普段高校生ゲーム実況者として活動している俺だが、最近仲良くなりつつあるVTuberが3人とも幼馴染だった件について。

水鳥川倫理

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第1章

第9話、幸せの紙袋と、夕暮れの帰り道。

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俺が何気なく尋ねると、ソファでスマホをいじっていた美波が顔を上げた。

「……あ」
「ん? どうした美波」

美波はスマホの画面を俺たちに向けた。そこに映っていたのは、とあるゲーミングデバイスメーカーの広告だった。

『大人気ストリーマー・椎崎×Z-Key 数量限定コラボキーボード&マウス 発売! 本日より秋葉原特設ストアにて先行販売開始!』

俺の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
そうだ。忘れていた。数ヶ月前にメーカーから依頼があって監修したデバイスが、今日発売だったのだ。

「これ……椎崎さんとのコラボデバイス。今日発売……」
「えっ! 嘘、今日!? やばい、私完全にノーマークだった!」

七瀬が飛び起きて画面を覗き込む。

「美波、これ欲しいの?」
「……うん。絶対欲しい。このキーボード、椎崎さんが打鍵感にこだわったって配信で言ってた……」

美波の瞳が、普段見せないような熱量で燃えている。俺は冷や汗が背中を伝うのを感じた。

「あら、椎崎さんって、碧がよく見ている実況者よね? 私も気になっていたの」

椎名まで興味津々だ。

「えっ、椎名も?」
「ええ。最近、私も少しPCゲームを始めたでしょう? 前に使っていたキーボードの反応が悪くて、買い替えようと思っていたのよ。どうせなら、評判の良いこれにしようかしら」

まじかよ。俺の監修したキーボードを、幼馴染たちがこぞって買いに行く?
公開処刑に近い状況だが、ここで「行きたくない」と言えば逆に怪しまれる。

「あー、俺も……まあ、ちょっと興味あるかな」
「でしょ!? じゃあ決まり! 秋葉原行こ!」

七瀬が拳を突き上げる。

「私も、ついでにアニメイト行きたい! 今期のアニメのグッズ、今日が入荷日なんだよね!」
「……私も、VTuberのグッズショップ寄りたい」

どうやら、今日は秋葉原でのショッピングツアーになりそうだ。

「よっし! じゃあみんなで電車に乗って秋葉原に行くか!」
「おー!」

俺の号令に、三人は嬉々として支度を始めた。
俺はクローゼットから目立たない色のジャケットを選びながら、心の中で「バレませんように」と祈った。

***

最寄り駅までの道のりは、休日の穏やかな空気に包まれていた。
駅のホームにあるコンビニ(NewDays)の前で、俺たちは足を止めた。

「飲み物買おうぜ」

俺の提案に、それぞれが商品を手に取る。
七瀬は紙パックのリンゴジュース。
椎名は微糖のボトルコーヒー。
美波はストレートティー。
そして俺は、千葉・東京エリアの魂の飲料、黄色いパッケージの『MAXコーヒー』だ。

「碧、またそんな甘そうなものを……」

椎名が呆れ顔で言うが、この練乳たっぷりの甘さこそが、疲れた脳(昨晩の配信疲れ)には効くのだ。

「糖分補給は大事だぞ」

ICカードを改札にタッチし、ホームへと降りる。
電車を待つ5分ほどの間も、三人のフォーメーションは崩れない。
俺の右腕には美波がしがみつき、左側には椎名が寄り添い、正面からは七瀬が俺のジャケットのボタンをいじりながら話しかけてくる。

「ねえねえ、秋葉原行ったらさ、クレープも食べたい!」
「さっきフレンチトースト食べたばかりでしょう?」
「甘いものは別腹だもん!」

電車が到着し、俺たちは車内へ乗り込んだ。
休日の昼時ということもあり、車内はそこそこ混雑している。俺たちはドア付近のスペースに固まった。
揺れる車内で、俺を中心にしてお互いを支え合うような形になる。

「……ん」

美波が俺の手をぎゅっと握ってくる。俺も握り返すと、彼女は嬉しそうに口元を緩めた。
七瀬は窓の外を流れる景色を見ながら、「あ、あそこの看板変わった!」とはしゃぎ、椎名は揺れるたびに俺の肩に身体を預けてくる。その温もりと、ふわりと香る石鹸の香りに、俺は少しドキリとした。

「久しぶりにみんなとお出かけできてよかったね!」

美波が小さな声で呟く。

「そうだな。最近みんな部活とか生徒会で忙しかったしな」
「また、みんなでいろんなところ行きたいよね!」

七瀬が笑顔で振り返る。

「そうね。次は海か、あるいは山へ紅葉狩りもいいかもしれないわ」

椎名が未来の計画を口にする。
他愛のない会話をしているうちに、電車は都心へと近づいていき、やがてアナウンスが流れた。

『次はー、秋葉原、秋葉原です』

電車を降り、電気街口の改札を抜ける。
そこは、まさに「異世界」への入り口だった。
駅前の広場には多くの人が行き交い、巨大なビルボードには美少女キャラクターのイラストや、最新のGPUの広告が極彩色で躍っている。
街全体から発せられる熱気と電子音が、肌をビリビリと刺激した。

