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二人目の求婚者
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今日は嶺倉さんとの初デートだ。
天気アプリをチェックすると、一日中晴れの予報である。日中は気温が高く、初夏を飛び越えて真夏のような暑さになるらしい。
「日焼け止めをしっかり塗って、帽子もかぶって行かなきゃ」
早朝から起き出した私は、念入りにデートの準備をした。男性と二人きりで出かけるのは何年ぶりだろう。緊張しながらも、微かなときめきを感じている。
「それにしても、ドライブするって言ってたけど、どこに行くつもりかしら」
昨夜、嶺倉さんからメールがきて、9時に迎えにくるとだけ連絡があった。嶺倉さんは現在都内のマンションに住んでおり、ここから車で15分ほどの距離だそうだ。
行き先など細かいプランの記載はなく、彼にしては素っ気ないメールだった。しかし、それがかえって不自然で、感情を抑えているようにも感じられる。
とりあえず、承知しましたとだけ打ち込み、返信した。
どこに出かけるのか不明だが、今日も陽射しが強そうだ。海でも山でも街中でも、しっかり紫外線対策できるよう、素肌の露出を控えた洋服を選ぶ。
そうこうするうちに約束の時間となり、私は急いで部屋を出た。
アパート前に、スポーツセダンが横付けされている。
ボディにもたれるのは嶺倉京史。今日の彼はスーツでもアロハシャツでもなく、普通にカジュアルな服装だった。私はホッとすると同時に、その垢抜けた姿にドキッとする。
嶺倉さんは、やっぱりイケメンだ。私は妙な緊張を覚えつつ、彼に近付いた。
「おはようございます、嶺倉さん」
「……瑤子さん?」
挨拶する私を見て、彼はぽかんとした。なぜだろうと思い、すぐにその理由に気付く。
「ごめんなさい、私です」
私は目深にかぶった帽子を脱ぎ、サングラスを外した。紫外線を浴びないよう、顔をほとんど隠す状態だったのだ。
「いや、瑤子さんなのは分かるけど、なんでそんな格好してるんだ?」
(……そんな格好?)
不思議そうに見回され、私は少しムッとする。これでも一応、お洒落したつもりだ。
タンクトップの上に長袖のカットソーを羽織り、スキニーパンツを穿いた。全体的にバランスがとれているし、暑苦しくならないよう白を基調とした色合いでコーディネートしている。
自分なりに工夫したのに、その言い草はないと思う。
「この格好、どこかおかしいですか?」
「おかしいっていうか……この暑いのに、そんなに着込むなんてビックリだよ。ていうより、薄着で来るのを予想して、わくわくしてたのに」
「……はい?」
嶺倉さんは不満そうに口を尖らせる。
私はあらためて自分の格好を見下ろし、ようやく合点がいった。
つまり彼は、露出の多い服装を期待していた。それなのに、肌を見せないコーディネートなので、面白くないのだ。
(まったく、この人は……)
スケベ心を隠そうともしない、率直すぎる発言に私は呆れた。嶺倉さんは、やっぱりドスケベである。
「これは、紫外線対策です! ご期待に沿えなくてすみません」
「ふうん。ま、いいけどね。お預けにされるほど、燃えるってもんだ」
「え?」
嶺倉さんはにんまり笑って、助手席のドアを開けた。私は一瞬躊躇するが、どうぞと促されてシートに座る。彼も運転席に収まり、ドアを閉めたとたん、再び緊張感に襲われた。
密閉された空間で二人きり――そう、今日は彼と二人きりで過ごすのだ。
こちらの心情など知りもせず、嶺倉さんはウキウキとした口調で話しかけてくる。
「ああ、やっと瑤子さんに会えた。日曜日が待ち遠しくて、この一週間ずっとそわそわしてたよ」
「そ、そうなんですか」
さり気なく目を逸らそうとするが、嶺倉さんは強引に覗き込んできた。
「あ、あのっ……近すぎ……!」
「瑤子さんは? 早く俺に会いたかった?」
「ええっ? そっ、それは……」
至近距離で見つめられ、私は返答に困った。会いたくなかったと言えば嘘になる。でも、会いたかったというのも、言いすぎな気がする。
