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チームは徐々に浮上する プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院

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 体育祭午後の部、ロアルドは出場機会が少なかったものの、マチルダの命で実行委員をやらされていたためにろくに休む間もなかった。
 とにかく妨害工作が多すぎる。今までどのように取り締まっていたのだろう。
 外からピンポイントに光を当てたり、風を少し当てたり、と些細な妨害工作なので見逃していたのかもしれない。ロアルドの能力だからこそ見えるのだった。
 これらを全て刈り取るのは困難なので、午後になってからは露骨でない限り無視することにした。
 とはいえ、アーサーやオスカーに対する妨害工作は、ロアルドのチームが浮上するに従い増えていった。この二人の活躍だけで五十チーム中十位から十五位あたりのところに入ってきたからだ。
 一年生の活躍はただでさえ目立つ。しかもアーサーはあの通り先輩に気後れせず、遠慮もしない性格だし、オスカーの美貌は女子生徒の羨望を集め、男子上級生の妬みのもととなった。
 今もオーバーテイカーにアーサーとオスカーが出ていたが、観衆の中に紛れた妨害屋の数が半端ではなかった。
 オーバーテイカーは五十チームのトーナメントで三位決定戦もあるから五十試合あるために午前中から少しずつ試合が行われていた。
 アーサーとオスカーの活躍で今も勝ち残っている。ベスト十六まで残っているのだ。この試合に勝てばベストエイト。
 ジャマーのオスカーが次々と相手を抜く。ブロッカーのアーサーは攻撃時間帯はオスカーのサポートをし、守備時は完璧なまでのブロックを見せた。他の三人はそれほど活躍しなくて良かった。ただそこにいるだけという感じだ。ケガだけしないようにアーサーに言われているようだった。
 試合を重ねるごとにオスカーとアーサーの息のあったプレーが熟成されていった。練習でこてんぱんにされたジェシカとフランツがいるチームに当たらない限り負けそうな雰囲気はなかった。
「悪目立ちしているね」マルセルが言った。「空中騎馬戦で狙い撃ちにあいそうだよ」
「アーサーはそういうの大歓迎みたいだけど、僕たちは困ったね」
 ロアルドとマルセルは勝ちにこだわりがなく、集中攻撃を受けて負けるのもアリだと思っていた。ただ攻撃の対象になるのは遠慮したいところだ。取り囲まれて、寄ってたかって袋叩きにあうなど勘弁願いたい。
 だからアーサーとオスカーにはできれば目立たないようにしてほしかった。
 そういうロアルドの思惑に反して、たった今、目の前で行われていたオーバーテイカーは圧勝してしまった。
 これでベストエイト。さらに勝ち上がって、いずれはジェシカのチームと当たるのは必然だろう。
 チームの順位も十位以内に入った。最終種目の全員参加の空中リレーは得点の動きはそれほどない。その前の空中騎馬戦がポイントの変動が大きく、大逆転もありうるので十位以内に入っているチームのどこも優勝の可能性があった。空中騎馬戦が総合優勝を決める上で勝負の鍵となるのだ。
 その空中騎馬戦、現在二十チームが残っているが第二次予選で八チームに絞られる。五チームを四ブロックつくり、それぞれで二チームが生き残る予選となるのだ。
 アーサーがキャピタルをしていれば、よほど強いチームが混じっていない限り勝ち上がるのは間違いないだろう。
「僕たちは逃げ回っていよう」マルセルが笑いながら言った。
 空中騎馬戦にはロアルドやマルセルも出る。逃げ回って済ませたいとロアルドは思っているが、アーサーは弱者の心理などお構いなしだった。
「どこが来てもぶちのめす!」上級生たちに聞こえるように雄たけびを上げていた。
「オーバーテイカーは下手に勝たない方が良いな」オスカーがアーサーに聞こえないようにつぶやいた。「勝ってしまうと騎馬戦で狙われる。おそらく騎馬戦の手前で一位にいるチームは集中砲火を浴びるだろう。それでも君の姉君のいるチームは二つとも苦にしないだろうけど」
「ジェシカさんとフランツのチームも凄いが、現在一位にいるマチルダ生徒会長のチームが凄いんだよな」マルセルが言った。
「生徒会長の権限で有力な選手をチームに入れたんだと思うよ。一応戦力均等になるようにチーム分けしたことになっているけれど、突出した選手がいればそれだけでそのチームは強い」ロアルドはアーサーとオスカーのことを言ったつもりだった。
「マチルダ生徒会長のチームにはアルベルチーヌがいるんだよ。彼女が本気を出したら誰も勝てない」マルセルは冷や汗を流していた。
「じゃあ僕は彼女からは逃げているよ」オスカーが悪びれずに言った。「このチームは三位で上出来だ」
 アーサーは優勝を狙うと意気込んでいるが、オスカーは冷静に分析して三位狙いのようだ。
 ロアルドとマルセルは顔を見合わせ、同じチームのほかの先輩たちも苦笑いを浮かべた。
 この先、どうなるのだろう。
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