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魔法は最後に発動する プレセア暦三〇四六年 コーネル領商いの街広場
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紙芝居は佳境に入っていた。大勢集まった子供たちはすっかり見入っている。他の大道芸をしていた者たちは手を休めて、やはり紙芝居を観ていた。
ロージーが夢中になっていたので、ロアルドとジェシカもその場にいた。
意外にジェシカも熱心に観ていた。幼かったこどもの頃を思い出したのかもしれない。
紙芝居の男女の台詞回しも絶妙だ。特に女性の方が演技力が秀でていて、こども達を虜にしていた。そこに精神支配系の魔法は見られなかった。
ふとロアルドは別のところから魔法を感じ始めた。
目をやると、聴衆たちの外回りを囲むようにして何人かの人影が目についた。
聖衣を纏った教会の神官たちだった。この暑さにも関わらず聖衣を纏えるのは何らかの魔法を発動しているからだろう。スナッチの射程範囲外だったので具体的な魔法をロアルドは見ることができなかった。
しかし探知系の魔法が飛んできていることがわかった。その方を見るとスナッチのエリア内にひとりの神官が入ってきていた。彼らは何を思ってここにいるのだろう。この大道芸に対する監視なのだろうか。
プレセア正教会の神官たちは異教徒に厳しかった。特にプレセア教と相容れないカリゲル教信者を駆逐したいと考えている。
バングレア王国はプレセア教を国教と定めてはいたが、建前上他の宗教も認めている。それはバングレア王国のみならず隣のミシャルレ王国やさらに東のエゼルムンド帝国、北のペテルギア連邦共和国なども同じだった。
カリゲル教を崇拝するカリゲル人はかなり多い。全世界に相当な数のカリゲル人がいる。現在カリゲルという名の国は存在しない。かつてはあったとされるが度重なる戦乱でその国は消失し、存在していたという記録でさえ抹殺されてしまったとカリゲル人は主張している。カリゲル人にとってはプレセア教こそ侵略者の宗教なのだろう。
実は父エドワードの家系には何代か遡るとカリゲル人の血が混じっているらしい。だからコーネル家は比較的カリゲル人に対して寛容なのだ。コーネル領にもカリゲル人が多く住む集落があるし、今この広場で大道芸を披露している人間もカリゲル人が多かった。カリゲル人は知能も高く商いの才能もあったから、裕福な商人になるものも多かった。中にはわざわざカリゲル人を重用する商人もいたくらいだ。
紙芝居をしている男女もカリゲル人の血が入っているとロアルドは睨んだ。
カリゲル人の血が混じっているかどうかは髪の色でだいたいわかる。赤毛にしろ青毛にしろ淡い感じの色になるのだ。ひとりひとりだと区別するのは難しいかもしれないが、集団でいるとカリゲル人だと認識しやすいのだった。
それほどまで広く身近にいるカリゲル人に対して教会の神官たちは手厳しい。彼らの商才が何かと脅威に映るらしく、こうして監視をしてはわずかな罪でも見逃さず摘発するのだった。
彼らは紙芝居の男女が使っている魔法に気づいただろうか。
「……こうしてシエラが語る百の物語を聞いた聖王さまは、心が癒され、安らぐ余裕ができたのです。そして深い深い眠りにつくことができました……」
紙芝居だから百の物語ではなく、三つ程度でおさまった。こども連れの親は安堵したことだろう。いつまでも聞いていられない。
「……しかしその夜、とんでもないことが起こりました……」突然語り手の女性の声色が変わった。
ロアルドはその時女性から精神支配系魔法が発動されるのを視た。
「……聖王さまの寝室に何者かが侵入し、聖王さまの寝首を掻いたのです。さすがの聖王さまもお亡くなりになり、偉大な国王を失った国のあちこちで戦乱が巻き起こり、国はいくつもに分裂してしまいました……」
取り巻いていた神官たちが紙芝居をしていた男女の方へと移動し始めた。
