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「お待たせしました」
東松さんはじきに戻ってきた。気のせいか、少し興奮しているように見える。
「お役に立ちましたか」
「もちろん、かなり参考になります。数字がハッキリしているので助かりました」
データベースに照会したようだ。手応えがありそうな返事に、私はほっとする。
「車についての質問は以上です。では次に、古池店長と土屋さんの関係について確認させてください」
「あ、はい」
聴取の内容は一つではなかった。私は東松さんと再び向き合い、集中する。
「古池店長の殺害動機を明確にするためですが……」
東松さんはファイルから一枚の用紙を取り出し、それをしばらく眺めてから聴取を進めた。
「以前、職場のトイレで土屋さんが嘔吐したそうですね」
「え、ええ」
初動捜査で話したことだ。そういえば、吐いたのは妊娠とは別の理由だと東松さんは言った。何か分かったのだろうか。
「彼女はどんな様子でしたか」
「ええと……ごはんを食べすぎただけと言ってましたが、顔色が真っ青だし、かなり辛そうでした」
「状況から、妊娠したのではないかと疑った」
「はい。すぐにぴんとこなかったけど、そのことについて山賀さんと話すうちに、もしかしてと思ったんです」
「山賀さんというのは、浮気の証拠写真や、土屋さんと電話した録音データを提出された方ですね」
「そうです。その録音したときの電話で、土屋さん本人が妊娠したなんて言うから、山賀さんも私も信じてしまったわけです」
妊娠二カ月というのは嘘だった。遺体の検視検案で証明されている。
「土屋さんが嘔吐した日のことを、もう少し詳しく教えてください」
おそらく『嘘の妊娠』が、殺害動機と関係があるのだ。私は慎重に答える。
「あの日は確か……」
土屋さんが嘔吐したのは、私が古池店長と土屋さんを告発した日だ。いろいろあったので、細かく思い出すことができる。
午後イチで土屋さんがレジに入るはずが、彼女は倉庫作業のバイトさんに交代を頼んだ。土屋さんの顔色があまりにも悪いので、バイトさんが心配して私を呼びにきたのだ。
「そのとき店長はどこに?」
「えっ、店長……?」
額に手をやり、記憶をたぐる。
「昼休みだったと思います。私が休憩から戻ったとき事務所にいなかったから……そういえば、あの日店長は時間より早く休憩に出ていました」
店長に智哉さんのことを悪く言われて腹が立っていたので、顔を合わせずに済んでほっとしたのだ。
「ということは、店長が土屋さんと一緒にいた可能性がありますね」
「はあ……まあ、時間的に可能ではありますけど」
東松さんが何を言いたいのか、すぐに分からなかった。
(店長と土屋さんが休憩時間に、一緒にいた。その後、土屋さんの具合が悪く……)
まさかと思って東松さんを見る。彼は手もとの用紙をもう一度確認し、それを告げた。
「先日、遺体の詳しい解剖結果が出ました。前にお伝えしたとおり死因は脳挫傷ですが、注目すべきは腹部に発見された鈍的外傷の痕跡です。臓器損傷まで至らずとも、ある程度強い力で蹴り上げられたと推測されます」
「け、蹴り上げ……?」
突然発せられた暴力的な言葉に驚く私に、東松さんが注釈を入れる。
「犯行当時ではなく、もう少し前の傷痕です」
「えっ、つまりそれって……あの日の?」
「はい、おそらくですが。蹴られたことによる腹部打撲。彼女が吐いたのはそのためでしょう」
「店長が土屋さんに暴力を振るったんですか!?」
「そう考えられますね」
衝撃的な報告に私はうろたえた。
「信じられない。だって土屋さんはそんなこと一言も言わなかったし、素振りも見せなかったわ」
「たぶん彼女は、心身をコントロールされていた。そういった男女関係は間々ありますよ」
東松さんはなぜか私を睨むようにした。強い視線にびくっとするが、彼は構わず続ける。
