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ダメ思考
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貸切温泉小屋から出てきた僕は、リンに強引にベンチに座らせられてしまい、まだ開放されてない。
今日はこのあともう一回寝て、その後、ナーグマンの店に行こうと思っている。
暇そうに見えるかも知れないけど、僕にはやることがあるんだ。
そう伝えると、リンは真面目な顔をして話し始めた。
「じゃあ、せめて今回の件を断る理由を教えてほしいです。プニルとビッキーはこの世界の人ですが強くなろうと頑張ってます。タカヤマも最近スキルの使い方が分かってきたって言ってて……だから、私は、私達は彼らも一緒に強くなっていってほしいのです」
「それ、お風呂で勝負した結果、僕が勝ったから話す必要がなくなった話だよね? しかも、僕が勝った場合の報酬がなかった一方的に吹っ掛けられた勝負」
「そ、それはそうなのですが……我儘言ってる自覚はあるけど、この通りお願いします!」
そう言うと、彼女は立ち上がって深々と頭を下げた。
「筋が通ってない話だって分かってるかな? 僕にはデメリットしかないんだけど。話したくないことを話さない為のメリットのない勝負を仕掛けられて勝ったのに、僕の、言いたくない、って気持ちは無視されてるんだけど。そもそも、僕はダンジョン攻略ギルドのギルドメンバーではないし、ダンジョンチャレンジに協力する必要がないってことも無視されてるし」
実際には、ギフは今回の依頼について報酬を用意してると言ってたから、僕が彼らに付き合う必要がないことは分かってくれてるとは思うんだけどね。そこはあえて無視して話してみた。
「それはごめんなさいです。でも、それでもできればフトーの力を借りたいです。でも、理由を聞いて納得できたらそれ以上は無理は言わないですからっ」
はぁ……僕は悪くないはずなのに、なんだか僕が悪いことをしてる気分になってきた。
誠意を見せて頭を下げているようで、自分が納得したいが為に、他人にやりたくないことを強要してるってことにリンは気が付いてるのかな。
はぁ。
もういいか。
「まあ、大した理由じゃないんだよ。前にウサギの狩り場で彼らと会ったことがあってね。その時に理不尽な理由でその場を追い出されたんだ。彼らは彼らの目的の為に、他人である僕に何かを強制させたような人間だから好きじゃないってだけだ。ごめんね、小さい男で」
「で、でも、さっきプニルは謝ってましたよね。反省してるんだからチャンスをあげられませんか?」
僕はベンチから立ち上がった。
今、僕は物凄く残念な気分だ。
せっかく、少しは腹を割って話せるようになったかと思ったのに。
「だから、小さい男ですみませんって言いましたよね。今、リンさんに言われてることも、僕にだけ許すことを強要されてる気がして気分が悪いです。僕は相手が謝ってきたらどんなことでも許さないとダメですか? 僕は何かを頼まれたら全部引き受けなければダメですか? 僕は勝負に勝っても負けた相手の言うことを聞かないとダメですか? 僕には僕の意志でやりたくないことをやりたくないと言う権利はないですか? 僕が……」
リンが泣きそうな顔になったので、僕は自分が言い過ぎてるんだろうなと気が付いた。でも、相手は僕に対して色々と求めてきたのに、僕が僕の気持ちを分かってくれと言うのはダメなことなんだろうか。
人間、誰しも好きな人がいて、嫌いな人がいると思うんだけど、もしかしてそれは僕だけなのかな。
僕以外の人は、自分が嫌なことをされて嫌いになった相手でも、その人が謝ってきて助けてって言ってきたら許して助けるものなのかな。
まあ、そういう人もきっといるんだろう。
もしかしたら、リンはそういう人なのかも知れない。
自分を襲ってきた相手でも、泣くほどに酷いことをされたとしても、その人がごめんと謝れば許してしまうんだろう。その人が再び彼女に、君が相手をしてくれなかったら死ぬ、とか言って求めてきたら、もしかしたら相手をしてあげるのかも知れない。
……これは流石に言い過ぎか。でも極論を言わせてもらうなら、そういうことなんだと思う。
でも、僕はそういう聖人君子じゃないんだ。
僕は、涙を堪えているリンをその場に残して部屋に戻ることにした。
部屋に戻っても僕はなかなか眠れず、ベッドの上で色々と考えていた。
人間関係って面倒だ。
僕だって28歳まで生きてきた男だ。
友達数人とつるんで遊んでいた時期もあったし、彼女がいた時期もあった。
人の気持ちがまったく分からないという訳でもない。
だから、リンやエナが、僕のことをどう思ってるのかはなんとなく分かる。エナに関してはボディタッチが多すぎて、からかわれてるだけなのかなとも思ってしまうけど、それにしたって嫌いな男にはあんなに密着してこないだろう。
でだ。
そういうことが僕の勘違いじゃない前提でだけど、リンが僕を追いかけてきたのは、リンの理想の男性、それか僕を美化した想像のフトーなら「私の言うことを分かってくれる」し、「私の願いなら聞いてくれるはす」というのが透けて見えてしまったんだよね。
結局、そこには僕の意志が存在していないんだ。
あー、無理だ。
僕みたいな面倒くさい男の相手をできる人なんてきっといない。
お互いに寄りかからず、透明な壁が一枚あるくらいの距離感が一番いい。
