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霧隠れフランツ プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院
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体育祭競技が行われている競技場から少し離れたところを歩いた。昼休みなので休息をとったり談笑している生徒が多い。その中をロアルドはうろうろと歩いた。
競技を妨害していた生徒たちは意外に簡単に見つかった。
彼らはほとんど体育祭賭博に関わっていたからだ。中庭やら校舎裏やらの植え込みで参加証をかざしてベットをしていた。
ベットは最後の三種目が始まる直前まで可能だ。だから頻繁に追加が行われる。
ロアルドも冷やかし程度にベットを行ったひとりだった。だから賭博の件についてはマチルダには黙っておくつもりだった。下手に報告して自分が槍玉に上がってはやぶ蛇になる。
ロアルドは、競技の妨害を行っていた生徒の所属と学年をつきとめるべく彼らを尾行した。
しかし魔法を持たない一般の生徒が徒歩で尾行していては容易に感づかれてしまう。
「仕官科の一年生が何の用だ?」騎士科の上級生にとがめられた。こちらが仕官科一年生であることは簡単に見破られてしまう。「体育祭実行委員じゃないか。もしやベットしているところを見た?」
彼らが競技の妨害にかかわっていたことをロアルドは知っていたが、妨害していたことをこの一年生に気づかれていることを彼らは知らない。単に賭けをしている現場を見られたと彼らは思っただけだった。
「実行委員会や生徒会に言うんじゃねえぞ」
たいていはそういう脅し文句だけで済んでいた。しかし中には口だけではなく力を見せつける者もいた。
魔法科の生徒なら魔法が飛んでくる。
ほとんど魔法を使えない仕官科の生徒としては、スナッチの能力を知られてはならない。
難を逃れるために相手の魔法を奪うことはしても、それを使って相手に魔法攻撃をしかけることまではできなかった。
スナッチで発動直前の魔法を奪われた彼らは、なぜ魔法が使えないのか不思議に思うものの、それならと次々と別の魔法を繰り出そうとした。使えないからなお使おうとする。
お蔭でロアルドはずっと息を止めていなければならず、しかもスナッチの圏内である十メートルから離れることもできなかった。
十メートル以上距離があくと、せっかく奪っていた魔法が相手のところに帰ってしまう。そうなっては彼らの魔法の餌食となるのだ。
ほんとうにこの能力は、相手の息の根を止めるつもりで使わないとダメな能力だとロアルドは思った。相手のことに配慮して手加減していては、いつまでたっても相手に攻撃され続けることになるのだった。何がチートスキルだ、とロアルドは思う。
「お前、何かやったな?」魔法科の四年生は、魔法が発動できない現象に驚き、ロアルドを追ってきた。その数三人。
十メートルを超えない距離を保ちながらロアルドは逃げた。息は頻繁に止めなければならない。
「どこかにこいつの仲間がいるんじゃないか」別の四年生が言った。
妨害系の魔法を使う仲間が隠れている可能性の方を考えたようだ。
その方がロアルドにはありがたかった。
「かんべんしてください」ロアルドは無能な一年生を演じ続けなければならなかった。
魔力がないので無能であることにはかわりはない。
何とか体育祭実行委員会の四阿まで逃げ切れるか。
しかし四年生の足は速かった。
追いつかれる。そう思った瞬間、思わぬところから救いの手が出た。
「昼休みに追いかけっことは元気が有り余っているのかな」
暢気なひとことを放ったのは魔法科三年生のフランツだった。
どこからかフランツが姿を現した。そしてフランツのそばにはもう一人地味な男子生徒がいた。
「フランツ、よせよ、四年生じゃないか」地味な彼はフランツを止めた。
