9 / 94
自由自在に
しおりを挟む
草原の中の獣道を進むこと十分。最初に現れたのは蛇だった。
足に噛み付かれ、更に巻き付かれたところでようやっと攻撃を受けていることに気が付いた。気付くのが遅れたのは、履いている革のブーツが蛇の牙を通さなかったらしくて痛みがなかったからだ。巻き付かれて多少右足が重くなった感じがしたことで蛇の存在に気が付いた訳だ。
《自由自在》でナイフを操り蛇の頭をスパッと切り落とす。
生き物を殺してしまった感覚はあまりない。釣りをして生きた魚を捌いたことは何度もあるし、ここはゲームの世界という変な思い込みがあるからかも知れない。
一メートルくらいの蛇だと、たぶんギルドに持ち込んでもお金にはならないだろう。だからこのまま放置することにした。少しだけ申し訳ない気持ちになったけど、僕は「お前が攻撃してきたのが悪いんだからな?」と心の中で呟いてそれで終わりにした。
次に現れたのはウサギだった。
獣道に現れて、僕を見て慌てたように逃げ出したんだけど《自由自在》のナイフ二本を飛ばして狩った。
爬虫類と哺乳類の差だろうか。自分のしたことに少しだけ嫌悪感があったけど、これは将来的に食料となるものだ。今までも鳥や豚などの肉を散々食べて生きてきたのだから、今更「命を奪ってしまった」なんて思わないようにしないと。
その後は動物も魔物も出てこず。
だいたい一時間後には大きな木の元に辿り着いた。
木は本当に信じられないくらい大きかった。木でぱなく樹と呼びたくなるその幹の太さは人二十人が手を伸ばして一周できるかどうかというくらい太く、そして高く伸びている。
そしてその周りには、五体の異形の生き物と、大型の犬二頭がうろついていた。
半人半犬。
少し腰が曲がって姿勢が悪いが、犬のように鼻と口が飛び出た毛むくじゃらの生き物が、人のように二足歩行しつつその手には武器や盾のような物を持っている。
あぐらをかいて座ってるのもいて、まあ、普通の犬じゃないということは見た目だけでよく分かった。
これがコボルトという魔物なんだろう。
しかし僕一人で七体相手は流石に無理だ。
まだ気付かれないので草むらに隠れたまま様子を見続けた。
暫くすると三体のコボルトが犬を二頭とも連れて僕とは反対方向に進んでいった。
《自由自在》で十本のナイフを操れる僕なら、二体ならなんとかできるんじゃないだろうか。相手にはまだ気付かれてないし、遠距離攻撃から仕掛ければ……よし、ここまで来たんだしやろう。
ざっくり作戦を立てる。
まずは二体のコボルトそれぞれに二本ずつナイフを飛ばす。残りの六本の内四本だけ僕のそばに待機させつつ僕自身もコボルトに突っ込む。たぶん、飛ばしたナイフでは倒せないだろうから、さっきの三体のコボルトたちが騒ぎを聞きつけて戻って来る前に倒してしまいたいし、自分がどのくらい動けるかも知っておきたい。
「盾よし、剣よし、気合いよし」
小さく口に出しながら装備を確認し気合を入れる。
行け、ナイフという名のドスたちよ!
僕は、今の《自由自在》で出せる最速で四本のナイフを発射した。
そしてナイフを追いかけて自分も草むらから飛び出す……あれ?
想像していたよりも速い速度でナイフが飛んでいった為、僕が草むらから飛び出した時には既に四本全てが狙い通りにコボルトに刺さっていた。
それぞれ頭部と胸部に根元まで突き刺さり、それはしっかりと致命傷になったようだ。
ズルリ、いや、パタンといった感じに二体のコボルトが地面に倒れる。
そして三秒もしない内にパリンという小さな音とともに粉々に砕け散った。
コボルトが居た場所に小さな紫色の宝石のような石が残ったのだが、どうやらそれが魔石と呼ばれるもののようだった。
これ、遠距離攻撃をしてこない相手ならもしかして無敵なんじゃないか。
もちろん、ナイフが通らないような硬い魔物とか、鉄鎧を着込んだ人が相手だと駄目なんだろうけど、それは鉄の塊とかハンマーとかで対応を……って、それだとたぶん重すぎて今はまだ無理か。
とりあえず、今日は草むらに隠れながら索敵して、ナイフで遠距離遠隔攻撃で安全に魔石を稼ぐことにしよう。
そうして夕方になるまでコボルトを狩り続けた。途中、コボルトよりも大きいカマドウマみたいなのが出てきて焦ったけど、どうやらそれがビッグホッパーだったらしい。確かに跳ねてたわ。
行きに通った獣道とは別の獣道で街道に戻り、夕闇が深くなりつつある道を街に向かって歩く。
途中、一台の馬車に追い抜かれた。他の街とかとからやって来た馬車だろうか。
自分のペースで自由に仕事をして、その仕事内容に満足して、自然いっぱいの田舎道をのんびり歩いて家路につく。
不思議な充実感に包まれながら僕は歩き続けた。
今日、分かったことというか実感したことがある。
それは、やっぱりこの世界はゲームみたいな世界だということ。魔物は唐突に湧き出すし、倒せばパリンと消えて報酬を残す。どう考えたって元の世界では考えられない現象だ。
それにどうやらレベルアップもあるようだ。途中から《自由自在》によるナイフの操作が楽になったからそう思うだけなんだけど。
ナイフよりも重いショートソードやラウンドシールドを試してみたら、ナイフと同じようにほぼ疲労度無しで操れるようになっていた。
宿に戻ったら自分を浮かせるのも試してみるつもりだ。
