔法の習熟は宮廷魔術師からという贅沢な英才教育を受けて、僕は自惚れではなく確実にレベルアップしていった。

 僕が目覚めたのは聖王国メイルーンという名の国だった。聖王国なんて聞いたことがないし、もちろんメイルーンなんて国も知らない。
 ここは僕がいた世界とは違う世界なんだ。
 元いた世界には魔法なんてなかったし、剣で人と戦うこともなかったし、魔物と呼ばれる生き物もいなかった。
 この世界はゲームのような世界で、でも、ちゃんと人が生きている。そして、叩かれれば痛いし、剣で斬られれば血が出る。目の前で魔物の腕や首が飛ぶのを見たし、胴がぐちゃりと潰れるのも見た。
 火の魔法が肉を焼き、風の魔法が砂塵を巻き上げ、水の魔法で喉を潤し、土の魔法が地面から槍を突き出す。
 誰もが全ての事をできる訳じゃないけど、経験を積む事でレベルアップするのは誰でもできる。そして、レベルアップする事で強くなれる。

 だから、僕はとりあえず強くなる事にした。
 この世界の事を僕は知らない。
 分かってる事はゲームのようにレベルアップできることだけ。
 だったらまずは強くなる。
 そして強くなって、神様の言ってたように、勇者として誰かを助けられたらな、と思った。
 まずは、突然現れた僕を受け入れてくれた聖王国メイルーンの役に立ちたい。
 王女であり賢者でもあるマルン、僕を最初に見つけて介抱してくれた聖女クリーム様、剣術やこの世界の一般常識を教えてくれた兄貴肌のヨルグ、寡黙だけど探索では体を張って戦ってくれて頼りになるトーヤ。
 この四人と共に、ダンジョンで力を付けつつ、僕に良くしてくれている聖王国メイルーンの手助けができればと思っている。
 僕を勇者様と慕ってくれている、時期国王であるらしい聖女クリームを支える事ができるなら、僕が健康に生まれ変わった事にも意味があるんじゃないかと思えるから。

 体の強くなかった僕をこの世界に連れてきてくれた神様に感謝の祈りを。
 その神様に仕える聖女クリームには親愛を。
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