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遊猟会 その7
しおりを挟むハラハラと涙を落としながら、狸は私に引っ張られつつ、とことこと歩き出す。
「もう!戻りますよ!」
「うぅ、も、申し訳、ございません」
いつの間にか人型に戻って、ディーテは謝罪を口にする。毛を引っ張って居たのが、手にすり変わっており、しょんぼりとした彼は、素直に私に着いてくる。
さすがに、このまま戻ったら情けなさすぎるだろう。涙も止まって落ち着いたようなので、もう一度問いかける。
「何がしたかったのですか、貴方は」
「……ぼく、は。えっと」
目を合わせると、吃ってまた、ディーテは視線を落とす。
……別に急いでは居ない、急に襲われて早くなっていた心臓の音も、少しは落ち着いた。彼がこんな調子なので、自然と私がしっかりしなければと思えたのかもしれない。
せっかく、話をしてくれようとしているのだ、仕方ないという気持ちで、立ち止まって彼に向かい合い、私は地べたに腰を下ろした。
すると彼もペタンと座る。
「怒っていません、ゆっくり話して、ディーテ」
「……っ、……はい」
怯える子供のような態度に、何となく頭を撫でた。
ずっと怖がっているような感じだったので、安心してくれればいいと思う。私は危害を加えるつもりはない。ただ仲良くしたい。
……そう言えば私は、人間相手でも、社交で私は、割と痛い目にあう事が多い。お見合いパーティでも庇ったのに犯人扱いされたし、それ以前でも、ことごとく社交に失敗している。
原因は、こういう所にあるんだろうな。
感情移入しすぎてしまうというか、馬鹿正直というか、短所だとわかっていても直らない。
ディーテがここで私に嘘でも言って、帰ってから、泣き落としに弱いだとか、騙されやすいだとか噂を広められたらどうしよう。
今更ながらに、リスクを考えない自分の行動に嫌気がさすけれど手遅れだ。
私は、めっぽう貴族という身分に向いていないのだ。しかも、タリスビアなんて強国の王妃だなんてなぁ、務まらないよ。
ダメダメだ、私。
ディーテの気持ちの処理を待ちつつ、もっと貴族らしくある方法を考えていると、蚊の鳴くような声で彼は話し出した。
「僕、人間のお嫁さんを貰うんです」
ディーテの柔らかい髪を撫でるのを止めて、話を聞く体制を取る。
「でもっ、怖くて」
「どうして?」
次に繋げた言葉の意味がわからず、聞き返す。
だって、人間側が獣人の嫁になるのが怖いのなら、理由は分かるが、人間を怖がる獣人なんて居ないだろう。
それか、あれか?寝首を掻かれないか心配なのかな?
「……人は、柔らかいんです」
「ん?」
ふと、私を見た彼は、また、瞳に涙を溜めて、自分の腕を抑えるような仕草をする。
「王命で、僕の結婚は決まっています。けど、僕は。……その、昔、幼い時に、城下の孤児院で、怪我をさせてしまって」
……人間に、会ったことがあるの?それも、孤児院で?
そんな事があるのだろうか。お城にやってくるマナンルークの使節団ならば、会う機会もあるだろうが、孤児院に人間がいるというのならここの土地に住んでいる人間がいるってこと?
とっさに疑問に思うが今はその話はメインじゃない。
……とにかく後で誰かにきいてみよう、とにかく人間に、怪我をさせてしまったと。
「それがどうして、私に襲いかかることと関係があるの?」
「人間に敵意があると分かれば、王命でもっ、破談に出来ると……思いました」
「それは……出来るだろうけど、人間どころか、王族に敵意があるってみなされて反逆罪になりかねないんじゃ……」
一応、お義母さまから紹介されて、この遊猟会に参加しているし、婚約も正式に決まっている。
「ですから、脅かして……その」
「なるほど」
先程のノーラのように、何か人間が獣人のマナーにそぐわない事をしたとこじつけてもいいし、結果、実害が何もなければ、私が許す可能性も見込めるの……かな?
「……そっか……ディーテはそんなに人間と結婚したくないの?」
婚約者がやってくるのは、きっと私が正式に結婚した後だろう。エグバート様は、国交を開こうとしている。第一歩が人間の姫をタリスビアに迎える事、次が、マナンルークに獣人を嫁がせる、そして地盤が完成してから、ほかの貴族にも人間を受け入れさせる。
そういう計画だろう。上から順に、人との交友を認めさせていく、その計画の一端がディーテの婚約だろうか。既に彼と同じように人間との婚約が決まっている、貴族が複数いると見ていいのかな。
「でっ、出来ません!絶対に……ぼくっ、人間の、あの怯えた顔が忘れなれないんです」
おびえるように彼は言う。
……しかし……なぁ。ディーテの場合は、そもそも、トラウマらしきものがあるから、ずいぶん 混乱して今回のことが起こったけれど、見知らぬ誰かを嫁や婿にというのは、同じ種族でも受け入れに抵抗があるものだ。種族まで違うとなるとこういう問題は各所に勃発していそうだ。
両陛下は割と大雑把……だよね。
もしくは、それほど差し迫って、人間との友好関係を築かなければならないのかのどちらかだけど、普通は、馴らすものだ。
通常の交流から初めて、少しでもお互いを理解をしてから、婚姻なんて結ぶものだろう。
なんだかな。
「どんな怪我をさせちゃったの?」
「う、腕を……手をっ、つなごうとしただけなんです、腕を引いたら、手がっ取れてっ」
「何っ?!引っこ抜いちゃったの?!」
「いえ!ちがっ、脱臼させてしまって」
「ああ、それは痛そうだね」
子供の脱臼は、よくあると聞くのでそれは、まぁ、力の強い子供だったら人間同士でもありそうな気がするが、幼いディーテには怖かったのだろう。
「……ロイネ様はなぜ、僕が怖くないのですか、僕というか、その獣人が、怖くありませんか?」
「……怖いよ」
「そうは、見えません」
「怖いけど、話してみると意外といい人が多くて楽しい事の方が多いから、そう見えるのかな」
一応は、恐怖だってある。でも、獣人だって人間に怖がられるのも、嫌だと思うし、それにディーテみたいな獣人もいるのだから、お互い様だと思う。
「ディーテ、怖がってばっかりだと、ちゃんと知ることはできないんだよ」
「っ……でも、ぼく」
ポンポンと背中を撫でる。
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