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ぼたん鍋
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ガラガラと小さな音を立てながら猪を引いて街に帰ったあと、それをハワードさん達に渡した僕は、温泉で汗を流すことにした。
エナとリンの二人も付いてきたけど、今回はちゃんと別の小屋を利用している。
予定外のことがあって戻ってくるのが早くなってしまったけど、明るいうちに風呂に入れたからよしとするか。
僕はお湯にゆっくりと浸かりながら、今日はゆっくり休もうと思った。
のだが。
「これとこれならどっちがいいですか?」
「ちょっと~、ちゃんと見てる~?」
何故か、二人の買い物に付き合わされる羽目に……今、僕達は、少し出来るようになったチャレンジャー御用達の高級店マジックポットに来ている。
今はリンが、素早さが上がると言われている腕輪と、防御力が上がると言われている腕輪を試着しているところだ。
そういうのは機能性で選ぶ物なんじゃないのかね。
「私の装備は青がベースだから、やっぱり赤い腕輪はちょっと合わないのです」
「ん~、そうかもね~。でもこっちの黒だと全体的に暗くなっちゃうかな~。フトーさんはどう思う?」
「いや、似合う似合わないで選ぶ物ではないと思うんですが」
「無粋」
「不粋」
もう帰るか。
溜息を吐いて出口に向かうと、エナとリンが素早く回り込んできてブロックされた。
だから抱き着くなと。
でも、今のって……
「今のはちょっと素早かったような気が……」
「で、ですね! 私もちょっと速く動けた気がするのです。赤だけどこっちに決めます」
「やったじゃん。じゃ、次わたしね~」
こんな感じで、買い物にニ時間ほど付き合わされ、我が部屋に戻る頃にはもう日も暮れ始めていた。
今日はゆっくりしようと思ってたのに。
まあ、今夜は楽しみがある。
ハワードさんにお願いして、今日狩ってきた猪でぼたん鍋を作ってもらう予定なのだ。
もちろん、渡した肉はお店で使ってもらうための物なんだけど、一部は取っておいてもらえる約束になっている。
のだが。
いつもの閉店の時間になって、わらわらとやって来た客の顔を見て一気に疲れてしまった。
「なんで彼らが……」
「え、フトウくんは知らんかったのかい。エナちゃんとリンちゃんが宴会を予約してくれててなあ」
「初耳です。いつの間に……」
「今日、猪を持って帰って来てくれたときに……いや、フトウくんがぼたん鍋を一緒に食べようと言ってくれたあとじゃったかなあ」
「そうだったんですか……あの、突然無理を言われたのなら断ってもいいと思います」
「ん? ああ、わしらの体を心配してくれてるのかい。大丈夫、たまには宴会もいいもんだよ」
「いや、その、はい、ハワードさんとネルさんが大丈夫なら……」
まあ、彼らと僕の食事は別の話だ。
彼らが騒いでいる間はハワードさん達も忙しいだろうし、僕らのぼたん鍋はみんなが帰ったあとか、または明日かな。
僕は「じゃあ、またあとで」と言って部屋に入った。
そして、すぐさま魔鉱窟ダンジョンの十一階層にテレポートした。
世の中思い通りに行かないことばかりだ。
人とのやり取りの全部が全部を嫌いな訳じゃない。
でも、自分が立てた予定を崩されるのは好きじゃない。
かと言って、声を荒らげて人とぶつかるのも好きじゃない。
だから人が居ない所へ行くしかない。
安らげる場所が魔物しかいないダンジョンの中っていうのはどうなんだろう。
僕はヒヤミに変装して、魔物に溜まったフラストレーションをぶつけていった。
十一、十二、十三、十四、十五、十六、十七とボスを倒していき、その勢いのまま十八階層に突入した。
ボスエリアにはオークキング、オークナイト、オークシャーマンなどで構成された魔物が既に待ち構えている。
そして、その空洞の奥には…………次の階層への階段がなかった。
僕は部屋には戻らずに、街の路地裏に戻ることにした。
そこから徒歩で店に戻る。
部屋の中に居たはずの僕が外から帰ってきたら変かもしれないけど、なんとなく、自分が嫌で、外をぶらりとしてから帰りたい気分だった。
テレポートで部屋を出てから三時間ちょいくらい。流石に彼らももう店を出ているだろうけど、会いたくなくてというか、合わす顔がなくて、ゆっくりとゆっくりと歩いていた。
自分の浅ましさに嫌気が差してくる。
自分の判断で何かが変わってしまうかも知れない。
そう思ったら少し怖くなって、先に情報収集をしようと考えた。その時に思い浮かんだのはダンジョン攻略ギルドだった。
関わるのを嫌がって外に出て、いざ何かあれば助けを求めようと考えるなんて、自分の厭らしさに吐き気がしてきたのだ。
店に着いてしまった。
このまま帰らなければハワードさん達を心配させてしまうかも知れない。
この街を離れるなら、ちゃんと挨拶をしてからだ。
今の僕にはお金も食料もあるし、魔物に負けないだけの力もある。
だから、最初に少し考えたように、どこか人里を離れた場所に移動しよう。
僕みたいな心の卑しい人間は、一人で生きるのが一番だ。
僕は心を決めて店のドアを開けた。
