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聖なる光
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信じられない景色が続いている。
ゴアドア王国の周囲には、今でも国を護るように樹海が広がるが、それはもう暗黒の森ではない。大地の幸が豊かに実り、小鳥がさえずり、生き物達が命を育む幸福の森へと生まれ変わっていた。
明るい木々の輝きに、ミアは泣くのも忘れて見惚れた。
「驚いたでしょ、ミア。暗かった森が一晩で様変わりしてるから、僕らもひっくり返ったよ」
ルズが陽気に話しかけた。いつもと変わらぬ活発な声は、ミアを元気付けようとしている。
「サキ博士が待ってるよ。ミアが淹れる美味しい紅茶を飲みたいって、お湯を沸かしてね」
「うん。ありがとう、ルズ」
彼らの思いやりが胸に沁みて、ミアは再び涙を零した。
もうすぐ屋敷が見えてくる。あの人の屋敷が。あの人のいない、空っぽの屋敷が……
「え……?」
絶望に苛まれながら前方を見つめるミアは、瞬きを止める。
屋敷の周囲の色が、いつもと違っていた。
ルズが降下を始める。だんだんと視界がはっきりしてきて、ミアは驚きのあまり声も出せなかった。
屋敷、物見櫓、豆の木、何も変わらない。
だけど、その周囲には、ピンク、白、黄、紫、オレンジ……色とりどりの花達が咲き乱れている。
「お花畑……」
ルズがふわりと、芝草の上に着地した。その瞬間、ぱっと変身して人間のルズになった。
「お帰りなさい、ミア」
ミアの手を取り、にこりと笑う。ミアも笑おうとするが、うまくできない。戸惑いと、哀しみと、様々な感情が押し寄せていた。
「ミアさん、お帰りなさい!」
食堂の窓を開けて、サキが走ってきた。両手を広げ、抱きしめてくる。
「無事だったのね。ああ、本当に、ほんとうによかった!」
サキの勢いに押され、ミアはよろけた。足に力が入らず、ふらついている。
「さあ、こっちへきて」
「は、はい」
屋敷へ入るよう促されたが、ミアは立ち止まる。
後ろを振り向き、明るい花畑を隅々まで眺めた。やはり、求める人の姿はどこにも見えない。
「さ、早く」
サキはミアの肩を抱いて、屋敷の中へ連れて行こうとする。しかしミアはかぶりを振った。
「いい……」
「えっ?」
「私は、いい。もう、この家には住まない」
サキもルズも目を瞬かせる。
「何を言っているの。あなたの家よ」
「違う。私の家は、ここじゃない。だって……」
再び視界が滲んできた。
どうしようもない絶望が、彼女の気力を奪ってゆく。ミアはがくりと膝をついた。
小さくなって、肩を震わせ泣いている。
サキはミアの背中を優しく撫でると、ゆっくりと言い聞かせた。
「あなたは何を望んだの、ミア。お花畑? それだけではないでしょう」
ミアはこくりと頷く。
「何を望んだの?」
サキは繰り返す。彼女の瞳もまた、濡れて光っていた。
「何にも……縛られないで、愛する家族に、囲まれて」
「うん」
「幸せに、暮らしたいと。愛する人と……一緒に」
「そうよ。そう願ったのよね」
サキの横にルズも座って、ミアを覗き込んだ。
ゴアドア王国の周囲には、今でも国を護るように樹海が広がるが、それはもう暗黒の森ではない。大地の幸が豊かに実り、小鳥がさえずり、生き物達が命を育む幸福の森へと生まれ変わっていた。
明るい木々の輝きに、ミアは泣くのも忘れて見惚れた。
「驚いたでしょ、ミア。暗かった森が一晩で様変わりしてるから、僕らもひっくり返ったよ」
ルズが陽気に話しかけた。いつもと変わらぬ活発な声は、ミアを元気付けようとしている。
「サキ博士が待ってるよ。ミアが淹れる美味しい紅茶を飲みたいって、お湯を沸かしてね」
「うん。ありがとう、ルズ」
彼らの思いやりが胸に沁みて、ミアは再び涙を零した。
もうすぐ屋敷が見えてくる。あの人の屋敷が。あの人のいない、空っぽの屋敷が……
「え……?」
絶望に苛まれながら前方を見つめるミアは、瞬きを止める。
屋敷の周囲の色が、いつもと違っていた。
ルズが降下を始める。だんだんと視界がはっきりしてきて、ミアは驚きのあまり声も出せなかった。
屋敷、物見櫓、豆の木、何も変わらない。
だけど、その周囲には、ピンク、白、黄、紫、オレンジ……色とりどりの花達が咲き乱れている。
「お花畑……」
ルズがふわりと、芝草の上に着地した。その瞬間、ぱっと変身して人間のルズになった。
「お帰りなさい、ミア」
ミアの手を取り、にこりと笑う。ミアも笑おうとするが、うまくできない。戸惑いと、哀しみと、様々な感情が押し寄せていた。
「ミアさん、お帰りなさい!」
食堂の窓を開けて、サキが走ってきた。両手を広げ、抱きしめてくる。
「無事だったのね。ああ、本当に、ほんとうによかった!」
サキの勢いに押され、ミアはよろけた。足に力が入らず、ふらついている。
「さあ、こっちへきて」
「は、はい」
屋敷へ入るよう促されたが、ミアは立ち止まる。
後ろを振り向き、明るい花畑を隅々まで眺めた。やはり、求める人の姿はどこにも見えない。
「さ、早く」
サキはミアの肩を抱いて、屋敷の中へ連れて行こうとする。しかしミアはかぶりを振った。
「いい……」
「えっ?」
「私は、いい。もう、この家には住まない」
サキもルズも目を瞬かせる。
「何を言っているの。あなたの家よ」
「違う。私の家は、ここじゃない。だって……」
再び視界が滲んできた。
どうしようもない絶望が、彼女の気力を奪ってゆく。ミアはがくりと膝をついた。
小さくなって、肩を震わせ泣いている。
サキはミアの背中を優しく撫でると、ゆっくりと言い聞かせた。
「あなたは何を望んだの、ミア。お花畑? それだけではないでしょう」
ミアはこくりと頷く。
「何を望んだの?」
サキは繰り返す。彼女の瞳もまた、濡れて光っていた。
「何にも……縛られないで、愛する家族に、囲まれて」
「うん」
「幸せに、暮らしたいと。愛する人と……一緒に」
「そうよ。そう願ったのよね」
サキの横にルズも座って、ミアを覗き込んだ。
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