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ロアルドの序列 プレセア暦三〇四六年 コーネル辺境伯邸

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 バングレア王国コーネル公領の領主コーネル辺境伯には五人の子がいた。長女グレース、二女マチルダ、三女ジェシカ、長男ロアルド、四女ロージー。コーネル家は代々女系で、男子は滅多に生まれなかった。
 ロアルドは三代ぶりに生まれた男子だった。父と母はロアルドの誕生をとても喜んだ。
 両親は後継の領主としてロアルドに英才教育を施したが、机上の学問については非凡な才能を見せたものの、魔法と刀剣武術に関して全く才能がなかった。
 ステータス鑑定をしてもほとんど特性をもたず、あるのは「スナッチ」という謎の特性。もしや泥棒の才があるのではと父母は憂慮したが、幸か不幸か物を盗むスキルもなかった。その「スナッチ」が何なのか判明するまでに十年は要した。
 ロアルドが十歳の時、すぐ上の姉ジェシカが王都学院魔法科への進学が決まった。長女グレースが神学科、二女マチルダが魔法科、それに続く三女の進学だ。
 新学期を控えた長期休暇の際家族全員が揃って晩餐をとった。
「ジェシカ、あなた結局魔法科にしたのね、騎士科に入るのかと思ったわ」二女マチルダが言った。
「お姉さまの後輩としてご指導ご鞭撻を賜りたいですわ」
「あなたに教えることなどもうないわ。むしろ私が教えてもらいたいくらいよ。魔法だけでなく武術にも長けているなんて、どれだけ恵まれているのよ」
「飛び級でお姉さまと同級になるのが私の夢よ」
 その頃のジェシカは飛ぶ鳥を落とす勢いでスキルアップしていた。家族内でも怖いもの知らず。天狗になったとして誰が責められよう。
「ジェシカお姉さま、素敵」八歳の末娘ロージーが目をキラキラさせて姉を見た。
「ロージーも頑張れば良いわ。才能があるのだもの」
「うん、いつもロアルドお兄さまに特訓してもらっている」
「ロアルドが?」会話に加わらずその場の空気と化していたロアルドにジェシカの視線が向いた。
「いや、僕はロージーの実験台だから」ロアルドは慌てた。「ロージーの幻術にいつも驚かされているよ」
「ロージーは幻術使いか。一度私に見せてごらんなさい。修正点があれば指導してあげるわ」
「うん、見て、お姉さま」
「ロージーの将来も楽しみね。それに比べてロアルドは……」
 ロアルドは押し黙った。
「仕方がないじゃない。持って生まれたものなのだから、ロアルドの責任ではないわ」マチルダが言った。
「そうだとも」父エドワードは言う。「人それぞれ自分の役割を果たすのだ」
「この家、ロアルドが継ぐことになるの? グレースお姉さまかマチルダお姉さまが婿をとるのではダメなの? お母様もお父様を婿にとったのだし」
「私の時は男の子がいなかったからやむなくなのよ。ロアルドが生まれた以上ロアルドに継いでもらうことになるわ」母パトリシアは言った。
「ロアルドが優秀な魔法師を嫁にとるやも知れんしな」父エドワードは言う。
「どうかしら、嫁の来てがあるかしら」
「ロアルドは顔がとてもかわいいからきっとモテるわよ」母パトリシアが嬉しそうに言う。
「自分の子のことになると贔屓目ね」
「本当に。女の子に生まれたら求愛が殺到したでしょうね」マチルダが言った。
 ロアルドは黙って微笑んでいた。
「いつもヘラヘラ笑ってるだけね、我が家の跡取りは」ジェシカは辛辣に言い放った。
 その後話題はまた別のものにかわり、ロアルドは再び空気と化した。
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