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帰りは一度も休まず、急ぎ足で三、四時間かけて地上に戻った僕は、そこにいたコボルト五匹とビッグホッパーをサイコキネシス版ストーンバレットで倒したあと、魔石を回収してからのんびりと街に向かって歩きだした。
クレアボヤンスで(街の)時計を確認すると、どうやら今は朝の三時過ぎらしい。
たぶんだけど、僕は昨日の朝から一日半以上をダンジョンで過ごしていたようだ。
ハワードさん達に心配をかけてしまっただろうか。一応、ダンジョンに挑戦するチャレンジャーというものは、一日、二日どころか、一週間以上をダンジョンで過ごすことも珍しくないというのは、この世界の常識らしいので大丈夫だろうとは思うのだけど。
とりあえず僕は無傷で元気なのだから、普通に帰ればいいか。
でも、朝の仕込みの忙しい時間を邪魔するのもなんだしな。東門の方に行って喫茶店で時間を潰そうか。
そんなことを考えながら、歩き続けること数十分。僕は街の西門に着いた。
半分寝てた門番さんに身分証を見せると、「ダンジョン攻略ギルドのカードだね?」と聞かれてしまった。
「はい……あの、何かありましたか?」
「いやいや、ダンジョン攻略ギルドのゲストカードを持ってる男が来たら、ギルドに顔を出すように伝えてくれと言われていてね」
「そうだったんですか。すみません、連絡係みたいなことをさせてしまって」
「いいよいいよ。わしが眠そうにしてたことを内緒にしといてくれりゃあね」
いや、眠そう、じゃなくて寝てたような……あ、そういうことか。僕も少々頭の回転が悪くなっているようだ。
「了解です。ちゃんと伝言を聞かせてもらったと言っておきますね。でも、僕もちょっと眠いのでギルドには一眠りしてから顔を出すことにします」
「睡眠は大事だからなあ。ではお疲れさん」
「はい。ではお先します」
しかし、これは東門の方には行かない方がよさそうかな。ギルドの誰かに会ったら面倒そうだ。今はまっすぐ部屋に戻ることにしよう。
ゆっくり歩いてハワードさんの店に着くと、パンの成形をしているところだった。
「おお、お帰りい」
「お帰りなさい」
「ただいまです」
少しだけやり取りをしたあと、眠いだろうから早く休みなと言ってもらい、僕は部屋に入って眠りについた。
昼過ぎになってベッドから起きた僕は、ハワードさんが用意してくれた昼ごはんを部屋で頂いて、それからギルドに向かった。
「おお、生きてたかよ」
「なんですか唐突に。生きてますよ」
ギルドに入ると、今日は建物の中がいつもより明るかった。そして、入った途端に奥のカウンターにいるギフがすぐに声をかけてきたのだ。それにしても随分なご挨拶だ。
何故、門番に伝言を頼んでまでギルドに呼びつけたのか聞くと、そうでもしないとゲストカードで外に出てる男となかなか連絡がつかないからな、と嘯かれた。
「いや、実際なあ、ちょっと頼みたいことがあってもよお、お前さんが来たタイミングでしか話ができねえからよ」
「頼みたいこと?」
「ああ、実は」
「あ、フトー」
「フトーさん(ハートマーク)」
後からエナに抱きつかれた。僕の顔の右側から出てきたそのおでこにデコピンを喰らわせた。
「痛っ!」
「抱き着いてくるのやめてください」
「ぷっ」
「笑ってないで心配してよっ」
後ろでエナとリンがドタバタ劇を始めたけど、僕はギフを見て話を続けてもらう。
「お前さん、大物だな」
「たよねー。俺だったらエナちゃんに抱きつかれたら大喜びで振り返って抱きしめ返すわ」
「キモッ。いや、止めときなさいって」
