追放された殲滅の祓魔師〜悪魔達が下僕になるというので契約しまくったら、うっかり大魔王に転職する事になったけど、超高待遇なのでもう戻れません〜

里海慧

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ヴェルメリオ編

16、俺には効かないみたいです

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「ねぇ、レオン様……一度ベルゼブブに会ってもらえないかしら?」


 アスモデウスがそう言ったのは夕食の席だった。今日は四人でテーブルを囲んでいた。ベリアルもグレシルも動きが止まっている。
 『狂気の女王』と呼ばれていたアスモデウスも、変な誤解が解けて城の悪魔族たちと打ち解けていた。今ではみんなで協力して、俺の願いを叶えてくれている。

「アスモデウス様、それ本気なの?」

「……傀儡城くぐつじょうは、さすがにヤバくないですか?」

 もう、ここまでの会話の流れで、嫌な予感しかしないんだけど。 これは、スルーしたらダメなヤツだろうか?

「ずっと考えていたのだけど……私はレオン様に出会えて、今こんなにも幸せを感じているわ。あの、がよ?」

 自嘲気味なアスモデウスだが、その瞳には孤独や寂しさを感じなかった。本当に幸せだと思ってくれてるなら、俺も嬉しい。

「だからレオン様なら、ベルゼブブを助けられるかもしれないと思ったの。彼女も私と同じく、とても孤独な存在だから……知らんぷりしたくないのよ」


 アスモデウスって、なんだかんだ言って周りのために動くタイプなんだよな。結局あの不味くない毒も、今ではさらに美味しくなって、パワードリンクとして城のみんなに配って嬉しそうにしてるし。

 ベリアルも部下の面倒見がよくて、教えるのも上手いから、よく懐かれてる。グレシルは自由にやってるみたいに見えて、ちゃんと困ってるやつは助けたりしてるから、新人の定着率がすごくいいんだよな。

 そんな下僕たちが俺に何かを望むなら、聞き入れるしかないじゃないか。……どうか、まともな悪魔族でありますように!!


「わかった。で、その傀儡城ってどこにあるんだ?」

「即決なの!?」

「えっ! レオンさま行くんですか!?」

「だってさ、いつも俺のためにいろいろ動いてもらってるんだから、頼み事くらい聞くよ。何ができるかわからないけど、会うだけ会ってみるよ」

「レオン様……ありがとう。あとで、新開発したスーパー・パワードリンク持って行くわ」

 ……これは断っても、で釣るつもりだったんじゃないか? くっ……断れない自分が、簡単に想像できてしまう!!
 ベリアルもグレシルも、これゼッタイ断れないヤツじゃ……とかヒソヒソ話してるが気にしないことにした。



     ***



「こんなところにも城があったんだな……」

 小高い丘から、ベルゼブブがいるという傀儡城を見下ろしている。俺たちの住む城から、西に一時間半くらい飛んだところにそびえていた。
 城壁はツタと苔でおおわれて、いたるところが崩れ落ちている。たぶん風の音だと思うが、『オオオォォォォ』と不気味な声のようなものも聞こえてきていた。

 これ、は……やけに雰囲気のある城じゃないか? しかも、あんまり住環境よくなさそうだなんだけど、大丈夫なのか?
 うーん、それにしては悪魔族の数がずいぶん多いな……あんまり隙がないみたいだ。

「どれくらい兵がいるのか……正面突破は面倒くさそうだな」

「ベルゼブブは悪魔族や魔物のむくろを操るからねぇ……正確な数はわからないわ」

 今、なんか嫌な言葉を聞いた気がする。ものすごくホラーな単語が出てこなかったか?

「…………むくろ?」

「そうです! 要するに死体をお人形さんみたいに操るのです!」

「だから傀儡城と呼ばれるの。でも灰にすれば復活しないから、レオン様ならそんなに問題にならないと思うけど」

 グレシルとベリアルが追加で丁寧な説明をしてくれる。本当にできた下僕たちだ。ありがたい。

 そうか……いわゆるゾンビ城か。
 あぁ、襲撃時の次から次へと湧いてくる悪魔族の謎がひとつ解けた……じゃなくて、悪魔族のむくろって……下僕たちコイツらは平気なのか?

