追放された殲滅の祓魔師〜悪魔達が下僕になるというので契約しまくったら、うっかり大魔王に転職する事になったけど、超高待遇なのでもう戻れません〜

里海慧

文字の大きさ
38 / 59
ブルトカール編

38、黒いふたり

しおりを挟む
 俺とグレシルは牢屋に入れられた後、共謀して逃げる恐れがあると、今は独房に移されていた。結局、仮面も取られてしまって、二メートル上の小さな窓から差し込む、月の光を眺めている。

 多分、この首輪も壊せるだろうけど……あんまり暴れると、後で大魔王だってバレた時に面倒くさいし……身動きが取れないな。

 ルディにも全然つながらないから、ここはきっと強い結界がはられてるんだろ。ベルゼブブあたりに相談してくれれば、何とかなりそうだけど……ベリアルも置いてきたし、無事でいるかな————

 月の光を眺めながら、そんなことを考えていた。カツン、カツンと誰かが近づいてくる足音が聞こえる。
 それは、俺の牢屋の前で立ち止まった。



「…………へぇ、ずいぶん余裕そうだね」

 なじみ深い声に驚いて振り返ると、そこにいたのは俺の片割れだった。

「えっ……ノエル!? 何で!?」

「何では僕のセリフ。思ったより平気そうだから、そのままでいいかな?」

「いや、ごめんなさい。バカやりました。助けてください」

 ヤバい、ノエルが怒ってる! 割と本気で怒ってる!!
 俺は素直に謝った。ビシッと土下座で謝った。

「助けてほしい? そう、でも、こんな王の自覚ないヤツが、配下に迷惑かけまくって、ノンキに大魔王ですって顔してるの、どうかと思うんだよね」

 うわー、刺さる。めちゃくちゃ刺さる。ですよね、そうですよね。はい、わかっております。全面的に俺が悪いです。

「はい、ごめんなさい。深く、反省してます。もう、勝手に国から抜け出したり、ルディに身代わり頼んだりしません」

「ねぇ、レオンに何かあったら、国の民が困るんだよ? 残された悪魔族たちが、どうなるか考えたの? 何でもいうこと聞いてくれるからって、好き勝手やるのは違うよね?」

「ごめんなさい、考えてませんでした……」

「次やったら、僕がレオンを引きずりおろすよ?」

 それはそれは低ーい、地獄の底から聞こえてくるような声で、宣言された。

「はい……わかり、ました」

「僕だって……心配したんだからね」

 フッと漏れた、ノエルの家族としての本音に、心が締め付けられる。
 うん、本当にわかってる。俺を怒ったのも、俺のことを本気で考えてくれてるからだろう? きっと俺をここから出すために、手を尽くしてくれたんだろ?
 俺は立ち上がって、鉄格子に手をかけた。

「うん、本当にごめん。ノエル、ありがとう。怒ってくれて、ありがとう。もう無茶しない」

 俺は幸せ者だと思った。本気で心配して怒ってくれる家族がいる。そんな大切な家族が、胸をはって自慢したくなるような自分になるよ。



     ***



「ブルトカールの王様に会うのか?」

「そう、今回、内密に国王に会ったんだ。そこで、ひとつ奴隷に関する提案をしたら、興味を持ってくれてね」

 俺はノエルに独房から出してもらった後、城の隠し通路を使って密談の場所へむかっていた。案内してくれているのは、宰相のエンリッチ公爵だ。

「二年前から法は施行されてますが、お恥ずかしい話、実際の取り締まりが進んでいないのです」

「だから、ある条件を提示して、君とグレシルを出してもらったんだよ」

「そっか、で、ある条件って?」

「それは、国王と会ってから話すよ」

 そうか……何となく、その条件の想像つくんだけど……。独房から出してもらえるくらいだもんな。うん、もう、やるしかないな。



 しばらく通路を進んで階段をのぼり、隠し扉からある部屋に入った。窓はなく小さなテーブルと椅子が四脚おかれている。
 正面にはもう一つ扉があって、そこからフードを被った大男が入ってきた。