敬語をやめた途端にこれだからね。
やっぱり、僕はこれからも極力一人で生きていくことにしよう。
そうしよう。
今日はこのあともう一回寝て、その後、ナーグマンの店に行こうと思っている。
暇そうに見えるかも知れないけど、僕にはやることがあるんだ。
そう伝えると、リンは真面目な顔をして話し始めた。
「じゃあ、せめて今回の件を断る理由を教えてほしいです。プニルとビッキーはこの世界の人ですが強くなろうと頑張ってます。タカヤマも最近スキルの使い方が分かってきたって言ってて……だから、私は、私達は彼らも一緒に強くなっていってほしいのです」
「それ、お風呂で勝負した結果、僕が勝ったから話す必要がなくなった話だよね? しかも、僕が勝った場合の報酬がなかった一方的に吹っ掛けられた勝負」
「そ、それはそうなのですが……我儘言ってる自覚はあるけど、この通りお願いします!」
そう言うと、彼女は立ち上がって深々と頭を下げた。
「筋が通ってない話だって分かってるかな? 僕にはデメリットしかないんだけど。話したくないことを話さない為のメリットのない勝負を仕掛けられて勝ったのに、僕の、言いたくない、って気持ちは無視されてるんだけど。そもそも、僕はダンジョン攻略ギルドのギルドメンバーではないし、ダンジョンチャレンジに協力する必要がないってことも無視されてるし」
実際には、ギフは今回の依頼について報酬を用意してると言ってたから、僕が彼らに付き合う必要がないことは分かってくれてるとは思うんだけどね。そこはあえて無視して話してみた。
「それはごめんなさいです。でも、それでもできればフトーの力を借りたいです。でも、理由を聞いて納得できたらそれ以上は無理は言わないですからっ」
はぁ……僕は悪くないはずなのに、なんだか僕が悪いことをしてる気分になってきた。
誠意を見せて頭を下げているようで、自分が納得したいが為に、他人にやりたくないことを強要してるってことにリンは気が付いてるのかな。
はぁ。
もういいか。
「まあ、大した理由じゃないんだよ。前にウサギの狩り場で彼らと会ったことがあってね。その時に理不尽な理由でその場を追い出されたんだ。彼らは彼らの目的の為に、他人である僕に何かを強制させたような人間だから好きじゃないってだけだ。ごめんね、小さい男で」
「で、でも、さっきプニルは謝ってましたよね。反省してるんだからチャンスをあげられませんか?」
僕はベンチから立ち上がった。
今、僕は物凄く残念な気分だ。
せっかく、少しは腹を割って話せるようになったかと思ったのに。
「だから、小さい男ですみませんって言いましたよね。今、リンさんに言われてることも、僕にだけ許すことを強要されてる気がして気分が悪いです。僕は相手が謝ってきたらどんなことでも許さないとダメですか? 僕は何かを頼まれたら全部引き受けなければダメですか? 僕は勝負に勝っても負けた相手の言うことを聞かないとダメですか? 僕には僕の意志でやりたくないことをやりたくないと言う権利はないですか? 僕が……」
リンが泣きそうな顔になったので、僕は自分が言い過ぎてるんだろうなと気が付いた。でも、相手は僕に対して色々と求めてきたのに、僕が僕の気持ちを分かってくれと言うのはダメなことなんだろうか。
人間、誰しも好きな人がいて、嫌いな人がいると思うんだけど、もしかしてそれは僕だけなのかな。
僕以外の人は、自分が嫌なことをされて嫌いになった相手でも、その人が謝ってきて助けてって言ってきたら許して助けるものなのかな。
まあ、そういう人もきっといるんだろう。
もしかしたら、リンはそういう人なのかも知れない。
自分を襲ってきた相手でも、泣くほどに酷いことをされたとしても、その人がごめんと謝れば許してしまうんだろう。その人が再び彼女に、君が相手をしてくれなかったら死ぬ、とか言って求めてきたら、もしかしたら相手をしてあげるのかも知れない。
……これは流石に言い過ぎか。でも極論を言わせてもらうなら、そういうことなんだと思う。
でも、僕はそういう聖人君子じゃないんだ。
僕は、涙を堪えているリンをその場に残して部屋に戻ることにした。
部屋に戻っても僕はなかなか眠れず、ベッドの上で色々と考えていた。
人間関係って面倒だ。
僕だって28歳まで生きてきた男だ。
友達数人とつるんで遊んでいた時期もあったし、彼女がいた時期もあった。
人の気持ちがまったく分からないという訳でもない。
だから、リンやエナが、僕のことをどう思ってるのかはなんとなく分かる。エナに関してはボディタッチが多すぎて、からかわれてるだけなのかなとも思ってしまうけど、それにしたって嫌いな男にはあんなに密着してこないだろう。
でだ。
そういうことが僕の勘違いじゃない前提でだけど、リンが僕を追いかけてきたのは、リンの理想の男性、それか僕を美化した想像のフトーなら「私の言うことを分かってくれる」し、「私の願いなら聞いてくれるはす」というのが透けて見えてしまったんだよね。
結局、そこには僕の意志が存在していないんだ。
あー、無理だ。
僕みたいな面倒くさい男の相手をできる人なんてきっといない。
お互いに寄りかからず、透明な壁が一枚あるくらいの距離感が一番いい。
敬語をやめた途端にこれだからね。
やっぱり、僕はこれからも極力一人で生きていくことにしよう。
そうしよう。
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