「聖王さまの命を奪った者こそ……、その名前は……」語り手の女の目が煌めいた。「……プレセア……」
そこにいた全てのこども達の心にその名が刻まれた。
ロージーが夢中になっていたので、ロアルドとジェシカもその場にいた。
意外にジェシカも熱心に観ていた。幼かったこどもの頃を思い出したのかもしれない。
紙芝居の男女の台詞回しも絶妙だ。特に女性の方が演技力が秀でていて、こども達を虜にしていた。そこに精神支配系の魔法は見られなかった。
ふとロアルドは別のところから魔法を感じ始めた。
目をやると、聴衆たちの外回りを囲むようにして何人かの人影が目についた。
聖衣を纏った教会の神官たちだった。この暑さにも関わらず聖衣を纏えるのは何らかの魔法を発動しているからだろう。スナッチの射程範囲外だったので具体的な魔法をロアルドは見ることができなかった。
しかし探知系の魔法が飛んできていることがわかった。その方を見るとスナッチのエリア内にひとりの神官が入ってきていた。彼らは何を思ってここにいるのだろう。この大道芸に対する監視なのだろうか。
プレセア正教会の神官たちは異教徒に厳しかった。特にプレセア教と相容れないカリゲル教信者を駆逐したいと考えている。
バングレア王国はプレセア教を国教と定めてはいたが、建前上他の宗教も認めている。それはバングレア王国のみならず隣のミシャルレ王国やさらに東のエゼルムンド帝国、北のペテルギア連邦共和国なども同じだった。
カリゲル教を崇拝するカリゲル人はかなり多い。全世界に相当な数のカリゲル人がいる。現在カリゲルという名の国は存在しない。かつてはあったとされるが度重なる戦乱でその国は消失し、存在していたという記録でさえ抹殺されてしまったとカリゲル人は主張している。カリゲル人にとってはプレセア教こそ侵略者の宗教なのだろう。
実は父エドワードの家系には何代か遡るとカリゲル人の血が混じっているらしい。だからコーネル家は比較的カリゲル人に対して寛容なのだ。コーネル領にもカリゲル人が多く住む集落があるし、今この広場で大道芸を披露している人間もカリゲル人が多かった。カリゲル人は知能も高く商いの才能もあったから、裕福な商人になるものも多かった。中にはわざわざカリゲル人を重用する商人もいたくらいだ。
紙芝居をしている男女もカリゲル人の血が入っているとロアルドは睨んだ。
カリゲル人の血が混じっているかどうかは髪の色でだいたいわかる。赤毛にしろ青毛にしろ淡い感じの色になるのだ。ひとりひとりだと区別するのは難しいかもしれないが、集団でいるとカリゲル人だと認識しやすいのだった。
それほどまで広く身近にいるカリゲル人に対して教会の神官たちは手厳しい。彼らの商才が何かと脅威に映るらしく、こうして監視をしてはわずかな罪でも見逃さず摘発するのだった。
彼らは紙芝居の男女が使っている魔法に気づいただろうか。
「……こうしてシエラが語る百の物語を聞いた聖王さまは、心が癒され、安らぐ余裕ができたのです。そして深い深い眠りにつくことができました……」
紙芝居だから百の物語ではなく、三つ程度でおさまった。こども連れの親は安堵したことだろう。いつまでも聞いていられない。
「……しかしその夜、とんでもないことが起こりました……」突然語り手の女性の声色が変わった。
ロアルドはその時女性から精神支配系魔法が発動されるのを視た。
「……聖王さまの寝室に何者かが侵入し、聖王さまの寝首を掻いたのです。さすがの聖王さまもお亡くなりになり、偉大な国王を失った国のあちこちで戦乱が巻き起こり、国はいくつもに分裂してしまいました……」
取り巻いていた神官たちが紙芝居をしていた男女の方へと移動し始めた。
「聖王さまの命を奪った者こそ……、その名前は……」語り手の女の目が煌めいた。「……プレセア……」
そこにいた全てのこども達の心にその名が刻まれた。
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