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ソードマン
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翌朝、昨日と同じように六時過ぎに鐘の音で起こされ、その流れで食堂に行った。するとそこには既に三人組がいた。
「おはようございます。皆さん早いですね」
「あはざっす」
「おはよー。まあ今日はよろしく」
「おはようございます。今日こそはよろしくお願いします」
相変わらず坂上さんと山口さんの僕に対する態度は厳しいままだ。まあ、昨日僕がやったことを考えたら当たり前なんだけど。
ささっと朝食を胃の中に片付け、七時半に宿を出た所に集合することになった。
今日は約束通り、時間になる少し前に宿の外に出た。
まだ三人はいなかったので、宿屋の壁に寄りかかって待つことにした。
そして今日の方針について確認する。
今日は《自由自在》は使わずに剣と盾で戦う。
方針と言ってもこれだけなんだけど。
ただ、昨日は散々《自由自在》を使いまくっていたから、咄嗟に剣を飛ばしてしまわないように強く意識しておくことにする。
少しすると熊野君がやって来た。
熊野君は女性陣と同じ部屋で寝ているらしい。着替える時は熊野君が先に着替えて、女性陣が着替える時には部屋から追い出されてしまうそうだ。
僕らはそれから十分ちょっと待つことになった。
遅刻してきた二人は特に悪びれることもなく「じゃあ行きましょ」と言って歩き始めた。
熊野君、これから頑張ってください。
さて。
南東の門から街を出る時になって、またもや僕が怒られるイベントが発生してしまった。
それは僕がギルドカードを持っていないので銀貨二枚を支払ったことに起因する。
門番さんにとっては、お金さえ受け取れれば問題ないことなので特に揉めることはなかった。
問題視して、僕に唾がかかる勢いでいちゃもんを付けてきたのは山口さんだ。
「なんで身分証を作らないんですか? ギルドに登録するだけなのにっ」
「なんとなくです」
「銀貨二枚っていったら食事ができる値段ですよ? 男爵から貰ったお金なんてすぐに無くなってしまいますよ?」
「そのうちどうにかしようと思います」
「フトウさんはなんでそう無計画なんですか?」
「はあ、すみません」
「まーまー、山口さん落ち着くっすよ。フトウさんにはフトウさんの考えとか計画とかあるかも知れないじゃないっすか」
「杏子さん、フトウさんが心配だからって怒りすぎ」
「え、恵那ちゃん!?」
山口さんは親切心をうまく表現できない人ってことか。いや、騙されたらだめだ。この人は単に僕に文句を言いたいだけだろう。
それにしても坂上さんの方がよっぽど大人な感じなんだな。熊野くんもキャラの割には落ち着いてるし、実は保護者の立ち位置が逆転してるんじゃないだろうか。
……つまり、山口さんは関わると面倒なタイプってことか。
まあ、坂上さんがうまいこと話の腰を折ってくれたので、ギルド登録やお金の話は有耶無耶にできた。
今日の目的地は、昨日、彼ら三人がウサギ狩りに行った場所だそうだ。
僕も《自由自在》なしでも少しは戦えるようになっておいた方がいいだろうから、初心者向けのウサギ狩りに真面目に取り組んでみようと思う。
三十分ほどして到着した目的地は草原だった。
広い範囲の草が短く刈り取られ、それが更に踏まれて倒れているので見晴らしがいい。
ここにはウサギやカピバラが大量にいるらしく、時折イノシシも現れるそうだ。
僕ら以外にも三組のグループがいて、みんなの狙いはそれらの小動物のようだ。
「そういえばフトウさんはファイターだったんすか?」
「いや、ソードマンでした」
熊野君の質問に、僕は用意していた返事を返した。
