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ブルトカール編

42、病の原因

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 ベルゼブブとアスモデウスがルージュ・デザライトの城に戻ると、数名の悪魔族たちがベッドの中でうなっていた。
 サリーに聞くと、症状は発熱と嘔吐、下痢などだ。発症した悪魔族たちは回復の兆しが見えず、起き上がることもできなかった。

「ベルゼブブ、患者を、一か所に集めて、症状の違いや経過を観察したいわ。手伝ってもらえるかしら?」

「うむ、もちろんじゃ。アスモデウスはそのまま病を調べるのであろう? 我は書物などを調べよう」

「ええ、そうしてもらえると助かるわ」



 アスモデウスの私室に近い広間に、次々と倒れたものたちが集められた。倒れたのはここにいる悪魔族たちだけで、途中から来た奴隷たちはピンピンしている。
 むしろのこの状況で、様々な手伝いをしてくれていた。

「悪魔族にだけかかる病なのかしらねぇ……?」

 アスモデウスはサリーが用意してくれた、発症した悪魔族たちの資料を読み込んでいた。

 最初に倒れたのは、菜園担当の悪魔族だ。その後も菜園担当の者が三人倒れ、次は城の清掃担当が倒れた。
 そこからは執務補佐の担当者や、料理担当、広報担当、そしてルディだ。職種にまとまりがない。つまり、接点がなくても発症している。

 性別も男女偏りがない。年齢も上は五百歳、下は六十歳と幅広い。魔力量はわりと多めの悪魔族が多かった。

(まだこれだけでは絞り込めないわね……周りの悪魔族たちにも話を聞かないと。ルディは……話ができるかしら)



「ルディ……調子はどう?」

「アスモ……デウスさ、ま。はぁ……流石にツラい……です」

 ルディは高熱と嘔吐がひどく、会話するのもつらそうだ。アスモデウスは手早く終わらせるために、端的に質問する。

「この症状は、一気に出たの? それともジワジワ出てきた?」

「え……と、たしか……何日か、ちょっと調子悪くて……それから一気に……」

 他にも気になることを、何項目か確認していく。五分ほど話したところで、ルディの体調を考慮して切り上げることにした。

「そう、わかったわ。ありがとう。もう休んでていいわ」


 これは資料にはなかったわね。もしかして、少し前から症状が出始めているのかしら? それなら————




 アスモデウスと薬品担当の配下たちは、大広間に城の悪魔族たちを集めて、症状の聴取をしていた。

「アスモデウス様、この三人は軽い症状が出ています」
「こちらも、ひとりいました」

「そうねぇ、それじゃぁ、その者たちの行動パターンや食事など細かく聞き出してまとめてくれるかしら?」

「「はい!」」


 こうして詳しく調べてみると、症状が軽すぎて申告していない悪魔族が二割ほどいた。
 共通しているのは、魔力量の多い中位以上の悪魔族ということだ。それから共通して食べているものも、何個かあった。

 しかし、もう二日も調べていてヒントはあるものの、原因には行きあたっていない。

(この辺にもヒントはありそうだわ……ベルゼブブにも相談してみようかしら)

 ベルゼブブは城の図書室で、書物を片っ端からあさっている。図書館に向かう途中、先日レオンが買い取ってきた奴隷たちと悪魔族が、食堂の前で何やら話し込んでいた。



「え、これ違う種類なの!?」
「そうよ、見た目はそっくりなんだけどね。私たちは鼻がいいから、匂いでわかるよ」
「さすが獣人族だ。我ら魚人族では判別できないな」
「本当だね、食べたらすぐわかるのに!」
「ははっ、間違いないな」



 耳に入ってきた内容に、足が止まった。何かがアスモデウスの頭に引っかかる。

 見た目がそっくり? 食べたらわかる? 何かが食べ物に混入してしまったの……?


「……なんの話かしら?」

「アスモデウス様! あの、たいしたことじゃないんです」

「いいのよ。調べ物をしていて気になったから、聞きたいの」

 料理担当の悪魔族は、それならとおずおず話し始める。右手と左手にそれぞれ、キノコのような黒い塊がのっていた。

「これ、マルチトリュフと、マジックトリュフなんです」

「マジックトリュフ……ですって?」

 マルチトリュフは最近、菜園で栽培を始めた食料のひとつだった。生でも食べられるし、パスタや肉料理などの風味付けに使われている。これを足すと味に深みがでて美味しくなるのだ。

「私たち気がつかなかったんですけど、獣人族の方が言うには、この二種類がごちゃ混ぜになってるみたいなんです」

「そういうことだったのね……! 貴方たちお手柄よ! 獣人族の皆さんにお願いがあるだけれど、いいかしら?」

「もちろんですよ! あんな場所から助けてもらったんです! なんでも言ってください!!」

 アスモデウスは獣人族と料理担当の悪魔族、他にも手伝えるものを全て食堂に向かわせた。そして二種類のトリュフの仕分けを頼むと、ベルゼブブのもとへ急いだ。



 城の図書室の扉を開け放ったまま、ズンズン奥へと進んでいく。

「ベルゼブブ! わかったわ!」

 アスモデウスの明るい声に、ベルゼブブは山積みの本の間から、ひょっこりと姿をあらわした。

「わかったとは……原因がわかったのか? それはまことか!?」

「ええ、原因はマジックトリュフよ」


 悪魔族を苦しめていた原因がわかったのだ。原因がわかれば対処方法もわかる————はずだった。
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