「なぁ、昔の仲間とか友達とかいたら……ツラくないか? なんなら俺一人で行くけど?」

 三人は瞳をパチクリとさせている。また、変なことを言ってしまったようだ。
 ふわりと微笑んだベリアルが答えた。

「レオン様……悪魔族は強者に従うのが当然のことなの。だから仲間とか友達って感覚がほとんどないから平気」

「そうねぇ、アレを見てもただの肉の塊としか思えないわね」
 
 アスモデウスもなんて事ないようにサラリと答える。

「そうですよー。私はレオンさまとベリアルさま以外なら、なんとも思いません」

 グレシルもニコニコしながら胸を張って答えてくれた。悪魔族って、やっぱり人族とは感覚が少し違うんだな。まぁ、本人たちが問題ないっていうなら、大丈夫だろう。

 とりあえず、城の守りが硬そうなのでベリアルたちに防御結界をかけて囮になってもらう。ノエルほど結界が得意ではないけど、不意打ちくらいなら防げるはずだ。

「それじゃぁ、レオン様、いってくるね」
「ふふふ、久しぶりに毒霧使おうかしらねぇ」
「じゃぁ、私、傀儡どもが逃げれないように暴風壁作りますね!」
「仕留め損ねたのは私が片付けるから任せて」
「あの、最初の一発目は私がやってもいいですか?」
「いいけれど、派手にやるのよ」

 ものすごく楽しげに作戦会議をしながら、ベリアルたちは城門へと向かっていく。数分後、ドゴォォ——ンという派手な音と共に、城門が崩れ落ちていくのが見えた。
 うん、本当に心強い。俺、いらないかもしれない。防御結界も必要……だったのか?

 大方の兵たちがベリアルたちへ向かった後、一番強い気配を感じた場所を目指す。
 近くの窓を壊して城内に入ると、かなりキレイに整えられていた。廊下はあかるく照らされて、埃などは落ちていない。等間隔で置かれている装飾品や美術品も、ていねいに磨かれている。

 これは……この管理をしているのがベルゼブブなら、すごい逸材かもしれない。ベリアルの家事に一ミリも不満なんてないけど、教育係とかの方が向いてそうだから、もったいないんだよな。ルディたちも鍛えたら、まだまだ伸びそうだし。

 そこで、閃いたアイディアにワクワクと心が躍る。
 もし、ベルゼブブが俺の城に来てくれたら、ルージュ・デザライトってもっと生まれ変わるんじゃないか?
 ちゃんと話聞いてくれるといいな……。

 隅々まで行き届いている手入れに感心しながら、王の間の扉を開けた。
 深紅のカーペットは奥の王座へと続いている。背もたれの高い華美な装飾の王座には、ひとりの悪魔族が片膝を立てて座っていた。

 黒い髪は腰まであり、サラサラと肩から流れ落ちている。こちらを見つめるのは、ルビーのような紅い瞳だ。二一歳くらいの整った顔立ちに、柔らかな深紅のロングドレスの上に黒いマントを羽織っている。
 なんの感情も浮かない、うつろな顔を俺に向けている。

「……ベルゼブブか?」

「…………我に関わるな。ここからすぐに立ち去れ」

「その前に聞きたいんだけど、この城の中ってベルゼブブが綺麗にしてるのか?」

「………………早く去れ」

 まったく話す気ないのかよ! でも、諦めたくないな……うーん、どうしよ。あれ? なんかベルゼブブの顔色が悪くなってないか?