うまく言葉にできない。ただ、週末が近付くにつれ、気分が高まっていたのは事実だ。
「そう、ですね。デートが楽しみだったかも……しれません」
ぎこちなく答えた私に、彼は目を細める。ストレートな返事でなくとも、満足したのだろうか。その表情がどんな意味を持つのか、よく分からなかった。
「それじゃ、待望のデートに出発だ」
嶺倉さんはエンジンをかけて、車を発進させる。もっと追及されると思ったが、意外とあっさり解放された。私は前を向き、ひそかに胸を撫で下ろした。
住宅街を抜けて、県道をしばらく走ると国道に出る。彼はご機嫌な様子でハンドルを握り、時々私を見ては微笑んでみせた。
日曜日が待ち遠しかったというのは、本心からの言葉らしい。
FMラジオから夏らしい音楽が流れてくる。その曲がフェイドアウトする頃、車は高速道路のゲートを潜った。本線に出て、南へ向かうルートへと加速する。
「遠出するのですか?」
「そうだよ」
鼻歌まじりで返事する。しかし、どこへ行くとは言わない。
「あの……行き先はどこですか? 今日のデートの、主な目的地は」
「それは着いてのお楽しみだ」
ここまできて内緒にするなんて。サプライズでも仕かけたのだろうかと、私は首を傾げる。
「あと、君に会わせたいやつがいるんだ。デートの最後にちょっとだけ時間を作って、紹介させてほしい」
「はあ……」
会わせたいやつ……というと、男の人だろうか。友達とか、仲間とか? 私はふと思いつき、嶺倉さんに確かめた。
「もしかして、この間の人達ですか? 嶺倉さんとお揃いのアロハシャツを着た……」
柄の悪そうな、地元の男達。嶺倉さんほどではないが、かなりインパクトの強い顔ぶれだった。嶺倉さんの仲間かもしれないが、正直、あの人達に会うのは怖い。
「あいつらもいずれ紹介するけど、今回は別のやつだ。俺にとって、特別な存在っていうのかな」
「特別な……?」
意味深な言い方が気になるが、一体誰のことなのか、今は教えてくれそうにない。
「よく分かりませんが、了解です。今日は嶺倉さんにお任せってことですね」
拗ねた感じで言うと、嶺倉さんはなぜか嬉しそうに笑う。
「ぜひ、お楽しみに!」
明るい笑顔がまぶしい。私は何となく目をそらし、フロントガラスに広がる青空を眺めた。
天気アプリをチェックすると、一日中晴れの予報である。日中は気温が高く、初夏を飛び越えて真夏のような暑さになるらしい。
「日焼け止めをしっかり塗って、帽子もかぶって行かなきゃ」
早朝から起き出した私は、念入りにデートの準備をした。男性と二人きりで出かけるのは何年ぶりだろう。緊張しながらも、微かなときめきを感じている。
「それにしても、ドライブするって言ってたけど、どこに行くつもりかしら」
昨夜、嶺倉さんからメールがきて、9時に迎えにくるとだけ連絡があった。嶺倉さんは現在都内のマンションに住んでおり、ここから車で15分ほどの距離だそうだ。
行き先など細かいプランの記載はなく、彼にしては素っ気ないメールだった。しかし、それがかえって不自然で、感情を抑えているようにも感じられる。
とりあえず、承知しましたとだけ打ち込み、返信した。
どこに出かけるのか不明だが、今日も陽射しが強そうだ。海でも山でも街中でも、しっかり紫外線対策できるよう、素肌の露出を控えた洋服を選ぶ。
そうこうするうちに約束の時間となり、私は急いで部屋を出た。
アパート前に、スポーツセダンが横付けされている。
ボディにもたれるのは嶺倉京史。今日の彼はスーツでもアロハシャツでもなく、普通にカジュアルな服装だった。私はホッとすると同時に、その垢抜けた姿にドキッとする。
嶺倉さんは、やっぱりイケメンだ。私は妙な緊張を覚えつつ、彼に近付いた。
「おはようございます、嶺倉さん」
「……瑤子さん?」
挨拶する私を見て、彼はぽかんとした。なぜだろうと思い、すぐにその理由に気付く。
「ごめんなさい、私です」
私は目深にかぶった帽子を脱ぎ、サングラスを外した。紫外線を浴びないよう、顔をほとんど隠す状態だったのだ。
「いや、瑤子さんなのは分かるけど、なんでそんな格好してるんだ?」
(……そんな格好?)