次に現れたのはガロとノーラだ。クレアボヤンスで見てたから分かってたけど、そうでなければ気配に気が付けなかったと思う。ガロは悪ふざけでキャラが安定してないけど、スカウト(ゲームで言うところの盗賊とか斥候とか諜報員的なクラス)の能力は侮れないな。事実、突然現れたように見える二人に、ギフは驚いているようだ。
「ったく。人を驚かせる登場の仕方はいいかげん止めろってんだよ、おい。まあいい、フトー、お前さんを呼んだのはこのノウラが関係してんだ」
「わざわざ来てもらっちゃってごめんなさいね」
この人とは茜に行った時以来会ってないからほとんど絡みがない。いったい何の話だろう。
「えっとね。私、まだ大樹の根のダンジョンの地下二階をクリアできてないのよ」
「はぁ」
「だからフトー君と一緒に行けたらなって思うんだけど」
両手の人差し指の先をくっつけながら、上目遣いにおねだりをしくるノーラ。えーと、お断りさせていただきたい。
「そこっ! あざといっ!」
「ノーラ、それは良くないのです!」
エナとリンから即座にビシッと突っ込みが入った。
「レベル上限を上げる為に、ですか?」
「うっ……そうだ。お前さん、随分と察しがいいじゃねえか。ノウラはまだ魔鉱窟で五階層までしか行ってなくてな。先に大根の二階を突破したら、六階層を突破しなくてもレベル6になれるのか確認したくてな」
「やりたいことは分かりました。それで何故僕に話が振られるのかが分からないですが」
「この三人娘からのご要望だよ」
「何故エナとリンも?」
意味が分からない。今の話の流れなら、既に地下二階を突破済みのエナとリンは関係ないはずだ。
「別にいーじゃん」
「そうなのです。フトーはそんな細かいことは気にしないのですよ」
「いや、そもそもノーラ一人だけだったとしても僕が引率する必要がないですよね? この間だってギフ達だけで突破できてたじゃないですか」
「いや、今回はよお、あっちの三人も一緒に経験させちまおうと思ってるんだわ。まだコボルトに負けるくらいの奴らだからよ、戦力として計算できる人間がもう少し欲しくてな」
ギフが指さした先を見ると、そこにはかつて僕をおっさん呼ばわりした三人組がいた。
クレアボヤンスで(街の)時計を確認すると、どうやら今は朝の三時過ぎらしい。
たぶんだけど、僕は昨日の朝から一日半以上をダンジョンで過ごしていたようだ。
ハワードさん達に心配をかけてしまっただろうか。一応、ダンジョンに挑戦するチャレンジャーというものは、一日、二日どころか、一週間以上をダンジョンで過ごすことも珍しくないというのは、この世界の常識らしいので大丈夫だろうとは思うのだけど。
とりあえず僕は無傷で元気なのだから、普通に帰ればいいか。
でも、朝の仕込みの忙しい時間を邪魔するのもなんだしな。東門の方に行って喫茶店で時間を潰そうか。
そんなことを考えながら、歩き続けること数十分。僕は街の西門に着いた。
半分寝てた門番さんに身分証を見せると、「ダンジョン攻略ギルドのカードだね?」と聞かれてしまった。
「はい……あの、何かありましたか?」
「いやいや、ダンジョン攻略ギルドのゲストカードを持ってる男が来たら、ギルドに顔を出すように伝えてくれと言われていてね」
「そうだったんですか。すみません、連絡係みたいなことをさせてしまって」
「いいよいいよ。わしが眠そうにしてたことを内緒にしといてくれりゃあね」
いや、眠そう、じゃなくて寝てたような……あ、そういうことか。僕も少々頭の回転が悪くなっているようだ。
「了解です。ちゃんと伝言を聞かせてもらったと言っておきますね。でも、僕もちょっと眠いのでギルドには一眠りしてから顔を出すことにします」
「睡眠は大事だからなあ。ではお疲れさん」
「はい。ではお先します」
しかし、これは東門の方には行かない方がよさそうかな。ギルドの誰かに会ったら面倒そうだ。今はまっすぐ部屋に戻ることにしよう。
ゆっくり歩いてハワードさんの店に着くと、パンの成形をしているところだった。
