自由に自在に

もずく

文字の大きさ
77 / 94

森の熊さん

しおりを挟む
「お~。やっぱフトーさん凄いね」
「です」

 何故か狩りに付いてきたエナとリン。
 二人が付いてきてるのにテレポートする訳にも行かず、普通に早歩きで狩りのできる森まで移動した。
 歩くスピードを早くしたおかげか、付いてくるのが必死だったのか特に話しかけられなかったのは良かった。
 ただ、僕がミスリル三節棍で猪を倒すと同時に二人は話し始めた。
 とりあえず猪を倒すまでは黙ってくれてたからいいんだけど。

「フトーさんさ~、そんな強いんだから魔鉱窟ダンジョンの攻略目指そうよ~」
「いや、だから寄りかからないでください」
 いい加減慣れたけど、背中に抱きついてきて胸を押し付けるのは辞めてほしい。無邪気にやってくるけど、その胸は凶器だ。普通の反応を続けるのもなかなか難しいんだ。

「だから! エナは抱き着くんじゃないのですっ!」

 ッパーン!!

「痛った~~~いっ!」

 いい音が森に響き渡り、エナの悲鳴が上がる。
 リンに尻を叩かれたエナが、身体を仰け反らせて僕の背中から離れた。
 それから暫く、エナとリンがピーピーギャーギャー言い出した為、もう狩りどころではなくなってしまった。近くには猪や鹿はもちろん、鳥や兎を始めとした動物全部が逃げ出してしまっただろうから。

 まあ、もう猪が狩れてるからいいんだけど。
 でも他にも狩りに来てる人がいたら恨まれるだろうな。それも僕が悪い訳じゃないからいいけど。
 僕は二人のやり取りに呆れつつ、猪を持ってきた台車に乗せて帰り支度を始める。
 あとで「うるさくしてごめん」と謝られたけど、僕は不機嫌を装って返事をせずに森の中を歩いた。
 ホント、こんな嫌な男のどこがいいんだろうね、この二人は。

 でだ。
 獣はいなくなったんだけど、レーダーとクレアボヤンスにはこちらに駆け寄ってくる熊の魔物の姿が映っていた。
 どうやら騒ぎ過ぎて魔物を呼び寄せてしまったようだ。
 どうするかな。
「君らの声が魔物を呼んだっぽい」
 僕は正直に伝えることにした。
「えっごめん」
「ホントですか!?」
 二人はすぐに警戒モードに入った。ふざけててもチャレンジャーとしての動きは身に付いているようだ。
「どっちから?」
「索敵に成功したら仲間に伝えるもんなのですよ」
 仲間ねぇ。
「足音的に右後方からかな」
 足音というか、草を雑にガサガサと掻き分ける音と、魔物のガウガウいうような声が後ろの方から近付いて来ているから、流石に彼女達にももう聞こえてるんじゃないかと思うんだけど。
 この熊は、二人が以前のままだったら厳しいかな。
 前にもここで魔物の熊(魔物化した熊?)を倒したことがあるけど、その時に手に入った魔石はコボルトの二倍くらいの大きさがあった。コボルトの二倍というとコボルトファイターとコボルトナイトの間くらいの強さがあるんじゃないかと思う。
「ガゥワォ!!」
「きゃっ!」
「でっか!」
 木と木の間から枝をボキボキ折りながら現れた熊は、「見つけた!」とでも言うように吠えた。
 目がバキバキに開いてて、口からは大量のよだれが飛び散っている。その見た目は軽くホラーゲームだけど、見慣れれば「またこいつか」くらいの存在ではある。
「……■■■■ウインドアロー!」
 リンの周りに、圧縮された空気の矢が十本も現れた。その内の二本だけが熊の顔と胸に飛んでいき、熊の注意がリンの残りの矢に向く。
「スラッシュ!」
 エナが熊の左後ろ脚を長剣で切りつける。バシュッという音と共に、熊の脚にダメージが入ったエフェクトが出て、熊がさらに吠えた。
 その開いた口に三本、左後ろ脚に五本の空気の矢が突き刺さっては弾けて消えていく。
 二人共強くなってるな。
 レベルが上がってるだけじゃなくて、戦い方もスキルの使い方も、前よりも洗練されている感じだ。
 基本的にエナが敵の攻撃を回避しているけど、二人が交互に攻撃を仕掛けることで、熊の狙いが二人のどちらかに絞られることがないように調整しているみたいだ。つまり、敵意ヘイト管理ってやつがちゃんとできているようだ。
 ただ、ちょっと威力が足りてないかも知れない。
「フトー、何見てるんですか! 手伝ってくださいなのです!」
 この熊がここに来た原因は君らなんだけどね。自分のケツは……あ、女の子に使う言葉じゃないか。
 僕はストーンバレットを熊の左後ろ脚、既にダメージを与えてる箇所と膝に向けて飛ばした。石は二つとも貫通していった。
 片膝が駄目になった熊は前脚を地面に下ろした。
 手の届く位置に来たその頭に、エナの連撃が打ち込まれる。
 でも倒しきれない。
「フトーさん!」
 仕方ない、もう少し手伝うか。僕はミスリル三節棍をフレイル状にして、熊の横から胴体の真上に叩きつけた。
 その後、エナとリンの攻撃が一撃ずつ入って熊は消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...