自由に自在に

もずく

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結果的に引き籠もり

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 僕は新たな魔法の創造開発に集中していた。
 部屋から出るのは食事の時間くらいになっている。
 新たな魔法を想像して創造する。
 これは意外に大変なことだった。
 創造した魔法の内容と、その効果によっては一度の試し打ちで半日以上昏倒してしまうことがあるのだ。
 だから特殊な魔法の創造には時間がかかる。

 スクロールの模倣は、既に存在する呪文をなぞって、この世界に存在する魔法を再現しているようなので比較的に簡単だったのだと思う。
 ダンジョンで創造した魔法も、既存の魔法であるセイクリッドサークルの再現と、それを元にシールドとして部分的に防御を行う改変だったり、リジェネレーションはヒールの自動継続化という改変だった。だからそれほど時間がかからなかったんだろう。

 でだ。
 僕は新たに三つの魔法を創造した。

 一つはテレポーテーション。クレアボヤンスとアポートとアスポートを元にして、物体ではなく自分を含めた生物を別の場所に移動する魔法、というか超能力だ。実はアポートやアスポートでは生物を召喚、転送することができなかったのだけど、それを可能にする能力だ。
 部屋の中でテレポーテーションで一メートル移動するだけで、僕は半日以上気を失ってしまった。まずは見えている範囲で短い距離の移動がノーダメージで使えるようになることが目標だ。

 二つ目はストレージだ。ゲームでは制限があるものの、普通は一人で持てないほどの装備や道具を持ち歩けるのが定番だけど、この魔法はまさにそれを実現するためのものだ。
 僕がイメージしたのはパソコンのプログラ厶のメモリ領域だ。プログラムがインスタンス化して動いているところが現実この世界と定義して、そことは別の何もないメモリ領域にデータを出し入れするイメージだ。
 そのデータが参照されなければ、データは永遠に不変で存在し続けられる。
 このイメージの延長線上で、他人からアクセスされないように暗号化や、データの改変や削除に備えて別の領域へのバックアップなんかも考えたてしまったのが悪かったのか、物を一つ入れるだけで僕は倒れた。
 そして、物を取り出すことでまた倒れた。

 三つ目はコピー。二つ目のストレージのバックアップから思いついた。
 存在しない物を新たに創り出すと考えると神の所業のようにも思えるけど、この世界には既に魔法がある。魔力というものなのか、自身の生命力や体力を消費してるのかは分からないけど、そういったものを消費することで水や炎、岩石などの目に見える物理的な物や、空気を圧縮したり、目に見えないなどの目に見えない力を行使するなど、無いものを創り出すという行為がある世界なのだ。だったら、存在する物をコピーする力があってもいいのかなと思って創造してみた。
 拳くらいの大きさの石のコピーは吐き気がする程度の疲労度で済んだ。とはいえ、これは四百メートル走、いや、八百メートル走を全力で走りきったくらいの疲労度だ。もはや、ダメージに対する感覚がおかしくなってきているのかも知れない。
 干し肉ジャーキー一枚でも同じくらい疲れた。
 ベッドのシーツ掛け布団でも同じくらいの疲労度だった。
 もしかしたら、質量は問わないのかも知れないと思い、ミスリルスタッフをコピーしてみたら僕は気を失って倒れたようだ。

「おはようございます」
 目が覚めた僕が店に顔を出すと、夕方の営業中だった。
「ああ! 目が覚めたのか。よかった」
「フトーくん、起きれたのね。最近、倒れたまま起きてこないことが多いけど大丈夫なの?」
 ハワードさんとネルさんから安堵と心配の声をかけられた。
 どうやら、僕は二日半も倒れていたようだ。
 どおりでお腹が空いてるはずだよ……なかなか部屋から出てこないので、ドアを開けて確認してくれたらしい。そして、床に倒れている僕を見つけたと。真っ青な顔色のまま全然起きないので医者を呼んでくれたそうだ。でも寝ているだけ、という診察結果だったらしく、起きたら飲ませるようにとポーションを置いていってくれたらしい。
 僕は二人にお礼を言って、ポーションの代金を渡そうとしたんだけど受け取ってもらえなかった。
 こういう人達は大事にしないとな……。

 この部屋で魔法を練習し続けたらまた心配をかけてしまうかも知れない。
 だから僕は、「ちょっと長めの期間、ダンジョンチャレンジをしてみようと思うので心配しないでください。また戻っきますので」と言って、暫くの間、部屋を出ることにした。
 なるべく負荷の低い、気絶まではしない内容で繰り返し訓練するつもりだ。

 部屋を出た僕は、まずはナーグマンの店に行った。
 色々あって遅くなってしまったが、出来上がってるはずの鉄塊を買うのと、曲がってしまった鉄棍を見せて、ミスリル入りの鉄棍、またはミスリル棍を造ってもらえないか相談してみた。
 実際に鉄棍では歯が立たない魔物がいるのだし、その魔物に通じる棍が欲しいという人間がいるのだから、職人さんにはなんとか対応してもらいたい。
 ナーグマンは頷きながら、「お客様のご要望にお応えできるよう、ミスリル職人に再度掛け合ってみます」と言ってくれた。
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