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いつもと少し違う朝
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翌日明音はいつものように弟妹と朝食をとった。
母親はまだ寝ている。遅く帰ってきて遅く出る生活なのだ。十時出勤のフレックスタイムなので明音たちが家を出る頃起き出してくるのだった。
弟妹たちは集団登校だったが、いつも早めに集合場所に行って他の子が来るのを二人で待つスタイルだった。
しかしその日は少しばかり普段より遅くなった。炊飯器のセットを忘れていたからだ。
だから弟妹たちにはトーストを食べさせて、明音は弁当を用意するため少し待たねばならなかった。
母親がいない日は米を炊かずに学食で食べることもできたが、いつも母親の朝食と弁当を用意するのが明音の仕事だった。
「「行ってきまあす」」双子の弟妹が先に出ていった。その音を聞いて母親が起きてきた。
「お母さん、ご飯用意できたから。お弁当も何とか間に合いそう」
「ありがと、明音ちゃん。いつでも嫁に行けるねえ」
「嫁にはいかないけど大学行く頃には、あたし、独り暮らしするから」
「は?」
「リオレオに個室必要でしょ?」
「何も明音が出ていかなくたって」
「あたし、独り暮らししたいなあ」
「家庭の主婦がいなくなるとこの家は崩壊するよ。行がないでぐでー」母親がまとわりついた。
「ハイハイ、茶番は終わり」
「そうなると、東矢さんところに面倒みてもらうしかないか」
「ん? お母さん、泉月の一家が上に住んでいたこと知っていたの?」
「知ってるよ。東矢さんのところの財団はうちの事務所のクライアントだから。このマンションだってあの財団が主導で建てたんだよ。私たちはその伝で一部屋手に入れたの」
「知らなかった」
「言ってなかったかな」
「ないよ、初耳。あそこの一家のことも知ってたの? 泉月の姉や兄たち」
「詳しくは知らないけれど養子に出したこどもたちを呼び寄せたと聞いたよ」
「あたしだけが知らなかったのね。リオレオはよく遊びに行って知ってたみたいだし」
「いつも面倒みてもらって助かるよね。明音ちゃんがいなくなったらリオレオの面倒をあの人たちにみてもらうしかないかな」
「はあ……」明音は溜め息をついた。「リオレオが中学に入るまではいることにするよ」
「偉そうに言うね、明音。独り暮らしと言ったって簡単には部屋は借りられないよ。保証人とか誰に頼むつもりだったんだよ」
「そりゃ、お母さん」
「私の胸三寸だね」
「悔しいけどそうだね。独り暮らしはまだまだ先の夢か」
「頼りにしてるよ、明音ちゃん」
母親に見送られ、明音は部屋を出た。
エレベーターは上から下りてきた。扉が開くと中に御堂藤学園の制服を着た女子が乗っていた。
「おはよう、小早川さん」
「も、もしやあんたが……」
「ふーちゃんでーす」
明音は絶句した。彼女は学校では何度も顔を合わし、話をしたこともある生徒だった。
黒フレームの大きな眼鏡をかけ、髪は綺麗に編み込みをして一本に纏めて背中へ垂らした可愛い女子生徒。それでいて好奇心旺盛であちこちに出没して情報を収集する新聞部のエース。二年E組の伊沢だった。
「どうして今まで気づかなかったのだろう。眼鏡だけのせいじゃないよね?」
「外してみようか」伊沢は眼鏡を外した。
にこにこする顔は昨日の夜見たふーちゃんだ。
「表情だと思うよ」
そう言って伊沢は顔から表情を消した。そしてスッと顎を上げる。丸い目を細めた。
「泉月だ……」明音は納得した。「そんなに変わるものなの?」
髪型が違っても泉月に見えた。
「わかる人はわかるのだけどね」
「見破った人がいるのね?」
「うん」
エレベーターが四階についた。そこでロビーを経由してまた別のエレベーターに乗る。何度も辿る道だが面倒くさい。
「小早川さん、今日は遅かったのね」ふーちゃんは新聞部の伊沢になっていた。
「炊飯器のセット忘れたのよ」
「毎日用意大変ね。うちは泉月ちゃんが毎朝用意してるから助かるわ」
「あの子、料理できるようになったのね」
「毎日やってるし。はじめはお手伝いさんに教えてもらったから」
「何気に富豪家族の一端を聞かせてもらったわ」
「泉月ちゃんは帰りが一番遅いから朝食担当なの。お弁当も用意してくれるのよ。はじめは学食専門だった桂羅ちゃんとホノカちゃんも今は泉月ちゃんが作ったお弁当を食べているわ」
「どんなのか見てみたいな」
エレベーターが一階についた。そこから駅まで一緒に歩く。
「生徒会室に来れば良いわよ。私もたまにお邪魔している。今日来る?」
「気が向いたら」
昼食は守崎、楪と一緒に食べている。彼女らに「今日は別のところで食べる」と言ったら不思議に思うだろう。
「私がD組に行っても良いのだけれど、なんで来たんだって顔をされそうね」
「そうだね」
新聞部の伊沢はあちこちに神出鬼没に出現してお邪魔虫をしているから警戒されるだろう。その風変わりで変な奴が東矢泉月の姉とは誰も思うまい。
「他のきょうだいとは一緒に登校しないの?」
「桂羅ちゃんやホノカちゃんと一緒のこともあるけど、電車に乗る頃には別々になっているね」
「隠すのも面倒じゃないの?」