「わたしと同じなんだ? でも盾も使うの?」
坂上さんは正真正銘のソードマンだ。僕は「武器や防具が装備できる」レア度白ということにしてあるので、齟齬が出ないように彼女と同じ職業ということにしてみたのだ。
「盾も防具だから装備できるので」
「そーだけどさ……そんな短い剣で戦えるの? それだけ敵との間合いがちかくなっちゃうんじゃない?」
彼女の言うことはごもっともだ。
ただ、僕には彼女が腰に差してるような長い剣を使いこなせる気がしない。それはたぶん、職業やスキルが違うせいだろう。
「あっ、ウサギっすよ」
熊野君がウサギを発見してくれたので、坂上さんとのやり取りが自然に終わった。
昨日は彼らはウサギを何度も逃してしまったそうだ。だから、今日は逃げられないように包囲して、まずは山口さんに魔法で攻撃してもらう。ウサギが逃げ出した方にいる者が攻撃して倒す、というシンプルな作戦になっている。
熊野君が静かにウサギの背後に回っていく。それに合わせて坂上さんと僕も左右に広がっていく。そして山口さんが呪文の詠唱を開始した。
「……■■■■ ウインドアロー!」
山口さんが立てた指の上に、空気を圧縮したかのように景色を歪ませる半透明の矢が現れた。そしてそれは弓から放たれたかのように勢いよく撃ち出され、ウサギに向かってまっすぐに飛んでいく。
当たった!
かと思ったその瞬間、ウサギが突然走り出してそれを避けた。
逃げ出したその先には坂上さんがいる。彼女は「キャ~」と言いながらも構えていた剣を素早く突き出した、が、それも横に躱されてしまう。
悲鳴を上げた割にはしっかりバックステップをして、横を通り過ぎようとするウサギに追いすがり、その横腹にもう一度剣を突き出す。
僕はそこで、ほんの一瞬だけ《自由自在》のサイコキネシスでウサギの動きを止めてみた。
本来ならその一瞬でウサギは避ける判断をして別の動きをしたのかも知れないが、その機会を奪われたウサギは彼女の剣の餌食となった。
そう。坂上さんの剣が、ウサギの横腹に見事に突き刺さったのだ。
「おはようございます。皆さん早いですね」
「あはざっす」
「おはよー。まあ今日はよろしく」
「おはようございます。今日こそはよろしくお願いします」
相変わらず坂上さんと山口さんの僕に対する態度は厳しいままだ。まあ、昨日僕がやったことを考えたら当たり前なんだけど。
ささっと朝食を胃の中に片付け、七時半に宿を出た所に集合することになった。
今日は約束通り、時間になる少し前に宿の外に出た。
まだ三人はいなかったので、宿屋の壁に寄りかかって待つことにした。
そして今日の方針について確認する。
今日は《自由自在》は使わずに剣と盾で戦う。
方針と言ってもこれだけなんだけど。
ただ、昨日は散々《自由自在》を使いまくっていたから、咄嗟に剣を飛ばしてしまわないように強く意識しておくことにする。
少しすると熊野君がやって来た。
熊野君は女性陣と同じ部屋で寝ているらしい。着替える時は熊野君が先に着替えて、女性陣が着替える時には部屋から追い出されてしまうそうだ。
僕らはそれから十分ちょっと待つことになった。
遅刻してきた二人は特に悪びれることもなく「じゃあ行きましょ」と言って歩き始めた。
熊野君、これから頑張ってください。
さて。
南東の門から街を出る時になって、またもや僕が怒られるイベントが発生してしまった。
それは僕がギルドカードを持っていないので銀貨二枚を支払ったことに起因する。
門番さんにとっては、お金さえ受け取れれば問題ないことなので特に揉めることはなかった。
問題視して、僕に唾がかかる勢いでいちゃもんを付けてきたのは山口さんだ。
「なんで身分証を作らないんですか? ギルドに登録するだけなのにっ」
「なんとなくです」
「銀貨二枚っていったら食事ができる値段ですよ? 男爵から貰ったお金なんてすぐに無くなってしまいますよ?」
