自由に自在に

もずく

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サイキック

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 昨日と同じ宿、同じ部屋に戻ってきた僕は、女将さんからお湯を入れた桶をもらって来てタオルで体を拭いた。
 コボルトと戦っていたときよりも、街に帰ってきてからの方が疲れてしまった。
 新しい肌着に着替えてベッドに横になる。

 街に着くと、空はもう星が出て暗くなっていた。松明は持ってたけどカンテラまでは買ってなかったので、灯り無しで帰ってきたら門番に怒られた。
 ハンターギルドの仮ギルドカードを見て、初心者が一人でこんな時間まで活動するんじゃない、灯りくらいちゃんと用意しろ、と。
 僕を心配してくれての言葉なのは分かるんだけど、強く怒られるっていうのはちょっと気持ちが沈む。

 その後、ハンターギルドで魔石の買い取りをお願いしたら、数が多いということで、初心者がどうやったんだと質問攻めにされて、その対応で疲れた。
 スキルの説明をするつもりはなかったから「普通に剣で倒した」と答えたけどまったく信じてもらえていないようだった。まあ、嘘だから信じてもらえなくても仕方ないんだけど。
 換金してもらったあと、疲れてしまったので正式なカードを作ってもらうのは明日以降にすることにして、借りていたギルドカードはとりあえず返した。
 ちなみに、買い取ってもらった魔石は、ビッグホッパー四個で大銀貨四枚、コボルト六十個で金貨一枚、大銀貨二枚になった。

 そして宿に着いて銀貨三枚の夕飯をお願いして、いざ食べようという時になって例の三人組がやって来て、またもや食事の時間を邪魔された。
 これはまあ、僕が悪いんだけど。
 予定を唐突に変更して、一緒に外に出るという約束を破って単独行動させてもらった訳だから、理由と結果を(ある程度だけど)説明した。

「いい歳して随分わがままな話ですね」
 当たり前だけど山口さんはご立腹の様子だった。
「フトーさん、神経質過ぎない? そんなんだと結局狩人ギルドにも入る気ないでしょ」
 十歳も下の坂上さんからは、すべてを見透かされたかのような言葉を投げかけられた。
「狩人ギルドにも入らないんならどうするんすか? やっぱり冒険者ギルドに入るんすか?」
 熊野君は相変わらずの雰囲気でいてくれて安心した。

 僕は、この街ではギルドには入らないかも知れないということと、こんな性格なので迷惑をかけるだろうから一人でやっていこうと思う、ということを伝えた。
 女性二人は納得して了承してくれたが、熊野君は「一度も一緒にやらないままで決めたくないっす」と引き下がってきた。
 だが、女性陣から「多数決」と言われてしまった。女性二人は僕のようないい加減な男とは一緒に組みたくないようだ。が、熊野君が粘りに粘ったせいで「明日の午前中だけ一緒にウサギ狩りをする」という話になってしまった。正直言って僕にはなんのメリットもない話だ。
 が、今日は約束を破ってしまったし、熊野君があまりにも必死なので明日は付き合うことにした。僕が了承した時、女性二人は嫌そうな顔をしていた。
 その後は少しだけ、今日、お互いがそれぞれ手に入れた情報を交換し合って別れた。

 そうしたことがあって今に至る。

 熊野君達とは元々一緒に行動するつもりがなかったものの、結果的に一方的に悪いことをしてしまった。
 しかも、熊野君の口が軽いことで、南東の門の先の話を少し聞けてしまったのだから更にバツが悪い感じだ。

 南東の門と南西の門の先に続く道は後に一本道として繋がるそうだ。道は南に伸びて遠くソウジャールという街に続いているらしい。
 あ、ちなみにこの街の名前はアバンシアと言うそうだ。
 西にはコウガという街があり、東には森と山しかないらしい。ここら辺の話は冒険者ギルドで聞けたそうだ。
 また、大きな街以外にも小さな村や集落がいくつもあるらしく、そういった村に落ち延びていった召喚闘士もいるそうだ。

 でだ。
 彼らは昨日、街の南側で活動したそうなのだが、それは冒険者ギルドからの依頼クエストを受けてのものだったそうだ。それはウサギ狩り。
 ウサギ十羽を狩るというクエストで、達成報酬は大銀貨一枚で、ウサギは一羽銅貨五枚で買い取ってもらえるそうだ。
 ちなみに今日は三人で四羽しか倒せなかったとのこと。素早いので近付くのが難しく、魔法もなかなか当てられなかったそうだ。
 僕もウサギは一羽しか狩れなかったと本当のことを伝えておいた。
 それから、一応、ハンターギルドに持ち込めばウサギ三羽毎に銀貨二枚で買い取ってもらえるらしいことも伝えておいた。

 最後にもう一つ。今日一番の情報は山口さんが教えてくれた。同郷のよしみということらしい。最後の餞別のつもりなのかも知れない。
 それは不思議な呪文の言葉だ。

「オペン・ダ・ポパリィ」

 寝転がっている自分の目の前にゲームのステータス画面のような物が現れる。黒の半透明のガラスに文字が書かれているような感じだ。
 他人のステータス画面は通常は見れないらしい。

 フトウ タツミ
 ノマル 男 28歳
 サイキッカー Lv.3
 自由自在 Lv.3
  ・サイコキネシス
  ・クレアボヤンス

 なるほど。
 細かな能力値は見れないけど、持ってる能力が見れるのか。
 そして僕はレベル3のサイキッカーなのか。サイキッカーって超能力者のことだよな、確か。
 そして《自由自在》を補足するかのようにサイコキネシスとクレアボヤンスという文字が。
 その文字を意識すると使い方の説明のようなものが体に染み渡っていく。最初に自由自在のスキルを認識した時と似た感覚だ。

 サイコキネシスは昨日からずっと使っている能力のことだ。
 ざっくり言えば、物に対して力をかける能力。今はナイフを持ち上げたり飛ばしたり斬りかかるように動かすのにしか使ってないけど、力自体を物に影響させることもできるみたいだ。

 クレアボヤンスは透視とか、遠くの場所を見ることができる力のようだ。日本語だと千里眼と言えばしっくりくる感じだ。
 試しに、今、部屋のベッドに横になった状態で、昨日行ったコボルトが現れる大きな樹の辺りを見ようと意識してみる。
 すると上空から樹のある場所を俯瞰している映像が見えた。当たり前だけど夜だから暗い。視点を地面の方に下げていくと、何匹かのコボルトがいるのが見えてきた。
 視点をコボルトの目の前に移動してみたけど、僕が見ていることに気付かれることはないようだ。

 ……あまり悪用はしないようにしよう。
 僕はそう思った。
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