「良いじゃないか、ロベルト」フランツは地味な彼に控えるように言い、四年生三人の方を向いた。「退屈していたところだよ、僕も追いかけっこに混ぜてはくれまいか」
「あ?」四年生三人はフランツを威嚇した。
どうもこのフランツという男。戦闘狂らしい。オーバーテイカーの練習でアーサーに挑んで退けたあたりからその片鱗は見ていたが、まさか上級生にケンカを売るとは。
上品?な見かけによらずアーサーにそっくりだ。
そしてロアルドは見た。フランツがずらりと攻撃系魔法を発動待機状態にしたのを。
それを見ただけで、三人の四年生がモブキャラとして返り討ちにあうのは必然だと確信した。
この場を収めるために、双方から魔法を取り上げる覚悟をロアルドはした。
それにしても、とロアルドは思った。フランツが並べた待機状態の魔法の中にひとつある異色の魔法。これはどのように使うのだろうか。
「お前か? 魔法が使えないような変な結界を張ったのは?」四年生たちはスナッチで魔法が奪われていることを知らない。
「僕は知らないね」フランツは飄々と語る。まるでそれは何もかも知っているかのようだ。なかなかの役者だ。
「君はロベルトと下がっていたまえ」フランツはロアルドに言った。「僕は彼らと遊んでみるよ」
「は? 何言ってんだ?」魔法科の四年生は口が汚かった。どちらかと言えば騎士科の生徒みたいだとロアルドは思った。
「さあ、僕を捕まえてみたまえ。もし僕の体に触れることができたら君たちの勝ちだよ」
上級生に向かって「君たち」とはあまりに不遜だ。
周囲に霧が現れた。それがフランツの放った水魔法の一種であることをロアルドはすぐに気づいた。空気中の微細な水蒸気をミスト状にしたのだ。これによってこの場が周囲から隔離された空間のようになった。
「僕はどこにいるかな……」フランツが不敵に笑った。
ああ、そういう使い方をするのか。ロアルドは感心した。
四年生たちはフランツの姿を見失った。
彼らは霧の中を彷徨い、時に味方と顔を合わせ、そしてまた見失い、右も左もわからぬ中を動き回った挙句、疲弊した。
ロアルドの隣にいたロベルトが呆れている。彼には何が起こっているかわかっていただろう。
魔法科四年生が四人、霧の中を見え隠れしていた。
競技を妨害していた生徒たちは意外に簡単に見つかった。
彼らはほとんど体育祭賭博に関わっていたからだ。中庭やら校舎裏やらの植え込みで参加証をかざしてベットをしていた。
ベットは最後の三種目が始まる直前まで可能だ。だから頻繁に追加が行われる。
ロアルドも冷やかし程度にベットを行ったひとりだった。だから賭博の件についてはマチルダには黙っておくつもりだった。下手に報告して自分が槍玉に上がってはやぶ蛇になる。
ロアルドは、競技の妨害を行っていた生徒の所属と学年をつきとめるべく彼らを尾行した。
しかし魔法を持たない一般の生徒が徒歩で尾行していては容易に感づかれてしまう。
「仕官科の一年生が何の用だ?」騎士科の上級生にとがめられた。こちらが仕官科一年生であることは簡単に見破られてしまう。「体育祭実行委員じゃないか。もしやベットしているところを見た?」
彼らが競技の妨害にかかわっていたことをロアルドは知っていたが、妨害していたことをこの一年生に気づかれていることを彼らは知らない。単に賭けをしている現場を見られたと彼らは思っただけだった。
「実行委員会や生徒会に言うんじゃねえぞ」
たいていはそういう脅し文句だけで済んでいた。しかし中には口だけではなく力を見せつける者もいた。
魔法科の生徒なら魔法が飛んでくる。
ほとんど魔法を使えない仕官科の生徒としては、スナッチの能力を知られてはならない。
難を逃れるために相手の魔法を奪うことはしても、それを使って相手に魔法攻撃をしかけることまではできなかった。
スナッチで発動直前の魔法を奪われた彼らは、なぜ魔法が使えないのか不思議に思うものの、それならと次々と別の魔法を繰り出そうとした。使えないからなお使おうとする。