「そのうちどうにかしようと思います」
「フトウさんはなんでそう無計画なんですか?」
「はあ、すみません」
「まーまー、山口さん落ち着くっすよ。フトウさんにはフトウさんの考えとか計画とかあるかも知れないじゃないっすか」
「杏子さん、フトウさんが心配だからって怒りすぎ」
「え、恵那ちゃん!?」
山口さんは親切心をうまく表現できない人ってことか。いや、騙されたらだめだ。この人は単に僕に文句を言いたいだけだろう。
それにしても坂上さんの方がよっぽど大人な感じなんだな。熊野くんもキャラの割には落ち着いてるし、実は保護者の立ち位置が逆転してるんじゃないだろうか。
……つまり、山口さんは関わると面倒なタイプってことか。
まあ、坂上さんがうまいこと話の腰を折ってくれたので、ギルド登録やお金の話は有耶無耶にできた。
今日の目的地は、昨日、彼ら三人がウサギ狩りに行った場所だそうだ。
僕も《自由自在》なしでも少しは戦えるようになっておいた方がいいだろうから、初心者向けのウサギ狩りに真面目に取り組んでみようと思う。
三十分ほどして到着した目的地は草原だった。
広い範囲の草が短く刈り取られ、それが更に踏まれて倒れているので見晴らしがいい。
ここにはウサギやカピバラが大量にいるらしく、時折イノシシも現れるそうだ。
僕ら以外にも三組のグループがいて、みんなの狙いはそれらの小動物のようだ。
「そういえばフトウさんはファイターだったんすか?」
「いや、ソードマンでした」
熊野君の質問に、僕は用意していた返事を返した。
「わたしと同じなんだ? でも盾も使うの?」
坂上さんは正真正銘のソードマンだ。僕は「武器や防具が装備できる」レア度白ということにしてあるので、齟齬が出ないように彼女と同じ職業ということにしてみたのだ。
「盾も防具だから装備できるので」
「そーだけどさ……そんな短い剣で戦えるの? それだけ敵との間合いがちかくなっちゃうんじゃない?」
彼女の言うことはごもっともだ。
ただ、僕には彼女が腰に差してるような長い剣を使いこなせる気がしない。それはたぶん、職業やスキルが違うせいだろう。
「あっ、ウサギっすよ」
熊野君がウサギを発見してくれたので、坂上さんとのやり取りが自然に終わった。
昨日は彼らはウサギを何度も逃してしまったそうだ。だから、今日は逃げられないように包囲して、まずは山口さんに魔法で攻撃してもらう。ウサギが逃げ出した方にいる者が攻撃して倒す、というシンプルな作戦になっている。
熊野君が静かにウサギの背後に回っていく。それに合わせて坂上さんと僕も左右に広がっていく。そして山口さんが呪文の詠唱を開始した。
「……■■■■ ウインドアロー!」
山口さんが立てた指の上に、空気を圧縮したかのように景色を歪ませる半透明の矢が現れた。そしてそれは弓から放たれたかのように勢いよく撃ち出され、ウサギに向かってまっすぐに飛んでいく。
当たった!
かと思ったその瞬間、ウサギが突然走り出してそれを避けた。
逃げ出したその先には坂上さんがいる。彼女は「キャ~」と言いながらも構えていた剣を素早く突き出した、が、それも横に躱されてしまう。
悲鳴を上げた割にはしっかりバックステップをして、横を通り過ぎようとするウサギに追いすがり、その横腹にもう一度剣を突き出す。
僕はそこで、ほんの一瞬だけ《自由自在》のサイコキネシスでウサギの動きを止めてみた。
本来ならその一瞬でウサギは避ける判断をして別の動きをしたのかも知れないが、その機会を奪われたウサギは彼女の剣の餌食となった。
そう。坂上さんの剣が、ウサギの横腹に見事に突き刺さったのだ。
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