東松さんはじきに戻ってきた。気のせいか、少し興奮しているように見える。
「お役に立ちましたか」
「もちろん、かなり参考になります。数字がハッキリしているので助かりました」
データベースに照会したようだ。手応えがありそうな返事に、私はほっとする。
「車についての質問は以上です。では次に、古池店長と土屋さんの関係について確認させてください」
「あ、はい」
聴取の内容は一つではなかった。私は東松さんと再び向き合い、集中する。
「古池店長の殺害動機を明確にするためですが……」
東松さんはファイルから一枚の用紙を取り出し、それをしばらく眺めてから聴取を進めた。
「以前、職場のトイレで土屋さんが嘔吐したそうですね」
「え、ええ」
初動捜査で話したことだ。そういえば、吐いたのは妊娠とは別の理由だと東松さんは言った。何か分かったのだろうか。
「彼女はどんな様子でしたか」
「ええと……ごはんを食べすぎただけと言ってましたが、顔色が真っ青だし、かなり辛そうでした」
「状況から、妊娠したのではないかと疑った」
「はい。すぐにぴんとこなかったけど、そのことについて山賀さんと話すうちに、もしかしてと思ったんです」
「山賀さんというのは、浮気の証拠写真や、土屋さんと電話した録音データを提出された方ですね」
「そうです。その録音したときの電話で、土屋さん本人が妊娠したなんて言うから、山賀さんも私も信じてしまったわけです」
妊娠二カ月というのは嘘だった。遺体の検視検案で証明されている。
「土屋さんが嘔吐した日のことを、もう少し詳しく教えてください」
おそらく『嘘の妊娠』が、殺害動機と関係があるのだ。私は慎重に答える。
「あの日は確か……」
土屋さんが嘔吐したのは、私が古池店長と土屋さんを告発した日だ。いろいろあったので、細かく思い出すことができる。
午後イチで土屋さんがレジに入るはずが、彼女は倉庫作業のバイトさんに交代を頼んだ。土屋さんの顔色があまりにも悪いので、バイトさんが心配して私を呼びにきたのだ。
「そのとき店長はどこに?」
「えっ、店長……?」
額に手をやり、記憶をたぐる。
「昼休みだったと思います。私が休憩から戻ったとき事務所にいなかったから……そういえば、あの日店長は時間より早く休憩に出ていました」
店長に智哉さんのことを悪く言われて腹が立っていたので、顔を合わせずに済んでほっとしたのだ。
「ということは、店長が土屋さんと一緒にいた可能性がありますね」
「はあ……まあ、時間的に可能ではありますけど」
東松さんが何を言いたいのか、すぐに分からなかった。
(店長と土屋さんが休憩時間に、一緒にいた。その後、土屋さんの具合が悪く……)
まさかと思って東松さんを見る。彼は手もとの用紙をもう一度確認し、それを告げた。
「先日、遺体の詳しい解剖結果が出ました。前にお伝えしたとおり死因は脳挫傷ですが、注目すべきは腹部に発見された鈍的外傷の痕跡です。臓器損傷まで至らずとも、ある程度強い力で蹴り上げられたと推測されます」
「け、蹴り上げ……?」
突然発せられた暴力的な言葉に驚く私に、東松さんが注釈を入れる。
「犯行当時ではなく、もう少し前の傷痕です」
「えっ、つまりそれって……あの日の?」
「はい、おそらくですが。蹴られたことによる腹部打撲。彼女が吐いたのはそのためでしょう」
「店長が土屋さんに暴力を振るったんですか!?」
「そう考えられますね」
衝撃的な報告に私はうろたえた。
「信じられない。だって土屋さんはそんなこと一言も言わなかったし、素振りも見せなかったわ」
「たぶん彼女は、心身をコントロールされていた。そういった男女関係は間々ありますよ」
東松さんはなぜか私を睨むようにした。強い視線にびくっとするが、彼は構わず続ける。
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