お蔭でロアルドはずっと息を止めていなければならず、しかもスナッチの圏内である十メートルから離れることもできなかった。
十メートル以上距離があくと、せっかく奪っていた魔法が相手のところに帰ってしまう。そうなっては彼らの魔法の餌食となるのだ。
ほんとうにこの能力は、相手の息の根を止めるつもりで使わないとダメな能力だとロアルドは思った。相手のことに配慮して手加減していては、いつまでたっても相手に攻撃され続けることになるのだった。何がチートスキルだ、とロアルドは思う。
「お前、何かやったな?」魔法科の四年生は、魔法が発動できない現象に驚き、ロアルドを追ってきた。その数三人。
十メートルを超えない距離を保ちながらロアルドは逃げた。息は頻繁に止めなければならない。
「どこかにこいつの仲間がいるんじゃないか」別の四年生が言った。
妨害系の魔法を使う仲間が隠れている可能性の方を考えたようだ。
その方がロアルドにはありがたかった。
「かんべんしてください」ロアルドは無能な一年生を演じ続けなければならなかった。
魔力がないので無能であることにはかわりはない。
何とか体育祭実行委員会の四阿まで逃げ切れるか。
しかし四年生の足は速かった。
追いつかれる。そう思った瞬間、思わぬところから救いの手が出た。
「昼休みに追いかけっことは元気が有り余っているのかな」
暢気なひとことを放ったのは魔法科三年生のフランツだった。
どこからかフランツが姿を現した。そしてフランツのそばにはもう一人地味な男子生徒がいた。
「フランツ、よせよ、四年生じゃないか」地味な彼はフランツを止めた。
「良いじゃないか、ロベルト」フランツは地味な彼に控えるように言い、四年生三人の方を向いた。「退屈していたところだよ、僕も追いかけっこに混ぜてはくれまいか」
「あ?」四年生三人はフランツを威嚇した。
どうもこのフランツという男。戦闘狂らしい。オーバーテイカーの練習でアーサーに挑んで退けたあたりからその片鱗は見ていたが、まさか上級生にケンカを売るとは。
上品?な見かけによらずアーサーにそっくりだ。
そしてロアルドは見た。フランツがずらりと攻撃系魔法を発動待機状態にしたのを。
それを見ただけで、三人の四年生がモブキャラとして返り討ちにあうのは必然だと確信した。
この場を収めるために、双方から魔法を取り上げる覚悟をロアルドはした。
それにしても、とロアルドは思った。フランツが並べた待機状態の魔法の中にひとつある異色の魔法。これはどのように使うのだろうか。
「お前か? 魔法が使えないような変な結界を張ったのは?」四年生たちはスナッチで魔法が奪われていることを知らない。
「僕は知らないね」フランツは飄々と語る。まるでそれは何もかも知っているかのようだ。なかなかの役者だ。
「君はロベルトと下がっていたまえ」フランツはロアルドに言った。「僕は彼らと遊んでみるよ」
「は? 何言ってんだ?」魔法科の四年生は口が汚かった。どちらかと言えば騎士科の生徒みたいだとロアルドは思った。
「さあ、僕を捕まえてみたまえ。もし僕の体に触れることができたら君たちの勝ちだよ」
上級生に向かって「君たち」とはあまりに不遜だ。
周囲に霧が現れた。それがフランツの放った水魔法の一種であることをロアルドはすぐに気づいた。空気中の微細な水蒸気をミスト状にしたのだ。これによってこの場が周囲から隔離された空間のようになった。
「僕はどこにいるかな……」フランツが不敵に笑った。
ああ、そういう使い方をするのか。ロアルドは感心した。
四年生たちはフランツの姿を見失った。
彼らは霧の中を彷徨い、時に味方と顔を合わせ、そしてまた見失い、右も左もわからぬ中を動き回った挙句、疲弊した。
ロアルドの隣にいたロベルトが呆れている。彼には何が起こっているかわかっていただろう。
魔法科四年生が四人、霧の中を見え隠れしていた。
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