御堂藤学園二年D組あかね組

hakusuya

文字の大きさ
15 / 23

楪真惟

しおりを挟む
 武道部の女子剣道親善試合に向けて、明音も一役買うことになった。
「私が出なくてすむようにメンバーを探しているよね?」
 明音は佐田に訊いたが、もう佐田は明音を戦力として数に入れていた。負けても良いと言われているが、やるからには勝ちたいと思うし、かといって練習に参加できるほど時間的余裕はなかった。
 五月の連休明けにようやくゆずりはを連れて道場を訪ねた。その日は剣道部門の練習日に当たっていたが、富樫とがし佐田さだの二人しかいなかった。
「いつも二人でやってるの?」
天埜あまのさんも東矢とうやさんも一度だけ来たかな。二十分ほどで帰ったけど」
「富樫さんとずっと二人きりなんだ?」
「週に二回だ」
「セクハラとかしてないでしょうね?」憎まれ口をたたくのは無理を押しつけた佐田への嫌がらせのようなものだった。
「武道を愛する者に邪念はない」佐田は言いきった。
 明音とゆずりははジャージに着替えていた。その上から面、胴、小手をつける。富樫だけが道着と袴を着ていて、佐田は相変わらず空手着を着ていた。
 練習時間が短いため、素振りをある程度したら二人一組で型稽古をする。明音は楪と組んだ。小学生の時以来だ。
 竹刀を手にした瞬間、楪は豹変した。ふだんの、教室で本を読んでいる、喋ると言葉がなかなか出てこない、おどおどした楪ではなかった。背筋がピンと伸び、背も高く見えた。
 防具をつけて顔が見えないから楪とは思えない。俊敏なだけだった動きは以前に増してメリハリがつき、時に止まったかのように悠然としたかと思うといきなり懐に飛び込んでくるような緩急ある動きを見せた。何より小学生の頃とは迫力が違った。足さばきが違う。遠くにいると思っていたら瞬時に目の前にいる。そんな感じだった。
 明音は圧倒されていた。明音も、楪に教えられた通りに動いてみる。持ち前の運動神経と速さには自信があったが無駄な動きも多く、何度も修正を迫られた。気づいたら汗びっしょりで軽く意識がとんでいた。
 佐田に言われて休憩する。今度は富樫と楪が対峙した。ちょうど良い稽古相手だと明音は思った。佐田も同じくそう思っただろう。パワーの富樫に速さの楪という特徴の違いはあったが、さすが有段者と思わせる取り組みだった。
「楪さん、良いね」佐田が目を輝かせた。「天埜さん、東矢さん以上だ。これは期待できる」
「そうなんだ。良かった……」端に坐り込んでいた明音は、横に来た佐田に虚ろな目を向けた。
「これなら富樫、楪さんで二勝、あとは天埜さん、東矢さんのどちらかが勝てばうちの勝ちだ」それが佐田の皮算用のようだった。
「だったら最後の一人は私でなくても良いでしょう?」明音は愚痴を言った。
「そんなことない。去年も活躍してくれたじゃないか、小早川さん」
「負けたんだけど……」
 ほとんど練習できなくて一本とれたので善戦だったとは思う。しかし佐田は評価してくれた。社交辞令だっただろうが明音は満更でもなかった。
「うまく組み合わせれば全勝だって期待できる」佐田は目を輝かせた。楽観的すぎるのが佐田なのだ。それはもはやポジティブ・シンキングを超えていた。
 予定していた稽古は終わった。学校での剣道の練習は週に二回しかできず、明音はバイトの関係で五月はあと一回しか参加できない。しかし楪は週に二回参加することで話がついた。
 学校からの帰り道、明音は楪と二人になった。
「楪さん、良かったの? しっかり武道部に取り込まれちゃったけど」
「ろ、六月の親善試合までなら、な、何とか……」
「ごめんね、巻き込んじゃって」
「と、富樫さん、せっかく武道部にいるのに、し、試合もできないのは可哀相……」
「まあ、そうなるよね」
 六月までですむとは思えなかった。楪は人が良いから、下手をするとその後も武道部に付き合わされるだろう。明音は後悔していた。
「無理しなくて良いからね。イヤだと思ったらはっきりと言うのよ、佐田くんに」
「う、うん、大丈夫……」
 佐田が相手だと言いくるめられそうだ。自分がうまくフォローしないといけない。明音はそう思った。
 昔から余計なお世話をする癖は抜けない。それで何度も周囲と衝突してきた。今回はひとり奮戦する佐田にほだされて楪を巻き込んでしまった。今度は楪のフォローが必要になった。そしてまた次の人間を巻き込んでしまう。悪い癖は少しもなおっていなかった。
「楪さん、家はどちらだっけ?」
 楪が答えた駅は明音の最寄り駅とそれほど離れていなかった。小学生時代に通った道場が同じだったことを考えれば当たり前なのかもしれない。
「ごめん、楪さん、本当だったらどこかで夕食一緒に食べようと言いたいところなんだけど、私、双子の弟と妹に食べさせなければならないので今日は真っ直ぐに帰るね。今度は必ず何かご馳走するよ」
「そ、そんな、い、良いよ……」
「私がそうしたいんだから」
「うん、わ、私も小早川さんとご飯は一緒に食べてみたい」
「じゃあ早速明日からお弁当一緒に食べようか。守崎さんも一緒だけど良いよね?」
「うん」楪は頷いて、ぎこちない笑みを浮かべた。
 無表情の彼女が無理して愛嬌を見せようとしたことが痛いほどわかった。コミュニケーションが苦手でも友達を作りたくないわけではないのだと明音は解釈した。
 楪と別れ、明音は急いで帰宅した。六時半なので母親はいつものようにまだ帰っていない。弟妹は同じマンションの友人宅に遊びに行っているようだったので夕食の支度をしながら、帰ってくるように弟妹にスマホ連絡をした。
「すぐ帰る」と返信したのは妹の莉音りおだった。遊び相手が同じマンションにいるのはすごく助かる。近いうちにお礼に伺わねばならないと明音は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...