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刺繍の手仕事 その2
しおりを挟む魔力を込め終わって、裁縫箱を開く。それから刺繍枠を取り出して、深い藍色の布をセットして、図案を考える。刺繍は、それなりに出来る方ではあるけれど、参考書もないのでいくつかの図案に限られる、あまり迷うことは無かった。
「……とりあえず、手仕事の事説明、するね……?」
「おう」
「人は、獣人よりも魔力が少ないじゃない?……それでも、獣人みたいに魔法を使って人を癒したり、魔法道具を作ったりも一応、出来る」
手仕事を知らない人間に会ったことが無いので、説明が難しいが、できるだけわかりやすいように、刺繍の準備をしながら説明する。
糸を選んで、図案を頭の中に思い浮かべた。
「けれど、大体の人が、それを出来るほどの魔力量がない。だから、私達は少ない魔力を込めながら、物を作る」
「それが、手仕事か?」
「うん、女性は刺繍や裁縫が多くて、男性は、絵画だったり、本を書いたりする人も居るかな」
大事なのは、自分の魔力を使って自分で作ると言う事だ、長い時間をかけて、送る相手を想って魔法を編み込む。
作曲だとか、舞なんてものもあった気がするが、もっぱら女性は刺繍が多い。
「販売するように作るのでなくて、特定の誰かのために作るの。守りだったり、癒しだったり、幸福を祈ってもいい」
「曖昧な魔法だな」
「そうだね。けど、貰うと確実に、効果はあるんだよ、家族や恩人、使用人や、部下とか、そういう身近な人に送る物を作るんだ」
魔力の多い獣人が作ればきっと、とても強い効果があるのだろうと思っていたが、そもそも手作りの文化は無いのだから残念だ。
「例えばどんな効果だ?……魔法として成立しているようには思えないんだが」
「う、ううん、なんて言うのかな、必要な時に、必要な魔法になるんだよ。願いを込めた範疇で、神様の御加護みたいなイメージかな」
「……加護……」
一気に、クルスは懐疑的な表情になる。
だってそれ以外に言いようがないのだ。明確に説明は出来ないけれど、そういうものだから。
「本当に効果あるんだって。ほら、人間にも王族や貴族がいるでしょう?その人たちは、皆、手仕事がとっても優秀なんだよ、だから、自分の配下や派閥に下賜して、力を強めることが出来るんだ」
「……なら、お前もか」
「あはは、一応王族だからね、それなりかな。今の女王陛下の手作りなんて物凄いんだから、すごく力があるんだよ」
「クリスティナ女王か」
「うん、すごい人なんだから」
女王様は、装飾品を作ることが多い。人間の魔力量は皆だいたい同じぐらいなのだが、彼女が手ずから作ったものは、どんなマジックアイテムより、優れている。
「お前は、誰かから貰ったことはないのか?」
「ないよ、渡す側だから」
家族でも居れば、貰うことは、あったのかもしれないけれど、私はあいにく屋敷で一番位の高い人間だった、貰うことはなかったなぁ。
あ、でも、貰った記憶はないけれど、持っているものなら一つだけある。いつもに身に付けているネックレスだ。
多分、手作りの品だと思うのだが、製作者は不明だ。物心つく時には既につけていた。つけていると感じるのだ、自分を守ってくれている、優しい魔力を。
話をしていたら、あっという間に準備が整った。
「よし、始めるかな」
針を持って、相手を思い浮かべる。
あまり良い思い出はないけれど、助けてくれたのだ、ありがとうという気持ちだけあれば充分足りる。
利き手に魔力を込めて、糸と共に布に縫い付けていく、私を助けてくれた分、彼に、いいことがありますように。
糸に込めた魔力が銀色の光になってチカチカと輝いている。
……それから、不可解な性格がどうにかなりますように。
……って、なんか複雑な心境だ。
チクチクと縫い進めて行く。
図案は、カスミソウだ。やっぱり男性に向けて送るものなので、可愛らしいお花では、使いづらいだろうという私の気遣いだ。それに、花言葉が良い意味が多いのでピッタリだろう。
ひと針ひと針に、魔力を編み込んで、何重にも魔法が重なっていく。
彼は、酷い人なのだろうか、それともなにか事情があるのか、知りたい……と思う私は、馬鹿だろうか。
少し、クルスを見ると、じっと、彼は私の手元に集中していた。
この人と、ルカは兄弟だろう、何か聞けば分かるかも。
「なにか、心地のいい……魔力だな」
「……そう、なの?」
「あぁ」
パッとワンコになって、とてっと椅子から降りた。
それから、私の隣でおすわりをして、作業を覗き込む。
「見てても楽しくないんじゃない」
「……わふ」
なんと返事をしたのか分からないが、パタパタとしっぽを揺らして、心地良さそうに、耳をねかせた。
聞きそびれちゃったな。
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