足に噛み付かれ、更に巻き付かれたところでようやっと攻撃を受けていることに気が付いた。気付くのが遅れたのは、履いている革のブーツが蛇の牙を通さなかったらしくて痛みがなかったからだ。巻き付かれて多少右足が重くなった感じがしたことで蛇の存在に気が付いた訳だ。
《自由自在》でナイフを操り蛇の頭をスパッと切り落とす。
生き物を殺してしまった感覚はあまりない。釣りをして生きた魚を捌いたことは何度もあるし、ここはゲームの世界という変な思い込みがあるからかも知れない。
一メートルくらいの蛇だと、たぶんギルドに持ち込んでもお金にはならないだろう。だからこのまま放置することにした。少しだけ申し訳ない気持ちになったけど、僕は「お前が攻撃してきたのが悪いんだからな?」と心の中で呟いてそれで終わりにした。
次に現れたのはウサギだった。
獣道に現れて、僕を見て慌てたように逃げ出したんだけど《自由自在》のナイフ二本を飛ばして狩った。
爬虫類と哺乳類の差だろうか。自分のしたことに少しだけ嫌悪感があったけど、これは将来的に食料となるものだ。今までも鳥や豚などの肉を散々食べて生きてきたのだから、今更「命を奪ってしまった」なんて思わないようにしないと。
その後は動物も魔物も出てこず。
だいたい一時間後には大きな木の元に辿り着いた。
木は本当に信じられないくらい大きかった。木でぱなく樹と呼びたくなるその幹の太さは人二十人が手を伸ばして一周できるかどうかというくらい太く、そして高く伸びている。
そしてその周りには、五体の異形の生き物と、大型の犬二頭がうろついていた。
半人半犬。
少し腰が曲がって姿勢が悪いが、犬のように鼻と口が飛び出た毛むくじゃらの生き物が、人のように二足歩行しつつその手には武器や盾のような物を持っている。
あぐらをかいて座ってるのもいて、まあ、普通の犬じゃないということは見た目だけでよく分かった。
これがコボルトという魔物なんだろう。
しかし僕一人で七体相手は流石に無理だ。
まだ気付かれないので草むらに隠れたまま様子を見続けた。
暫くすると三体のコボルトが犬を二頭とも連れて僕とは反対方向に進んでいった。
《自由自在》で十本のナイフを操れる僕なら、二体ならなんとかできるんじゃないだろうか。相手にはまだ気付かれてないし、遠距離攻撃から仕掛ければ……よし、ここまで来たんだしやろう。
ざっくり作戦を立てる。
まずは二体のコボルトそれぞれに二本ずつナイフを飛ばす。残りの六本の内四本だけ僕のそばに待機させつつ僕自身もコボルトに突っ込む。たぶん、飛ばしたナイフでは倒せないだろうから、さっきの三体のコボルトたちが騒ぎを聞きつけて戻って来る前に倒してしまいたいし、自分がどのくらい動けるかも知っておきたい。
「盾よし、剣よし、気合いよし」
小さく口に出しながら装備を確認し気合を入れる。
行け、ナイフという名のドスたちよ!
僕は、今の《自由自在》で出せる最速で四本のナイフを発射した。
そしてナイフを追いかけて自分も草むらから飛び出す……あれ?
想像していたよりも速い速度でナイフが飛んでいった為、僕が草むらから飛び出した時には既に四本全てが狙い通りにコボルトに刺さっていた。
それぞれ頭部と胸部に根元まで突き刺さり、それはしっかりと致命傷になったようだ。
ズルリ、いや、パタンといった感じに二体のコボルトが地面に倒れる。
そして三秒もしない内にパリンという小さな音とともに粉々に砕け散った。
コボルトが居た場所に小さな紫色の宝石のような石が残ったのだが、どうやらそれが魔石と呼ばれるもののようだった。
これ、遠距離攻撃をしてこない相手ならもしかして無敵なんじゃないか。
もちろん、ナイフが通らないような硬い魔物とか、鉄鎧を着込んだ人が相手だと駄目なんだろうけど、それは鉄の塊とかハンマーとかで対応を……って、それだとたぶん重すぎて今はまだ無理か。
とりあえず、今日は草むらに隠れながら索敵して、ナイフで遠距離遠隔攻撃で安全に魔石を稼ぐことにしよう。
そうして夕方になるまでコボルトを狩り続けた。途中、コボルトよりも大きいカマドウマみたいなのが出てきて焦ったけど、どうやらそれがビッグホッパーだったらしい。確かに跳ねてたわ。
行きに通った獣道とは別の獣道で街道に戻り、夕闇が深くなりつつある道を街に向かって歩く。
途中、一台の馬車に追い抜かれた。他の街とかとからやって来た馬車だろうか。
自分のペースで自由に仕事をして、その仕事内容に満足して、自然いっぱいの田舎道をのんびり歩いて家路につく。
不思議な充実感に包まれながら僕は歩き続けた。
今日、分かったことというか実感したことがある。
それは、やっぱりこの世界はゲームみたいな世界だということ。魔物は唐突に湧き出すし、倒せばパリンと消えて報酬を残す。どう考えたって元の世界では考えられない現象だ。
それにどうやらレベルアップもあるようだ。途中から《自由自在》によるナイフの操作が楽になったからそう思うだけなんだけど。
ナイフよりも重いショートソードやラウンドシールドを試してみたら、ナイフと同じようにほぼ疲労度無しで操れるようになっていた。
宿に戻ったら自分を浮かせるのも試してみるつもりだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる