14 / 23
武道部道場
しおりを挟む
バイトの無い日の放課後、明音は生徒会による剣道の練習視察に立ち会うことになった。参加したくなかったが、わざわざ明音は都合を聞かれ、立ち会うことが大前提であることを知った。「何で?」という明音の叫びは無視された。
道場は新館の一階奥にあった。共学化した際に男子生徒の体育授業で剣道や柔道をするために多目的道場が作られた。柔道をする際には畳を敷きつめる。今は床がむき出しになっていた。
その道場に生徒会から東矢、三井寺、新聞部から天埜他二名、そして明音が踏み行った。
「舞子会長は?」
「剣道のことはわからないから任せる、と言いやがった。あいつお得意の丸投げだな」と答えたのは天埜だった。
東矢と三井寺は黙っている。天埜が連れてきている新聞部の男女二人が興味津々に中を見回し、写真を撮っていた。
明音は呆れた。武道部は部長の佐田と唯一の剣道担当女子部員である一年生の二人しかいなかった。しかも佐田は空手道着の上に剣道の胴をつけていた。昨年明音が練習に参加したとき、明音もジャージに面胴小手の防具をつけて竹刀を振っていた。
しかし佐田よりも異彩を放つように目立つ女子がいた。しっかり濃紺の剣道着、袴を身につけた彼女は長身で凛々しかった。
「一年の富樫です」彼女は姿勢正しく頭を下げた。
「二年A組東矢です。生徒会を代表して参りました」
東矢が真っ先に応えた。ほとんどしゃべらない癖に立場をわきまえている。
「三年A組天埜だ。新聞部として取材させてもらう」
偉そうに喋るのは天埜のデフォルトらしい。しかし悪い印象は感じさせない。
明音を含めたその他大勢は黙って会釈した。
練習といっても、佐田と富樫が立ち会い稽古をしているだけだ。佐田は武道全般に通じているらしく、段位は持っていないと言ってはいたが剣道もそこそこ様になっていると明音は感じた。
そして富樫は百七十超えの長身を生かした攻めのスタイルのようで、自分より背の高い男子の佐田を相手に少しもひけをとらず面を狙い続けた。
「あんなのが当たったら痛そう……」明音は思わず洩らしていた。
高いところから振り下ろされる竹刀が、時として頭頂部の後ろまで当たることがあり、防具をつけていてもかなり痛いことを明音は知っていた。
「うへ、やりたくない相手だわ」明音は洩らした。
東矢と天埜は黙って見ていた。生徒会の三井寺は慣れていないらしく、引きぎみの姿勢だった。新聞部の二人はちょこまか動いて写真を撮ったりしていた。
十分ほどたった頃あいで稽古は小休止となった。
「ざっとこんな感じです」佐田が御伺いをたてるように東矢と天埜に言った。
「男顔負けのアグレッシブ・スタイルだな」天埜が言った。
佐田と富樫が並んで立っていたが、天埜は、わざわざ富樫の前まで行って富樫の顔を見上げた。身長差が二十センチ近くある。
汗を浮かべた富樫は清々しい顔をしていた。
「結構美形だね、気に入った」天埜はそう言って、東矢に場所を譲った。
代わりに東矢が富樫の前に立った。富樫とは十センチくらいの身長差になる。しかしその差を感じさせないほど東矢は姿勢正しく真っ直ぐに富樫を見た。
「一つ聞きたいことがあります。あなたがこの学校を選んだ理由は何ですか?」
さながら面接官のようなことを訊く、と明音は思った。
「小さい頃からここに通う生徒さんの姿を見てきて憧れていました」
富樫は素直な性格だと明音は思った。
「剣道をする理由は?」
「心が洗われるようで気持ちが良いからです」
「剣道を極めたいのでもないのね?」
「自分がやりたいからやっています」
「一人でもやり続ける、ということかしら?」
「はい」富樫は爽やかな笑顔を見せた。
「わかりました。ありがとう」東矢は下がった。
「それで今年はどうなんだ? 秀星学院は」天埜が佐田に訊いた。
「向こうも少数精鋭だと思います」
「白々しくうちらを持ち上げたな、全く」天埜は苦笑いを浮かべた。「言っておくが私は頼りにならんぞ、しばらく竹刀も触っていない」
「それは私もです」東矢が言った。「秀星学院には私の従妹も通っていますが、彼女がもし出てきたら歯が立たないでしょう」
「ん、そうなのか? なら撤退するか……」
「いやいや、勝負は時の運。結果は二の次。親善試合をすることに意味があるのです」佐田はしれっと答えた。
「ところで、男子の親善試合はないのか?」天埜が訊いた。
「無いです」佐田は笑った。「あちらの男子はそこそこ強くて都大会に出るレベル。うちはそもそも剣道専門の部員がおりませんので」
「一人いるかいないかで大きな違いだな」
富樫あっての剣道部(武道部の剣道担当)なのだろう。
「わかりました、最後の一人が見つからない時は私もお手伝いしましょう」東矢が言った。「練習にはそれほど参加できません。試合も期待しないでください」
そう言いつつ東矢はガチでやりそうだと明音は思った。
「私は数に入れないでね」明音は小さな声で言ったが、やはり無視された。武道部への視察は終わった。
道場は新館の一階奥にあった。共学化した際に男子生徒の体育授業で剣道や柔道をするために多目的道場が作られた。柔道をする際には畳を敷きつめる。今は床がむき出しになっていた。
その道場に生徒会から東矢、三井寺、新聞部から天埜他二名、そして明音が踏み行った。
「舞子会長は?」
「剣道のことはわからないから任せる、と言いやがった。あいつお得意の丸投げだな」と答えたのは天埜だった。
東矢と三井寺は黙っている。天埜が連れてきている新聞部の男女二人が興味津々に中を見回し、写真を撮っていた。
明音は呆れた。武道部は部長の佐田と唯一の剣道担当女子部員である一年生の二人しかいなかった。しかも佐田は空手道着の上に剣道の胴をつけていた。昨年明音が練習に参加したとき、明音もジャージに面胴小手の防具をつけて竹刀を振っていた。
しかし佐田よりも異彩を放つように目立つ女子がいた。しっかり濃紺の剣道着、袴を身につけた彼女は長身で凛々しかった。
「一年の富樫です」彼女は姿勢正しく頭を下げた。
「二年A組東矢です。生徒会を代表して参りました」
東矢が真っ先に応えた。ほとんどしゃべらない癖に立場をわきまえている。
「三年A組天埜だ。新聞部として取材させてもらう」
偉そうに喋るのは天埜のデフォルトらしい。しかし悪い印象は感じさせない。
明音を含めたその他大勢は黙って会釈した。
練習といっても、佐田と富樫が立ち会い稽古をしているだけだ。佐田は武道全般に通じているらしく、段位は持っていないと言ってはいたが剣道もそこそこ様になっていると明音は感じた。
そして富樫は百七十超えの長身を生かした攻めのスタイルのようで、自分より背の高い男子の佐田を相手に少しもひけをとらず面を狙い続けた。
「あんなのが当たったら痛そう……」明音は思わず洩らしていた。
高いところから振り下ろされる竹刀が、時として頭頂部の後ろまで当たることがあり、防具をつけていてもかなり痛いことを明音は知っていた。
「うへ、やりたくない相手だわ」明音は洩らした。
東矢と天埜は黙って見ていた。生徒会の三井寺は慣れていないらしく、引きぎみの姿勢だった。新聞部の二人はちょこまか動いて写真を撮ったりしていた。
十分ほどたった頃あいで稽古は小休止となった。
「ざっとこんな感じです」佐田が御伺いをたてるように東矢と天埜に言った。
「男顔負けのアグレッシブ・スタイルだな」天埜が言った。
佐田と富樫が並んで立っていたが、天埜は、わざわざ富樫の前まで行って富樫の顔を見上げた。身長差が二十センチ近くある。
汗を浮かべた富樫は清々しい顔をしていた。
「結構美形だね、気に入った」天埜はそう言って、東矢に場所を譲った。
代わりに東矢が富樫の前に立った。富樫とは十センチくらいの身長差になる。しかしその差を感じさせないほど東矢は姿勢正しく真っ直ぐに富樫を見た。
「一つ聞きたいことがあります。あなたがこの学校を選んだ理由は何ですか?」
さながら面接官のようなことを訊く、と明音は思った。
「小さい頃からここに通う生徒さんの姿を見てきて憧れていました」
富樫は素直な性格だと明音は思った。
「剣道をする理由は?」
「心が洗われるようで気持ちが良いからです」
「剣道を極めたいのでもないのね?」
「自分がやりたいからやっています」
「一人でもやり続ける、ということかしら?」
「はい」富樫は爽やかな笑顔を見せた。
「わかりました。ありがとう」東矢は下がった。
「それで今年はどうなんだ? 秀星学院は」天埜が佐田に訊いた。
「向こうも少数精鋭だと思います」
「白々しくうちらを持ち上げたな、全く」天埜は苦笑いを浮かべた。「言っておくが私は頼りにならんぞ、しばらく竹刀も触っていない」
「それは私もです」東矢が言った。「秀星学院には私の従妹も通っていますが、彼女がもし出てきたら歯が立たないでしょう」
「ん、そうなのか? なら撤退するか……」
「いやいや、勝負は時の運。結果は二の次。親善試合をすることに意味があるのです」佐田はしれっと答えた。
「ところで、男子の親善試合はないのか?」天埜が訊いた。
「無いです」佐田は笑った。「あちらの男子はそこそこ強くて都大会に出るレベル。うちはそもそも剣道専門の部員がおりませんので」
「一人いるかいないかで大きな違いだな」
富樫あっての剣道部(武道部の剣道担当)なのだろう。
「わかりました、最後の一人が見つからない時は私もお手伝いしましょう」東矢が言った。「練習にはそれほど参加できません。試合も期待しないでください」
そう言いつつ東矢はガチでやりそうだと明音は思った。
「私は数に入れないでね」明音は小さな声で言ったが、やはり無視された。武道部への視察は終わった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる