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化け猿の花嫁
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(この人は本当に、キングなのだわ)
あらためて確信する。
私にとって彼は一番苦手な……いや、生理的に無理なタイプだ。なにより、あの動画は恐怖でしかない。本人は傑作と、自画自賛しているが。
降りしきる雪の中、半裸で佇む不気味な妖怪。常軌を逸した叫び声と、盛り上がる筋肉、飛び散る汗。
狂気にまみれた化け猿が思い出されて、私はぞっとする。
ダメだ。
のんびり飲茶している場合ではない!
「あのっ、由比さん!」
最後の点心を食べ終えたところで、ようやく私から声を発した。
「うん、どうした?」
「えっと……」
卓が片付けられて、デザートのマンゴープリンが供される。お茶も新しく淹れてもらった。
食事が終われば、お見合いも終わる。
早く断らなくちゃ――そう思うのに、震えてしまうのは怖いから。もし断ったら……この人は、怒りまくるかもしれない。
でも、勇気を出さなければ私は、化け猿の花嫁になってしまう!
「ああ、そうそう」
「……!?」
このお見合い、お断りします!ーーと、言いかけたところに声が被さる。見ると、由比さんがいつの間にか、デザートを食べ終えていた。
「俺の正体についてもびっくりしただろうが、今回の見合いも驚きだっただろ。外部に漏れないよう進めたからな」
「えっ?」
食事終了を前に、別の話題にシフトしたようだ。
「奈々子のお父さんには口止めしたから、いきさつについては、さっぱりだよな?」
「え、ええ。ただ、ヒントはくれたので、もしかしたら由比さんかもしれないって、予想はしていました」
「ほう」
でもまさか、由比さんが『化け猿』だったなんて。もし知っていたら、ここには来なかったです……とは言えるはずもなく、口をつぐんだ。
「これまでの経緯をちゃんと話すよ。君も、聞いておきたいだろ?」
「そ、そうですね」
つまり、スキー場デートのあと、二人が別れてからのことだ。彼がどうやって父にコンタクトして、お見合いを段取りしたのか……
どうせ破談になるのだから、どちらでもよかったが、とりあえず聞いておこう。
私はプリンを急いで食べ、お茶を一口含むと、耳を傾けた。
「あの夜、奈々子が望まぬ結婚をすると知って、俺はその場で対策を考えた。モタモタしてると、見合い相手のオッサンに取られちまうからな。君を確実に手に入れるにはどうすればいいかーー閃いたのは、一つの案だ。手っ取り早い方法は、この俺が政略結婚の相手に成り替わることだってね」
由比さんの目がキラキラと輝き始める。
彼は私を見つめながら、見合いのいきさつについて、ウーチューブの話題と同じくらいの熱量で語った。
「ホテルで別れたあと、俺は東京へ直行し、特務室のリサーチ担当とともに、大月家について調査した。手段は端折るが……翌朝にはすべての情報が出揃ったよ。大月家の家族構成から、会社の経営状態、見合い相手との取引内容に至るまで、詳細にね。で、即日サカザキ不動産に乗り込んで、交渉開始だ」
「えっ……東京に戻った、次の日に?」
そういえば、私が旅行から帰った夕方には、父が新たな見合い話を用意して待っていた。あの時すでに、由比さんが話をつけていたということ。
驚くべきスピードである。
情報収集力もすごいけれど、由比さんの行動力は尋常ではない。
「重視したのは、大月不動産の社長はお金が大好き、という情報だった。商売のやり方も、かなりシビアとの報告も受けている。つまるところ利益優先の人物であり、だから坂崎社長は、結婚の見返りとして高額の援助を提示したそうだ。そうなると話は簡単。俺はサカザキ不動産に有益な取引先を紹介して手を引かせ、君のお父さんには坂崎社長の5倍の援助を約束すると伝えて、交渉成立。坂崎社長によると、お父さんは最初こそ驚いたものの、『娘が幸運を運んできた』と、大喜びしたとか」
「そっ、そう、だったんですね」
私は恥ずかしさのあまり、全身が震えた。由比さんは、私の父親について徹底的に調べたのだろう。
業界での評判とか、見栄っ張りで独善的な性格や、商売のためなら娘も駒にする、冷たい人間であることも。
あらためて確信する。
私にとって彼は一番苦手な……いや、生理的に無理なタイプだ。なにより、あの動画は恐怖でしかない。本人は傑作と、自画自賛しているが。
降りしきる雪の中、半裸で佇む不気味な妖怪。常軌を逸した叫び声と、盛り上がる筋肉、飛び散る汗。
狂気にまみれた化け猿が思い出されて、私はぞっとする。
ダメだ。
のんびり飲茶している場合ではない!
