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記憶操作の魔法 プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院
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生徒会室を退室した後、ロアルドは考えごとをしながら歩いた。
スチュワート教授が使用できる魔法は先日面会したときに全て見た。その中に他者が与えたと思われる魔法が三つあった。
実はロアルドが見る魔法のイメージには色がついていた。炎系の魔法は赤、水系の魔法は青といった感じだ。しかしその赤や青の色に個人差があった。同じ炎系でもジェシカのファイアとマチルダのファイアで赤の色に微妙な違いがあったのだ。明暗の違いだろうか。
その明暗を意識してスチュワート教授の魔法を見たとき、妙にくすんだ色合いの魔法があることに気づいたのだ。このくすみ具合は魔法を所持している者の気質と関係があるのかもしれない。
色の明暗と本人の人格がどれくらい相関するのかロアルドは考えたこともなかったが、そのくすんだ色合いの魔法を見たとき、これはスチュワート教授ではない誰かの魔法が入り込んでいると思ったのだった。そしてその本来の持ち主はあまりよろしくない人格をしているとロアルドは直感した。
スチュワート教授が持つ魔法はどれも綺麗な色をしていた。少なくともロアルドはそう感じた。おそらく地道に努力して会得した魔法なのだろう。
自らの好奇心のままに学問に取り組み、研究成就のために必要な魔法を真摯な態度で会得してきたからこそ綺麗な色に見えるのだとロアルドは思った。
しかしスチュワート教授が持つ魔法のうち三つはそうではなかった。どこかくすんだ色合いだったのだ。
その三つの魔法とは、相手の記憶領域に侵入する魔法、そこからある一定の記憶を掠めとる魔法、そして掠め取った後に代わりの記憶を埋め込む魔法。
なお現代の魔法師界においては記憶の操作に関連する魔法はすべて禁じられている。広く頒布されている全魔術書においてもその術式は閲覧できないようになっている。紙の本ではそのページが切り取られ、神官が無意識的記憶している魔術書については鍵がかけられているのだ。
だから記憶を操作する魔法を使える魔法師は皆無といっていい。スチュワート教授が持っていなかったとしても当然だった。
おそらくスチュワート教授に魔法をかけた人物は、スチュワート教授がそれらの魔法を保持していなかったためにわざわざ彼に埋め込んだのだと思われる。そうまでしてその人物はスチュワート教授にさせたいことがあるのだ。
それは何なのか。決めつけることは危険だが、グレースの記憶からあの魔術書の記憶をそっくりそのまま奪い取ることにあるとロアルドは睨んだのだった。
そうして奪い取った魔術書はスチュワート教授の脳内に一旦組み込まれることになるのだろう。
スチュワート教授を操る人物は、今度はスチュワート教授からそれを回収しなければならないはずだ。その機会はいつなのだろうか。
そのような回りくどいことを仕組んだのだから、その人物はこの学院の近くにいる者ではない。近くにいるのなら直接グレースから魔術書の記憶を奪い取れば良いのだ。それができないからスチュワート教授を仲介した。
やはり南の大陸にいる人物なのだろう。スチュワート教授が南の大陸を訪れたときにその人物はスチュワート教授と接触したに違いない。そしてスチュワート教授に「仕掛け」を施した。そう考えるのが妥当だ。
してみるとスチュワート教授にわたった魔術書の記憶の回収は、彼が再び南の大陸を訪れ、その人物と接触したときになされるに違いなかった。
もしスチュワート教授がいつまでも現れなかったら、その人物はまた別の人物を仲介してグレースに接触することを考えるのだろうか。
当面の問題はスチュワート教授だったが、もしそれをクリアできたとしても、問題の解決にはならない気がしてロアルドは気が重くなった。
重い足取りで学院の広い庭を歩く。ところどころに四阿があった。一部の生徒たちが優雅にお茶を飲みながら語り合うスペースだ。ロアルドには無縁なところだったが。
その一つにマルセルがいるのをロアルドは見つけてしまった。
神学科の一年生のグループがお茶を飲んでいた。マルセルはそのうちの一人だった。
女子四人のなかに男子がひとり混じっている。それがマルセルだったのだ。
マルセル。寄宿舎においてロアルドの同居人。
同じ部屋だからロアルドはついうっかり見てしまった。マルセルが禁断の記憶操作の魔法を持っていることに。