「説明する方が面倒くさい、という意見で一致してるわ。それに秘密にしてるのも楽しいし」
「それだな、楽しんでる」
そうして明音は伊沢とともに登校した。
母親はまだ寝ている。遅く帰ってきて遅く出る生活なのだ。十時出勤のフレックスタイムなので明音たちが家を出る頃起き出してくるのだった。
弟妹たちは集団登校だったが、いつも早めに集合場所に行って他の子が来るのを二人で待つスタイルだった。
しかしその日は少しばかり普段より遅くなった。炊飯器のセットを忘れていたからだ。
だから弟妹たちにはトーストを食べさせて、明音は弁当を用意するため少し待たねばならなかった。
母親がいない日は米を炊かずに学食で食べることもできたが、いつも母親の朝食と弁当を用意するのが明音の仕事だった。
「「行ってきまあす」」双子の弟妹が先に出ていった。その音を聞いて母親が起きてきた。
「お母さん、ご飯用意できたから。お弁当も何とか間に合いそう」
「ありがと、明音ちゃん。いつでも嫁に行けるねえ」
「嫁にはいかないけど大学行く頃には、あたし、独り暮らしするから」
「は?」
「リオレオに個室必要でしょ?」
「何も明音が出ていかなくたって」
「あたし、独り暮らししたいなあ」
「家庭の主婦がいなくなるとこの家は崩壊するよ。行がないでぐでー」母親がまとわりついた。
「ハイハイ、茶番は終わり」
「そうなると、東矢さんところに面倒みてもらうしかないか」
「ん? お母さん、泉月の一家が上に住んでいたこと知っていたの?」
「知ってるよ。東矢さんのところの財団はうちの事務所のクライアントだから。このマンションだってあの財団が主導で建てたんだよ。私たちはその伝で一部屋手に入れたの」
「知らなかった」
「言ってなかったかな」
「ないよ、初耳。あそこの一家のことも知ってたの? 泉月の姉や兄たち」
「詳しくは知らないけれど養子に出したこどもたちを呼び寄せたと聞いたよ」
「あたしだけが知らなかったのね。リオレオはよく遊びに行って知ってたみたいだし」
「いつも面倒みてもらって助かるよね。明音ちゃんがいなくなったらリオレオの面倒をあの人たちにみてもらうしかないかな」
「はあ……」明音は溜め息をついた。「リオレオが中学に入るまではいることにするよ」
「偉そうに言うね、明音。独り暮らしと言ったって簡単には部屋は借りられないよ。保証人とか誰に頼むつもりだったんだよ」
「そりゃ、お母さん」
「私の胸三寸だね」
「悔しいけどそうだね。独り暮らしはまだまだ先の夢か」
「頼りにしてるよ、明音ちゃん」
母親に見送られ、明音は部屋を出た。
エレベーターは上から下りてきた。扉が開くと中に御堂藤学園の制服を着た女子が乗っていた。
「おはよう、小早川さん」
「も、もしやあんたが……」
「ふーちゃんでーす」
明音は絶句した。彼女は学校では何度も顔を合わし、話をしたこともある生徒だった。
黒フレームの大きな眼鏡をかけ、髪は綺麗に編み込みをして一本に纏めて背中へ垂らした可愛い女子生徒。それでいて好奇心旺盛であちこちに出没して情報を収集する新聞部のエース。二年E組の伊沢だった。
「どうして今まで気づかなかったのだろう。眼鏡だけのせいじゃないよね?」
「外してみようか」伊沢は眼鏡を外した。
にこにこする顔は昨日の夜見たふーちゃんだ。
「表情だと思うよ」
そう言って伊沢は顔から表情を消した。そしてスッと顎を上げる。丸い目を細めた。
「泉月だ……」明音は納得した。「そんなに変わるものなの?」
髪型が違っても泉月に見えた。
「わかる人はわかるのだけどね」
「見破った人がいるのね?」
「うん」
エレベーターが四階についた。そこでロビーを経由してまた別のエレベーターに乗る。何度も辿る道だが面倒くさい。
「小早川さん、今日は遅かったのね」ふーちゃんは新聞部の伊沢になっていた。
「炊飯器のセット忘れたのよ」
「毎日用意大変ね。うちは泉月ちゃんが毎朝用意してるから助かるわ」
「あの子、料理できるようになったのね」
「毎日やってるし。はじめはお手伝いさんに教えてもらったから」
「何気に富豪家族の一端を聞かせてもらったわ」
「泉月ちゃんは帰りが一番遅いから朝食担当なの。お弁当も用意してくれるのよ。はじめは学食専門だった桂羅ちゃんとホノカちゃんも今は泉月ちゃんが作ったお弁当を食べているわ」
「どんなのか見てみたいな」
エレベーターが一階についた。そこから駅まで一緒に歩く。
「生徒会室に来れば良いわよ。私もたまにお邪魔している。今日来る?」
「気が向いたら」
昼食は守崎、楪と一緒に食べている。彼女らに「今日は別のところで食べる」と言ったら不思議に思うだろう。
「私がD組に行っても良いのだけれど、なんで来たんだって顔をされそうね」
「そうだね」
新聞部の伊沢はあちこちに神出鬼没に出現してお邪魔虫をしているから警戒されるだろう。その風変わりで変な奴が東矢泉月の姉とは誰も思うまい。
「他のきょうだいとは一緒に登校しないの?」
「桂羅ちゃんやホノカちゃんと一緒のこともあるけど、電車に乗る頃には別々になっているね」
「隠すのも面倒じゃないの?」
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