愛は正義の名の下に

えにけりおあ

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私はお茶会が苦手

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「自己紹介させてくださいね。私はエリリシオン ユナイド。シアキス家の系譜に連なる、緑三位 ユナイド家の一人娘です」
 廊下で突然声をかけてきたのは、先日ぶつかった緑三位の方だった。

 謝罪を要求されるのだと思った。

 彼女、エリリシオン様が数日前に廊下でぶつかった上位者であることは分かっていたし、その後 しつこく私を追いかけていたことにも気付いていた。
 その理由を考えれば、廊下でぶつかり 更には二つも下位の私が持っていたノートを 膝を折らせて拾わせて、それなのにろくにお礼もせずに立ち去った事へのお怒りゆえだろうと思ったのだ。
 あの時は、預かり物の冊子を落とした事に焦っていたら、なぜか紫の制服を着た人が冊子を拾うのを手伝ってくれて、更にはぶつかったのがその人だったと気づき、その場から一刻も早く立ち去りたくて、失礼な態度を取ってしまったから。

 それなのに なぜ、私は放課後 エリリシオン様主催のお茶会に参加しているのだろう。
「オルドーシュさん、私達のお茶会はいかが? 月に一度 エリン様がお友達をお誘いされて、花壇の隅のテラスで楽しみますのよ」
「今月は、私の実家が融通した茶葉を使っていただいたの。オルドーシュさんのお口に合うかしら」
 私と同じ緑色の制服に、ラインが一本。私よりも一つ位が上の 海一位の方々が話しかけてくる。二位上位の 緑三位の方の催し事なので当たり前なのだが、上位者ばかりで粗相はできないし、知らない人ばかりだし、話には加わり辛いしで、居心地は最悪だ。しかし素直に「最悪です」と口にするわけにもいかなくて。私を誘った張本人であり この中で一番位が高く、お茶会の主催でもある緑三位のエリリシオン様になんとか取り持ってもらえないかと見てみるけれど、あちらはまた別のお友達と髪型について楽しくお話しているようで、助力は見込めそうになかった。
 正直に言って。私が、海二位の家の娘で、実家がレッティーア家に連なっていようとも、レッティーア家の人と会ったことなどないし、エリリシオン様が 緑三位のユナイド家の娘さんで、ご実家がシアキス家の系列だとしても、位持ちについての情報を暗記なんぞしていない私には 彼女がどの程度すごいのかよくわからなかった。
 けれど お友達に慕われて、毎月お茶会を開いて、位持ちとしての毎日を楽しんでいらっしゃるエリリシオン様は、確かに正しく私よりも上位の存在なのだと感じる。
 エリリシオン様と居ると、今までの私の人生が いかに閉鎖的で灰色だったかを 嫌という程思い知らされる。
 私は友達とお茶会なんてしたこともないし、流行りのおしゃれに興味もないから エリリシオン様たちのお話に加われない。
 エリリシオン様の周りは 私が普段息をしている世界とは 彩度が桁違いだ。華やかで、眩しいくらいに明るくて、真昼でも星が瞬いているようで。それが、私には少し 息苦しい。

「オルドーシュさんは、もしかして 大勢での集まりは あまり好きではなかったかしら?」
 お茶会がお開きになって、そそくさと退席しようとした私をエリン様が呼び止めるから、帰るに帰れなくなった。
 大勢での集まりが苦手か、と聞かれたら 苦手なのだろう。昔から 友人と遊ぶ時は二人きりでないと、他の友人同士が盛り上がっている中 一人であぶれてつまらない思いをしたものだ。でも ここで「苦手です」と言うのは嫌味だろう。こういう時、今日一緒にいらした海一位のお嬢様方ならどう返すのだろう。切実に私の代わりにエリリシオン様とお喋りして欲しかった。彼女達ならきっと、正しい返答をこなす事が出来るのだろう。
 でも、私には曖昧に目を逸らして誤魔化す事しかできなくて。何を言えばいいのか欠片も思いつかない私を、エリリシオン様は 位持ちらしい、何を考えているかわからない微笑みを浮かべて、見ている。
 それがまるで品定めでもしているようで、試されているような感覚は 怖くて、気持ち悪い。
 お願いだから、早く解放してくれないだろうか。早く、家に帰りたい。
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