「おお、お帰りい」
「お帰りなさい」
「ただいまです」
少しだけやり取りをしたあと、眠いだろうから早く休みなと言ってもらい、僕は部屋に入って眠りについた。
昼過ぎになってベッドから起きた僕は、ハワードさんが用意してくれた昼ごはんを部屋で頂いて、それからギルドに向かった。
「おお、生きてたかよ」
「なんですか唐突に。生きてますよ」
ギルドに入ると、今日は建物の中がいつもより明るかった。そして、入った途端に奥のカウンターにいるギフがすぐに声をかけてきたのだ。それにしても随分なご挨拶だ。
何故、門番に伝言を頼んでまでギルドに呼びつけたのか聞くと、そうでもしないとゲストカードで外に出てる男となかなか連絡がつかないからな、と嘯かれた。
「いや、実際なあ、ちょっと頼みたいことがあってもよお、お前さんが来たタイミングでしか話ができねえからよ」
「頼みたいこと?」
「ああ、実は」
「あ、フトー」
「フトーさん(ハートマーク)」
後からエナに抱きつかれた。僕の顔の右側から出てきたそのおでこにデコピンを喰らわせた。
「痛っ!」
「抱き着いてくるのやめてください」
「ぷっ」
「笑ってないで心配してよっ」
後ろでエナとリンがドタバタ劇を始めたけど、僕はギフを見て話を続けてもらう。
「お前さん、大物だな」
「たよねー。俺だったらエナちゃんに抱きつかれたら大喜びで振り返って抱きしめ返すわ」
「キモッ。いや、止めときなさいって」
次に現れたのはガロとノーラだ。クレアボヤンスで見てたから分かってたけど、そうでなければ気配に気が付けなかったと思う。ガロは悪ふざけでキャラが安定してないけど、スカウト(ゲームで言うところの盗賊とか斥候とか諜報員的なクラス)の能力は侮れないな。事実、突然現れたように見える二人に、ギフは驚いているようだ。
「ったく。人を驚かせる登場の仕方はいいかげん止めろってんだよ、おい。まあいい、フトー、お前さんを呼んだのはこのノウラが関係してんだ」
「わざわざ来てもらっちゃってごめんなさいね」
この人とは茜に行った時以来会ってないからほとんど絡みがない。いったい何の話だろう。
「えっとね。私、まだ大樹の根のダンジョンの地下二階をクリアできてないのよ」
「はぁ」
「だからフトー君と一緒に行けたらなって思うんだけど」
両手の人差し指の先をくっつけながら、上目遣いにおねだりをしくるノーラ。えーと、お断りさせていただきたい。
「そこっ! あざといっ!」
「ノーラ、それは良くないのです!」
エナとリンから即座にビシッと突っ込みが入った。
「レベル上限を上げる為に、ですか?」
「うっ……そうだ。お前さん、随分と察しがいいじゃねえか。ノウラはまだ魔鉱窟で五階層までしか行ってなくてな。先に大根の二階を突破したら、六階層を突破しなくてもレベル6になれるのか確認したくてな」
「やりたいことは分かりました。それで何故僕に話が振られるのかが分からないですが」
「この三人娘からのご要望だよ」
「何故エナとリンも?」
意味が分からない。今の話の流れなら、既に地下二階を突破済みのエナとリンは関係ないはずだ。
「別にいーじゃん」
「そうなのです。フトーはそんな細かいことは気にしないのですよ」
「いや、そもそもノーラ一人だけだったとしても僕が引率する必要がないですよね? この間だってギフ達だけで突破できてたじゃないですか」
「いや、今回はよお、あっちの三人も一緒に経験させちまおうと思ってるんだわ。まだコボルトに負けるくらいの奴らだからよ、戦力として計算できる人間がもう少し欲しくてな」
ギフが指さした先を見ると、そこにはかつて僕をおっさん呼ばわりした三人組がいた。
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