グレースの件で最後に頼る人物がいるとしたら、マルセルしかあり得ない。ずっとそう思っていたのだ。
ロアルドは、マルセルと話ができる機会を窺った。
スチュワート教授が使用できる魔法は先日面会したときに全て見た。その中に他者が与えたと思われる魔法が三つあった。
実はロアルドが見る魔法のイメージには色がついていた。炎系の魔法は赤、水系の魔法は青といった感じだ。しかしその赤や青の色に個人差があった。同じ炎系でもジェシカのファイアとマチルダのファイアで赤の色に微妙な違いがあったのだ。明暗の違いだろうか。
その明暗を意識してスチュワート教授の魔法を見たとき、妙にくすんだ色合いの魔法があることに気づいたのだ。このくすみ具合は魔法を所持している者の気質と関係があるのかもしれない。
色の明暗と本人の人格がどれくらい相関するのかロアルドは考えたこともなかったが、そのくすんだ色合いの魔法を見たとき、これはスチュワート教授ではない誰かの魔法が入り込んでいると思ったのだった。そしてその本来の持ち主はあまりよろしくない人格をしているとロアルドは直感した。
スチュワート教授が持つ魔法はどれも綺麗な色をしていた。少なくともロアルドはそう感じた。おそらく地道に努力して会得した魔法なのだろう。
自らの好奇心のままに学問に取り組み、研究成就のために必要な魔法を真摯な態度で会得してきたからこそ綺麗な色に見えるのだとロアルドは思った。
しかしスチュワート教授が持つ魔法のうち三つはそうではなかった。どこかくすんだ色合いだったのだ。
その三つの魔法とは、相手の記憶領域に侵入する魔法、そこからある一定の記憶を掠めとる魔法、そして掠め取った後に代わりの記憶を埋め込む魔法。
なお現代の魔法師界においては記憶の操作に関連する魔法はすべて禁じられている。広く頒布されている全魔術書においてもその術式は閲覧できないようになっている。紙の本ではそのページが切り取られ、神官が無意識的記憶している魔術書については鍵がかけられているのだ。
だから記憶を操作する魔法を使える魔法師は皆無といっていい。スチュワート教授が持っていなかったとしても当然だった。
おそらくスチュワート教授に魔法をかけた人物は、スチュワート教授がそれらの魔法を保持していなかったためにわざわざ彼に埋め込んだのだと思われる。そうまでしてその人物はスチュワート教授にさせたいことがあるのだ。
それは何なのか。決めつけることは危険だが、グレースの記憶からあの魔術書の記憶をそっくりそのまま奪い取ることにあるとロアルドは睨んだのだった。
そうして奪い取った魔術書はスチュワート教授の脳内に一旦組み込まれることになるのだろう。
スチュワート教授を操る人物は、今度はスチュワート教授からそれを回収しなければならないはずだ。その機会はいつなのだろうか。
そのような回りくどいことを仕組んだのだから、その人物はこの学院の近くにいる者ではない。近くにいるのなら直接グレースから魔術書の記憶を奪い取れば良いのだ。それができないからスチュワート教授を仲介した。
やはり南の大陸にいる人物なのだろう。スチュワート教授が南の大陸を訪れたときにその人物はスチュワート教授と接触したに違いない。そしてスチュワート教授に「仕掛け」を施した。そう考えるのが妥当だ。
してみるとスチュワート教授にわたった魔術書の記憶の回収は、彼が再び南の大陸を訪れ、その人物と接触したときになされるに違いなかった。
もしスチュワート教授がいつまでも現れなかったら、その人物はまた別の人物を仲介してグレースに接触することを考えるのだろうか。
当面の問題はスチュワート教授だったが、もしそれをクリアできたとしても、問題の解決にはならない気がしてロアルドは気が重くなった。
重い足取りで学院の広い庭を歩く。ところどころに四阿があった。一部の生徒たちが優雅にお茶を飲みながら語り合うスペースだ。ロアルドには無縁なところだったが。
その一つにマルセルがいるのをロアルドは見つけてしまった。
神学科の一年生のグループがお茶を飲んでいた。マルセルはそのうちの一人だった。
女子四人のなかに男子がひとり混じっている。それがマルセルだったのだ。
マルセル。寄宿舎においてロアルドの同居人。
同じ部屋だからロアルドはついうっかり見てしまった。マルセルが禁断の記憶操作の魔法を持っていることに。
グレースの件で最後に頼る人物がいるとしたら、マルセルしかあり得ない。ずっとそう思っていたのだ。
ロアルドは、マルセルと話ができる機会を窺った。
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