「あのっ、由比さん!」
最後の点心を食べ終えたところで、ようやく私から声を発した。
「うん、どうした?」
「えっと……」
卓が片付けられて、デザートのマンゴープリンが供される。お茶も新しく淹れてもらった。
食事が終われば、お見合いも終わる。
早く断らなくちゃ――そう思うのに、震えてしまうのは怖いから。もし断ったら……この人は、怒りまくるかもしれない。
でも、勇気を出さなければ私は、化け猿の花嫁になってしまう!
「ああ、そうそう」
「……!?」
このお見合い、お断りします!ーーと、言いかけたところに声が被さる。見ると、由比さんがいつの間にか、デザートを食べ終えていた。
「俺の正体についてもびっくりしただろうが、今回の見合いも驚きだっただろ。外部に漏れないよう進めたからな」
「えっ?」
食事終了を前に、別の話題にシフトしたようだ。
「奈々子のお父さんには口止めしたから、いきさつについては、さっぱりだよな?」
「え、ええ。ただ、ヒントはくれたので、もしかしたら由比さんかもしれないって、予想はしていました」
「ほう」
でもまさか、由比さんが『化け猿』だったなんて。もし知っていたら、ここには来なかったです……とは言えるはずもなく、口をつぐんだ。
「これまでの経緯をちゃんと話すよ。君も、聞いておきたいだろ?」
「そ、そうですね」
つまり、スキー場デートのあと、二人が別れてからのことだ。彼がどうやって父にコンタクトして、お見合いを段取りしたのか……
どうせ破談になるのだから、どちらでもよかったが、とりあえず聞いておこう。
私はプリンを急いで食べ、お茶を一口含むと、耳を傾けた。
「あの夜、奈々子が望まぬ結婚をすると知って、俺はその場で対策を考えた。モタモタしてると、見合い相手のオッサンに取られちまうからな。君を確実に手に入れるにはどうすればいいかーー閃いたのは、一つの案だ。手っ取り早い方法は、この俺が政略結婚の相手に成り替わることだってね」
由比さんの目がキラキラと輝き始める。
彼は私を見つめながら、見合いのいきさつについて、ウーチューブの話題と同じくらいの熱量で語った。
「ホテルで別れたあと、俺は東京へ直行し、特務室のリサーチ担当とともに、大月家について調査した。手段は端折るが……翌朝にはすべての情報が出揃ったよ。大月家の家族構成から、会社の経営状態、見合い相手との取引内容に至るまで、詳細にね。で、即日サカザキ不動産に乗り込んで、交渉開始だ」
「えっ……東京に戻った、次の日に?」
そういえば、私が旅行から帰った夕方には、父が新たな見合い話を用意して待っていた。あの時すでに、由比さんが話をつけていたということ。
驚くべきスピードである。
情報収集力もすごいけれど、由比さんの行動力は尋常ではない。
「重視したのは、大月不動産の社長はお金が大好き、という情報だった。商売のやり方も、かなりシビアとの報告も受けている。つまるところ利益優先の人物であり、だから坂崎社長は、結婚の見返りとして高額の援助を提示したそうだ。そうなると話は簡単。俺はサカザキ不動産に有益な取引先を紹介して手を引かせ、君のお父さんには坂崎社長の5倍の援助を約束すると伝えて、交渉成立。坂崎社長によると、お父さんは最初こそ驚いたものの、『娘が幸運を運んできた』と、大喜びしたとか」
「そっ、そう、だったんですね」
私は恥ずかしさのあまり、全身が震えた。由比さんは、私の父親について徹底的に調べたのだろう。
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