不思議そうに見回され、私は少しムッとする。これでも一応、お洒落したつもりだ。
タンクトップの上に長袖のカットソーを羽織り、スキニーパンツを穿いた。全体的にバランスがとれているし、暑苦しくならないよう白を基調とした色合いでコーディネートしている。
自分なりに工夫したのに、その言い草はないと思う。
「この格好、どこかおかしいですか?」
「おかしいっていうか……この暑いのに、そんなに着込むなんてビックリだよ。ていうより、薄着で来るのを予想して、わくわくしてたのに」
「……はい?」
嶺倉さんは不満そうに口を尖らせる。
私はあらためて自分の格好を見下ろし、ようやく合点がいった。
つまり彼は、露出の多い服装を期待していた。それなのに、肌を見せないコーディネートなので、面白くないのだ。
(まったく、この人は……)
スケベ心を隠そうともしない、率直すぎる発言に私は呆れた。嶺倉さんは、やっぱりドスケベである。
「これは、紫外線対策です! ご期待に沿えなくてすみません」
「ふうん。ま、いいけどね。お預けにされるほど、燃えるってもんだ」
「え?」
嶺倉さんはにんまり笑って、助手席のドアを開けた。私は一瞬躊躇するが、どうぞと促されてシートに座る。彼も運転席に収まり、ドアを閉めたとたん、再び緊張感に襲われた。
密閉された空間で二人きり――そう、今日は彼と二人きりで過ごすのだ。
こちらの心情など知りもせず、嶺倉さんはウキウキとした口調で話しかけてくる。
「ああ、やっと瑤子さんに会えた。日曜日が待ち遠しくて、この一週間ずっとそわそわしてたよ」
「そ、そうなんですか」
さり気なく目を逸らそうとするが、嶺倉さんは強引に覗き込んできた。
「あ、あのっ……近すぎ……!」
「瑤子さんは? 早く俺に会いたかった?」
「ええっ? そっ、それは……」
至近距離で見つめられ、私は返答に困った。会いたくなかったと言えば嘘になる。でも、会いたかったというのも、言いすぎな気がする。
うまく言葉にできない。ただ、週末が近付くにつれ、気分が高まっていたのは事実だ。
「そう、ですね。デートが楽しみだったかも……しれません」
ぎこちなく答えた私に、彼は目を細める。ストレートな返事でなくとも、満足したのだろうか。その表情がどんな意味を持つのか、よく分からなかった。
「それじゃ、待望のデートに出発だ」
嶺倉さんはエンジンをかけて、車を発進させる。もっと追及されると思ったが、意外とあっさり解放された。私は前を向き、ひそかに胸を撫で下ろした。
住宅街を抜けて、県道をしばらく走ると国道に出る。彼はご機嫌な様子でハンドルを握り、時々私を見ては微笑んでみせた。
日曜日が待ち遠しかったというのは、本心からの言葉らしい。
FMラジオから夏らしい音楽が流れてくる。その曲がフェイドアウトする頃、車は高速道路のゲートを潜った。本線に出て、南へ向かうルートへと加速する。
「遠出するのですか?」
「そうだよ」
鼻歌まじりで返事する。しかし、どこへ行くとは言わない。
「あの……行き先はどこですか? 今日のデートの、主な目的地は」
「それは着いてのお楽しみだ」
ここまできて内緒にするなんて。サプライズでも仕かけたのだろうかと、私は首を傾げる。
「あと、君に会わせたいやつがいるんだ。デートの最後にちょっとだけ時間を作って、紹介させてほしい」
「はあ……」
会わせたいやつ……というと、男の人だろうか。友達とか、仲間とか? 私はふと思いつき、嶺倉さんに確かめた。
「もしかして、この間の人達ですか? 嶺倉さんとお揃いのアロハシャツを着た……」
柄の悪そうな、地元の男達。嶺倉さんほどではないが、かなりインパクトの強い顔ぶれだった。嶺倉さんの仲間かもしれないが、正直、あの人達に会うのは怖い。
「あいつらもいずれ紹介するけど、今回は別のやつだ。俺にとって、特別な存在っていうのかな」
「特別な……?」
意味深な言い方が気になるが、一体誰のことなのか、今は教えてくれそうにない。
「よく分かりませんが、了解です。今日は嶺倉さんにお任せってことですね」
拗ねた感じで言うと、嶺倉さんはなぜか嬉しそうに笑う。
「ぜひ、お楽しみに!」
明るい笑顔がまぶしい。私は何となく目をそらし、フロントガラスに広がる青空を眺めた。
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