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遊猟会 その6
しおりを挟むついて行かなければならない理由があるわけでもなかったのだが、ここまで必死に私を誘う理由を知りたかった。好奇心というやつだ。
うーん、自分が何となく、宜しくないことをしている自覚はある。好奇心は身を滅ぼすと言うし、上手くやれている時こそ、失敗は起こるのだともよく言う。
森へ入るディーテの半歩後ろを歩く。気が小さいが、体は大きい立派な獣人だ。二人きりになった途端に、襲われないとも限らない。いや、そんな事をするはずがないとも思っいるが、心づもりは重要だろう。
歩く度にふわっふわっと揺れる彼のしっぽに目線を奪われながら、歩みを進める。
しっけたような緑の香りと、差し込む木漏れ日に目がくらむ。
「……ロイネ様は、森へ来たことは、ありっ、ありますか」
ディーテは獣道を見分けて、歩きやすい場所を進んでいく。私は、でこぼこと突起している木の根っこを避けながら、ずんずん進んでいく彼につづいた。
「ありますよ、マナンルークでも田舎の方に住んでましたから。まぁ、少し散歩する程度ですけどね」
「そ、そうですか」
やはり、緊張しているのか、吃りつつ返事が返ってくる。それから無言の時間が続く、サクサクと草を踏みしめて進み、段々と木々が生い茂り、陽光が遮られて、緑の香りが強くなる。
私は、何となしにここまでだろうと思い歩みを止めた。
確実に、声が届く保証は無いが、そこは私の手仕事の品が補強してくれるだろう。
こういう曖昧な場面でこそ、力を発揮する魔法だ。
過信しすぎたかな?でも、気になるし……。
「これ以上進むと、森が深くなって危ないですからこの辺りで、木の実でも探しましょう」
とりあえず、ここに来た口実を忘れずに、笑ってみるが完全にそんな雰囲気では無い。
ふと、振り向いた彼は、心底怯えているように、自分の手で自分自身の腕をつかみ一呼吸置いて、巨大な狸へと姿を変えた。
「……、どうかしましたか?」
助けはいつ呼ぼうか、どのタイミングだろう。
じっと彼に目を合わせる。
野生動物の場合には、急に走り出して逃げては行けないと言うが、獣人の場合にはどうするのが正解だろう。
いや、でもまだ、何となく獣になった線も捨てきれない。内緒で聞きたいことがある、とかだったら平穏で、なおかつ私の好奇心も満たされるので良かったのだけどな!
笑顔のまま冷や汗をかく。すると、ディーテは大きな一歩で直ぐに距離を詰めて、私の胸元に両手を置いて勢いのまま押し倒した。
仰向けに押し倒されるような形になり、ディーテのお手手が乗っている胸からは、骨が軋むような音がする。
重っ!!っ!
顔を近づけられて、いいっと牙をむき出しにして彼は、グアッと口を開いた。
叫ぶなら今だろう、食べられちゃいそうだしっ。
それに頭を打った。そして重たい。声を出そうとして、息を吸い込むと、ディーテと目が合った。
口を開けたまま、焦ったようにチラチラと私を見ている。
……、うん。なんだこれ。
ディーテは襲っている側なのに、なぜか私の行動を伺って、未だに怯えているように見える。急に獣になって、表情も分からないから危険だと思ったが、獣になっても、彼の小心っぷりはわかりやすい。
「……あのね、離してくれる?重たい」
「ヴ、ヴァウ」
私が冷めた目で彼を見ると、僕は怖いんだぞ、とばかりに、控えめに威嚇した。
「離せって言ってるんだけど」
彼の意味のわからない行動に、腹が立ち、睨みつける。すると、ピンッとお耳を立てて、目を見開き泣きそうな顔をしながら、いそいそと私の上からどく。
一体なぜ、自分がこれ程冷静なのか、よく分からないが、多分、ディーテに気迫が足りなかったのだろう。
ディーテは、襲うという行動をしているだけで、私に害のある事はする気がないらしい。
行動に感情が伴っていないのは、私の婚約者の誰かさんを彷彿とさせる。なんだか腹が立ってきた。
「それで?何がしたいのディーテ、押し倒した事は不問にするので説明してみなさいな!」
ディーテは狸の姿のまま、丸くなって器用に耳を抑える。そして恐る恐る私を見た。
「ほらっ!人に戻りなさい!」
内気な子供のような反応をする、狸にどなりつける。タリスビアでの初めての社交なのだから、問題は、ある程度おこるだろうと思っていたが起こり過ぎである。
私に平穏は、いつ訪れるのだろうか。
座り込んだままディーテは人に戻って、涙を見せる。
加害者の癖して、何を泣いているんだこいつは。
その反応は、私にだけ許されるはずなのだが、あまりにも悲壮感たっぷりに泣いているので、私がいじめたみたいになってしまう。
「泣いたって許しませんよ!ちゃんと何がしたかったのか言ってください。でなきゃ、会場に戻って事の顛末をみんなに言いますから!」
「っ、……ふっ……うぅ」
さらにまくし立てると、嗚咽をもらし、堪えきれなくなった涙が、次々に頬を伝って流れていく。
どうしたと言うんだ、この子は。
「ぅ、ふっ……うっ……く」
涙を乱暴に拭って、またそのまま、狸に戻ってしまう。
そして狸のまま泣いた。
この歳の男の子が号泣しているところなど見た事がなく、慰め方がまったく分からない。
私は立ち上がって、自分の乱れた衣服や髪を整えて土埃を払う。
そして、ディーテの毛並みを引っ掴んで、森の出口に向かって歩いた。
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