お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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人間の孤児院 その1

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 冬も本番に入ってきた今日この頃、やっと待ちに待った休日がやってきた。
 
 体調も万全!昨日はぐっすり眠ったし、今日はお出かけをするのだと、お義母さまとお義父さまにもしっかり伝えてある。
 
「姫様!いいことですか、絶対に知らない獣人に話しかけないこと!」
「クルス様とはぐれにゃい事!」
「襲われそうになったら、大声を出すのですよ!」
「僕が、すぐに駆けつけるからにゃ!」
「勝手に路地に入ったりしてもダメです!」
「襲われたら絶対に倒れちゃダメにゃ、そのまま食べられるから」
「リノ!縁起でもないこと言わないでください!」
 
 リノとマティは、先程からずっとこんな感じだ。

 何重にも厚着をさせられ、そのうえで安全講座が開かれている。しかし、襲われたら倒れちゃダメって、なんだろう、走って逃げろと言う意味だろうか。マティのツッコミは、微妙なところだ。私にはしっくり来ない。
 
「心配しすぎ。私、子供じゃないんだよ」
「悪漢からすれば、子供も同然です!姫様は、気の優しい方ですから、考えもしないのでしょうけれど、街に出たら皆が姫様を狙っているのです!」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃにゃいのです。姫さん!無防備だからガブッと食べられる」
 
 そんな獣じゃないんだから、さすがに、食べられちゃうことはないだろうけれど、一応、覚えておこう。私だって、安全第一で、お出かけしたいと思っているのだし!
 
「わかったよ……気をつけます」
「言いましたからね!私達、姫様に何かあったらと思うと、気が気では無いのですよ」
「うん、マティは昨日、心配で六回も夜中に起きてた」
「リノは、眠っていないじゃないですか!」
「えぇ、す、睡眠は大事だよ……?」
 
 言われてみれば、リノは朝一だと言うのに目がギンギンだ。オールしたのかリノ……意外と、心配性なんだね。
 
 ……なんだか申し訳ないな、こんなに心労をかけてしまって。
 
 遊猟会の日から、既に一週間経過していると言うのに、未だに私の心はざわついていた。
 こうして、優しくされると、心がじくじくと痛む。だからと言って、考えを整理しようとすると、なぜだか、ぐるぐると目が回ってしまうのだ。

 特に、屋敷の事や自分の過去の事を考えようとすると、それが酷い。
 そういう理由で、私はふわふわとした考えのまま、何となくこの一週間をすごしてしまった。
 なんだかんだ言って、勉強は忙しく、冬の行事も近い、打ち合わせや、いまだにあるタリスビアでの常識の違いなどに時間がかかり、ルカの部屋には行けていない。
 
 けれど今日は、孤児院に出かけて、それからルカに会いに行こうと思っている。
 
 二人の安全講座を聴きながら、時間を過ごしていると、ノックの音がしてクルスがやってきたのだと分かる。
 マティが扉を開けて、私はクルスに駆け寄る。今日は下町の孤児院へと行くので、彼の装いはいつもより地味だ。それでも、城下町に降りれば、少し目立つ程度だけど。
 
「待たせたな、ロイネ」
「ううん、時間ちょうどだよ。それじゃあ行ってきます。二人共」
「……本当にお気をつけて」
「帰りを待ってるにゃ」
 
 二人は心配そうにしつつも、笑顔で送り出してくれる。私は手を振って部屋を出る。

 本来、クルスは、同行する予定では無かったのだが、私の予定を伝えると、付き添うの一点張りだった。
 理由は、分からないが、別に彼に何か隠したいことがあるわけでもないし、クルスも人間の事は知っておいて損は無いだろうと思い、同行する流れになったのだ。
 
 そう言えば、ディーテを誘ったら、アンジュまでついてきたのだが、アンジュの方は、人間の子供がいる孤児院で、問題を起こさないか少し不安である。
 
 
 
 
 ディーテが子鹿の如く震えながら歩みを進める。あまりに進むのが遅くて、私は彼の腕を掴んで歩いていた。
 本気で抵抗すれば、逃れられない事は無いはずだが、彼は少し引っ張ると、潔くついてくる。アンジュは、それを半歩後ろで機嫌が良さそうに、眺めており、何故かクルスは、不機嫌そうに、耳を伏せっている。
 
「ディーテ、人に頼らず、歩けないのか」
「ひえっ、も、申し訳ございません!」
 
 隣から、クルスがディーテにイチャモンをつけた。ディーテが驚きながら飛び上がる。彼は孤児院に行くと言うだけで、すごく緊張しているのに、感情のキャパを超えてしまったのか、顔を真っ青にした。
 
「やめてクルス、今日は私が強引に誘ったんだから、逃げ出さないだけ偉いんだよ」
「……なら、俺が引っ張ってやろうか」
 
 私がクルスを咎めると、不服だったのか、わざとらしく、ディーテの顔を覗き込む。
 どうして、突っかかるのだろう。ディーテとクルスは今日が初対面のはずだ。因縁があるという事は無さそうだけど……。
 
 クルスは、獣人男性の中でも、大きい方だ。いくらディーテも獣人だと言っても、体格に差がある。同じ種族だとしても、こんなに大柄な人に敵意を向けられたら怖いだろう、歳も地位も上の人に逆らえるはずないのだから。
 
「ディーテ、気にしなくていいですよ」
「ろ、ロイネ様……」
 
 そのまま彼の手を引いて、歩く速度を早める。
 すると私が機嫌を悪くしたのに気がついたのか、クルスはピコンと耳を立ててそれから、再度、耳を寝かせた。
 
 ……。
 
 ここは大通りだし、邪魔にはならないかな。

 まぁ、そもそも、クルスがいる時点で向かいから来る獣人は避けるなり、立ち止まるなりしてくれているから、邪魔とかそういう概念すらないのだけど。
 
「ねぇ、クルス、ディーテじゃなくて、私の事引っ張ってくれない」
「!」
「だめ?」
「いや、いいぞ」
 
 すると、クルスは大股で隣に歩いてきて、私の手を取る。身長差があるので、繋ぎにくいが、クルスは満足そうだ。
 
 これが両手に花と言うやつだろうか。花は、女の子のことを指すので両手に……荷物?それだとただの買い物帰りの主婦だろう。
 しかしクルスは、手を繋ぎたかったのだろうか?もしかすると獣人は、仲間はずれが嫌いなのかも。
 ふと後ろを振り返って、アンジュに視線を送る。
 
「?……どうかされましたか」
「あー、えっと、手は二本しかないから」
「知っていますわ。わたくしもそうですもの」
「……うん」
 
 そんなわけないか。街を歩いていても、手なんか繋いでいるのは、親子ぐらいだ。
 妙なこと言ってしまったな。
 




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