スナッチ ボクに魔力はありません 王都学院の異端児

hakusuya

文字の大きさ
73 / 86

マルセルのひとことで風穴があく プレセア暦三〇四八年 ローゼンタール王都学院

しおりを挟む
 九対四。マチルダチームリードでロアルドのチーム最後の攻撃となった。
 ジャマーのオスカーが入り、味方はアーサー、マルセル、騎士科上級生にロアルドの四名を加えた五名。守備側マチルダチームはマチルダ、アルベルチーヌ、騎士科上級生二人の四名だった。
 騎士科上級生がひとり減り、オスカーが加わった分だけ攻撃陣のアドバンテージがある。しかし五点差だ。これを追いつくには一度の追い抜きだけでは無理で、もし四人抜きに成功したとしても、さらにもう一度最後尾から一人を抜かなければならなかった。
「まあ、やれるだけやるさ」オスカーが言った。「そのためには神学科の首席にはマルセルについてもらおう。アーサーは生徒会長だ」
 めずらしくオスカーがアーサーとマルセルに指示を出した。アルベルチーヌにマルセルを、マチルダにはアーサーをマークにつける。
 そうしたことは今まで一度もなかった。だからオスカーが本気になったのだとアーサーは思ったようだ。
「ああ、任せてくれ」アーサーが嬉しそうに拳をあげた。
 ロアルドは役に立たないという自覚があったので、邪魔にならないように飛んでいようと思ったが、マルセルに声をかけられた。
「君、実に申し訳ないが、できるだけ僕について飛んでいてくれないか」
「はい?」ロアルドはその意味が理解できなかった。
「単に僕のそばにいてくれるだけで良いんだよ。それで十分さ」
「わかった。できるだけ君のそばについているよ。速すぎてついていけないときはごめん」
「スピードはそれほど上がらないさ」
 もう一人の騎士科上級生がゆっくり飛んで周回遅れでマチルダチームの前に出てブロックにまわると言っているかのようだった。
 そううまくいけば良いがどうなのだろう。マチルダのチームは五点リードしているのだから、ひたすら前を速く飛んで二度抜かれないようにしていれば良いのだ。いやむしろゆっくり飛ぶなどありえないだろう。
 そんなことを考えているうちにスタートした。
 オスカーが最後尾について審判が開始を宣言する。そしてオスカーが加速してはじめの追い抜きを行って再び最後尾についた。ここからの追い抜きに得点が加算される。
 予想通り相手チームは先頭がマチルダとアルベルチーヌだった。二人はどんどん加速して前へ前へと逃げていく。後ろを飛ぶ騎士科上級生二人はブロッカーだった。
 前へ逃げるマチルダにはアーサーが、アルベルチーヌにはマルセルがついた。
 ロアルドはどうにかその後を追ったが、少しずつ離されていった。
 ロアルドの後ろに相手チームの騎士科上級生二人。彼らがオスカーをブロックする配置だった。
 しかし驚いたことにオスカーは難なくこの二人をかわした。
 どうしてそんなに起用にジグザグ飛べるのかと感心するくらいにブレーキのかかった動きと瞬発的な急加速で二人を抜いたのだ。あっさりと二点が入った。
「二人だけだと楽だね」ロアルドに追いついたオスカーがまるで口笛を吹くかのように言った。「前の二人を抜かないことには話にならないけれどね」
 結局ブロッカーをしていた相手チームの騎士科上級生は周回遅れで先頭に現れた。
 マチルダとアルベルチーヌを抜いてしまえば、その前を飛ぶブロッカー二人は難なく抜けるだろう。その瞬間に逆転してこの試合はロアルドチームの勝利で終了となる。
 だから相手はまたしても四人固まって塊となって飛ぶことを決め、そのため当初のスピードは失われてスローペースの飛行となった。ロアルドもついていける程度のスピードまで減速していた。
「生徒会長!」アーサーが叫んだ。「一対一の勝負願います」
「脳筋なの、君は」マチルダは相手にしないと口にしたが、その飛び方はアーサーと接触を繰り返しながら同じスピードになっていて、見事にアーサーの挑発にのった形となった。
 この二人が密着するように飛んだためにスペースができた。オスカーがそこを狙う。
 当然のようにアルベルチーヌがオスカーの前に現れた。彼女のそばにマルセルも飛んでいる。
 ロアルドも追いついていた。
 最前方にいる騎士科上級生二人が隙間を埋めるように飛んでいる。
 一見抜くスペースは見当たらなかった。
 ロアルドはアルベルチーヌの視線を感じた。なぜか彼女は自分を意識しているとロアルドは思った。
 スナッチの圏内にアルベルチーヌもマルセルもいた。
 アルベルチーヌは必要最小限の魔法しか用意していなかった。身体強化と速度アップの魔法のみ。
 一方マルセルは攻撃の意思こそないが、重力を操作して相手を落としたり、方向感覚を狂わせる魔法を発動できるように用意していた。
 いや、それは反則だろう。もし使ったとして誰が見破るのか知らないけれど。それとも審判に気づかれなければ何をしても構わない競技なのだろうか。
 マルセルがロアルドに向けて何か言った。
 ロアルドは全く聞こえなかった。思わず「え?」と訊き返した。
 そのやりとりに敏感に反応したのがアルベルチーヌだった。なぜか加速してマルセルを振り切ろうとした。
 ブロックするために四人で作っていた壁が、アルベルチーヌが前へ出たために穴があいたような状態になっ。
 その穴をオスカーは見逃さなかった。
 アルベルチーヌを追って加速したのはマルセルではなくオスカーだった。
 彼は唯一できた壁の穴を通って、マチルダチームの騎士科上級生二人、そしてアーサーと接触していたマチルダをも抜いていった。
 こうして三点が入り、たちまち同点になったのだった。
 九対九。あまりにもあっさりと同点に追いついた瞬間だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福無双。〜メシ作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

処理中です...