「待たせてすまない」

「いえ、私たちも今着いたところです」

 ノエルが防音と防視の結界をはると、大男はおもむろにフードを外した。琥珀色の瞳がギロッと俺を睨みつける。

「ブルトカール国王、クリストファー・ウルネ・ブルトカールだ。君がルージュ・デザライトの大魔王ルシフェルか?」

「そうだけど……もしかして疑ってる?」

「いや、疑ってはいないが、実力を少し見せて欲しいとは思っている」

「わかった、じゃぁ、コレ壊してもいいか?」

 俺は首輪を指さして了承をもらう。なるほど、だからノエルは首輪を外さなかったんだな。力を示せってことなんだろう。

 聖神力を全開で解放する。手枷と違って、薄い膜に閉じ込められてるようで、気持ち悪い。結界タイプの拘束具みたいだな。それなら、一点集中の方が効率いいか。


 淡く光る紫の瞳が、より輝く。首輪に向けて、さらに聖神力を解放させた。

 バギンッ! ガキンッ! メキメキメキッ! バキンッ!
 首輪が弾けるのと同時に、六枚の黒い翼が具現化して俺の背中に広がった。


(何と! これは隷属の首輪を改良した、絶対拘束の首輪だぞ……あの超強力な結界を破ったのか! そして、この六枚の黒い翼……文献でしか読んだことがなかったが、幻の祓魔師エクソシストではないのか!? それが大魔王ルシフェルだというのか!)

 クリストファーはチラリとノエルに視線をむけた。穏やかに微笑む笑顔には「他言無用」と書いてある。そして、その裏に潜む、鋭利な殺気も感じとった。他言する気はないと、静かにうなずく。同時にノエルから殺気が消えた。

 視線をレオンに戻すと、コキコキと首を鳴らしている。なんとも気の抜ける男だとクリストファーは思った。

「はぁー、スッキリした」

「何と……を内からの力のみで破壊するとは……うむ、充分だ。悪魔族の王というのに充分な実力だ」

 そうして国王は穏やかに目を細めた。

 なんかとか言ってたけど、え、普通の拘束用の首輪じゃないの?



「では、早速本題に入ろう」

 そう言って椅子に腰掛けた。レオンたちも続いて椅子に座る。

「実は奴隷制度を廃止するために法律も整えたのだが、貴族からの反発があって、取り締まれていないのだ。未だに裏で奴隷の売買がされている」

「奴隷商人なら知ってる。誰も話聞いてくれなかったけど」

「こちらも奴隷商人の見当はついているが、踏み込んでも証拠が抑えられず、追い詰められないのだ。だから、ルシフェル殿の話は嘘ではないとわかっている」

「そこで、僕から提案したんだよ。奴隷商人と奴隷を買うような貴族や富豪たちを一気に捕まえるから、仲間を牢屋から出してくれって」

「わかった。それなら俺と悪魔族たちも、全面的に手を貸すと約束する」

 つまりは、奴隷商人とその客たちを捕まえるなら、牢屋から出してやるってことだよな? もちろん、喜んで働かせていただきます!

「よろしく頼む。ところで……」

「うん?」

「ルシフェル殿は何故、奴隷たちを買おうとしたのだ?」

 実は、今回の密談の前にもうひとりの悪魔族に、話を聞いていた。彼女はルシフェルの解放を伝えると、今回の事件に至った経緯を話してくれた。

「あー、あそこで、あの人たちを俺が買い取れば、みんな自由にできると思ったんだ」

 買い取った奴隷を自由にする……? たしかに、そのように命令すれば、首輪を外して解放できるが……。

「それでは、金をドブに捨てるようなものではないか」

「だけど、知らんぷりしたくなかったしな。俺の下僕たちは優秀だから、すぐに同じくらい稼げるし」

「なんと……欲のない」

 何というか、私の周りにはいないタイプだ。ブルトカールの国王である私にも怯まず、何かを求めるわけでもない。しまいには、他国の奴隷のために、金を捨てるつもりだと?

「……そうか。そのような優秀な人材が集まるのも、また実力だ。君たちを気に入ったよ。これからもよろしく頼む」


「では、少し騒がしくなりますが、これから僕たちがすることは一切不問にしてください」

 ノエルが黒い笑顔を浮かべている。今後の計画に何か追加要素ができたようだ。

「ほぅ……なにか企んでいるな。いいだろう、好きにやってくれ」

 クリストファーもニヤリと笑う。
 やっぱり一国の主人って、腹黒が多いんだな。ノエルもいい感じで黒いのは知ってる。あぁ、このふたり気が合いそうだ……なんて考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

処理中です...