追放された殲滅の祓魔師〜悪魔達が下僕になるというので契約しまくったら、うっかり大魔王に転職する事になったけど、超高待遇なのでもう戻れません〜

里海慧

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ヴェルメリオ編

15、破滅へのカウントダウン(5)

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 ノエルの頬に夜の冷たい空気がつきささる。六枚の白い羽根は風をとらえて、暗闇に美しく輝いていた。久しぶりの外の空気に、開放感で満たされていく。


 やっっばい、気持ちよすぎる!! 長かったんだよ、この三ヶ月!!



     ***



 シュナイクによって自分の暗殺計画が実行されると、情報を得たのは襲撃をうけた当日だった。
 アルブスのいたる所に、ノエル個人に深い忠誠を誓う者たちを潜ませている。その私兵に近い者たちから様々な情報を得ているが、この件に関してはあまり時間の余裕がなかったのだ。

 本来ならもう少し根回しして、万全の準備を整えてから便乗したかったけど仕方ない。以前から感じていた裏切りの気配を、ようやく捕まえられそうだったんだ。


 いつものように最前線で指揮を取りながら、悪魔族をはらっていると、後方からわずかな殺気を感じた。

(この殺気……僕ならわかるけど、他の隊員なら悪魔族に向けられていると思うだろうなぁ。まぁまぁ、いいセンスしてるね)

 通常ならサラリとかわすけど、今回は毒矢を受けたフリをした。本部にある私室で療養すると言って、しばらく引きこもることにする。もちろん総帥代理にはシュナイクを指名した。
 あの時の倒れる演技は、自分でもよくできていたと思う。

 途中でレオンとすれ違った際に、ちゃんと二人だけの合図を送ったから、僕に意図があることは伝わっているはずだ。
 あとは、回復担当の三番隊隊長フィルレスも僕の私兵だから問題はない。ほかの隊長たちにも負担をかけてしまうけど、特別ボーナスで黙らせればいいだろう。

 さて、それでは……せいぜい足掻いてもらおうか。


「ふふ、カウントダウン開始だね」


 この僕を敵に回したらどうなるのか、身をもって理解させてあげるよ————シュナイク。


 それから一週間くらいは、のんびりできて役得だ……とか思ってた。ほんと、最初の一週間だけ。
 読みたかった本はとっくに読み尽くしたし、心ゆくまで惰眠をむさぼった。時間が許す限りフィルに話し相手になってもらったけど、最初のうちは証拠もなかなか集まらなくて、ヒマでヒマで仕方なかった。


 ルージュ・デザライトに飛ばされたレオンの情報だけは集められなかったから、これでもかなり心配したんだ。でもよく考えると、アイツ僕より強いから平気じゃないかと気づいてしまった。

 なにせレオンは僕と同じ『特級』だ。そう、上級のさらに上の特別階級なんだ。まれに大天使ルシフェルの加護をさずかるんだけど、その場合は黒い翼の祓魔師エクソシストになる。

 本当ならレオンが総帥になるはずだったのに、アイツ面倒くさいからヤダって断ったんだよね。あり得ないよ、ホント。
 それで僕が総帥と一番隊隊長を兼任する羽目になったんだ。いつも僕が忙しいのは、レオンの責任でもあると思う。



 二ヶ月が過ぎる頃にはだいぶ証拠も集まってきて、僕も段々とやることが増えていった。
 そういえば、いつだったかテオが見舞いに来た。


「おい、それ狸寝入りだろ。ヒマだろうと思って、差し入れ持ってきたぞ」

「あーあ、やっぱりテオにはバレたね」

 そう言ってベッドから起きあがり、書類の束をうけとる。ずいぶんとカタイ差し入れなんだけど。

「まぁな、だいぶ前からわかってたけど、総帥代理のおかげで俺も忙しくてな」

「それは申し訳ないね」

 まったく悪いと思っていないけど、とりあえずの謝罪を告げて書類に目を通す。テオがブツブツ文句言ってるけど、軽くスルーしておいた。


「はぁ!? これ……事実?」

「事実。レオンって、ほんと面白いよな」

 クックッと笑いながら、テオは僕の手にある調査報告書をパラパラとめくっていく。

「……悪魔族と契約して、しかも一緒に住んでるって」

「そうなんだよ、俺も驚いた。ほら、ここも読んでみろよ」

「………………契約した悪魔族が、もうひとり増えたんだ」


 何をやってるんだろう? あのは。
 なんで! よりによって特級の祓魔師エクソシストが! 悪魔族の主人になってるんだよ!!

