悪魔に魅入られて。

弐馨 “F”

参

彼女の選ぶ店はハズレがない
案内されるまま店に入り食事を済ませた。
明日は休み
軽く飲みたい、BARに行こう
そう話していると後ろから呼び止められた。
聞き馴染みのある声のような気がする
...思い出せない。
振り返ってみると爽やかな男性が立っていた
.....誰だろう？
頭を捻るが出てこない。

悩む私を見て笑い始める男性
なぜ笑われているのか..
苛立ち前髪をかき上げた。
それを見て その癖、懐かしいな と笑った男性
懐かしい..？
よく見ると微かに残る面影
思い出した。
同時にその男性も気付いたらしい
この男は元彼だ。
だが学生時代に少し付き合っただけ
あれから何年も経ったし、見た目も全然違う
私の記憶では特に目立つこともなく
どこにでもいるような平凡な男だったはず..
それが今では垢抜けたのか
モデルのようにスラッと細身な所謂イケメン。
これでは分からなくて当然だろう。

久しぶりだから飲みに行こうと誘われた。
私は後輩を理由に断るつもりだった
それなのに後輩はどうぞと譲り、帰ってしまった
断るタイミングを逃した..
恋人がいる訳でもないのだ
行ってはいけないという訳では無い
ただ気分が乗らないだけ。
なぜか彼の顔がチラつく
けれどあの日から連絡もない..
未練がましく縋るのは嫌だ
私は目の前の男と飲みに行くことを決めた。