「着いたー! アキバー!」

七瀬が両手を広げる。

「まずは、美波と椎名のお目当てのデバイスショップだな」

俺たちは大通りを歩き、PCパーツやデバイスを扱う大型専門店へと向かった。
店に入ると、入り口の一等地に特設コーナーが設けられていた。

黒とネオンブルーを基調とした、クールなデザインのディスプレイ。
そしてそこには、俺のストリーマーとしてのアイコンである「フードを目深に被ったシルエット」のパネルが飾られていた。

『椎崎 × Z-Key コラボモデル ここに見参!』

「うわっ、すごっ……」

思わず声が出た。自分のアイコンがこんなに大々的に飾られているのを見るのは、なんだか恥ずかしいというか、尻の座りが悪い。

「あった……! これ!」

美波が駆け寄り、展示されているキーボードに触れる。

「……このキータッチ。浅すぎず、深すぎず……戻りの速さが絶妙。椎崎さんのプレイスタイルに最適化されてる……」

美波がブツブツと専門的な感想を漏らしながら、恍惚の表情でキーを叩いている。

「へぇ、デザインもスタイリッシュで素敵ね。黒のボディに、バックライトの青が映えるわ」

椎名も実物を手に取り、感心した様子だ。

「店員さん、これとこれ、ください」
「私もいただくわ」

二人は迷うことなく、そこそこ高価な(俺の監修料も入っているからな……)キーボードとマウスのセットをレジへと持って行った。

「碧は買わないの?」

七瀬に聞かれ、俺はブンブンと首を振った。

「い、いや、俺はまだ今のやつ使えるし! 見るだけでいいや!」

自分が監修したキーボードを自分で買う姿を想像し、さらにそれを店員に見られるリスクを考えると、とても手が出せなかった。

「ふーん? まあいいけど。じゃあ次は私の番ね!」

無事に「推し」のデバイス(製作者は目の前にいるが)を手に入れた美波と椎名を連れて、次は七瀬のお目当てのアニメショップへ。
七瀬がハマっているのは、最近流行りのバトルファンタジーものだ。

「きゃー! カッコいい! この缶バッジ、絶対レア出るまで引く!」

七瀬はトレーディング缶バッジの箱を物色し始めた。

「七瀬、お小遣い大丈夫か?」
「大丈夫! 今日はこのために貯めてきたんだから!」

その後、美波の要望でVTuberの専門店へ。
普段はクールな美波だが、ここでは目の色が違った。

「……あ、このアクスタ、新作。かわいい」
「……このフィギュア、造形がいい。買う」

美波が次々とカゴにグッズを入れていく。
椎名も「あら、このキャラクター、デザインが可愛いわね」と、意外にも楽しんでいるようだ。
俺は荷物持ちとして、徐々に増えていく彼女たちの戦利品が入った袋を持たされていた。

気付けば、時刻は13時30分を回っていた。
歩き回ったせいで、朝のフレンチトーストは完全に消化されている。

「そろそろお昼にしないか?」

俺の提案に、三人が同時に腹の虫を鳴らした(椎名は赤面して顔を背けた)。

「ラーメン! ラーメン食べたい! こってりしたやつ!」

七瀬が叫ぶ。秋葉原といえば、やはりガッツリ系の飯だ。

「仕方ないわね。七瀬のリクエストなら」
「……私も、ラーメン賛成」

向かったのは、黄色い看板が目印の『野郎ラーメン』だ。
おしゃれなカフェではなく、あえてここを選ぶのが俺たち流だ。

「いらっしゃいませー!」

活気ある店内に、制服姿ではない美少女三人と男一人の奇妙なグループが入店する。
俺たちはテーブル席に案内された。

「えーっと、私は『豚野郎』のニンニク増し!」

七瀬が迷わず注文する。

「な、七瀬……明日学校だぞ? 臭い大丈夫か?」
「ブレスケア飲むから平気!」

椎名は少し躊躇ったが、「……郷に入っては郷に従え、ね」と呟き、普通のラーメンを注文した。美波も同様だ。俺はもちろん、ガッツリと全部乗せを頼んだ。

やがて運ばれてきた山盛りのラーメン。

「いただきまーす!」

七瀬は豪快に麺を啜る。その食べっぷりは見ていて気持ちがいい。
椎名はレンゲと箸を使い、ラーメンですら優雅に食べている。
美波は無言で、ひたすらもぐもぐと口を動かしている。

「んー! この背脂がたまんないね!」
「……意外と、癖になる味ね。悪くないわ」

満腹になるまで食べ、店を出る頃には全員の顔が少し脂でテカっていたが、それもまた充実感の証だ。

その後も、レトロゲームの店を覗いたり、家電量販店でマッサージチェアに座って休憩したり(椎名が「極楽ね……」と呟いていた)と、秋葉原を満喫した。

15時を過ぎた頃。
両手に紙袋を抱えた俺たちは、駅前に戻ってきた。

「そろそろ帰るか!」
「うん! 満喫したー!」
「ええ、いい買い物ができたわ」
「……足、棒になったけど、楽しかった」

電車に揺られ、地元の駅に着く頃には、夕日が街をオレンジ色に染め始めていた。
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