自由に自在に

もずく

文字の大きさ
61 / 94

家族

しおりを挟む
「いやすまねえ。金はいらねえと言ったがな、お前さんが無事に帰ったらハワードさん達は金を出そうとすんじゃねえかと思ってな。やっぱり俺が直接ハワードさんにそれを伝えようと思って来たんだが……立ち聞きするみてえになっちまった。すまねえ」

 すまねえ、すまねえと二回言いながら、ハワードさんと僕の肩を叩くギフ。
 で、エナとリンは何故ここに?

「ギフが行くんなら、わだしも行くでしょって、言って、付いてきだら……なんか家族のこと思い出しちゃって……えーん」
「私も……フトーにちゃんと謝りたかったですし、お帰りってまだ言えてなかったですし、エナだけ行かせたくなかったし……でも、フトーにもちゃんと人の心があることが分かって嬉しくて……えーん」

 いや、エナの言うことはなんとなく分かる気もするけど、リン、君は何を言ってるんだ? でも、って言葉の使い方がなんかおかしくないか?

「まあ、いいですよ。お金のことは分かったから帰ってくれて大丈夫です。明日は夕方くらいまでにはギルドに顔出しますから」
「お、おう。家族水入らずのところ悪かったな」
「ああ、ギフさん、よかったら何か作るんで食べてってください」
 え?
「そうですよ。せめてお食事くらい用意させてくださいな。フトウくんを探しに行ってくれたお礼をさせてください」
 え?
 ハワードさん、ネルさん、何を言い出すんですか……うわ、ギフもエナもリンもこっち見るんじゃないよ……はあ。
「ギルド、忙しいですよね? 僕、明日行くの」
「ありがとうございます! お母さんって呼んでもいいですか!?」
 僕の言葉を遮って店の中に入ってくるエナ。さっきまでの涙はどこに行った。それに続いてリンも入ってきて「お母様……」とか言い出し始めて……もちろん、ギフも中に入ってきた。
 ハワードさん達が「どうぞ」って言うなら僕が断れるものじゃないんだよなぁ。

 ハワードさん達が作るパンは、最初に食べた時よりも柔らかく美味しくなっている。それは単にちょっといい小麦を使うようになったからだ。貸し切り温泉に行った時の食事で、意識が少し変わったらしく、値段は据え置きでもっと美味しくできるように頑張っているところだ。
 ハワードさんもネルさんも料理は上手なので、材料さえ揃えられれば、より美味しい物を出すことができるわけだ。
「この子……あ、いえフトウくんがね、いい卸売りの方を探してくれて」
「いや、保存食を探してて偶然出会えただけですから」
「へー、フトーさん、優しいじゃん。流石わたしの同期カレシだわー」
「やめてください」
「エナ、噓は良くないのです」
「え、この娘、あなたの彼女なの?」
「いや違いますから」
「随分と若い娘を捕まえたもんだねえ」
「ハワード残!?」
「やたっ! 公認カノジョ!?」
「ゆ、許さないのです」
「ギフ、なんとか言ってくださいよ」
「がーはははははっ! まあいいじゃねえか。一緒にこの世界に呼ばれて、男爵に一緒に追い出されたんだ。縁は深いだろうが」
「「ギフ!?」」
 僕とリンがハモって抗議の声を上げた。
 僕とリンとでは抗議の内容が違うんだろうけど。
 いつの間にか、ハワードさんとギフはお酒を飲み始めていたようだ。
 これはもう、今夜はどうにもならんかもね。

 ハワードさんとギフは、キャラが全然チガウのに意気投合したようだ。ギフの笑い声は大きいものの、二人は静かにゆっくりと会話を楽しみながら飲んでいる。
 ネルさんも、そんなハワードさんを嬉しそうに見ながら時折会話に参加していた。
 席を外しても大丈夫そうな雰囲気だったので、僕は温泉に行くことにした。
 ダンジョンの中でも、クリエイトウォーターが使えるおかげで体を洗えてたけど、やっぱりゆったりとお湯に浸かりたい。

「送りますよ」
 僕を追いかけて店から出てきた二人に、僕は声を掛けた。そう言えば二人がどこに住んでるかは知らないな。
「フトー……怒ってないですか?」
「もう一ヶ月も前のことは忘れました」
「そう、ですか」
「リン、許してくれたのになんか残念そうじゃん。どーでもいいから忘れられちゃったとか考えてそう」
「そ、そんなことはないのです!」
「あれ? その反応、図星っぽい?」
「エナ、ぶり返さない。で、どっちに向かえばいいんですか?」
「わたし達、ギルドに住ませてもらってるんだよね」
「あ、そうだったんですか。ああ、そう言えば、アトリが二階から降りてきたことがありましたね」
「そ。アトリも一緒の部屋だよ」
「エナが来てうるさくなったのです」
「リンがやらかした時慰めてあげたじゃんか」
「な! あ、あの時は」
「ははは。まあ、同じ人を好きになっちゃったんだし仲良くやろーよ」
「す、好きって!」
 そういう青春っぽいのは僕が居ないところでやってやってください。僕みたいなおじさんを巻き込まないで。
 その後は二人共少し大人しくなって、そのままダンジョン攻略ギルドの前に着いた。
「じゃ、また明日ね」
「明日? あ、そうですね。なんかギフが来いって言ってましたもんね」
「ちゃんと帰って寝るのですよ。じゃ、じゃあ、お、おや、おやすみなさい」
「はいはい。おやすみなさい」
「あたしも~。おやすみなさ~い。ちゅっ」
「エ、エナ?」
「まったく。じゃあおやすみ」
 これ以上、何かに巻き込まれるのはごめんだ。
 頬にキスされたことには触れずに、僕は平静を装ってギルドから立ち去った。
 少しの間フリーズしてたリンが再起動したのか、後ろの方で「エナーッ!」という近所迷惑な大声が炸裂していたけど、僕は温泉に向かって足を早めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...