「…………っ! に、逃げろ……!」

 途端にベルゼブブから黒い闇があふれ出してくる。あっという間に王の間は闇に包まれた。俺の体にも黒い闇がまとわりついてくる。
 闇の中に見えるのは、俺と赤いドレスのベルゼブブだけだ。

「おぉ、真っ黒だな。これはベルゼブブの魔力なのか?」

「……………………!?!?」

 何故だか瞳を見開き、驚きにかたまっている。今のどこにビックリする要素があったのか、まったくわからない。

「あのさ、俺、頼みたいことあるんだ」

「…………へい……き?」

「うん? 何が? この黒い闇みたいなヤツ?」

 ベルゼブブは高速でコクコクとうなずいている。

「あー、俺、祓魔師エクソシストだから、悪魔族の魔力が効かないのかもな」

「そう……なのか。では、我といても……闇に堕ちないのか?」

 信じられないといった表情で、でもその瞳には期待に満ちた光が灯っていた。
 なんともないけど……たぶんオート回復が働いてるんだと思う。もしかして、アスモデウスの毒を飲みまくったから、いつのまにか進化したのかもしれない。

「うん、大丈夫みたいだな」

 その瞬間、俺にまとわりついていた闇が全身を包み込んだ。さっきまで前方にいたベルゼブブも、見えなくなっている。

「いやっ……違うのだ! こら! 収まれ!」

「大丈夫だけど、何も見えない」

「す、すまぬ……感情が、昂って……暴走、し……あああっ!!」

 俺を包んでいる闇が、さらに濃くなった気がした。さすがに上下左右の感覚もわからなくなってくる。どうやら、ベルゼブブの魔力操作が上手くいかずに暴走しているらしい。

「おーい! これどうすれば止まるんだ?」


「……て。……ころ……し……て」


 いや! いやいやいや!! さっきのちょっと嬉しそうにした顔を見た後じゃ、そんなことできませんから!!
 しかも、俺の計画をサポートしてくれる可能性もあるしな……ここは全力で助けるしかない!!

 気絶するくらいの衝撃と同時に、あふれてる魔力を結界で抑え込むか。結界を付与する器がほしいな……魔石とか? 

 問題は都合よく魔石があるかだな。そして、そこが一番問題なんだよ!!
 城の宝物庫とかならあるかも……でも場所わからん。うーん、宝っぽいもの……宝?
 あ、あった。
 廊下に飾ってあった盾に魔石が付いてた!

「ベルゼブブ、いま助けてやる!」

 俺は漆黒の翼と聖神力を解放して、まばらに紫雷を放った。紫雷が届いたところは深い闇が晴れて、深紅のカーペットが見えている。扉を確認し、高めた瞬発力で一瞬のうちに盾を手にして、ベルゼブブの前に戻ってきた。

 絶え間なくドロドロとした闇がまとわりついて、引きずり込もうとしてくる。それを小さい紫雷を無数に放って蹴散らした。

 ベルゼブブが気絶するくらいの攻撃か……ちょっと大技だけど我慢してくれよ。

 手のひらを上に向けて、両手を広げる。頭上に現れた魔術陣が、紫雷のようにバチッと音を立てて光った。聖神力をかなり強めに込めて、術を発動させる。


聖夜の紫雷陣ルナ・トルトニス


 俺を中心とした半径五メートルの魔術陣の下に、隙間なく紫雷がほとばしった。どこにも逃げ道はない。
 紫の雷に一気に打たれたベルゼブブに、魔石がはめこまれた盾を装着させる。そして魔石に結界の力を封じ込めた。

 その途端に、先程までまとわりついてきた闇がキレイに消え去ってゆく。
 闇に埋もれていたベルゼブブが、ふらりと倒れかけたので慌てて抱きとめた。

「は——、なんとかなったぁぁぁ……。とりあえず、俺の城に戻った方がいいよな」

 ベルゼブブが気を失ったことで、魔力が途切れたせいか外にいた傀儡の兵たちは灰になってしまったようだ。気配が綺麗さっぱりなくなっている。
 ベルゼブブを横抱きにして、入ってきた窓からベリアルたちの元へと飛んでいった。



 目の前に三人の下僕たちが土下座をしている。それはそうだろう、この状況だ。俺は主人として正しく怒声を浴びせた。

「お前ら! やりすぎだ!!」

「「「……ごめんなさい」」」

 外に出たレオンが目にしたのは、城門に限らず、いたる所が破壊されて半壊状態になった傀儡城だった。
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