「おお、お帰り。じゃあ、鍋を火にかけるかね」
「フトウくん、お帰りなさい」
僕の決意は、早くもゆらいだ。
エナとリンの二人も付いてきたけど、今回はちゃんと別の小屋を利用している。
予定外のことがあって戻ってくるのが早くなってしまったけど、明るいうちに風呂に入れたからよしとするか。
僕はお湯にゆっくりと浸かりながら、今日はゆっくり休もうと思った。
のだが。
「これとこれならどっちがいいですか?」
「ちょっと~、ちゃんと見てる~?」
何故か、二人の買い物に付き合わされる羽目に……今、僕達は、少し出来るようになったチャレンジャー御用達の高級店マジックポットに来ている。
今はリンが、素早さが上がると言われている腕輪と、防御力が上がると言われている腕輪を試着しているところだ。
そういうのは機能性で選ぶ物なんじゃないのかね。
「私の装備は青がベースだから、やっぱり赤い腕輪はちょっと合わないのです」
「ん~、そうかもね~。でもこっちの黒だと全体的に暗くなっちゃうかな~。フトーさんはどう思う?」
「いや、似合う似合わないで選ぶ物ではないと思うんですが」
「無粋」
「不粋」
もう帰るか。
溜息を吐いて出口に向かうと、エナとリンが素早く回り込んできてブロックされた。
だから抱き着くなと。
でも、今のって……
「今のはちょっと素早かったような気が……」
「で、ですね! 私もちょっと速く動けた気がするのです。赤だけどこっちに決めます」
「やったじゃん。じゃ、次わたしね~」
こんな感じで、買い物にニ時間ほど付き合わされ、我が部屋に戻る頃にはもう日も暮れ始めていた。
今日はゆっくりしようと思ってたのに。
まあ、今夜は楽しみがある。
ハワードさんにお願いして、今日狩ってきた猪でぼたん鍋を作ってもらう予定なのだ。
もちろん、渡した肉はお店で使ってもらうための物なんだけど、一部は取っておいてもらえる約束になっている。
のだが。
いつもの閉店の時間になって、わらわらとやって来た客の顔を見て一気に疲れてしまった。
「なんで彼らが……」
「え、フトウくんは知らんかったのかい。エナちゃんとリンちゃんが宴会を予約してくれててなあ」
「初耳です。いつの間に……」
「今日、猪を持って帰って来てくれたときに……いや、フトウくんがぼたん鍋を一緒に食べようと言ってくれたあとじゃったかなあ」
「そうだったんですか……あの、突然無理を言われたのなら断ってもいいと思います」
「ん? ああ、わしらの体を心配してくれてるのかい。大丈夫、たまには宴会もいいもんだよ」
「いや、その、はい、ハワードさんとネルさんが大丈夫なら……」
まあ、彼らと僕の食事は別の話だ。
彼らが騒いでいる間はハワードさん達も忙しいだろうし、僕らのぼたん鍋はみんなが帰ったあとか、または明日かな。
僕は「じゃあ、またあとで」と言って部屋に入った。
そして、すぐさま魔鉱窟ダンジョンの十一階層にテレポートした。
世の中思い通りに行かないことばかりだ。
人とのやり取りの全部が全部を嫌いな訳じゃない。
でも、自分が立てた予定を崩されるのは好きじゃない。
かと言って、声を荒らげて人とぶつかるのも好きじゃない。
だから人が居ない所へ行くしかない。
安らげる場所が魔物しかいないダンジョンの中っていうのはどうなんだろう。
僕はヒヤミに変装して、魔物に溜まったフラストレーションをぶつけていった。
十一、十二、十三、十四、十五、十六、十七とボスを倒していき、その勢いのまま十八階層に突入した。
ボスエリアにはオークキング、オークナイト、オークシャーマンなどで構成された魔物が既に待ち構えている。
そして、その空洞の奥には…………次の階層への階段がなかった。
僕は部屋には戻らずに、街の路地裏に戻ることにした。
そこから徒歩で店に戻る。
部屋の中に居たはずの僕が外から帰ってきたら変かもしれないけど、なんとなく、自分が嫌で、外をぶらりとしてから帰りたい気分だった。
テレポートで部屋を出てから三時間ちょいくらい。流石に彼らももう店を出ているだろうけど、会いたくなくてというか、合わす顔がなくて、ゆっくりとゆっくりと歩いていた。
自分の浅ましさに嫌気が差してくる。
自分の判断で何かが変わってしまうかも知れない。
そう思ったら少し怖くなって、先に情報収集をしようと考えた。その時に思い浮かんだのはダンジョン攻略ギルドだった。
関わるのを嫌がって外に出て、いざ何かあれば助けを求めようと考えるなんて、自分の厭らしさに吐き気がしてきたのだ。
店に着いてしまった。
このまま帰らなければハワードさん達を心配させてしまうかも知れない。
この街を離れるなら、ちゃんと挨拶をしてからだ。
今の僕にはお金も食料もあるし、魔物に負けないだけの力もある。
だから、最初に少し考えたように、どこか人里を離れた場所に移動しよう。
僕みたいな心の卑しい人間は、一人で生きるのが一番だ。
僕は心を決めて店のドアを開けた。
「おお、お帰り。じゃあ、鍋を火にかけるかね」
「フトウくん、お帰りなさい」
僕の決意は、早くもゆらいだ。
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