 あまり知られていないけど、レオンは二卵性の双子の兄だ。僕はミカエルの守護を受けた際に、ミラージュ公爵家の養子になったので姓は違うのだ。

 レオンも一緒にと声をかけてもらったけど、貴族は性に合わないと言って断ってた。あぁ、そうだった、昔からレオンってそういうところ自由なんだよ。


「でも、よくレオンのこと調べられたね。さすが四番隊だ」

「あぁ、四番隊うちのレイシーに飛んでもらってたんだ。ノエルも気になるだろうと思ってな」

「じゃぁ、レイシー副隊長にも特別ボーナス上乗せしないといけないね」

「お、われらが総帥殿は太っ腹だな!」

「ふふふ、アメとムチは上手に使わないとね?」



 こうして着々と証拠を集め、シュナイクの暗躍とは呼べない報告を受けつつ時を待った。
 一番効果的なタイミングが、先程のシュナイクがちっぽけなプライドを粉々にした時だった。

 レオンにまで手を出したんだ、底無し沼のもっともっと深いところまで沈んでしまえばいい。



     ***



 そんな事を思い出しているうちに、結界が破れたと言う中央部分までたどり着いた。仄暗ほのぐらい気持ちはしまいこみ、聖剣カエルムを右の掌に具現化させる。
 聖神力をこめると、僕の力に呼応して白く光り、刀身からは冷気がただよってくる。軽く一振りすれば、キラキラと氷の結晶が舞い散って美しい。

「久しぶりだね、カエルム。さぁ、暴れようか」

 いっそう白く輝く聖剣カエルムを、大きく振りきった。刀身から氷槍が放たれ、破れた結界へと飛んでいく。軌道上にいた悪魔族たちは、もれなく凍りついて砕けていった。

「ノエル……様?」
「ノエル様だっ!!」
「復帰されたのか!?」
「全員下がれー! ノエル様の攻撃だ!」


「お待たせ。久しぶりだから暴れたいんだ、少し離れててくれる?」


 その言葉に前線にいた隊員たちは、いっせいに引き上げた。エレナもすでに司令塔内へ戻っているようだ。イリスの安定した仕事ぶりに感心する。

 うん、みんなよくわかってくれてる。おかげで心置きなく全力が出せるよ。

 左手を前にかざして、術式を展開していく。白く光る魔術陣をどんどん大きく開いていった。この高まる聖神力をみて逃げ出す悪魔族もいた。

 逃げれるものなら逃げ出してみなよ? 僕がそんなこと許さないけど。

「マジかよ……あんなデカい魔術陣見たことないぞ……」
「ちょ、これ、もっと離れないと危なくないか?」
「総帥……実はめちゃくちゃいかってんな」


「全てをてつかせろ、凍結の女神グラシェス・デア


 その瞬間、魔術陣が消え去り悪魔族の上空から白く輝く女神が舞いおりた。女神の息吹に触れたものは凍りつき、灰になっていく。

「えっ……し、召喚……?」
「召喚なんて魔術でできんのか?」
「召喚なんて初めてみたなぁ」
「ウソだろ……ノエル様、規格外すぎる……」

 間髪入れずに、聖剣カエルムで三十本の氷槍を悪魔族の集団に叩きつけた。これで司令塔の安全は確保されただろう。

「四番隊! 結界の穴を塞いで、補強せよ! 残りの隊員は残党の片付けにあたれ!」

 いつもより離れた場所で待機していた隊員たちに指示を飛ばして、すぐに北の砦に向かった。



 北の砦はすでに半壊状態だった。伝令が伝わっているようで、アリシアとフィルは前線から退いていた。それぞれの持ち場で隊員たちを指揮している。最前線ではテオの双剣アルスが炎の軌跡を描いていた。

(テオなら……この距離からでもよけられるか)

 聖剣カエルムをいったん消して、両手に聖神力を集める。
 手のひらの間に集まった聖神力が、白く輝きながらだんだんと形作られてゆく。やがてそれは、巨大なドラゴンへと形を変えていった。


 ————食い尽くせ、吹雪龍ドラコニクス


 真っ白な龍はまたたくまに空を走り抜けて、悪魔族の塊へ突っ込んでゆく。口から吐く吹雪は触れたものを凍らせて灰にしていった。


「ノエル! お前、アレを使うときは先に言えって!!」

「でも君なら余裕でよけられるでしょ?」

 四番隊の隊長が、音もなく隣に舞い降りていた。
 燃えるような紅い髪が、ほんの少しだけ凍りついている。ニアミスだったようだ。あぁ、テオもだいぶお疲れみたいだ。

「ここはアリシアの援護もあるし、僕とテオでもう大丈夫だね。ほかの隊員たちは後方支援に回ってもらおう」

「まだ俺をこき使う気かよ……勘弁してくれ」

「全て終わったら十日間の休暇をあげるから、もう少し頼むよ」

「十日間!? マジかよ! よし、それなら今すぐ終わらせよう!!」

 俄然やる気を出したテオと、久しぶりのノエルの勇姿に興奮したアリシアによって、ものの三十分ほどで悪魔族は半分まで数を減らしていた。

 疲労の激しいものは後方支援にまわり、フィルやエレナの負担も軽くなっているはずだ。


 ここまでくれば、祓魔師エクソシストたちの勝利に間違いはなかった。
 三ヶ月ぶりに戦場に舞う、六枚の白く輝く翼を目にして、ノエルの復帰を実感した隊員たちは気持ちがたかぶるのだった。

 ところが、掃討戦に切り替わるかというタイミングで、悪魔族の軍勢が一気に引きかえしていく。
 次の攻撃を仕掛けようとしていたノエルは、今までにない事態にめずらしく戸惑っていた。

 え……? なん……だ? ……終わった?
 もしかすると、もしかして、レオンがまた何かやらかしたんじゃないよね……?

 まさかね、と苦笑いを浮かべて、破れた結界をふさぎ、補強していく。
 そして最後の仕上げをするために、執務室へと戻っていった。



「カウントダウン、0ーーーーようやく時が満ちた」
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