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その後 その1
しおりを挟むお義母さまは、書類を指さしながら、今日の出席者の家系についての説明を続けて行く。
隣に座り、ハキハキとした口調で、わかりやすい注釈をつけてくれるのだが、私は今日一日、動きっぱなしで、椅子に座った瞬間から眠気がやってきており、うつらうつらとしながら声を聞く。
「ですから、レアード公爵家は古くより、外交の業務を担う一族です。お前が正式に婚姻を結んだ後には、より深く付き合っていくことになるでしょう」
「……はい」
「嫁に入るノーラは基本的に、カミーユのサポートに当たります、この辺りはマナンルークと同様ですね。領地の経営等は、彼女の仕事になります。マナンルーク側の港の管理も含まれますから、レアード公爵家の後継者夫婦とは、しっかりと社交をして情報を共有する事が大切です」
うん……大事。大事な話なのは、ちゃんと理解できるのだが、ふんわりとしか頭に入ってこない。
お義母さまだって、昼間は仕事をして、夜にはこうして、私の勉強の時間をわざわざ設けてくれているのだから、頑張って頭に入れなければならないのに、瞼が重たくて、クラクラしてきた。
「しっかりなさい。もう、ほんの数分ですから」
「はい……うん、だいじょぶです」
「アイメルト侯爵家は、国の───
それから、お義母さまの話を聞きつつ、回らない頭でなんとか整理していく。
まず、カミーユの家系は外交を担当している事、ノーラは嫁入りをして、カミーユの家系の領地経営などのサポート。
ディーテの家系は、財政管理など書類と睨めっこする、根気のいる職業で、あれでいて意外と優秀なのだという。
良い婚姻相手が見つからず、朗らかな性格ゆえ、人間との政略婚の相手に選ばれたと。本人は、見聞を広げるために、年回りの近いカミーユと共に、見習いとして、外交業務に携わる予定がある。
アンジュは、王族の傍系に当たるらしい、国に姫がいれば、付き人として、役割が得られたが、男性しかおらず、落胆していた。
そんなところに、私が王室入りすることが決まり、是非に王族を支えるお役目が欲しいと息巻いている。
それぞれの話を聞いてみると、頭の中で自然と、情報と人物が結びついて、覚えられる。
こんな風にして、国の歴史や地理を覚えられたらいいのだが、特に歴史なんかそうもいかない。
「冬には、行事が沢山あります。またすぐ彼らに会うことになるでしょう」
「……そう言えば、お義母さま、冬の行事は、マナンルークと……同じでしょうか」
「えぇ、こちらは、雪は降りませんけれど同じですね」
という事は、宗教の関係の神事と、新年会、忘年会の口実で、顔繋ぎのパーティや、夜会が開かれるのだろう。平民はみんな冬支度をして、家に引きこもるというのに、貴族だけは冬が何かと忙しい。
王族はその筆頭だ、春からの国のことも考えつつ社交をする。まだ、私は正式な王族では無いため、さほど忙しいという事も無いだろうけれど、この国の勉強もある。
のんびりは出来ないだろうなぁ。
ふと、奥の執務机で、あーでもない、こうでもないと言い合っている二人を見る。
ここはお義父さまの私室だ、先日、お義母さまとあった場合は、この部屋の隣のお義父さま専用の研究室だったらしい。隣には、ちゃんと正式な私室が存在していて、私はソファでお義母さまと今日の報告やら勉強をしている。
クルスとお義父さまは、いくつも書類を机に広げて、意見を交わしている。
この時期なので、冬の行事の打ち合わせだろうか。
「お義母さま、あの二人は何をしているのですか」
「ああ、エグバートが与えた課題の答え合わせですよ」
「課題?」
「そうです、あの子の教育の一貫です。もちろん、実務もこなしていますが、王位を継承する可能性がありますからね」
……そうか、王位の継承は一大行事だ。まだ先の事とはいえ、大変だ。
「さて、今日の講義はここまでにしておきましょう。お前の集中力も切れていることですしね」
「う、ごめんなさい」
「いいえ、ロイネ。よく頑張りました。今日、参加者に好印象を得られたのは、大きな功績です。明日はゆっくり休みなさい」
「はい、ありがとうございました」
頭を下げると、そのまま、よしよしと撫でられる。心地よい感覚にこのまま眠ってしまいたい気持ちに駆られるが、そういうわけには行かない。
うとうとしていると、お義母さまは笑って、私に声をかける。
「ほら、ゆきますよ、ここで眠っては、いけません」
「は、はい……」
教材にしていた書類を持って、お義母さまと一緒にソファーを立つ。お義父さま達がいるテーブルへと行き、自室へと下がる事を伝えるのだ。
「それではエグバート、わたくし達は、失礼します。こんを詰めるのもかまいませんが、程々になさるのですよ」
「母上。俺が父上に打診して課題を頂いたのです」
「あら、そうでしたか」
クルスと目が合う。少し、くたびれているような印象をうけた。
眉間にシワが深く刻まれていて人相が悪い、勉強をするのは、いい事だしすごく尊敬するけれど、無理はしない方がいい。
「クルス、顔が怖くなってるよ」
彼は座っていてちょうど良い位置だったので彼の眉間に触れる。すると、少し驚いたように目を見開いて、それから、さらにシワを濃くした。
「お前も、疲れた顔をしている。早く休め。また、熱が出るぞ」
「うん、ありがとう」
私の手を取って、クルスはそのまま、手の甲に軽く口づけをした。獣化したクルスは、私の手を舐めたりするので特によく考えずに、それを眺めた。
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